第29話 覚醒者
「今夜の料理はアドミナで食べた魚料理をもとに考えたオリジナルです」
テーブルの上には、金色に輝く衣を纏った魚介や野菜の乗った丼が置かれている。
天使のような黄金衣に覆われているのでテンプラと名付けた。これは丼に載せ醤油ベースのタレをかけているのでテンドンだ。
テンドンを見たメンバーが恍惚の表情を浮かべる。
「ちょ、これは凄いぞ! カラッと揚げた魚介や野菜に何ともいえない良い香りのタレがたまらないよ!」
涎を垂らしそうなほど興奮したレイティアが丼を手に取った。
「あああぁん♡ この黄金の衣が食欲を掻き立てるわぁ♡ もうアキちゃんに身も心も胃袋も堕とされちゃったぁ♡」
大きな胸と揺らしムチムチ太ももをスリスリしながらアリアが言う。きっと禁断症状だ。
「その料理……黄金の衣を纏いて銀シャリの上に降り立つべし……」
シーラが呪文のようなセリフを言っている。気にしたらダメだ。
「「「いただきます」」」
今回も、皆が凄い勢いで料理を平らげてゆく。気に入ってもらえたようだ。
「ああぁ♡ もうアキ君無しじゃ生きられないよ♡」
「うふふふぅ♡ アキちゃん……絶対に逃がさない♡」
「あ、アタシも……一生アキの料理を食べたいかも……」
皆の視線が俺を捕らえて離さない。
「えっと、どうしたんだ皆?」
グイグイグイ――
「ほらほら、アキ君♡ 試合に向けてマッサージしてあげるよ」
「私もマッサージしちゃおっと♡ イ・ケ・ナ・イ・ところを♡」
「あ、アタシも揉んであげるわよ。お腹とか」
三人が俺の体をマッサージしてくれている。料理のお礼だろうか。因みにお腹は凝っていない。
◆ ◇ ◆
俺はゆっくりと歩を進める。硬い石に覆われた壁と床が続く通路を。
ここは王都にある闘技場の廊下だ。この通路を抜けると、因縁に決着をつける舞台がある。
ついにグリードたちとの試合の日がきたのだ。
勝算は十分に有る。
あれから覚醒したスキルを色々と試して、その願望は確信へと変わっていた。
「アキ君、ボクの剣を使ってくれ」
一緒に歩いているレイティアが、自分の剣を抜き俺に差し出す。
「良いのか? 大事な剣なんだろ」
「アキ君になら託せるよ。ほら、これでゴブリードをぶっ飛ばしてくれ」
「ああ、任せろ。皆の分までぶっ飛ばしてくるよ」
レイティアの剣を掴むと、俺の中に不思議な感覚が湧き上がる。心なしか青い剣身が光った気がした。
(シーラのレイピアを借りる予定だったけど、せっかくの好意だから受け取っておこう。大事な剣だから丁寧に扱わないとな)
「じゃあ、行ってくる」
俺は光射す出口へと顔を向ける。
「武運を祈っているぞっ!」
「ボッコボコにしちゃいましょ」
「アタシの分まで頼むわよ!」
三人に見送られながら通路を歩き、俺は闘技場へと出た。
ウォオオオオオオオオオオオオ!!
俺の入場で会場が沸く。予想外に観客が入っているようだ。一介の冒険者の試合にしては盛況だろう。
闘技場中央まで行くと、すでにグリードとラルフが待ち構えていた。まるで勝利したかのようなニヤついた笑みを浮かべて。
「ぐははっ! アキぃ、よく逃げなかったな。ザコのテメェじゃ瞬殺だろうがよ。まあ、イビリながら時間をかけて痛めつけてやんよ」
陰険そうな顔をしたグリードが言い放つ。勝利を確信したかのような顔で。
「ふふっ、アキは世の中の縮図を知らんのだな。お前のように真面目でお人好しな奴は、俺たち上級人間に搾取される運命なのだ。分かったか、アキ!」
人を見下した態度でラルフが言う。こいつは前からそういう男だ。根拠は無いのにプライドばかり高い。
「俺も嬉しいよ。やっとお前らを倒す機会が訪れたんだからな。シーラの仇を討たせてもらうぞ! 王都追放されて二度と俺の前に姿を見せるな!」
俺の言葉で二人が激高する。
「な、なな、なにチョーシくれてんだゴラァ!」
「馬鹿め! お前が俺たちに勝てる見込みは万に一つも無い!」
(馬鹿はどっちだよ。俺はあの頃のような弱い男じゃない。スキル覚醒して強力な支援魔法を身に着けたんだ。絶対に負けないぞ!)
俺たちの間にギルド長のガイナークが立ち、試合のルールを告げる。
「今からギルド公認の試合を始める。お互いスキルと武力のみで戦うこと。武具以外のアイテムの使用禁止だ。勝敗は降参するか戦闘不能とみなした時点で決することとする」
ガイナークが戻り、試合開始の金が打ち鳴らされた。
カァァァァーン!
「よっしゃぁああ! 先ずは俺様からだ! って言っても俺で終わりなんだけどよ」
嗜虐心で顔を歪ませたグリードが前に出る。
俺は戦闘体勢に入った。
(よし、やるぞ! 先日のエルフ族の加護が追加されたことで、俺のスキルは大幅に強化されているんだ! 魔族と竜族との相乗効果でな!)
「スキル!」
【付与魔法・肉体強化】
【付与魔法・魔力強化】
【付与魔法・防御力強化】
【付与魔法・攻撃力上昇】
【付与魔法・素早さ上昇】
【付与魔法・クリティカル上昇】
「これでどうだ!」
付与魔法を連発する俺を見たグリードが絶句する。
「なっ、な、んだと…………」
バフ激盛りで俺の各パラメーターが超強化された。
「よし、行くぞグリード!」
「そんなのハッタリだ! オラァアア!」
ガンッ! ガキンッ!
グリードの剣が唸りを上げ襲い掛かる。力を込めた破壊力抜群の剣技だ。一撃でモンスターを倒すような。
しかし、以前に思っていたような強さは感じない。俺のレベルやスキルが上昇したのが原因だろう。
ズダッ! ガキンッ! ドガッ!
「オラッ、死ねやぁああああ!」
ズガッ!
「ぐあっ! 痛っ!」
一瞬の隙を突かれ俺の腹にグリードの剣が命中した。
「オラオラオラオラオラァアアアア!」
「ぐはっ!」
更に怒涛の攻撃を打ち込まれる。
「アキぃいい! テメェが俺に勝てると思ってんのか! テメェみたいなザコは一生俺みてぇな勝ち組男に頭を下げてりゃ良いんだよ! オラァ!」
グリードの連撃が俺を襲う。
「アキ君っ!」
「アキちゃん!」
「アキぃいいっ!」
その時、歓声の中から皆の声が聞えた気がした。
「レイティア……アリア……シーラ……。そ、そうだ、負けられない! 皆の為にも! この卑怯者を断罪する為にも!」
ガキンッ!
「俺は……ザコじゃない。俺は……役立たずなんかじゃない。俺は……卑怯な奴らなんかに負けない。たぁああああああっ!」
ガキィィィィーン!
グリードの攻撃を剣で受け止めてから距離を取る。
何度か攻撃が当たったはずだが、多少痛いだけでダメージは大したことが無いようだ。
「よしっ! 怪我してない。強化された肉体と防御力で全て防いだぞ」
俺が軽く腹の汚れを払うと、グリードは信じられないものを見たかのような顔をする。
「なっ、あ、有り得ねえ……。俺様の攻撃が、まるで効かねえなんて。あのザコのアキが……。テメェはハズレスキルの雑用係のはずだ……」
「昔の俺と同じだと思うなよ! 俺は仲間を得て強くなったんだ!」
「う、うるせぇええええ! テメェは一生陰キャのパシリ確定なんだよ! 死ねやゴラァ!」
ガンッ! ガキンッ! ズガガッ!
グリードが猛攻を仕掛ける。何度か俺の体に命中するが傷を負わせられない。
「どっしゃぁああああっ! オラオラオラっ!」
ガキンッ! ズガッ!
「ははっ! 大丈夫だ、俺の防御を突破できていない」
「うがぁああああ! オラぁああ!」
ズガンッ! ズババッ!
「グリード! お前の攻撃は効かないぞ」
「ああっ! ああああ! 何故だ、何故だぁああ!」
攻撃スキルの無い俺だが、上昇したステータスと自分にかけたバフでグリードの攻撃を防ぎきっている。
グリードは取り乱したように剣を振り回しているが、決定的な打撃は一つも無い。
「クソッ! な、何故ぇ! 何で効かねぇんだぁああ! アヒッ! こ、こんなはずではぁああ! ウガァ! だ、だが、守ってるだけじゃ勝てねえぞ、アキ!」
グリードの顔に焦りが見える。何しろ攻撃が効かないのだから。
「じゃあ試してみるか?」
「な、なな、何っ!」
俺は剣を上段に構える。
キィィィィーン!
その時、レイティアの剣から俺の中に何かが流れ込む感覚があった。
『使用者のステータスに竜族の加護を確認、青竜騎士の剣の一部使用を許可する』
「えっ! ナイトオブ? 何だこれ? 剣が喋った!?」
何だか分からないが、今なら剣技スキルを使えそうな気がする。この剣に今までの鬱憤を全て乗せ倍返しだ!
ついに奴らとの因縁に決着を付ける時が来た。
さあ、反撃開始だ!
 




