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第17話 懲りない奴ら

「たすぅけてぇくれぇええ……」


 穴の中から微かな声が聞こえる。

 間違いない。誰かが崩落に巻き込まれたのだろう。


「おい、誰かいるのか?」

「あ、ああぁ……」


 俺が穴の中に声をかけると、すぐに返事が返ってきた。


「ひ、人だ! 人が来たぞぉおお!」

「助けてぇええ! 動けないのよ!」

「ああぁ、足が痛てぇ!」


 その声には聞き覚えがあった。裏切りと悪意とで聞きたくはない声なのだが。


「その声はグリードか? ラルフとサラも居るようだな」

「なっ! も、もしかして……アキ! アキなのか!」


 何故おまえがここに居るのだと言うような声をグリードが上げる。


「待ってろ、今引き上げてやる」


 かばんから縄を出し準備する。


「アキ! 早く俺様を助けろ! 遅ぇんだよ!」

「そうだ! 元仲間のよしみだろ! 早くするんだ!」


 仕方なく助けようとするが、奴らの態度は相変わらずのようだ。感謝という言葉も知らんのか。


「おい、グリード、ラルフ、俺を仲間だと思ったことは一度も無かったんじゃないのか? 何が仲間のよしみだ。勘違いするなよ! 俺はお前らを助けに来たのではないぞ!」


 俺の言葉を受け、グリードたちが押し黙る。


「俺たちは捜索クエストを受注したから来ただけだ。別にお前らのことなんてどうでも良いんだよ」

「なっ!」


 以前とは違う俺の態度で、グリードたちが慌て始める。やっと自分の置かれている立場を理解したのだろう。

 まあ、『人々の心が俺を突き動かしたのだ!』という決め台詞は恥ずかしいのでやめておいたが。


「お願いアキ! 私を助けて! 私が間違ってたわ。こんな男たちについて行った私が馬鹿だったの。反省しているのよ」


 サラが懇願するように叫んだ。


「ほら、あんたたちも謝って!」

 ガシッ!

「痛っ! 折れた足を叩くな!」


 何やら下で揉めているようだ。

 サラにうながされたからなのか、他の二人も態度が急変するのだが。


「た、頼む! 助けてくれ! 怪我して動けないんだ」

「そうだ、この前のことは謝罪しよう。俺たちが悪かった」


 そこに、ちょっと悪い顔になったアリアが寄ってきた。


「アキちゃん、この人たちってアキちゃんを追放した元メンバーだよね? 燃やしちゃおっか?」


 そう言って魔法の杖を掲げる。


「うっひぃいいいい!」

「たた、助けてくれぇええ!」

「いっやぁああああ!」


 冗談だと思うが怖がらせ過ぎだろ。シーラが「やめときなさいよ」と止めている。


「そういえばグリード、お前は俺のアイテムを奪ったよな?」


 俺は忘れもしない。こいつらが、俺を身ぐるみ剥いで追放したのをな。


「あっ、ああぁ、か、返す、返すよ。全部返すよ。へへっ、頼む、この通りだ」


 何やら穴の中から、気持ちの悪い声音になったグリードの声が聞こえる。一応謝っているようだ。きっと今だけかもしれないが。

 仕方なく俺は、穴にロープを下ろし三人を救助した。



 久々に会ったグリードは、やつれた顔に無精ひげを生やし見るからにみすぼらしい。他の二人も同様に落ちぶれている。


「ひぃひぃひぃ……あ、足が折れてるんだ。ポーションをくれよ。へへっ」


 そう言うグリードだが、足首が赤黒く腫れ上がっている。


「ほら、ポーションだ。それを飲んだら早く脱出するぞ」

「へへっ、ありがてぇ……ごくっごくっごくっ」


 憔悴しょうすいした三人にポーションを渡すと、奴らは予想通りの行動をとった。


「ひゃっはぁああああ! 馬鹿めっ! 誰がテメェなんかに謝るかよ! あばよ!」

「ああ、アキに助けられたとあっては恥をかいてしまうからな」


 暴言を吐きながらグリードとラルフが逃げて行く。何処をどうやったら、こんな恥知らずになれるのか。


「やれやれ、卑怯な性格は直らないらしいな」


 俺が吐き捨てるようにつぶやくと、レイティアが怒りだした。


「お、おい、良いのかアレ! ぶっ飛ばしてやろうか」

「放っとけ。あんな奴ら。それよりサラは逃げなくて良いのか?」


 おいてけぼりにされたサラに声をかけると、彼女は媚びるような表情になった。


「あ、アキ、私を助けてよ。もう、あんなゴミクズ男と一緒なんて嫌なの。聞いてよ、アイツらったら口ばかりでさ。ホント役に立たないのよ。やっぱりアキが必要だったの」


「愚痴なら他の奴に聞いてもらうんだな。行くぞ」


 サラを突き放すと大人しくなった。下を向いたまま俺の後をついてくる。


(今更何を言っているんだ。もう遅いんだよ。あんな裏切りをした人間を信用できるはずがないだろ……)



 歩き出して間もないのに、もうグリードたちに追いついてしまった。ただ、奴らはボコボコにされ転がっているのだが。


「グギャアアアアアア!」

 バコンッ! バコンッ!

「ぎゃああああ! 骨が折れたぁああ! 助けてくれぇええ!」


 前方にオーガが見える。こん棒でグリードをぶっ叩いているようだ。


「おい、オーガの残党がいるぞ!」

「アタシに任せて!」


 シーラの魔法でモンスターは片付けた。そこに残っているのは、さっきより更にみすぼらしくなったグリードとラルフだ。


「ひぃっ! た、助けて! ポーションをくれ」

「ぐはっ、腕をやられた……。俺にも頼む……」


 今度は土下座を始めたグリードとラルフ。こいつらの面の皮はどうなっているのか。


「ポーションはさっきのが最後なんだ。外に出るまで我慢しろよ……」


「ひぃはぁああぁ! もうダメだぁああ!」

「ぐっはっ! 痛い! 助けてくれ!」


「だから言ったのに。勝手な行動をするからだろ」


 コントのようなオチを残したグリードたちを連れ、俺は冒険者ギルドへと急いだ。



 ◆ ◇ ◆



「はい、こちらがジャイアントトロル討伐と捜索クエストの報酬と、行方不明者救助の報奨金になります」


【討伐報酬 金貨130枚】

【捜索報酬 金貨80枚】

【報奨金  金貨300枚】


 弾けるような笑顔になった受付嬢が、カウンターテーブルの上にズッシリと重い金貨を積む。

 思っていたより報奨金が高かったようだ。


 俺たちはクエストを終え、冒険者ギルドで報酬を受け取りにきているのだ。

 ボロボロのグリードとラルフは医者のところへ運ばれて行き、俺たちは冒険者仲間を救ったヒーローとしてギルド仲間から称賛を受けることになった。


 俺は改めて受付嬢の顔を見る。


「けっこう多いですね」

「はい、今回救出されたグリードさんの身内の方が高額の報奨金を出していましたので」


(グリードって、良いとこのボンボンなのか? どう育てれば、あんな性格歪むんだよ)


「それと、今回のボス討伐で閃光姫ライトニングプリンセスさんのランクがAに上がりました」


「一気にCからAですか?」


「はい、本来はジャイアントトロル討伐は上級冒険者のクエストですので」


 こうして俺たちは報酬とランクアップを果たした。グリードたちには腹が立つが結果オーライだろう。



「よし、アキ君っ! その金でパーッと遊びに行こうか」


 レイティアの発言を遮り、金貨は俺が回収しておく。


「先に借金返済と家賃を払ってからな」

「ううっ、けちぃ」

「これからはレイティアの生活も管理してやるよ」

「うっわ♡ ボクが管理されちゃうの?」

「はいはい、変な言い回ししない」



 相変わらず距離が近いレイティアをあしらいながら外に出ると、そこにはサラが立っていた。


「あ、あの、アキ……」

「何か用かサラ? てっきりグリードと一緒に行ったのかと思ったけど」

「そ、それが……」


 サラが何か言おうとした時、横にいるレイティアが俺の腕をギュッと抱いた。

 それを見たサラは押し黙る。


「あっ…………」

「サラ、用が無いなら俺は行くぞ」

「ま、待って!」


 背を向けようとした俺をサラが引き留めた。


「ご、ごめんなさい! 私が間違ってたの。グリードやラルフは口ばっかりの最低男よ。でも、アキは頼りになる男だと気付いたの。真面目で地味に見えたから勘違いしてたけど、本当はパーティーに必要な人だったのよ。お願い、もう一度やり直して欲しいの」


 一気に気持ちを吐露とろするように捲し立てたサラだが、俺にはやり直すつもりなど全く無い。


 不安そうに俺の腕を掴んでいるレイティアの手を握る。


「あっ、アキ君♡」


 もう片方の手でアリアの手を握った。シーラは……触るとセクハラ扱いされそうなので控えておく。


「今の俺には大切な仲間がいるんだ。悪いが元には戻れない。じゃあな」


 俺はサラに背を向けて仲間と歩き出す。

 今更俺に戻って欲しいなど言っても、もう手遅れなのだ。



 どんどん落ちぶれてゆく元メンバーたち。

 サラは後悔しているようだが、どうなることやら。

 もう一波乱あります。

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