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第43話 悪女

 頼んでおいた武器の完成の日を迎え、俺たちは武器屋へと向かっていた。楽しみでスキップしそうな足取りで。


「ついに俺専用武器が」


 前に使っていた武器はグリードに盗られそれっきりだ。それだけに、皆からプレゼントされる武器には喜びもひとしおである。


「アキ君と一緒に討伐クエストするのが楽しみだよ」


 レイティアも喜んでくれている。

 ただ、顔を赤らめて変な話を始めるのだが。


「と、特にボクの腰をグイっと強引に掴んで……硬い……」

「おい、何のことだ!?」


 今日もレイティアは挙動不審だった。


「アキちゃん♡ やっと専用の剣を手に入れるのね」


 満面の笑みでアリアが祝福してくれた。


「ええ、これで戦闘でも活躍してみせますよ」

「ああぁ♡ 昼は戦闘で剣を振るって、夜はアキちゃんのあれで私をぉ♡」

「アリアお姉さん、禁断症状ですか?」


 アリアの目がヤバいので見なかったことにしよう。


「アキは頑張ってるもんね。アタシは最初からやる男だって気付いてたわよ」


 ドヤ顔のシーラが言う。最初は加入に反対していたような気もするが、気にしたらダメだ。


「ははっ、これからも皆の役に立てるように頑張るよ」

「期待してるわよ。でも……やっぱりアキがアタシのわきを見てる気がする♡」

「おーい、戻ってこーい!」


 ちょっぴり自意識過剰な気がするシーラが、恥ずかしそうに赤面する。耳まで真っ赤だ。

 因みに、見てないとは言っている俺なのだが、実はたまにシーラの腋をチラ見していた。



 そんな感じに冗談を交えながら、俺たちは武器屋の門をくぐった。


 ガランッ!


「いらっしゃい! おおっ、アキか。おぬしの武器は完成してるぞい」


 武器屋に入ると、すぐに店主が俺の剣を持ってきた。


 キラァァァァーン!


 カウンターに置いた紫色に妖しく光る剣を眺める。一目で魔力を帯びた特別な剣だと分かるほどだ。

 手に取ってみると、昔から使って馴染んでいるかのように軽くしっくりきた。


「これは凄いな」

「ああ、レア素材で作った特別製じゃ」

「と、特別製」


 特別という言葉にテンションが上がる。


「幻魔鉱石は魔法伝導率が極めて高く、様々な魔法を剣に乗せることが可能なのじゃよ。ワシの作ったこの剣は、魔法を吸収させ剣の特性を変えるようにできておる」


 様々な魔法を剣に乗せられるのなら、俺の加護や補助魔法にも応用できるかもしれない。


「やった! 俺の剣だ! これで活躍するぞ」


 皆も喜んでくれている。勝手に剣の名前を付けるくらいに。


「やったなアキ君っ! 『レイティアソード』と命名しよう」

「アキちゃん♡ 『アキ&アリア愛の軌跡』なんてどうかしら?」

「そうね、アタシは『シーラ・デア・シュトルム』が良いと思うわ」


 どれも却下だ。


「おい、何で自分の名前を入れようとしてるんだ……。そうだな、俺は皆の加護を受けているから、この剣は祝福の剣(ブレッシングソード)と名付けよう」


 遂に俺専用の剣を手に入れたぞ。

 前は攻撃スキルが無いからと不遇な扱いを受けていた。

 当然、装備も吊るしの安物だった。

 それでも手入れをしながら大切に使ってきたのだ。

 それをグリードたちに奪われ失ってしまう。

 何もかも無くして途方に暮れていた。


 しかし、皆と出会ってから、俺は本当の仲間を手に入れたんだ。

 俺に優しくしてくれる彼女たちの為にも頑張らねば!



 ◆ ◇ ◆



 何もかも順調に行っている時にこそ落とし穴がある。誰かがそう言っていた気がする。

 俺は増長して転落しないように気を付けて生活していたはずだ。


 そう、お姉さんたちの禁断症状やお仕置きにも勘違いしないように。



「ふう、買い物も終わって、あとは帰るだけかな」


 今日は一人で買い物だ。今はその帰り道。もう少しで皆の待つ家に到着する。


「ふふっ、皆も良くしてくれるしクエストも順調にこなしてるからな。ちょっと距離感がバグってるのが問題だけど」


 そんな独り言をしながら歩いていると、何処かの冒険者パーティーとすれ違う。

 その姿に過去の自分を重ね合わせてしまった。


「もう過去のことだ……」


 グリードたちが何処に行ったのかは知らないが、もう関わることも無いのだろう。せめて改心しているのを願うだけだ。


 あと一歩で家に到着というその時、それは起こった。


「アキ」


 突然声をかけられ振り向くと、そこには以前と全く違った印象のサラが立っていた。

 顔は少し疲れた表情で、酒の匂いがプンプンしている。


 俺の中にトラウマが甦る。散々利用され裏切られた記憶が。


「えっ、あ、あの、サラ……どうしたんだ?」

「アキに会いたくなって」

「俺には用は無い。もう会いに来ないでくれ」


 俺を尾行していたのだろうか。ストーカーみたいで怖い。

 関係を断ち切るように、俺はキッパリと断った。


「ま、待ってよ! グリードとラルフは王都を追放されちゃったし、アキしか頼れないの」


 どうしてサラは俺を放っておいてくれないんだ。他のパーティーにでも入って、一からやり直せば良いはずなのに。

 サラの顔を見ると、あの時のトラウマを思い出してしまう。


「もう俺に構わないでくれ。あの二人はシーラを陥れたから試合で戦って倒したんだ。サラは陰謀と無関係なら何もする気はない。だから二度と俺の前に現れるな」


「そ、そんなこと言わないでよ。私とあんたの仲じゃない。そ、そうだ、アキ、強くなったのね。あの二人に完勝するなんて凄いわ。ね、ねえ、イイコトしない?」


 サラが俺の腕にしがみ付いてきた。


「おい、離せ」

「嫌よ! ねえ、お金貸して頂戴。稼いでるんでしょ」

「ダメに決まってるだろ!」

「良いじゃない、代わりに私を抱いて良いからさぁ」

「ダメだ!」

「良いでしょ。ほら、エッチさせたげるからさぁ」


 最悪だ。女だからと甘くしていたが、こんなに後々まで絡まれるとは。

 そして、最悪は重なるものだった。


 ガチャ!


「アキ君、帰ってきたのかい――あっ……」


 ドアを開けて顔を出したレイティアに、俺とサラが密着している場面を見られてしまった。


「どうしたの、レイティアちゃん――」

「アキが帰って来たの――って、えっ!」


 アリアとシーラまで出てきた。当然、二人にも見られてしまう。

 三人の顔を見たサラが、一瞬だけニヤっと笑う。


「ふふっ♡ うふふふっ♡ ああぁああぁん♡ 私、アキに抱かれたのよ。さっきのアキったら激しくてね。最高だったわ」

「お、おい、何を言っているんだ!」


 俺に体を寄せたサラが嘘を言う。まるで二人が付き合っているかのように。


(クソッ! 何しているんだサラは! 俺たちの仲を壊そうとしているのか? 金をたかったり体の関係を騙ったり最悪だ!)


「こ、これは違うんだ……」


 弁解しようとするが、抱きついているサラは俺を放さない。


「ああぁああぁん♡ アキは私が良いみたいよ。アンタらは用済みね」

「やめろ、サラ!」


(マズい! せっかく皆と信頼関係が築けてきたのに、これじゃ台無しになってしまう。信じてくれ、俺は何もしていないんだ)


 俺は嫉妬や怒りの言葉が飛んでくると身構えていた。しかし、レイティアは優しい笑顔を向けてくれる。


「何を言っているんだい。アキ君が一時の快楽で女性を抱くわけないだろ。彼は誠実な人だ。それはボクが一番良く知っているぞ」


「レイティア……」


 レイティアは堂々とサラの前に立ち言い切った。

 それにアリアも続く。


「アキちゃんは真面目だしガード堅いのよ。あなたの誘惑に負けるわけないじゃない。ふざけたコト言ってると殺すわよ。うふっ」


「アリアお姉さん……」


 アリアも俺を信じてくれている。

 怖い発言をされたサラが、「ひぃいいっ!」と悲鳴を上げているのだが。


「アキ、あ、あんたはエッチだけど信頼できる男よ。アタシたちを裏切るわけないわよね。あ、アタシも信頼しているんだし……はうっ♡」


「シーラ……」


 シーラも俺を信じてくれた。


 これでサラも言い逃れができなくなったようだ。嘘がバレてワナワナと震えている。


「ぎゃああああああああ! そうよ、何も無いわよ! 悪かったわね! こんな地味で真面目で堅物の男なんて知らないわよ! やーい、この童貞アキ! 強くなって金も稼げるようになったら利用しようとしただけですぅううっ! バーカ、バーカ! うわぁああああああ! 最悪ぅうううう!」


 サラは泣きながら逃げて行った。

 もう会いたくもなかったが、どうやら俺の株を上げるのに貢献してくれたから良しとしよう。



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