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#22 今度の休み何する?

 金曜日に発生した蔵山町商店街での戦闘は当然目撃者多数であり、土日明けの学校ではその場に居合わせた学生を中心に"銀色の骸骨の巨人"の話題で持ち切りだった。

 ただ、命の危険を冒してまで現場に近付こうとする者は流石に居なかったようで、詳細が分からない以上飛び交う意見は憶測の域を出ないものばかり。

 進展性に欠けるこの話題は、数日もすれば若者たちの興味を引くものではなくなっていた。

 市街戦、またアムジィの日本支部急襲から数日経ったある日の放課後、クラスメイトが孝曜に声をかけてきた。

「よう孝曜、今度の日曜日に大輔と隼人と格ゲーやろうって話なってんだけど、孝曜も来ねぇ?」

「日曜か・・・ごめん、ちょっと無理かな」

「何だ、予定あんのか。じゃあ、また来週誘うわ」

 本来なら何の変哲もない、中学生男子としてありふれた内容の会話。

 しかし、孝曜は当分の間、そういった誘いに乗ることができない。

「あーいや、多分来週も・・・というか、しばらくは毎週・・・」

「は~? んだよ、バイトでもしてんのか?」

 怪訝な顔をするクラスメイトに対し、孝曜はその理由をごまかす必要があった。

 孝曜の通う蔵山中学校では生徒のアルバイトは原則禁止されており、どうしても働かなければならない場合には家庭の経済状況などを含めた諸々を申請し特別な許可を得る必要がある。

 だが、孝曜の場合問題はそんなことではない。フォートレス・ハック日本支部の機動部隊員、かつ稀有な情報源であるスワンプマンとして、できる限り支部局に居なければならないからだ。

 過去に例のない現役の中学生隊員ということで、特例的に週あたり1泊2日の出頭義務で済まされているが、それでもフォートレスのことを知らない周囲からすれば、学校のない日に毎週行方をくらます同級生というのは、どうしても不自然に映る。

「えーっ、と・・・実は、虚蔵山の土砂崩れの日以来、週一で市内まで通院してんだよ」

「えっ・・・病気でも見つかったのか?」

「いやまぁ、今のところ問題ないんだけどさ、学校にも通えてるわけだし。でも何かどうも病院の先生的に気になるところがあるというか、予断を許さない状態らしくて」

「そうか・・・早く良くなるといいな」

「そんな心配することないって。でも、遊びに行けなくてごめんな」

 嘘をついてまでクラスメイトの誘いを断るのに、後ろめたさを感じる孝曜。

 孝曜自身、できることなら普通の中学生らしく友人と交流したいと思っている。

 だが、たとえ戦いを放棄して常人として生きていこうとしても、一番の親友である晶がいなければ、孝曜に今まで通りの"日常"は戻ってこない。

 晶が帰ってくるか、あるいはアムジィを倒すか。結末がどちらになるかはまだ分からない。しかしどちらにせよ、他でもない孝曜が戦わなければ、かつての親友は"敵"であり続ける。

(・・・早く決着(ケリ)、つけなきゃな・・・)

 自宅の方角ごとにそれぞれ数人のグループに分かれて散らばっていく他の生徒たちをぼんやりと眺めながら、孝曜は自身の内にこみ上げる不安を押し殺す。

 晶以外のクラスメイトたちとはやや離れた地域に自宅(祖父の家)がある孝曜が、学校を離れて独り、乗用車がすれ違うのも難しそうな畦道を走っていたところに、フォートレスのスマホから着信を知らせるバイブレーションが発せられた。

「おっ・・・はい、石部です」

「あ、もしもしおつかれー。神田です」

 自転車を停め電話に出ると、発信者は対外班の神田だった。ここ最近はすっかり、孝曜に関すること全般を担当させられているようだ。

「石部くんさぁ、学校そろそろ夏休みでしょ? いつからかな?」

「夏休み? えー、来週が期末テストだから・・・3週間後くらいっすかね」

「OKOK。いや実はね、次回の合同演習に、石部くんにも参加してもらおうって局長に言われたんだよ」

「合同演習?」

 神田曰く黒澤が提案したのは、フォートレス・ハック中米支部での合同演習への参加だった。

 フォートレス・ハックには日本支部の他にメキシコとイタリアの2つの支部があり、それぞれの支部に日本支部と同じように、人間で構成された第1機動部隊と、スワンプマンで構成された第2機動部隊が存在する。

 そして、弐機隊員同士の交流や模擬戦を目的に、不定期ではあるが海外支部での合同演習を行っている、という説明がなされた。

「その演習に、俺も行くってことですか?」

「そうそう。特に君は、他に類を見ない特殊なスワンプマンとして位置付けられているからね。『日本支部以外のスワンプマンとも交流して、見聞を広めてもらいたい』ってさ」

「海外かぁ・・・まぁ特にまとまった予定もないんで、行けなくはないっすけど・・・」

「そう深く考えなくても大丈夫だよ。海外に出る以上長く家を空けることになるのは確かだけど、内容は普段日本支部(うち)でしていることを中米支部(メキシコ)でするだけさ。それに、今回はバイルゥに同伴っていう形で行くことになるらしいよ」

「バイルゥ? 一緒に行くんですか?」

「そう。今回の演習の主目的は2つ。"石部隊員と海外支部スワンプマン隊員の交流"と、"バイルゥ隊員のスキルアップ"だ」


 神田の連絡から、さらに1ヶ月弱。

 その間にも敵性ヴィブムスの出現は幾度かあったものの、タイミングや敵の数の都合上、壱機隊やリームダルが出撃すれば事足りる程度の戦闘しか起こらず、孝曜の出る幕も、またアムジィの新たな情報も無いまま、孝曜は1学期を終え夏休みに入った。

 夏の暑さがピークを迎える頃のある日の朝、日本支部局の輸送機発着場に、普段使っているものより倍ほど大きいリュックを背負った孝曜の姿があった。

「いやーしかし、海外かー。学校行事以外じゃ県外にも出たことないのに、こんな機会が来るとはなぁ」

 フォートレスの演習とはいえ、人生初の海外旅行に孝曜は落ち着かない様子で出発時刻が来るのをを待っている。

 それに対し、その隣で同じく時を待つバイルゥは、どこか浮かない表情をしていた。

「能天気なもんね…」

「何すか、ダルそうっすね。もしかして、この演習ってそんなにキツイんすか?」

「いいえ、相手が違うだけで内容は普段とそう変わらないわ。むしろ()()が気に食わないのよ」

「どういうことっすか?」

「演習参加の指示っていうのは、実質『しばらく戦闘に参加しなくていい』っていう通達。一時的とはいえ、戦力外通告も同然よ。現地で敵が現れても、余程の事がない限りは向こうの壱機隊で対応しちゃうしね」

「・・・戦いたいんですか?」

「そうよ、ただの演習や模擬戦なら、普段のリームダル隊長のトレーニングメニューで十分。私は少しでも多く実戦経験を重ねたいの」

「・・・何つーかアンタ、危ないっすね」

「は?」

 孝曜の目には、自分を強くする手段として実戦を求めるバイルゥの姿に、晶を取り戻そうと躍起になる自分自身が重なって見えていた。

「強くなろうと焦ってんでしょ。俺にも覚えがある。でもアンタは十分強いっすよ、少なくとも俺から見れば。だから俺には、アンタが何でそこまで焦ってんのかあんまり分かんねぇんすよ」

「・・・分かったような口を・・・」

「俺もリームダル隊長に諭されましたからね。受け売りっすよ」

「・・・」

 バイルゥは、孝曜の話に何を返すでもなく、ため息だけを吐いて口を閉ざす。

(・・・誰のせいで焦ってると思ってるのよ・・・)

 孝曜の入隊と成長が、バイルゥがスランプを感じる原因のひとつになっているという事実に、孝曜は気付かない。

 それでも、口に出しても八つ当たりにしかならないことを分かっているバイルゥは、曇った気持ちを抱えたまま、出発準備が整った長距離輸送機に搭乗していった。

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