表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/142

第42話 四海竜王

 今日は俺の専用武器を作る為に、街の武器屋に向かっているところだ。

 この街での冒険者歴が長いシーラが詳しいのとことで、店選びは彼女に任せている。


「えっと、シーラ、店はこっちで良いのか?」

「そ、そうね……」


 あの不意打ちキス以来、シーラの顔を見ると照れくさい。とりあえず頭を撫でておこう。


「ほら、シーラ」


 ナデナデナデ――


「あふぅ♡ って、コラぁ! 子供扱いすんなぁ」

「可愛がってるだけだよ。大人でも撫でるだろ」

「そ、それは……そうだけど」

「だよな……」


 かぁぁぁぁ――

 二人揃って顔を赤くする。


「ううっ♡ とんでもない弱みを握られちゃったしぃ。つけ込まれてエッチな要求されたらどうしよぉ」

「つけ込まないから!」


 シーラが手で顔を隠しながら人聞きの悪い発言をした。すぐに否定しておいたけどな。


「これ、くっころ(・・・・)って言うんでしょ」

「全然違うぞ、シーラ」


 くっころ(・・・・)というのは、凛々しい女騎士さんなんかが敵に捕まって色々されてしまうシチュエーションだ。まさかパーティー内で、そんなドスケベプレイをしたら大問題だろう。


「シーラっ、あっ……」

「アキっ、ううっ……」


 きゅん♡ きゅん♡


 お互いに目が合って恥ずかしくなってしまう。


(おい、これどうすんだよ。ああっ、お姉さんたちのお仕置きが凄くてドキドキしっぱなしなのだが。もう楽になっちゃって良いのかな。って、ダメだダメだ。セクハラしまくってパーティー崩壊したら困るからな)


 ドギマギしている俺に、さっきからアリア女王様の視線が怖い。


「ねえ、最近シーラちゃんと仲良いよね? もしかして……」

「ギクッ!」

「アキちゃぁん♡ 今、ギクッって言った? 言ったよね?」

「ほ、ほら、アリアお姉さんもナデナデですよ」


 ナデナデナデ――


「あんっ♡ アキちゃんってば悪い子なんだからぁ♡」


 一瞬でアリアが蕩けた。この技は使えそうだ。


「アリアやシーラばかりズルいぞ。ボクも撫でてくれよぉ」


 当然、レイティアも黙ってはいない。

 俺は三人を順に撫でながら武器屋に向かうのだった。



 ◆ ◇ ◆



「いらっしゃい!」


 武器屋と書いた看板を掲げている店のドアを開けると、そこには髭を蓄えガッシリとした体格のオッサンがいた。

 いかにも職人のような風貌ふうぼうをしている。噂に聞くドワーフ族だろうか。


「こんにちは」

「おう、何でも見ていってくれ」


 軽く挨拶を交わしていると、そのドワーフの店主が俺の後ろにいるシーラに気付いた。


「何だ、テンペストじゃねーか。冷やかしにでも来たのか?」

「うっさいわね。客よ、客。あんたの店に来てやったんだから感謝しなさいよね」

「相変わらず口が悪いエルフじゃな」


 口が悪いのはお互い様に見える。

 シーラは、この店主と旧知の仲なのだろうか。


「シーラ、知り合いなのか?」

「アタシが冒険者を始めた頃からの腐れ縁よ」

「もしかして、そのレイピアも?」

「そうよ、よく分かったわね」


 シーラが精巧な装飾を施したレイピアを見せる。


「これ、クラーケン退治で使った時に良い武器だと感じたんだ。切れ味もさることながら、柄や鞘の装飾も素晴らしい。腕の良い職人の彫刻だと感じるよ」


「ボウズ、若いのに分かってるじゃねーか!」


 ドワーフの店主の顔がほころぶ。最初の険しい顔が嘘のようだ。


「ほら、この剣は特別な製法でな。こっちのは魔力を帯びてるんだ――」


 気を良くした店主が次々に剣を見せてくる。自分の作った武具に誇りを持つ職人気質のようだ。

 どれも素晴らしい作りに感じる。


 だが、俺たちの用件は例の希少鉱石で剣を作ることだ。


「実は剣を作って欲しいのですよ。この鉱石を使って」


 そう言って俺は、カウンターの上に鉱石を乗せる。


「こ、こりゃ凄ぇ! 幻魔鉱石なんて何処で手に入れたんじゃ。こいつは珍しいな」

「そんなに希少価値が高いんですか?」

「ああ、滅多にお目に掛かれねえぞ。ワシも見たのは数えるほどじゃな」


 店主はまじまじと幻魔鉱石を眺めている。


「この幻魔鉱石を使えば良い剣ができそうじゃわい」

「本当ですか」

「ああ、使用者の魔力を吸収して強くなるレアなやつじゃ」

「それは凄い」


 しかし気になるのはお値段の方だ。


「それで……どうですか、製作費は?」

「そうじゃなぁ、この鉱石を使うには特殊な製法が必要でな……金貨300枚と言うところか」

「き、金貨300枚っ!」


 かなりの高額だ。上位クラスボスモンスターの討伐報酬が飛びそうなくらいに。


(いくら皆がお礼で武器をプレゼントしてくれると言っても、金貨300枚も使うのは気が引けるな)


 どうしようかと考えていると、店主が俺の顔を覗き込んできた。


「ん? おぬし、もしかしてアキ・ランデルか?」

「はい、そうですけど」

「おおっ! おぬしがアキか! 仲間を助ける為に命がけで海に飛び込んだという」


 俺の噂が広がっているようだ。ちょっと恥ずかしい。


「感謝するぞい。そこのテンペストを救ってくれたのじゃからな。そいつは生意気なエルフじゃが、居なくなったら寂しいもんじゃ。おぬしがアキなら金貨150枚にまけてやるわい」


「えっ、良いのですか?」


「良いってことよ! おぬしの男意気に惚れた。がははっ! 珍しい材料で腕が鳴るってもんよ。ワシに任せとけ、最高の剣を作ってやるわい!」


 あのグリードたちとの一件には怒りしかなかったが、おかげで俺や閃光姫ライトニングプリンセスのイメージも良くなり、こうして武器も格安で作ってもらえるのだから運命は不思議だ。


 レイティアたちと出会ってから、ツイてなかった俺の人生に光が射してきた気がする。



「そう言えば、そこの嬢ちゃんの青い剣だが、ちょっと見せてくれねえかい?」


 ふと店主がレイティアの腰に下げている剣に目を付けた。何か気になるのだろう。

 レイティアは剣を抜くとカウンターの上に載せる。


「これかい? どうぞ」

「こりゃ凄い魔力を感じるぞ……」


 剣に顔を近付けた店主が、食い入るように見つめている。


「凄い魔力か……」


 俺はグリードたちと決闘した時のことを思い出した。


「そういえば……俺が試合で使った時に、何か特殊な力を感じたんだよな。ナイトオブ何とかって声が聞えたような?」


「それ剣の名前かな? ボクの家に伝わる剣らしいけど、詳しいことは分からないんだよね」


 俺とレイティアの会話を聞いていた店主が、ガバッと目を見開いた。


 ガタッ!


「こ、これは……いや、そんなはずは……。じゃが、間違いない……しかし……」


「何かわかったのですか?」


「あ、ああ、これは強い魔力を帯びたドラゴンのうろこから作られているようじゃな。それも、かなり高位種族の……」


「高位種族?」


「たぶん上位竜じゃ。ま、まさか竜王……青竜王ゲリュオン……ま、まさかな」


 店主はブツブツと独り言のように話しながら剣を見つめている。


(青竜王ゲリュオン? 何処かで聞いたような……。あっ、四海竜王の一角か。まさか青竜王の剣とかじゃないよな)


 この世界には四柱の竜王が存在する。

 最強種である竜族の中でも格段に強い存在。その力は天地を砕き海を割るとも言われていた。

 魔王でさえ直接の対立を避けていた程の存在である。


 その名の通り、大陸の四方を守り世界のバランスを保っている。どの国にも属しておらず、ただそこに存在しているだけだ。


 その名を、東海青竜王ゲリュオン、南海赤竜王テュフォン、西海白竜王ブリドラ、北海黒竜王エキドナと言う。


 俺は店主と顔を見合わせる。


「ま、まさか、凄いレアな……」

「がはは、まさかじゃな。そんな超レアアイテムが存在するなど有り得んわい」

「ですよね、レイティアだし」


 俺と店主の話に、レイティアは頬を膨らませてしまう。


「むうっ、アキ君っ! ボクを何だと思ってるんだい」

「レイティアは可愛いボクっ娘だろ」

「かか、かわっ♡ こ、こらぁ、お姉ちゃんだぞ!」

「はいはい、レイティアお姉ちゃん」


 店主に剣の製造を任せ、俺はプク顔のレイティアを連れ店を出た。


「もうっ、やっぱりレイティアちゃんと仲良いよね?」

「アリアお姉さん、寝てないし付き合ってないですから」

「もうっ、お仕置ぃ♡」

「はいはい」


 当然、嫉妬が激しくなったアリアに密着されながら。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ