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~13年後~
「おぉ~この街も久しぶりだな~街並みも変わったところがずいぶんとある。」
マヤはおよそ13年ぶりに街に帰ってきていた。もちろん魔女らしく箒にのってだ。
そんな彼女の美貌は驚くほど以前と変わらず、むしろ輝きが増しているようにも見える。
のんびりと飛行を楽しむ彼女は一人ではない。
「へぇ~ここが君が言ってたところか~。いいところだね。」
「そうだろ?あぁ~フェリックスも大きくなってるだろうな~。」
「フェリックスって一時期君が育てた人間の子だっけ?」
「そうそう。もうかわいくってさ~。ここを離れる時も唯一心残りだったんだよな。」
「へぇ…。」
「あ!あそこだよ!あの森の奥の家。」
友人との会話もそこそこにマヤ達は目的地である家の前に降り立った。
「うわ~なつかしいな。こんな感じだったっけ。」
なつかしさとともに13年前の記憶がよみがえる。
「あ!ここフェリックスと一緒に耕して庭作ってさ、ニンジン植えたんだよ。フェリックスはニンジンが嫌いだったから育ててみれば食べるようになるかと思ってさ。結局、育てるだけで全然食べなくてさ~、苦労したんだよ。」
そう昔の記憶を遡りながらマヤは様々な角度から家の外観をしばらくじっと見つめた後、ようやく玄関までたどり着く。
「この玄関のドアノブにもフェリックスははじめ全然手が届かなくて、そうかと思ったら椅子持ち出して登って開けるっていう知恵つけたりほんとにいろんなところに思い出って残るもんだな。」
「…ちゃんと子育てしてたんだね。」
「うん。さぁ、大人になったフェリックスにご対面する前に、中の掃除しないとな。この家出る前に保護魔法かけてたからそんなに劣化してはないと思うんだけど…。それにしても、妙に手入れされているような…。」
「とりあえず入ってみない?僕、中を見てみたい。」
「あ、あぁそうだな。」
そう言ってドアノブに手を伸ばし、カチャっとドアを開けた。
が、すぐにマヤはドアをバンッと閉めてしまう。
「え、なに?マヤ、どうしたの。」
「あ」
「あ?」
「悪魔がいる!!!」
「え、うそ。」
「ほんとだ!こう腕組みをして、こちらをキッとにらんでいた!」
わあわあと玄関の前で騒ぐマヤ達を黙らせるように、キィ…っと静かにひとりでに扉が開く。
思わずぎゅっと抱き合ったマヤ達はひとつ生唾を飲み込むと、扉の奥に視線をそぉ~っと向けた。
その先には、一人ドス黒いオーラを纏った人物が先ほどマヤが見た通り、腕を組んで仁王立ちで立っていた。
「マ~ヤ~さ~~~ん?」
「…へ?」
震え上がるマヤの耳に届いたのは、自分の名前だ。
もしや…と思いもう一度マヤがその人物に目をやる。
「…な、な~んだよ!フェリックスじゃないか!!!久しぶりだな!」
そこに立っていたのは13年前、涙で別れたフェリックスだったのだ。
「大きくなったな~!それにイケメンだ!さすが私が育てただけあるな!はははは…は、は。」
フェリックスとの再会に喜びを爆発させたのもつかの間、異様な空気にマヤは口を閉ざす。
「ど、どうしたんだ?」
「マヤさん」
「はい!」
記憶より低い声のフェリックスに静かに名前を呼ばれ思わず、背筋が伸びる。
「誰なの?」
「だれ、とは…。」
「そいつ」
フェリックスの向けた視線の先を見る。
「あ、あ~!こいつか。こいつは私の同業者だ。コットの街を案内しようと思って連れてきたんだよ。」
「…ふーん。でもそいつ男だよね?」
「?魔法使いだ。」
「…そっか。魔女がいるなら魔法使いもいるよな。」
ぶつぶつとなにやらフェリックスが言っていたがマヤには聞き取れなかった。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。ごめん、マヤさん一人で来ると思ったのに、二人できたからびっくりしちゃって。」
「そっか~そうだよな。ごめんな、驚かせて。」
「いいよ。マヤさん、おかえり。ずっと会いたかった、待ってたよ。」
久しぶりに会うフェリックスにマヤはまた嬉しさがこみ上げる。
ぴょんと抱き着くマヤをフェリックスはふらつくことなく受け止める。
そのままぎゅっと抱き合い二人で再会を喜んでいると、「ごほんっ!んん!」と声が割り込んだ。
「あ!忘れてた!フェリックス、紹介するなこいつはサイラス。魔法使いだ。」
「…サイラスさん。初めまして僕はフェリックスといいます。」
「…よろしく、フェリックスくん。お話はマヤからよく聞いてるよ」
「マヤ?」
ぴくりとフェリックスの口元が動く。そんなフェリックスの心境を知ってか知らずか、サイラスはにっこりと笑みを浮かべる。
「ん?なにか気に障る?」
「…別に」
見えない火花が二人の間で飛んでいることも知らず、マヤは二人の右手をそれぞれ取り強制的に握手させる。その時、マヤはふと思い出した。そういえばサイラスを紹介するにあたって言い忘れていたことを思い出したのだ。
「ちなみになんだが、サイラスは私の元旦那だ。」
「…はぁ?!」
フェリックスが握手していた手をぎゅ…っと必要以上に握りしめてしまったのは、きっとサイラスにしか伝わらなかっただろう。