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ボーン・フロム・シルバースワンプ(連載)  作者: プサン・エトアル
第2話 たとえ今は脆くとも
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#7 オステオン組手

 グラウンドに向かう直前、バイルゥは支給されたスマートフォンらしき携帯端末でどこかに連絡を取っていた。

 グラウンドに移動して少し待っていると、高さ・直径5mほどの円筒形のタンクを2基牽引した輸送車両がグラウンド外から進入してきた。

「何だ・・・?」

「銀漿タンクよ。弐機隊の鎧骨格(オステオン)は液化した状態であのタンクに入れて、普段は研究棟に保管してるの。あの2つは私の足刃型(ティービア)と、孝曜の腰甲型(イリアム)のぶんね」

「わざわざタンクに? 鎧骨格(オステオン)って必要に応じていつでも呼び出せるんだろ?」

「地下にある銀漿を呼び出したら舗装が割れるのよ」

「なるほど・・・」

 2基のコンテナがグラウンドの対角に配置されるのを眺めながら、孝曜はバイルゥの説明に耳を傾ける。

「・・・さて、じゃあ始めましょうか」

 バイルゥはコンテナの配置が完了したのを確認すると自分のコンテナの方に近づき、自らの鎧骨格(オステオン)を形成する銀漿を呼び出した。それに続いて孝曜も移動し、腰甲型(イリアム)を呼び出すべく意識を集中させる。

(来い・・・)

 アムジィとの初戦は突発的なものだったため、孝曜が自らの意思で腰甲型(イリアム)を呼び出すのは今回が初めてだ。

 孝曜の意思に応え、溢れ出した銀漿が孝曜の身体を包む。じきに視界は開け、腰甲型(イリアム)の目線でバイルゥの鎧骨格(オステオン)が視認できる。

「何というか・・・細いな」

 バイルゥの鎧骨格(オステオン)腰甲型(イリアム)よりも、さらにアムジィの背爪型(スケピュラ)よりも軽装甲で細身ーーー有り体に言えば、華奢だ。機動力と攻撃力を両立していた背爪型(スケピュラ)と比較して、機動力偏重というよりは、単に装甲が薄い鎧骨格(オステオン)であるように見える。その他特徴的な部分を強いて見出だすならば、脚部の前後面(脛とふくらはぎに相当する部分)に細い溝が走っていることくらいか。

 《貧弱に見える?》

「そこまでは言ってないけど・・・」

 《いいのよ、否定するつもりはないから。でも、簡単に勝てると思ってるなら考えを改めた方がいい。来なさい》

 孝曜の準備が整ったのを確認し、バイルゥの足刃型(ティービア)は半身に構える。空手家のような、こちらの一挙手一投足を見逃すまいとする隙の無い構えだ。

「はぁ・・・まぁ、そこまで言うなら遠慮はいらないッスよね? 隊長も見てるし本気で行きますよ、センパイ!」

 孝曜は腰甲型(イリアム)の盾の腕を広げ、足刃型(ティービア)に向かい駆け出す。足刃型(ティービア)がそもそも細身なこともあり、四本の腕を広げて迫る腰甲型(イリアム)とは倍ほどの体格差があるように感じる。

 振り下ろされた孝曜の初撃、右の盾は難なく躱され地面を抉った。

(盾が警戒されんのは分かってんだよ。そりゃ囮だ!)

 孝曜はさらに踏み込み、一発、二発と続けざまに拳を繰り出す。鎧骨格(オステオン)での実戦を一回しか経験していない新参者にしては素早い連撃だが、バイルゥの足刃型(ティービア)はそれらすべてを最小限の動きで回避、あるいは腕や掌で払い除け受け流し続ける。

 《重装甲の鎧骨格(オステオン)にしてはいい動きだけど、格闘自体は素人ね》

「こ、このっ・・・!」

 バイルゥはすでに孝曜の技量を見極めつつある。応酬が長引けばどんどん劣勢になると悟った孝曜は、フックを受け流されたその勢いのまま回転し、後ろ蹴り(ソバット)を繰り出す。

 本来ならおおよそ格上相手に出すべきではない大振りな技が結果的にバイルゥの虚を突いたのか、バイルゥはこれを受け流せずに真正面でガードし、腰甲型(イリアム)足刃型(ティービア)の距離が開いた。

 《おっ、と・・・!》

「ここだ!!」

 戦況のわずかな変化を見逃さず、孝曜は左右の盾で正面の空間を挟み潰した。

 しかし狙い通りの手応えはそこにはなく、盾が激しい衝突音を上げる。

「!! いない・・・!」

 孝曜が失敗を悟ったと同時、頭上にふっと影が落ちる。反射的に視線を上げると、訓練場の屋根近くの高さまで跳躍した足刃型(ティービア)が、身を翻してこちらに急降下してきていた。

(一瞬であんな高さまで・・・!!)

 足刃型(ティービア)の敏捷性に驚きながらも、直後に振り下ろされるであろう踵落としを防ぐべく両腕を眼前に構える。

 だが、次の攻撃がただの踵落としではないことを孝曜は察知した。脚部後面のスリットから、斧のような刃が飛び出している。

(!! 蹴りじゃねえ! 斬撃か!!)

 腕でのガードは不可能と即座に判断し、副腕の盾を足刃型(ティービア)との間に割り込ませて何とか刃を防いだ。

「危ねぇっ・・・っだァ!!」

 衝撃を殺して沈み込んだ体勢から反動をつけ、腰甲型(イリアム)の全身の膂力を使って足刃型(ティービア)を弾き飛ばす。距離を取ることには成功したが、動揺を隠しきれない孝曜に対し、空中で一回転して軽やかに着地する足刃型(ティービア)からはバイルゥの余裕が感じられる。

 《初見なのによく反応したわね。もう足刃型(ティービア)の能力は理解できたのかしら?》

「・・・ああ。それに今の斧、刃の幅が明らかに脚そのものより太かった。ただの仕込み武器じゃないんだろうな」

 《ええ、スリットから噴き出した銀漿を成形してできる刃よ。だから・・・》

 孝曜の推察に応えながら、今度はバイルゥが攻勢を仕掛ける。

 孝曜はすぐに盾を広げて迎え討とうとするが、それよりも一瞬早く足刃型(ティービア)が盾を掻い潜り腰甲型(イリアム)の背後を取る。孝曜の目が追いついた頃には既に足刃型(ティービア)の右脚は上段に振り上げられており、今度は斧に代わり脚の前面のスリットから鉤状の刃が伸びている。

 《刃の形とサイズはパイロットの思いのまま!》

 腰甲型(イリアム)の首を狙った延髄切りと刃。人間同士の喧嘩のように蹴り脚自体を腕で受け止めたところで、脚から大きく突き出した刃は腰甲型(イリアム)に届いてしまう。それを察してか否か、孝曜は咄嗟に距離を詰めることで刃筋の内側に入りつつ蹴りを受け止めた。

 そのまま足刃型(ティービア)の右脚をホールドし、一本背負いの要領で地面に叩きつけようとするが、足刃型(ティービア)は空いた左足で腰甲型(イリアム)の肩を蹴りつけ、地面にぶつかる前にホールドを抜け出し地面への衝突を回避した。

「くっ・・・速い・・・!!」

 孝曜が追撃する暇もなく、再びバイルゥの攻勢が始まる。

 孝曜が蹴りを一発防いだ次の瞬間には、すぐに違う角度から二撃目が眼前に迫る。アムジィの背爪型(スケピュラ)に比べ華奢なぶん威圧感は感じないが、バイルゥの足刃型(ティービア)の動きには攻撃の挙動から重心の動かし方など細かい点に至るまで一切の無駄がなく、身のこなしという一点においては背爪型(スケピュラ)を上回っているといっても過言ではない。

 辛うじて猛攻を防ぎきれているのは、付加武器があるとはいえ足刃型(ティービア)の攻撃手段が結局は肉弾に限られ、背爪型(スケピュラ)のような「死角からの攻撃」を警戒する必要がないからに過ぎない。もし副腕に相当する武器が足刃型(ティービア)にもあったら、孝曜の腰甲型(イリアム)はあっという間にズタズタにされていただろう。

 《どうした孝曜!? ずっとそのまま動かずにいる気!?》

「あ、あんたの手数が多すぎるんだよ・・・!! ただの格闘なのに背爪型(スケピュラ)以上って、どんな操縦してんだ・・・!!」

 孝曜は反撃に移れないどころか、防御の体勢から一切動けないままだ。


「おお・・・さすがルゥだな。格上の鎧骨格(オステオン)相手に優勢じゃないか」

 離れた位置から二人の戦いを観戦しているコハクが、率直な感想をこぼす。

「乗ってる孝曜の戦闘経験が少ないせい・・・いや、そういえば彼は初陣で敵の背爪型(スケピュラ)と互角に渡り合っていたな。そのセンスの持ち主をここまで抑え込んでいるのは、確かにバイルゥ自身の技量ゆえと言うべきか」

 リームダルは孝曜とバイルゥ双方の腕前を評価するが、その顔にはわずかに食傷の感情が滲んでいる。それは隣で共に観戦しているプラシエも同じようだ。

「でも・・・これじゃ埒が明かないんじゃないですか?」

「ああ、そうだな。いくらバイルゥが上手くても足刃型(ティービア)のパワーでは腰甲型(イリアム)の盾は到底突破できない。孝曜も孝曜であの様子じゃ当分ガードを解けないだろう・・・これ以上続ける意味はないな」

 リームダルは二人の戦いを冷ややかに分析した後、一歩前に出る。

「バイルゥ、そこまでにしろ! 模擬戦終了だ!」

 リームダルの制止の声に、バイルゥの足刃型(ティービア)はピタリと動きを止め、孝曜の腰甲型(イリアム)から距離を取る。

 《隊長、まだ決着は・・・》

「つくと思うか?」

 《っ、それは・・・》

「どちらか倒れるまでやらなきゃいけないって訳じゃないんだ。孝曜のレベルはもう十分知れた、今日のところはこれで終いにしろ」

 リームダルの宣言により、孝曜とバイルゥの初の模擬戦は未決着で終了となった。

(・・・私だって、A級鎧骨格(オステオン)に乗れれば・・・)

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