第45話 お姉ちゃんたちが寝かせてくれないのだが
目の前には蜘蛛の大軍。奇怪な色をした蜘蛛が地面を覆い尽くしている。
ここは北の森。モンスターが住み着いている魔の領域だ。
グレートスパイダー討伐クエストに挑んだ俺たちは、魔物の大軍が押し寄せるのを前にして戦闘態勢をとる。
「よし、皆くっついて! 支援魔法をかけるから」
むぎゅ♡ むぎゅ♡
必要以上に密着している気もするが、いつものことなので気にしないフリをした俺は、平常心を装い魔法をかける。
実際は、皆の柔らかな体と良い匂いでドッキドキなのだが。
「よし、支援魔法!」
【付与魔法・肉体強化大】
【付与魔法・魔力強化大】
【付与魔法・防御力強化大】
【付与魔法・魔法防御力強化】
【付与魔法・攻撃力上昇大】
【付与魔法・素早さ上昇大】
【付与魔法・クリティカル上昇大】
【付与魔法・獅子心王】
「これで行こう!」
俺の戦闘糧食を食べてステータスが上がっているところに、更に強力なバフがかかった。
「凄いよアキ君っ! 前より更に強くなってる」
「ああぁん♡ アキちゃんに体を整えられてるみたい♡」
「めっちゃ硬いわね! これ」
二段階覚醒して嫁の加護Ⅱを得た俺のスキルに、皆も驚きを隠せない。
「シーラとアリアお姉さんは大量のスパイダーを魔法で攻撃を! レイティアお姉ちゃんは俺とボスを対処だ!」
「「「おおおーっ!」」」
ズババババババババ!
ゴバァアアアアアア!
二人の魔法で蜘蛛の大軍が駆逐されてゆく。俺の支援魔法で魔力が激増しているのだ。
「凄いぞ! 一気に大量のモンスターを!」
以前と比べて明らかに二人の魔法の威力が強い。
「凄いのはアキちゃんのスキル魔力強化大よ♡」
「そうよ! これ、アタシの魔法攻撃力が跳ね上がってるんだけど」
アリアとシーラも信じられないといった顔をしている。
「シャァアアアアアアアアアア!」
蜘蛛の大軍の奥に黒く巨大なモンスターが見えた。あれがボスのグレートスパイダーだ。
「来たぞ! 皆、気を付けて!」
ギュワァァァァーン!
グレートスパイダーの正面に魔法陣が浮かび、急速に魔法力の上昇を感じた。
「まさか! こいつ魔法を使えるのか! 来るぞっ!」
【防御魔法・防御障壁】
「これでどうだぁああ!」
シュィィィィーン!
俺が防御魔法をかけたのと同時に、グレートスパイダーから強い光が迸った。
「|シャシャシャシャシャァ《アイシクルランス》!」
ズサズサズサズサズザザザザザザザザッ!
雨のように大量の氷槍が俺たちに放たれる。だが、防御障壁により直前で全て跳ね返した。
「よし、ボクが倒すぞっ! あっ!」
突撃しようとして防御障壁の前に出たレイティアの脚に、一本の氷槍が命中し体勢を崩した。
「お、お、おお、俺の愛しいレイティアに何してくれてんだぁああああああ!」
レイティアの綺麗な脚が傷付けられ、俺はカァァっと頭に血が上り、ボスに向かって走り出す。
後ろではレイティアたちが何か言っているようだが。
「はうっ♡ 愛っ♡ あんっ♡ やっぱり好きぃ♡」
「もうっ、レイティアちゃんばかりずるいわ♡」
「アキ……また本音が漏れてるわよ」
ズガガガァーン!
牛よりもデカいグレートスパイダーに掴みかかった俺は、八本の足で地面を掴むヤツを力業で押し返す。
バフで驚異的に強化された今の俺なら可能だ。
「うおぉおおおおっ! レイティアの綺麗な脚を傷付けた悪いモンスターはお前かぁああ! どりゃぁああ!」
グレートスパイダーの巨体をひっくり返し、装甲の薄い腹側に祝福の剣を突き立てる。
グサッ! グサッ!
「俺のレイティアを傷付けた敵は八つ裂きだぁああ!」
敵の硬い装甲を難なく突き破り、ヌメリと剣がボディに滑り込んだ。
スキル【付与魔法・クリティカル上昇大】で殆どの攻撃はクリティカル判定となり、【付与魔法・獅子心王】により恐怖は消え各耐性が向上し、クリティカルのパラメーターも大幅アップしているのだ。
「おりゃぁああ! 全攻撃クリティカルだぁああ! 俺は大好きな女を守るぜええええ!」
ドカッ! ドカッ! ドカッ! ドカッ!
気が付いた時には、そこにジャイアントスパイダーだったものの魔石とレアっぽいドロップアイテムが転がっていた。
「あれ? 俺……何かやっちゃった?」
「やりまくりの問題発言しまくりよ!」
シーラが絶妙なツッコミをする。
ツッコんでくれたのはシーラだけで、レイティアとアリアはやっぱり挙動不審なのだが。
「はぁああぁ♡ しゅきぃ♡ もうボクおかしくなっちゃいそうだよぉ♡」
「アキちゃん最高っ♡ 私もベッドでアキちゃんの〇〇〇で突かれたいかもぉ♡」
問題発言しているのは彼女たちの方なのではと思うが、そこで俺のレベルが上がる感覚があった。
『レベルがアップしました。レベル36からレベル41になります』
ステータスが書き換えられアビリティとパラメーターが大幅に上昇する。
「あっ、またレベルアップだ。かなりレベルも上がったな」
レベルアップも嬉しいが、それより今はレイティアの怪我が心配だ。
「そうだ、レイティア! 傷を見せるんだ」
「あのっ♡ アキ君、怪我はしてないから大丈夫だよ」
攻撃が当たったレイティアの脚は、少しだけ赤くなっていた。
「ほら、アキ君のバフで魔法防御も物理防御も上がっていたから」
「赤くなってるぞ。今すぐ肉体再生治癒で」
「お、大袈裟だよ」
「じゃあ……舐めて消毒って誰かに聞いたような」
ペロペロペロ――
「うひゃぁああぁん♡ あっ♡ ダメっ♡ そんなとこぉ♡」
「ちゃんと舐めておかないとな」
「そこらめぇ♡ 太ももの付け根を舐めないでぇ♡」
くすぐったいのか、レイティアが体を悶えさせる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
アリアとシーラの威圧感が増した。
「あっ、あれっ、俺……つい我を忘れて……」
「アキちゃん!」
「アキぃいい!」
「こらっ、アキ君っ!」
皆が真っ赤な顔になっている。
「す、すまん。わざとじゃないんだ」
完全にやらかした。
こうして、蕩け顔だったり威圧感の凄い仲間を連れ、俺はグイグイ迫られながら家に戻るのだった。
◆ ◇ ◆
以前には考えられなかった俺の毎日。
あの頃は、人の顔色ばかりうかがったり、役に立とうと頑張り過ぎて気付かなかった。
利用されていただけなのだと。
でも、今は違う。
ただ、ちょっとイメージしていたのと違って、可愛いお姉さんたちにグイグイ来られているのだが。
いつものようにレイティアの距離がバグっている。
「はうぅ♡ アキ君……あんなの反則だよぉ♡」
「あの、さっきはごめん。レイティアが怪我したんだと思ったら気が動転して」
「アキ君っ、それわざと焦らしてるよね?」
「じ、焦らしてないぞ」
こんなに密着されたら誤解するのが男というものだ。
(もしかして……レイティアって俺のことが好きとか? いやいやいや、待て待て! ここで勘違いしてエッチなコトでもしようものなら、セクハラ男の烙印を押されてしまう)
「ほら、レイティアお姉ちゃん、落ち着こうか」
「ぶぅぶぅ、アキ君のイジワルぅ♡」
レイティアが拗ねた顔になってしまう。
それを黙って見ていたかに思えたアリアが、何故か靴を脱いで生足になっている。
「ほらぁ、アキちゃん♡ お仕置の時間よぉ♡」
しっとりスベスベ生足を向けられ、俺の鼓動が速くなる。
「あ、あの……アリアお姉さん?」
「うふっ♡ 悪い子のアキちゃんは、キッチリとお仕置きで躾けておかないとよね♡」
「あ、あれ? どうしてこうなった」
俺はドMではないはずなのに、少し蒸れたアリアの足で踏まれそうになり胸が高鳴ってしまう。
「く、くぅ、アリアお姉さん、ストップぅ」
「だぁ~め♡ これからはキッチリお仕置きしようかなぁ♡」
「ああぁ! アリア女王様ぁ! てか、受付嬢めぇ!」
グイグイ来るレイティアと嫉妬女王になったアリアに挟まれ、もう進退窮まった俺はシーラに助けを求める。
「シーラ、助けてくれ」
「は? あんたいい加減にしなさいよね」
「やっぱり怒っていらっしゃる!?」
何となくそうだと思っていたが、さっきからシーラが不機嫌だ。
「それ無意識にやってるのかしら? あんた、とんでもない年上キラーね」
「な、何のことだ?」
「くっ、こんな初心で女慣れしてなさそうなのに」
それを言うならシーラもだ。寝込みをキスされたお仕置きを思い出す。
「でも、寝ている俺に人工呼吸するシーラも――」
「うっぎゃぁああ! それ忘れなさいって言ったでしょ!」
ギュゥゥゥゥーッ!
シーラに抱きつかれた。いや、締め技のようなのだが、抱きついているようにしか見えない。
「忘れろぉおお! ってか、やっぱ消すしかない?」
「消すなぁああ!」
「もうっ♡ アタシにも構いなさいよね! ばかぁ」
こんな感じに美少女たちから絡まれまくりの毎日だ。
因みにまだベッドは買ってもらえない。いつになったら俺はベッドでゆっくり寝られるのか。
俺に優しくしてくれる皆には感謝しているのだが、当分の間は寝かせてもらえない日々が続きそうである。
皆様いつもありがとうございます。
これで第1章を終了し、引き続き第2章に入ります。
S級冒険者、そして国家冒険者となり、ますますパワーアップしたアキと嫁ヒロインの物語を楽しんで頂けたら幸いです。(新たな覚醒もあります)
第2章では、今まで謎だったお話や新たな悪者も登場します。
ご期待くださいませ。
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