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ボーン・フロム・シルバースワンプ(連載)  作者: プサン・エトアル
第2話 たとえ今は脆くとも
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#8 出撃

 鎧骨格(オステオン)を液化させてタンクに戻し、地上に降りたバイルゥはまだ納得のいっていない顔をしている。

「・・・まぁ、組手ができそうな程度の腕はあるって分かったし、今日は良しとしようかしらね」

「組手って・・・俺ほとんどサンドバックだったじゃないスか」

「いやいや、本当に弱いスワンプマンなら最初の蹴りで首刈るからサンドバックにもならないわ。これからは隊長に代わって鎧骨格(オステオン)組み手の相手よろしくね」

「えぇー・・・ってか、いつも隊長としてんスか? プラシエは?」

 バイルゥの組手に今後何度も付き合わされるのを嫌った孝曜は、模擬戦を観戦していたプラシエに矛先を向けようとするが、当のプラシエは申し訳なさそうに苦笑いしている。

「ごめんね孝曜、あたしの鎧骨格(オステオン)じゃ足刃型(ティービア)とタイプが違いすぎてうまく組手ができないの」

「タイプ・・・?」

「孝曜の腰甲型(イリアム)が使うアレあるでしょ、熱線砲。あんな感じの熱エネルギーの放出に特化したタイプで、格闘戦はあまり得意じゃないんだ。多分孝曜以上にサンドバッグになるよ」

「だからって、このレベルの組手は新人には荷が重いだろ・・・」

 孝曜がバイルゥと別の意味で不満を顔に出しながらも、第2機動部隊の面々が打ち解けるのに時間はそれほどかからなそうだった。


 孝曜のフォートレス加入以降、日本支部の管轄内では新たなオステオンの出現は検知されず、孝曜は簡単な身体検査を何度か受けながらフォートレスの施設で数日を過ごした。

 このまま何事もなく、帰宅が約束された水曜日を迎えるかのように思われたがーーーーー

「なっ、何だ!?」

 突如、耳障りな警報音が支部局中に響き渡った。

「・・・観測班がヴィブムスの反応を検知したんだ。繋げるぞ」

 リームダルが携帯端末を取り出し、観測室に繋げる。同時にその場の全員が通話の内容を聞き取れるようスピーカーボタンを押した。

「こちら弐機隊、リームダルだ。出撃か?」

『こちら観測班。反応はB級2、C級2、既知データ該当なし。推定出現地点はここからおよそ空路30分の山中です』

『えー、こちら壱機隊、安芸山です。小野寺隊長のキューヴィエが猿飛班長の"いつもの"でモメてるんで、弐機隊に出てもらった方が早いと思います』

『また猿飛か。こちら黒澤、リームダル行けるか?』

 観測班からの応答に続き、壱機隊員を名乗る男性と黒澤局長の呆れ気味の声が聞こえる。安芸山隊員の声の後ろからは、小野寺隊長が誰かと言い争っている怒声が遠く聞こえている。

「問題ありません。私とプラシエで出ましょう」

『よし、頼む』

『すんませんねリームダル隊長』

「いつものことだ、小野寺は納得しないだろうがな。そういうわけでバイルゥ、留守を頼むぞ」

「了解」

 リームダルはバイルゥと孝曜は支部に残すという判断を下したようだ。

「あ、あの・・・!」

 しかし、その判断に孝曜は異議を唱えた。

「俺も連れてってください。昨日の今日だ、晶が・・・アムジィがまた現れるかもしれない」

「今、観測班は『既知データ該当なし』と言った。アムジィが来るなら今の時点で分かってるはずだ、今回は来ない」

『・・・いや、分からんぞリームダル。小野寺は石部君とアムジィを『例外』と評した。石部君が現場に出ることでアムジィが嗅ぎ付けてくる、などといったケースもあるかもしれない。少なくとも私は止めんよ』

「・・・分かりました。孝曜、お前も来い」

「! はい!」

「観測班、出撃は3人だ。輸送班に連絡頼む」

『了解です。石部君のタンクは今訓練場ですよね?輸送車回します』

『石部君、アムジィが出ようが出まいが無理はするな。いいな?』

「はい!」

『リームダル、プラシエ、新人のフォローを頼むぞ。とはいえプラシエは張り切りすぎないように』

「了解」

「え、うっ、りょ、了解!」

「・・・プラシエ、何かやらかしたことでもあんの?」

「プラシエの『胸晶型(スターナム)』は火力が高いから・・・まぁ戦ってるところ見てればわかるわ」

「ふーん・・・? まぁともかく、待ってろよアムジィ・・・!」

 こうして、孝曜の正式な初出撃が決定した。


 随伴出撃が決定した孝曜はリームダルとプラシエに従い、輸送機の発着所へと向かった。

 先輩隊員2人のものに、訓練場から運ばれてきた孝曜のものを加えた3つの銀漿タンクが、手際よく輸送機の後方に積み込まれていく。

「あれに同乗する。隊員の乗り口はこっちだ」

 リームダルたちは輸送機の側面に回り込み、機内へ。

 乗り込んですぐ、リームダルは入り口横の収納スペースからヘッドギアのようなものを3つ取り出し、2つをプラシエと孝曜に手渡した。

「孝曜、支給スマホは持ってるな? これを繋いで頭に付けろ。スマホは胸ポケットに」

 ヘッドギアの側面からはケーブルの端子が出ており、孝曜は指示に従いケーブルを引き出してスマホに接続し、本体を頭に装着する。

 隣のプラシエは慣れた手つきで装着を終えているが、孝曜は着け心地にやや遊びを感じ何度か装着し直している。

「んー・・・頭のサイズ感は合ってるんだけどな・・・」

「首元の部品でバイタルチェックもしてるから、顎紐も結構ちゃんと締めないとダメだよ。調整してあげよっか」

 プラシエが孝曜のヘッドギアに手を伸ばし、顎紐の長さを微調整する。相手はスワンプマンだということは分かっているが、女性の手と顔が眼前に近づいた構図に、15歳の孝曜は思わず照れ臭さを感じて目線をそらす。

「よし、こんなもんでしょ。苦しくない?」

「う、うん・・・」

『弐機隊員3名の搭乗確認、および銀漿タンク3基積載完了しました』

 どぎまぎする孝曜をよそに、輸送班員のアナウンスが機内に流れる。

 まもなく出陣だ。気を引き締め、座席のシートベルトを着ける。

「弐機隊、いつでもいいぞ」

『こちら操縦士灰塚・蛇野両名、発進準備完了』

『よし・・・弐機隊長リームダル以下3名、出撃!』

 黒澤の号令と同時に、輸送機は空へと飛び立った。


 到着までの数十分間、初出撃の孝曜の身体はずっと強張っていた。

 黙りこくったまま拳を強く握りしめ、動いてもいないのに額から汗が伝う。

「孝曜、緊張しすぎだ。そんなんじゃ戦い始める前にバテるぞ」

「っ・・・ッスよね。いや、分かってるんですけど・・・」

「大丈夫、あたしたちがサポートするから。ね?」

 リームダルとプラシエが孝曜の緊張を察し、片や冷静に、片や優しく声をかける。

『まもなく出現地点です。機動部隊員は降下の準備をお願いします』

「・・・ん? 降下? 着陸しないんですか?」

「ああ。地上70~80mほどの高さでハッチを開けて、鎧骨格(オステオン)を呼び出しながら飛び降りるんだ」

「80m!? パラシュートも無いのに!?」

「生身のまま着地するわけじゃないんだ、どうってことないさ。鎧骨格(オステオン)の大きさが10m前後だから、人間の目線に直せば建物の3階から飛び降りる程度のことだ」

「いや3階でも高いですよ、スタントマンじゃないんだから・・・!」

 孝曜が尻込みしている間にも、リームダルはシートベルトを外し出入り口の前に立つ。プラシエも何食わぬ顔で、いやむしろ楽しそうな顔でそれに続いている。

「蛇野君、開けてくれ!」

 リームダルの要請とそれに対する操縦席からの応答の後、出入り口が開き冷たい風が室内に吹き込む。同時に、銀漿タンクが載っている貨物室のハッチが開く重い音も聞こえた。

「弐機隊長リームダル、噴槍型(サクラム)! 出陣する!!」

 叫び、飛び降りる。

 そして直後、リームダルを追うように貨物室から銀漿が流れ出した。

 リームダルに追いついた銀漿が鎧骨格(オステオン)の人型を形成し始めたのを確認し、今度はプラシエが叫ぶ。

「弐機隊プラシエ、胸晶型(スターナム)! 行きまーす!!」

 プラシエとその鎧骨格(オステオン)も輸送機を後にし、乗員室に残されたのは孝曜一人となった。

「マジかよ・・・しゃーねぇ、行くしかねぇな・・・!」

 座席を離れ、出入り口の縁に捕まって地上を見下ろす。ビルに換算して25階ほどの高さから見える光景に、思わず足が竦む。

「くっ・・・畜生、戦いの前からビビッてらんねぇ・・・! スゥーッ、ハァ・・・弐機隊、石部孝曜、腰甲型(イリアム)・・・行きます!!! 南無三っ!!」

 戦闘前に控えていたまさかの難関に、孝曜は自身の無事を祈りながら空中へ身を投じた。

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