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贄の王  作者: 剥田メッキ
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憎しみの火種

(アーレ視点)

「誰か私の声を聴いてくれるだろうか?きっと聴いた人がいたら、辛い道を歩むことになるだろう。それでも、どうか争いのない世を作ってはくれまいか?」

真っ暗な視界の中、遠くこの村を超えた森の向こう山の向こうから、小さな声が、しかしはっきりとわかる言葉が聴こえる。なぜか僕に向けられた言葉のように感じた。

そんな神のお告げみたいな不思議な夢を、今日の昼うたた寝している時にみた。

「争いのない世」という言葉は僕にはあんまりピンと来なかった。

僕たち農民が麦を作らないとパンは食べれないし、猟師がいないと肉は獲れない。職人がいないと服も着れなければ、家に住むこともできない。みんなが作ったものを交換しあって、生きていくことができる。そうやって村は回っている。だから争いあうなんて考えられないのだ。

せいぜい酒の場で言い合いになる程度だと思う。

だから今日はこの夢のことを、ちょっと変わったイベントとして日記に記すことにした。あとは明日の朝はやく、お父さんが収穫した麦を中央市場に売りに行くことも書いておこう。これで一日の日課はすべて終わり。おやすみなさい。


(アーレ父視点)

俺は麦の積まれた馬車を引きながら、中央市場に向かって歩いていた。俺は村の農家だから、毎週この道を往復していた。今日も晴れていて、気分は良かった。息子には村のはずれで畑を任せてきたが、彼はしっかり者だから心配はない。

ところが、市場に近づくと、遠くから黒煙が見えた。何事だと思って急いで行くと、村が炎に包まれていた。悲鳴や剣のぶつかり合う音が聞こえてきた。敵が侵攻してきたのだ。

俺は馬車を放り出して、村に駆け込んだ。斧を持った兵士がわらわら攻めてきて、村人を次々と殺していた。矢が空から降り注いで、逃げる者もなかった。俺も持っていた鎌を手にして戦おうとしたが、敵の数に圧倒された。


そんな中、猟師をしている友人の娘リーセが目に入った。彼女は泣きながら走っていたが、背後から矢が飛んできた。俺は思わず彼女をかばってしまった。矢が何本も俺の身体に刺さって、いたるところから血が噴き出した。俺は地面に倒れ込んだ。死を覚悟した。村のはずれにいる息子が心配だった。伝えなくちゃと思った。息子よ、父さんはお前を愛してるぞ。最後に息子と会話したかったなあと思いながら、俺は目を閉じた。


(アーレ視点)

僕は夢を見ていた。父さんが馬車を引いて市場に行く夢だ。でも、その夢は悪夢に変わった。市場に着く前に、村が燃えているのが見えた。敵の兵士が斧を振り回して、村人を殺していた。父さんは戦おうとしたが、矢に撃たれて倒れた。父さんは死ぬ間際、僕に向かって語りかけていた。


僕は目を覚ました。汗でびっしょりだった。嫌な予感がした。外を見ると、市場の方から黒煙が上がっていた。まさか、夢が現実になったのか?僕は慌てて家を出て隣人に声をかけた。

「ゴードンさん、何かあったの?あそこから煙が出てるよ」

「え?何だって?」

ゴードンさんも驚いて、煙を見た。すると、叫び声が聞こえてきた。

「助けて!村が襲われてる!」

僕は恐怖に震えた。夢は本当だったのだ。父さんはもう死んでしまったのか?僕は涙をこらえて、ゴードンさんに言った。

「ゴードンさん、早く逃げなきゃ!森の奥まで行こう!」

「そうだな、そうしよう」

ゴードンさんは僕に従って、森に向かった。途中で、他の村人も見つけて、一緒に連れて行った。みんな怯えていた。

森の中で足にけがをしたリーセを見つけた。彼女は猟師の娘で、父さんと仲が良かった。彼女は僕に泣きついてきた。

「助けて!父さんが死んじゃった!あなたの父さんも!矢に撃たれて倒れてた!」

僕はショックを受けた。父さんの死が確定したのだ。でも、僕はリーセを励ました。

「大丈夫だよ、リーセ。泣かないで。僕も父さんのことは悲しいけど、今は生き残らなきゃ。森の奥まで行こう」

「うん・・・ありがとう」

僕はリーセを支えて、森の奥まで避難した。そこで他の村人と合流した。

僕は自分の不思議な能力を悟った。夢で父さんの記憶を見たんだ。それで敵の襲撃を予知したのだ。でも、それが何の役に立ったのだろうか?父さんや他の村人を救えなかったじゃないか。

僕は空を見上げることしかできなかった。父さん、どうしてこんなことになっちゃったんだろう?僕も父さんともっと話したかったよ。


(アーレ視点)

僕は父さんがくれた鎌を見ながら、父さんを失ったという感傷に浸っていた。父さんは死ぬ間際まで僕のことを心配してくれていたんだな…。そう思うと、涙が止まらなかった。リーセも同じだった。彼女は父さんの友人である猟師の娘で、彼も敵に殺されてしまった。彼女は僕の腕にしがみついて、敵に対する怒りと悲しみを訴えていた。

僕たちは夜まで森の奥で過ごした。他の村人も一緒だったが、みんな無言だった。誰も明日のことを考えられなかった。

ところが、夜になって、僕はまたあの能力が発動するのを感じた。今度は起きている時にだ。僕は目を閉じて、他人の記憶を見た。この避難場所にも通じている小さな道にいた行商人だった。彼は馬車に荷物を積んで、村に向かっていた。でも、途中で敵に襲われてしまった。彼は斧で斬られて、死んでしまった。

その記憶を見て、僕は恐ろしいことに気づいた。敵は今も侵攻しているのだ。そして、僕たちのいる方向に来ているのだ。

僕は目を開けて、周りの村人に叫んだ。

「早く逃げなきゃ!敵が来るぞ!」

「何?どうしてわかるんだ?」

「信じてくれ!行商人が殺されたんだ!」

「行商人?どこに?」

「あそこだ!」

僕は指さした。市場のある方向から煙が見えた。

「見ろよ!あれが敵の仕業だぞ!」

「まさか・・・」

村人たちは驚いて、煙を見た。すると、遠くから馬のひづめや兵士の声が聞こえてきた。

「本当じゃないか!」

「どうしよう?どこに逃げよう?」

「別の村に行こう!森を抜けて、川沿いに行けばあるぞ!」

僕は村人を別の村に避難させようとした。リーセやゴードンと、他少しの村人は半信半疑ながらもついてきた。でも、大半の村人はここにいた方が安全だろうと動こうとしなかった。

「おい、待てよ!ここから動くと危ないぞ!」

「そんなことないよ!敵はこっちに来るんだ!」

「そんなわけないだろ!ここは村で一番安全な場所だ!お前は何を言ってるんだ?」

「本当だって!お前らも来いよ!」

僕は必死に説得しようとしたが、無駄だった。村人たちは僕を信じてくれなかった。

僕は諦めて、別の村に逃げることにした。リーセやゴードンもついてきた。

僕たちは走って逃げた。途中で、見張らせる丘があった。僕はそこに登って、戦火が避難場所の方まで伸びていることを悟った。

「敵はもう別の村にも攻めてるぞ!」

「え?本当?」

「見ろよ!あそこに炎が見えるだろ!」

「うそだ・・・」

リーセはショックを受けた。彼女は戻ろうとした。

「待って!戻るな!」

僕はリーセを止めた。彼女は僕に抵抗した。

「やめて!戻らなきゃ!みんなを助けなきゃ!」

「無理だよ!もう遅いんだ!敵はこっちにも来るぞ!」

「でも・・・」

「でもじゃないよ!生き残らなきゃ意味がないんだ!」

僕はリーセを引きずって、ひたすら逃げた。リーセはひたすら泣いていた。ゴードンは僕の能力に驚きを隠せなかった。

「アーレ、お前はどうしてあんなことがわかるんだ?」

「わからないよ・・・夢で見たり、目を閉じたりすると、他人の記憶が見えるんだ・・・」

「他人の記憶?それって・・・超能力か?」

「そうかもしれない・・・でも、それが何の役に立つんだろう・・・」

僕は自分の能力に疑問を感じた。それが敵の動きを予知したのだ。でも、それで村人や別の村を救えたわけじゃない。ただ、自分たちだけが逃げただけだ。

僕は悲しみと怒りと罪悪感に苛まれながら、走り続けた。

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