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第63話 親子喧嘩

 俺と竜王が一触即発になろうとしたその時、レイティアが間に飛び込んできた。


「ボクのアキ君に何するんだっ! お父さんなんか嫌い! 大嫌いっ!」


 ガァアアアアアアアアアアアアアアーン!


 レイティアの一言でドラゴンの動きが止まった。巨大な青竜の姿が、元の人型に戻ってゆく。


「ああ……あああ……む、娘に嫌われた……。もうお終いだぁああああ!」

「えっと、親バカ?」


 頭を抱えて嘆いている竜王を見て、また問題発言が出てしまった。今度は聞いていないようだが。


 そこでやっと俺は気付いた。


「ちょ、ちょっと待て! もしかして、レイティアって竜王の娘なのか?」


 俺の疑問にレイティアはさらっと答える。


「だって、ボクを娘だって言ったから」

「た、確かに……」


 俺は忘れていた。竜王本人が『私の娘』と言っていたことに。


「えっ、ええっ……レイティアって竜王の娘……ええっ、凄い有名人? サイン貰っとく?」

「アキ君、サインはあげないけど……。た、たまに癒してあげるよ♡ えへへ♡」


 目の前で俺たちのやり取りを見てい竜王が、更にヘコんだ。


「ああ、あああ……私の娘が……イレーネの忘れ形見が……。やっと逢えた娘に、男が……」


「さっきボクのアキ君を殺そうとしてたよね? いくらお父さんでも許さないよ」


 娘の追撃を受けて竜王ゲリュオンはぐったりしている。やめたげて、もう竜王のライフ(HP)はゼロよ。

 ちょっとフォローしてやろうか。


「おい、レイティア、やっと会えたお父さんだろ。もっとこう手心をだな」

「ママが死んじゃったのに、一度も会いに来ないお父さんなんか知らないっ!」


 そこで竜王が口を挟んできた。


「それは仕方がないのだ。私は東海青竜王、東方を守護し世界の均衡を保つ役目がある。軽々しく聖域を出て他国に行こうものならば、軍事バランスを壊したり他の竜王との摩擦やトラブルとなるのだ」


「でも、ちょっと会いに来るくらいできるよね。ママはずっと待ってたと思うんだ……」


 ズゥウウウウウウゥゥーン!


 レイティアにツッコまれて余計に竜王がヘコんだ。


 確かに彼女の言う通りかもしれない。別れてから一度も会いに来ない父親なら、嫌われてもしょうがないだろう。


「俺だったら世界をぶっ壊してでもレイティアに会いに行くよ」


 ふと正直な感想を洩らしてしまった。


「あ、アキ君っ?」

「当然だよな。世界と大切な(仲間)だったら俺はレイティアを選ぶ」

「ふぁっ♡ アキ君しゅきぃ♡」

「だよなぁ、やっぱり世界とか大それた理由より、好きな女……って、俺は何を言っているんだ」

「もうらめぇ♡ 恥ずかしいよぉ」


 爆上げしたテンションやら驚愕の事実やらで、俺は無意識に問題発言をしたようだ。いまいち話が噛み合っていない気もするが。


 ただ、俺たちの会話が、世界最強レベルの竜王に瀕死の大ダメージを与えてしまったかもしれない。

 その証拠に、さっきから竜王ゲリュオンがぐったりしている。



 ◆ ◇ ◆



 やっと正気を取り戻したゲリュオンに促され、俺たちは神殿の応接室に通されていた。


「えっと……色々と聞きたいことが有りまして」


 気まずい空気の中、俺は口を開いた。


 さっきからゲリュオンは不機嫌そうに俺を睨み、ジールは死んだような顔で生気がない。


「何だ? 魔物の群れが街へ向かっている件か?」


 抑揚のない声でゲリュオンが言った。


「分かってるなら話が早い。原因を聞きたいのですが」

「そんなの私が見捨てたからに決まっておる」

「見捨てた? 人族を?」

「イレーネに酷い仕打ちをした街の者など、どうなろうと構わぬな」


 やはりレイティアの母親の件が絡んでいるようだ。


「私はこの聖域を守るついでにグロスフォードの街も守っておったのだ。それは私が愛した人族の娘イレーネと出会ってから、より一層その思いは強くなった」


 ダンッ!

 ゲリュオンがテーブルに手をついた。


「それなのに……聞けばイレーネは亡くなっておるではないか! 私は、その話を聞いてから目の前が真っ暗になった気がしてな……。陰ながら幸せを願っておったのに……まさか……」


「お父さん……」


 レイティアも目を伏せた。


「まあ、魔物が増えておるのは竜族のせいではないのだがな。それは北方領域の魔族が関係しておるのだ。何やら魔王を復活させるとか復活したとか」


 サラッとゲリュオンがとんでもない発言をしたぞ。


「ん? 魔王…………」

「魔王の復活で闇の力を得た魔物が活性化しておる」

「ええっ!?」

「しかも北海黒竜王エキドナまで暗躍しておるらしくてな」

「だだだだ大問題だよ!」


 ガタッ!

 驚いて立ち上がってしまう。


(えっ? えっ? 魔王が復活? 黒竜王まで関与? これ、冒険者が何とかする問題じゃないような? 国家レベル……いや、世界レベルの大問題だぞ)


「貴様は世界がどうなっても良いのだろ」


 不愛想な声のゲリュオンに返された。

 根に持たれていたようだ。さっきのは言葉の綾なのに。

 本当に世界が滅んだら困る。


(待て待て、とりあえず魔王の件は帰ってから国王に報告するとして、先にやることが有るだろ)


「お義父さん……」

「貴様にお義父さんなどと言われたくない!」


 結婚を反対する交際相手の父親みたいなセリフを言われた。


「えっと、竜王ゲリュオン様」

「何だ、娘に付いた悪い虫め」


 ムキっ!

「お父さん! アキ君を悪く言うと怒るよ!」


 レイティアに怒られゲリュオンがヘコむ。


「す、すまぬ……」


 最強の存在なのに娘には頭が上がらない。この辺は、年頃の娘を持つ普通の父親みたいだ。

 それより話を進めないと。


「魔王の件は国王に報告しますから、先ず協力して欲しいことが有ります。俺たちはグロスフォード辺境伯から指名手配されているのです」


「ん、グロスフォード辺境伯だと!?」


 辺境伯の名前を出した途端、ゲリュオンの顔が一変した。


「はい、俺たちは上級貴族に歯向かってしまい……。この状況を逆転するには、辺境伯が犯罪に関わっている証拠を突き止めなくてはなりません。もし、知っている情報があれば教えて欲しい。囚われている奴隷少女たちも解放したい」


 俺の話を聞いたゲリュオンが笑みをこぼした。肩をゆらしながら。


「ふふっ、ふはははははっ! ふはははははははっ! これは僥倖ぎょうこうだ! あの憎き辺境伯夫妻を破滅させられるのならば、この東海青竜王ゲリュオン、いくらでも協力しよう!」


「それでは……」


「ああ、辺境伯夫妻はイレーネの家族の爵位を剥奪した仇であるからな。竜王である我が介入すれば世界的大事件になってしまう。だから、何もできず、こうしてせるばかりだったのだ。しかし、人族が勝手にやったのならば問題無い」


 そこでゲリュオンの表情が厳しくなる。


「だが娘との交際は許さん!」

「お父さんっ!」


 再びレイティアにたしなめられゲリュオンがシュンとする。


「と、とにかくそれならば協力しよう。知っている情報を全て渡そう。あと、そこのジールを連れて行くが良い。力になるはずだ。だが、娘はやらんぞ!」


 竜王の協力は有難い。ただ、レイティアのことになると、ちょっと懲りないようだが。


 最後にゲリュオンはとんでもないことを言い出した。


「代わりと言っては何だが、こちらにも頼みたいことが有る。グロスフォードでの一件が終わったら、北方領域に赴き北海黒竜王エキドナを説得してはくれぬか」


「ん? 黒竜王…………? はぁあああああああ!」


 またしても俺たちは常軌を逸したクエストを行うことになってしまった。



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