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ボーン・フロム・スワンプ(連載)  作者: プサン・エトアル
第6話 衝突する黒曜と紫水
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#27 ひた隠し

 孝曜が中米支部(メキシコ)から帰国して数日。

 元々夏休み中に大した予定は立てておらず、1週間ほど蔵山町を離れていても知人から不審に思われていないことは孝曜にとって幸運だった。

 その夏休みも残り半分を切り、直前になって慌てるのは嫌だからそろそろ2学期に向けた準備をするかと考え始めたある日の朝、孝曜のスマホに着信が入る。

「っと、電話・・・あれ、フォートレス(こっち)じゃねえな。俺のスマホか」

 ここ最近はすっかり、電話といえばフォートレス・ハックからの連絡、という思考になっていたが、今鳴っているのは日本支部で受け取った支給のスマホではなく、孝曜の私用のスマホだった。

 画面に表示されている発信者の名前は、クラスメイトの佐々木だ。

「あいよ。いきなり電話なんて珍しいじゃん、何か用事か?」

『石部、ファミレスかどっか行こうぜ。話したいことがある』

「何だ急に。いいけど、何をこんな休みの日の朝から・・・」

『水原を見たかもしれない』

「っ!!!」

 佐々木の予想外の発言に、孝曜の表情が一変する。

『見た状況が状況だったから、電話で済ますには重い気がしたんだ。来れるか?』

「・・・分かった。どこの店行く?」


 10時頃、指定したファミレスで孝曜と佐々木が合流した。

 孝曜は朝食を既に摂っており、佐々木はあまり食欲がないとのことだったため、適当な軽食とドリンクバーを注文し、早々に本題に入る。

「・・・で、晶を見たってのは?」

「・・・虚蔵山の通行止めが解除されたから、今朝久々に走りに行ったんだ。したら、霧で顔はハッキリ見えなかったけど、水原がいて・・・直前にすれ違った、犬の散歩してる爺さんが血塗れで倒れてたから、水原にその場を任せて山を降りたんだ。俺そん時スマホ持ってなくて110番できなくてよ・・・あっ、水原に通報してもらえばよかったのか。しまったな」

「それで? その後は?」

「あ、ああ。交番行って駐在さんに言って、パトカーで山に戻ったんだけど、着いた時にはもう水原は居なかった。そこからは見てない」

「そうか・・・他に何かないか?」

 晶が行方不明になって以来の、貴重な目撃情報。それを取りこぼすまいと、孝曜は問い詰める。

「何か、って・・・」

「爺さんが倒れてたくだりとかだよ。直接関係ないと思えることでもいい、その時の状況をできるだけ教えてくれ」

 しかし、詳細を促された佐々木の表情は怪訝なものだった。

「・・・石部よぉ。お前俺らに何隠してんだ?」

「は?」

「お前今まで、水原を心配してる割には『捜索は素人の出る幕じゃない』みたいなことずっと言ってたよな。それが急に掌返して、今度は事細かに教えろって? 水原の様子もおかしかったけど、お前も大概怪しいよ」

「・・・それは・・・」

 佐々木の発言は的を得ている。

 中学校で晶の話題になった時も、孝曜はヴィブムスやフォートレスの事を隠した。

 しかし、孝曜は他人を騙せるほど口八丁ではなく、実際フォートレスの秘密を守るのにも限界を感じ始めていた。年端もいかぬ子供に箝口令を絶対に守れと言うのなら、せめてこういう場面を切り抜けるための"上手い言い訳(カバーストーリー)"を上層部が用意して然るべきなのだ。

 いっそ話してしまうか。たとえ情報を漏らしたとしても、貴重な弐機隊員である自分に対して厳しい処分は下されないだろう。

 そんな考えが頭に過り、孝曜はーーー

 開きかけた口を閉ざし、言葉を飲み込んだ。

 自分への処分がなくても、情報が広まればフォートレスの対外班が佐々木や蔵山中学校の生徒たちに何かしらの工作を行うかもしれない。そのために一体どんな手段を用いるか。

 それに、そもそも箝口令は"人間社会に潜伏する未知の生物"に対する市井の疑心暗鬼とパニックを防ぐ為に下されている。佐々木がヴィブムスについて知った時、その結果として生まれるのは孝曜への信頼ではなく隔意、そしてアムジィへの恐怖だろう。

「・・・・・・言えない。でも、お前や学校の皆を騙すつもりはないんだ。俺はただ、晶を助けたいだけなんだよ・・・」

 孝曜にできるのは、"隠し事はしても嘘をつかない"という選択だけだった。

「・・・・・・そうかよ」

 佐々木は、核心を隠す孝曜に対して思うところはあるが、と言った様子で不満気に短く返す。

「まぁ、今日呼んだのは俺の方だ。ここで切り上げたら俺が無駄足になるから、元々話そうと思ってたとこまでは話してやるよ」

「・・・すまん」

「爺さんは、左腕が切り落とされる大怪我だ。警察は熊に襲われたのかもって言ってたけど・・・不思議なのが、肌が出てた部分に火傷を負ってたらしいんだよ。雷とか山火事とか特になかったのに」

 広範囲の火傷は、ヴィブムスに捕食されかけた被害者に共通する特徴。高温の液体金属である銀漿を全身に浴びた証拠だ。

 口には出さないが、孝曜の予想は確信に近づいていく。佐々木が見たのがアムジィで、老人を捕食しようとしたとすれば辻褄が合う。

「・・・何があったんだろうな」

 そういった考えが頭を巡りながらも、孝曜は尚も無知を装う。

「もういいっつの演技(そういうの)は。さ、俺が知ってることはこれで全部だ。あとは頑張りな。俺らは俺らなりに水原を探すからよ」

 情報交換の終わりを告げながら、佐々木が財布を取り出す。

 自分が注文した料理の代金をぴったりテーブルに置き、孝曜を残して店を出ていった。

(・・・遅かれ早かれ、こうなってたのかもな)

 フォートレス・ハックの一員としての、一般人の平穏を守るための言動が、結果としてクラスメイトとの関係性に溝を生んだ。

 しかし、フォートレス側のケアが行き届かないのも、然も有りなん。フォートレスの職員はほとんどが(ヴィブムスの襲撃やその関連災害で)家族や友人を亡くした者であり、学校などという横の繋がりを保ったまま所属している孝曜が異例中の異例なのだ。

 避けられ得なかった自身の孤立にやりきれない感情を抱きながら、孝曜も会計を済ませ店を後にする。

 そして、メモアプリを開いた自分のスマホを片手に持ったまま、もう片手にフォートレスのスマホを取り出し、神田に電話をかける。

「・・・あ、おはようございます。今朝学校のクラスメイトから、アムジィらしき人を虚蔵山(うろくらやま)で見たと・・・はい。虚蔵山での戦いを見越して、壱機隊の人たちと作戦を立てたいです」

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