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第26話 人肌で……

 シーラを抱えた俺は、洞窟内の安全な場所に彼女を寝かせた。溺れて水を飲んだからなのか、シーラは意識が無い。


「シーラ! シーラ! 目を覚ませ! マズい、これは人工呼吸をしないと!」


 まだファーストキスも経験していない俺だが、今は気にしている場合ではない。彼女の命が懸かっているのだから。


「絶対に助ける! 何をしてもだ!」


 シーラのあごを上げ気道を確保する。ゆっくりと口を合わせ息を送り込んだ。


「すぅーっ! はぁーっ!」


 グイッ! グイッ! グイッ!

 胸を押しながら息を送り込むと、水を吐き出したシーラが静かに息をし始めた。


「ゲホッゲホッ! くはっ、すぅ、すぅ……」

「や、やった! 息をしてるぞ!」


 シーラの息が戻りホッとするが、彼女の体が冷え切っているのを感じた。


「マズいぞ、体温が低下している。そうだ、ポーションを……。ダメだ、料理道具もビンも持っていない。道具が無いのなら何処か別の場所に……」


 そこで俺は一つの可能性に賭けた。


「俺の口の中にポーションを生成できたなら……」


 考えていても始まらない。俺はスキルを使った。


「スキル、専業主夫! 創成式再現魔法術式展開! HPポーションを!」

 ギュワァアアアアアアーン!


 俺の口の中に甘いポーションの感覚が有る。どうやら成功したようだ。


(シーラ、今飲ませてやるからな)


 口移しでシーラにポーションを飲ませる。


「んっ…………」

「んぐっ、ごくっ……ごくっ……」


 すぐに効果が出たのか、シーラの生命力が回復する感覚があった。


「後は……やはり温めないとダメか……」


 ふと俺は、アリアの言った『人肌で温めるのが効果あるのよ』という言葉を思い出す。


「このままだと体が冷えて危険だ。やはり俺が温めるしかないのか。シーラ、ちょっとだけ我慢してくれよな」


 シーラの水着を脱がせてから、彼女の小さな体を包み込むように抱きしめる。

 まるで、壊れやすく繊細な宝物を抱きかかえるように。



 ◆ ◇ ◆



 それから何時間が経ったのだろう。抱きしめているシーラの体に体温が戻っている。


「良かった。シーラの体が温かい。助かったんだな」


 ギュッ!

 彼女の体を抱きしめ頭を撫でる。


「んっ、んぁ……。あれっ……アキ……」


 俺の胸の中でシーラが目を覚ます。


「起きたか? シーラ……良かった! 良かった! 良かったぁああああ!」

「あっ、アキ……んんっ!」


 虚ろな目をしていたシーラだが、目の焦点が合うと同時に自分の置かれている状況を把握したようだ。


「えっ! ええっ! は、裸っ! なっ!」

「良かった。無事だったんだな」

「ええっ! は、はれぇ……」


 シーラが目を白黒させている。


「おい、大丈夫か?」

「だ、だだだ、大丈夫じゃないし! あ、アタシ……」

「何処か痛むのか?」

「ええっ! は、はは、初体験!?」


 まだ記憶が混乱しているのか、シーラが意味不明なことを言う。何故か自分の股間を気にしているようだが。


「良かった。本当に良かった」

「ああっ♡ ぜっんぜん覚えてないし!」

「だから、シーラが落ちて」

「ああぁん、アタシまで堕とされたぁ♡」

「だから海に落ちて」

「海に……って、そうだ!」


 しばらく混乱していたシーラだが、やっと自分が海に落ちたのを思い出したようだ。



「こ、コホンっ、えっと……あ、ありがと……」

「当然だよ。シーラは大切な仲間だから」

「う、うん……」

「それで、その、そろそろ水着を着ようか?」

「はうぅううっ♡ み、見るんじゃないわよ!」


 真っ赤な顔になったシーラがイヤイヤをする。

 すぐに俺は後ろを向き、シーラが水着を着終えるのを待った。


「もう体は大丈夫なのか?」

「ええ、怪我も無いみたいだけど」

「大変だったんだ。人工呼吸したりポーションを飲ませたりで」

「そう、人工呼吸を……って! じじじじじ、人工呼吸ですって!」

「そうだぞ。よいしょっと!」


 水着を着終えたシーラを抱き上げる。まだ心配なので当然だ。


「きゃっ♡ えっ、ええっ、おお、降ろしなさいよ」

「ダメだ。心配だからな」

「お、お姫様抱っことか、せ、セクハラよ!」

「我慢してくれ」

「くぅ♡ こ、こんなのされたら……」


 シーラを抱きかかえたまま洞窟を出ると、いつの間にか夜になっていた。すでに潮は引いており岸壁沿いを歩けるようだ。

 俺は皆の待つ旅館へと急いだ。



 ◆ ◇ ◆



 旅館に入ると血相を変えたレイティアとアリアが飛び出してきた。


「アキ君っ! 一体何処に行ってたんだ! って、シーラ!」

「アキちゃん、シーラちゃん! 何かあったの? 帰って来ないからずっと探してたのよ」


 二人は俺に抱かれたシーラを見て、驚きの表情で目を見開いた。事故でも遭ったのではと。


「説明は後だ。先にシーラを休ませよう」


 俺はシーラを布団まで運んだ。




 皆が落ち着いたところで一から説明を始める。元パーティーでの裏切りに遭った話を。それから奴らに数々の嫌がらせを受けたことを。


「――――と、いう訳なんだ。今回の事件は俺が関係していたから……。俺のせいで……」


「アキ君……」

「アキちゃん……」

「アキ……」


 皆の表情が沈む。


(そうだよな……。俺がメンバーになったから皆に迷惑がかかって……。俺さえ関わらなければ……)


「皆、俺がメンバーになったばかりに迷惑をかけてごめん。俺はメンバーを抜け――」

「待ってくれ!」


 俺の話をレイティアがさえぎった。


「アキ君、辞めるなんて言わないでくれ。もうキミはボクたち閃光姫ライトニングプリンセスの正式メンバーなんだぞっ」


「レイティア……」


「アキ君はボクを大切な仲間だと言ってくれたよね。ボクだって同じ気持ちなんだ。もうアキ君はボクにとっても大切な欠かすことのできない仲間なんだ」


 アリアも口を開く。


「そうよ、アキちゃん。私たちって恋人……な、仲間でしょ。ずっとここに居て良いのよ。アキちゃんの敵は私たちの敵よ」


 布団で寝ているシーラまで起き上がった。


「そうよアキ! なに気を遣ってんのよ。あんたは何も悪くないでしょ。悪いのは、そのグリードだかゴブリードじゃない!」


 皆の温かい言葉で胸に熱いものが込み上げてくる。


「皆……ありがとう。俺を仲間だと言ってくれて。嬉しいよ。正直、裏切られてから世の中は悪い奴ばかりなんだと思っていたんだ。真面目に生きても、どうせ悪い奴ばかりが得をするんだと。でも、皆に出会えて俺は気付いた。良い人だっているのだと。俺は幸せ者だな。ははっ」


 泣きそうになってしまう。もちろん恥ずかしいので泣かないが。


「よし、ゴブリードをぶっ飛ばそう! 許せんな」


 レイティアが拳を握る。


「殺しましょ。アキちゃんやシーラちゃんを狙ったのだから当然よね。できるだけ惨たらしく。ふふふっ……」


 アリアの顔が真剣マジだ。


「ちょっと待ちなさいよ! 殺したらマズいから。まあ、アタシも許せないからボコボコにしてやりたいけど」


 アリアを止めたシーラだが、彼女も怒りが止まらない。


 ただ、俺は彼女たちに手を出させるつもりはない。

 俺が自分の手で決着を付けたいのだ。


(今回の件は許せない。グリード……お前は一線を越えた。俺の仲間に手を出すのは絶対に許せない! 絶対にだ! この俺が直々に断罪してやる!)


「待ってくれ。このケジメは俺が付ける。レイティアたちは手を出さないでくれ」


 俺の宣言に、皆は心配そうな顔をする。


「しかし、アキ君っ!」

「そうよ、私たちも」

「加勢するわよ」


 だが俺はやらねばならない。奴らの因縁に終止符をつけるために。


「俺が決着を付ける。皆は見ていてくれ。俺の大切な(ひと)に手を出したんだ! 絶対に許せない! 奴らは俺が倒す! 俺の(なかま)は俺が守るんだ!」


「アキ君っ♡」

 きゅんっ♡ きゅんっ♡


「アキちゃん♡」

 きゅぅぅぅぅーん♡


「あ、アキ♡」

 きゅんきゅんきゅん♡


 皆の顔が赤い。きっと同じ思いなのだろう。仲間を守りたいという。



 その日、俺は初めての感情が沸き上がった。

 大切な人を命を懸けて守りたい想いと、卑劣な奴らに仕返しをする決意が。


 断罪の時は近い。



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