第57話 強化魔鎧外骨格着装
瞬時に俺の周囲に魔素が展開し、それが皮膚の上を覆い尽くすように包み込む。
魔素は黒く禍々《まがまがしい》しい甲冑となり、まるで支配級悪魔のように俺の体を変化させた。
コォォォォォォォォォ!
「こ、これは……俺は、どうなったんだ」
俺の各パラメーターが上限を振り切っている。信じられないようなステータス上昇だ。
『警告! 警告! スキル【専業主夫】特級魔法・魔族の叡智を使用。強化魔鎧外骨格着装により、一時的に各パラメーターは支配級悪魔と同等にまで上昇します』
スキル警告音と共に、とんでもない説明が入った。
『なお、特級魔法のデメリットとして、解除後に生命力消費とステータス下降があります』
「なっ、何だと! デメっ、コホンっ。これが……魔族の叡智、強化魔鎧外骨格着装なのか!」
目の前で突然起きた変身ダークヒーロー的状況に、竜族の女戦士は茫然としている。
「なな、何だそれは! は? お前はアークデーモンなのか? えっ、ええっ!? 変身する人族なんて初めて見たぞ!」
「コォォォォ、俺は支援職だ。好きな女を守る、ただの支援職だぁああああ!」
「そんなふざけた支援職がいるかぁああああ!」
女戦士は全力で否定しているが、パーティーの皆はテンションが上がってしまう。
「きゃぁああっ♡ 素敵よ、アキちゃぁん♡」
「何てカッコいい甲冑なんだアキ君っ♡」
「えええっ! アキが変身したぁぁああっ!? 」
力が漲っている。今なら上位竜にも勝てるかもしれない。
ザッ! ザッ! ザッ!
「コォォォォ、俺の必殺技を受けて見ろ!」
「や、やめろぉ、それ以上近付くな。何か怖い」
禍々しい甲冑で歩を進める俺に、竜族の女戦士は後ずさる。
因みに必殺技というのはでまかせだ。俺は料理が得意な支援職だから。たまにはカッコ付けさせてくれ。
「行くぞ!」
「ぐわぁっ! こっち来るなぁ!」
ズバババッ! ガキンッ! ズガッ!
さっきまで全く手が出なかった相手に対し、互角以上に戦っている。
「ななな、何だコイツは! こんな人族知らないぞ!」
「だから俺はスキル専業主夫の支援職だと」
「専業主夫とかふざけてるのかぁああ! ちょっと私の主夫になって欲しいとか思っちゃうだろ!」
どうやら俺のスキルは強い女に求められるようだ。だが、俺には大事な仲間がいる。浮気ダメ絶対っ!
「よし、今ならできそうな気がするぜ! 俺の祝福の剣もスキルで一緒に強化されてるからな。行くぞ【防御魔法・防御障壁】!」
シュバァァァァーッ!
俺の予想通りだ。変身により進化した俺のスキルが、防御障壁の形状を自由に変えられるようになっている。
まるで箱型のように展開したそれが、女戦士の体を包み拘束してしまった。
「ぐあぁああっ! 一瞬だけ私の意専業主夫にしたいとか思って油断したぁああああ! 一生の不覚だぁああ!」
バタンッ!
動けなくなった女戦士は地面に倒れ横になった。
「フッ、フッ、フッ、何でも言うこと聞くのだったな。どうしてやろうか?」
「ああぁ、や、やめろぉ……」
ちょっと調子に乗った俺の言葉に、女戦士が涙ぐんでしまう。
「くっ、こ、殺せぇ……。無様に敗北して男に体を弄ばれるくらいなら死を選んでやる。ああぁ、ぐやじぃいいいいっ!」
「リアルで『くっころ』言う人って居たんだ……。あれっ、この展開はヤバいような?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
後ろからの威圧感が凄い。俺は何かまたしでかしたようだ。
「アキ君っ! 他の子にエッチなんてボクが許さないからな!」
「そうよ、あんたのセクハラは、全部アタシが阻止してやるんだから!」
「こらぁああ! アキちゃんの性欲は全部私で解消して♡」
後ろを向くと、そこには顔を真っ赤にして怒るレイティアと、前のめりになって指を突き出したシーラと、ヤンデレ目で問題発言するアリアがいた。
「お、落ち着け、冗談だから。何もしないから」
俺は固定されて転がっている女戦士を放置したまま、皆の機嫌を取る為にナデナデして回るのだった。
◆ ◇ ◆
「な、なんて鬼畜な男だ……。私を動けないようにしてから、他の女とのイチャコラを見せつけるだなんて。こんな男は初めてだ……」
文句を言いながら先頭を歩くのは上位竜の女戦士。名前をジールというらしい。
負けたら何でも言うこと聞くという約束で、俺たちは竜族の街までの案内をさせている。
「ほら、文句を言わず案内してください。ジールさん」
俺は丁寧でありながらも挑発するように命令する。くっころ女戦士のジールに。
「くうっ、この男、地味で真面目な印象なのに逆らえない。何なんだもうっ!」
「ほらほら、負けたジールさんは何でも聞くんでしょ」
「ぐやぁじぃぃぃぃ~っ!」
あんなに強い竜騎士だったのに、今はガチ泣きして地団駄を踏んでいる。面白い人だ。
そう言う俺も謎のダメージでふらついているのだが。やはり強化魔鎧外骨格着装は、驚異的な身体能力の向上と引き換えに、変身解除後の一時的なステータス下降があるのかもしれない。
「そう言えば……そこの女は竜族のようだが」
ジールがレイティアを見て言った。さっきからレイティアをチラ見しているのが気になっていたのだが。
当のレイティアは俺の腕にしがみ付きながら返事をする。
「ボクのことかい?」
「ああ、竜族の血は薄いようだが、何か強い力を感じるぞ」
「ボクのお父さんは竜族らしいのだけどね。よく知らないんだ」
そこまで話したレイティアは、突然俺を隠すように前に出る。
「アキ君はボクのだからあげないよ!」
「おい、誰がレイティアのものになったんだ?」
ついツッコみを入れてしまった。
「だってぇ、ボク以外の竜族がアキ君を寝取ろうとするかもしれないだろ」
「それは無いって」
むにっ! むにっ!
「だ、だから近いって」
「ボクを見てくれないと、もっともっと近くするからね♡」
「ああ、もう一線を越えちゃいそうだ」
「だから超えて欲し……ごにょごにょ」
俺たちのやり取りを見せつけられているジールが凄い顔をしている。
「あああっ! 何なんだこいつらは! 目の前でイチャコラとかふざけてるのか! 私に彼氏がいないから嫌がらせで欲求不満を刺激しているのか? くそぉ!」
どうやらジールは欲求不満らしい。
「これがこのパーティーの普通だから諦めなさい」
シーラがヤレヤレといったポーズをする。
「はぁ……何で私がこんな目に……」
「悪いな。街まで案内して取り成してくれたら助かる」
俺は落ち込むジールに言葉をかけて案内を頼む。
「他にも色々と聞きたいこともあるんだ。スタンピードとか辺境伯との確執とかな。街に着いたら話を聞きたい」
「はあぁ、負けたのだから従うさ。それより、彼女の持ってる剣なのだが」
ジールがレイティアの剣を指差した。
「あれは彼女の家に代々伝わる剣らしいけど」
「そうか……うーん……」
ジールは何か言いたそうにしているが、それ以上は答えず口をつぐんだ。
◆ ◇ ◆
「ほら、あれが東の聖域だ」
しばらく歩き山を越えたところでジールが口を開いた。丘から見下ろすところに竜族の街が見える。
「おおっ、ついに到着したか」
身を乗り出す俺に、ジールはとんでもない発言をする。
「お前、街に入ったら襲われないように気を付けろよ。竜族は男が少ないからな」
「は? はぁああああああああ!?」




