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ボーン・フロム・シルバースワンプ(連載)  作者: プサン・エトアル
第2話 たとえ今は脆くとも
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#6 日本支部第2機動部隊

 

 瑞鐘池にてアメーバ様金属生命体ヴィブムスに寄生され、スワンプマン・アムジィとなった親友の晶を引き戻すため、孝曜はヴィブムス対策組織「フォートレス・ハック」への加入を決めた。

 加入時の説明で小野寺が言っていた通り、孝曜は今までのスワンプマンの傾向と異なる部分が多く、身体検査やデータ採取などの為に3日ほど日本支部局に滞在するよう指示を受けた。

 さすがにそんなに家を空けると祖父や学校のクラスメイトが心配する、と孝曜は帰宅を希望したが、黒澤局長いわく"石部孝曜は山間事故で病院に搬送され経過観察のためそのまま入院、水原晶は行方不明者として届け出を出した"という体で二人の実家に連絡してあるとのことだった。

「一旦帰してまた呼びつけるよりは、今居るうちに可能な限り調べておきたいんだ。今日が日曜だから、そうだな…水曜の晩までには帰せるようにする。理解してくれ」

「ええー…はぁ、分かりましたよ…」

 先ほどまで晶奪還に対する熱意に燃えていた孝曜の目は、意に反する滞在が避けられなくなったことにどんよりと曇っていた。

「すまんな。ではコハク、石部君を部屋まで案内してやってくれ」

「うむ、心得た。プラシエも一緒に行こうか」

「はーい」

 少年コハク、青髪の女性プラシエの後に続き、孝曜は会議室を後にした。


「孝曜、でよかったかな? 君も大変だな、1日2日でこんなに振り回されて」

 機動部隊の宿舎に向かう廊下を歩きながら、孝曜の前を歩くコハクが会話を切り出す。

「そんな、他人事みたいな・・・」

「いやいや、他人事だなどと。これから何度も顔を合わせる仲間の気疲れを、少しでも労わろうと思ってな」

「そうかい、そいつはどうも」

「やれやれ、すっかり不機嫌に・・・っと、そういえば自己紹介をしてなかったな。そりゃあ打ち解けられよう筈もない」

 拗ねたような返答をする孝曜に苦笑しながら、コハクは振り返る。

「儂はコハクと申す。見ての通り身体が未熟なために鎧骨格(オステオン)は出せないが、戦えない代わりに生活班の手伝いや職員のカウンセリングをやっている。まぁ、ご意見番の爺だと思ってくれれば構わん」

「ご意見番? 子供なのに?」

「はは、まあそう思うだろうな。だが儂は、日本支部が設立された頃からここにいる古株だ。歳でいえば黒澤局長より二回りは上だよ」

「えぇ・・・?」

 黒澤どころか兼吉より年上の老爺を自称するコハクに、孝曜は困惑を隠せない。

「儂は極端な例だが、スワンプマンの外見年齢なぞ当てにならんということさ。で、こちらはプラシエ」

「第2機動部隊のプラシエです! よろしくね、孝曜!」

 プラシエは一歩踏み出して孝曜の手を取り、ブンブンと勢いよく上下に振る。感情が強く出るタイプのようだ。

「お、おう・・・よろしく、お願いします」

「そんな畏まんないでよ! さっき爺ちゃんはああいったけど、私は弐機隊(第2機動部隊)の中でも歳近いんだから」

「そうだな。見た目相応というべきか・・・むしろ精神年齢は孝曜より幼いかもな」

「ちょっと、どういう意味!? 15歳より下ってことはないでしょ!」

 プラシエは外見的には20歳前後といったところ。しかし新たな仲間に目を輝かせる無邪気な姿は、コハクの言う通り子供らしさを感じる気もする。

「はっはっは、そう怒るな。まぁ孝曜、プラシエはこう見えて第2機動部隊の優秀な隊員だ。そして儂ら2人以外に、日本支部にはあと2人スワンプマンが所属している」

 殺意を隠そうともしなかったアムジィの様子からは想像もできなかった、"味方の"スワンプマン。それが4人も居るという。

「その二人も、第2機動部隊なのか?」

「うむ。今の時間は・・・演習場で組手でもやってるんじゃないかね。見に行こうか」

 支部局本棟と機動部隊宿舎を繋ぐ渡り廊下から外に道を逸れ、スギ林に偽装された演習場へと向かう。


 日本支部の演習場は空から見ればスギの樹冠に覆われた普通の山林にしか見えないが、樹冠の下には10m級の鎧骨格(オステオン)やSTが動き回れる程度の広さ・高さが確保された土地が広がっている。スギの葉に見える耐熱・防火素材の屋根が互いに接続し支えあっているため、樹冠の密度に対して幹にあたる柱の本数は少ない。

 その演習場の隅、5m四方ほどの広さの芝生の区画で、生身で格闘する二人の人影が見える。

 一人は深い緑色の髪を角刈りにした体格のいい男性。

 もう一人は赤い長髪を後頭部で束ね、蹴り技を中心に男性を攻め立てる女性。

「おお、やっとるやっとる。男の方がリームダル隊長、女の方が隊員のバイルゥだ」

 コハクが軽く孝曜に紹介する。その声が耳に届いたのか、バイルゥの目線が一瞬こちらを向く。

 リームダルは意識が逸れたその一瞬を見逃さず、振り上げられた脚を裏拳で弾き、重心を崩したバイルゥの腹に拳をーーー叩き込む寸前で動きを止めた。

「・・・ふぅ。余所見はよくないな。だが動きは良くなっている」

「ありがとうございます。ちょうどお客も来ましたし、いったん中断しましょうか」

 二人は組手を中断し、休憩がてらコハクたちを迎え入れる。

「コハク翁も一緒とは珍しいな。その少年に関する用件か?」

「うむ。昨夜、小野寺隊長の記録映像が回ってきただろう? あの腰甲型(イリアム)に乗っていた少年だ。検査諸々が終わり次第、弐機隊に配属になる」

 コハクの紹介に合わせて、孝曜が一歩前に出る。

「石部孝曜です・・・よろしくお願いします」

「イシベ、コウヨウ? 人間の頃の名前を今も使っているのか?」

「・・・人間ですよ。スワンプマンじゃないのに外骨格を出せる、その理由とかを調べるために、今日から2~3日ここにいることになりました」

「人間のまま鎧骨格(オステオン)を・・・? 初めて聞く例だが、味方だというなら頼もしいな。私は弐機隊の隊長、リームダルだ。よろしく」

 孝曜の特殊な事情に多少の驚きと困惑の反応を見せながらも、リームダルは孝曜に握手で応じて部隊に迎え入れる。

「こっちからも紹介しようか。弐機隊員のバイルゥだ」

 リームダルに続き、赤髪の女性隊員バイルゥが孝曜と握手を交わす。

「・・・あなた、鎧骨格(オステオン)腰甲型(イリアム)だったわね。最初からそうなの?」

「え? えっと、はい、初めて呼び出したのが腰甲型(イリアム)でしたけど・・・何か?」

「・・・いや、何でもない、よろしく。あと敬語とかもいらない」

「・・・?」

 バイルゥも孝曜のことを仲間として受け入れてはいるが、リームダルに比べ心に何かを抱えているように感じる。

「孝曜、私や爺ちゃんはこの子のことルゥって呼んでるの。孝曜もそう呼んであげて」

 プラシエが口を挟むと、バイルゥは困ったように眉を下げる。

「プラシエ、新人に変なこと吹き込まないで」

「なーによ、敬語はいらないって言ったくせに?」

「もう・・・コハク翁、孝曜はこの後検査とかある?」

「いや、今日はないと思うが」

「じゃあ孝曜、軽く模擬戦でもしましょうよ」

「えっ、模擬戦!? さっき隊長とやってたみたいな? 無理っすよ、あんなガチ空手みたいなの・・・」

 バイルゥからの急な提案。演習場に立ち入った時にバイルゥとリームダルが行っていた激しい組手の様子を思い浮かべ、孝曜は慌てて首を横に振る。

「違うわよ。組手じゃなくて、鎧骨格(オステオン)での模擬戦。隊長、構いませんよね?」

「ふむ・・・そうだな。俺としても、孝曜がどれだけ戦えるかは知っておきたい」

「決まりね。孝曜、本気で来なさい。熱線も使いたかったら使ってもいいけど、演習場が壊れるから出力は絞ってね」

(・・・いきなり身内同士でバトルかよ。ずいぶん好戦的な先輩に目ぇ付けられちまったな・・・)

 隊員としての行く末にわずかな不安を感じながら、孝曜はバイルゥの後に続いて模擬戦用のグラウンドに移動した。

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