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ボーン・フロム・スワンプ(連載)  作者: プサン・エトアル
第4話 猛き星の新たな光
21/28

#20 欠けど隠せど光は絶えず

 

 リームダル達の連絡を待つ間、プラシエはスマホを繋いだだけのヘッドギアを見つめ、ただ座り込む。

 しかし、その数分後に入った報告は、リームダルのものではなかった。

『観測班より報告! A級の反応が支部局に向かって接近しています! 並びに既知データ該当、アムジィの背爪型(スケピュラ)です!』

「アムジィ・・・!?」

『出現地点の予測急げ! 輸送班、装甲車をもう一台出せ!! プラシエを出撃させる!!』

 黒澤はプラシエの再出撃を決め、すかさず各所に指示を出す。

 しかし、プラシエの足はそれより先に動き出していた。


「・・・ん!? どこ行くのプラシエ!? 出撃だって!!」

 観測班員の一人が驚きと戸惑いが混じった声を上げる。

 輸送班への連絡に気を取られた一瞬のうちに、発着場の様子を映していたカメラ映像の画角からプラシエが消えていたのだ。

「どこへ行った!?」

「発着場から外に走っていきました!!」

「手隙の者、プラシエを探せ!! 機動部隊でも対外班でも誰でもいい!!」

「あの方向だと・・・こっちか!?」

 館内放送で黒澤が呼び掛けるのに並行して、プラシエの走り去る方向をかろうじて目撃していた観測班員が、別のカメラの映像をモニターに表示する。

 支部局本棟と機動部隊宿舎を繋ぐ渡り廊下。画面の奥側から走ってくるプラシエの姿が確認できる。このまま彼女がここを通過すると、鎧骨格(オステオン)が自由に動ける空間としては支部で最も外縁に位置する演習場に辿り着く。

「まさか、演習場で迎え討つつもりか!?」

 その時、画角の手前に現れたのは、放送を聞いて飛び出してきた壱機隊員の花岡だった。

「花岡!! プラシエを止めろ!!」

『えっ、ええ!? 止める!?』

 全速力で走ってくるプラシエの姿と、スピーカー越しの黒澤からの名指しでの指示に、花岡は狼狽える。

『と、止まれプラシエ! 止ーーーーー』

 花岡が両手を広げて立ち塞がるも、プラシエの走る勢いは少しも衰えず、高い衝撃音と共に2人が画角から消える。

 プラシエの足音が遠ざかっていった後、観測班がカメラを切り替える。演習場の真ん中に立つ、胸晶型(スターナム)の姿が堂々と映っていた。

「・・・プラシエ隊員の胸晶型(スターナム)、演習場に出現しました」

「・・・はぁ。結局こうなるのか・・・」

 落ち着けと話した矢先にこの展開。黒澤はプラシエのじゃじゃ馬っぷりに額を押さえつつ指令席に腰を下ろす。

「・・・花岡はどうした?」

 渡り廊下のカメラ映像に視線を戻すと、画角内によろよろと花岡が歩いてくる。カメラに振り返った彼の顔の、左の頬には紅葉のような見事な手形が付いていた。

『・・・局長、これ労災下りますか?』

「・・・明日になっても腫れが引いてなかったら出そう・・・」


「フゥーーー・・・」

 局長の待機命令も花岡の制止も振り切り、装甲車の手配を待たずに演習場に鎧骨格(オステオン)胸晶型(スターナム)を呼び出したプラシエ。

 じきに現れるであろうアムジィを待ちながら精神を統一している間に、黒澤からの通信が入る。

『プラシエ・・・』

「すみません。でも、こうしなきゃ孝曜が危ないと思いました」

『私の指示に反してでも、そうするのが正解だったと?』

「・・・他のA級なら、外で迎撃するのが正攻法だと思います。でも、アムジィはきっと孝曜目掛けて一直線に突っ込んできます。孝曜が支部に居るって分かって来てるなんて、そんなはずはないんですけど・・・何となく、ルート上で敷地ギリギリの演習場(ここ)じゃないと止められない気がしたんです」

『・・・スワンプマンとしての直感か?』

「それもありますし、アムジィが"侵略者"じゃなくて"孝曜のライバル"なら、そうするかなって」

『・・・とにかく、独断で出た以上、負けることは絶対に許さん。分かっているな』

「はいッ!!」

 黒澤の警告に臆することなく、プラシエは覚悟を以て応答した。

 黒澤との通信が切れてからほぼ間を置かず、鬱蒼とした偽装スギ林の向こうから紫色の頭の背爪型(スケピュラ)が姿を表す。

《・・・直感に従って走った先に、単騎で待ち構える鎧骨格(オステオン)がいたかと思えば・・・誰だお前は》

「・・・フォートレス・ハック日本支部第弐機動部隊隊員、プラシエ」

《フォートレス? ああ、あの機械人形の仲間か。なら、コウヨウがどこにいるか知っているだろう。吐け》

「教えない。それに、ここから先は絶対に通さない」

《この先に何があるかは知らんが、興味がない。俺はアイツを殺して、俺の"個"を認めさせる。それだけだ》

「フォートレスで孝曜と一緒に戦う、って選択肢は無いの? 少なくとも孝曜はそれを望んでるよ」

《反吐が出る! アイツがいる限り・・・アイツが俺を『アキラ』と呼ぶ度に、頭の奥がザワザワと、不快で仕方がないんだよ・・・!!》

 中に乗ったアムジィの、心の底から沸き出るような怒りを体現するかのように、背爪型(スケピュラ)が俯き頭を抱える。同時に展開される肩の副腕も、必要以上に力が込もりギチギチと軋みを上げる。

《・・・だが、この位置で立ち塞がるお前が、コウヨウの居場所と無関係な訳もあるまい。お前も殺して、この先に進むとしよう・・・!》

「説得は無駄そうね。孝曜には悪いけど、倒させてもらうよ、アムジィ!!」

 アムジィから明確な殺意を向けられ、プラシエは胸晶型(スターナム)の胸部の結晶を輝かせ臨戦態勢に入った。

 背爪型(スケピュラ)が間合いを詰め、両の副腕で斬りかかる。胸晶型(スターナム)はその片方を紙一重で躱しもう片方を受け止め、背爪型(スケピュラ)本体を引き寄せ掌底を叩き込もうとするが、背爪型(スケピュラ)が身を捻りそれを受け流したために有効打とはならず、間合いが再び開く。

 高熱を纏った胸晶型(スターナム)の掌底が掠めた背爪型(スケピュラ)の左頬が、赤熱し僅かに溶ける。

《重装甲なはずの胸晶型(スターナム)で、そんなに柔軟な近接戦闘ができるとはな。単騎で出てきた自信は虚勢ではないようだ》

胸晶型(スターナム)の熱エネルギーは変幻自在よ。あたしが強くなりたいと望み続ける限り、どこまでも応えてくれる。スバルのようにね」

《スバル・・・? それが誰かは知らんが、自分を強くするのは他でもない自分自身だ。機械に頼る人間ではなくヴィブムスなら尚更な。自分の理想を他人に重ねているようでは、お前の力はすぐに頭打ちになる》

「すぐに限界が来るのは貴方のほうよ。独りで戦ってたら、いずれ戦えなくなる時が来る」

《フン、言ってくれる。なら、今すでにお前が劣っているということを、直々に思い知らせてやる!!》

 背爪型(スケピュラ)がまたも仕掛ける。

 背爪型(スケピュラ)の強みは、副腕のリーチと可動域の広さ、また四肢がフリーになることで実現される絶え間ない包囲攻撃にある。

 攻撃の密度が、様子見だった一度目の攻撃の比ではない。

「くっ・・・!!」

 アムジィの初出現時に相対した壱機隊長小野寺でさえ、圧倒的な手数に押され優勢を保つことができなかった。

 高機動近接戦闘が苦手な胸晶型(スターナム)では、そのすべての斬撃を防ぐことはできない。

(やっぱり、格闘じゃ無理だ・・・! 必殺技で一気に勝負を決めるしか・・・!!)

 プラシエはダメージを覚悟で、多角的な攻撃の起点、背爪型(スケピュラ)本体に向かって突っ込んだ。

 背爪型(スケピュラ)は大きく跳躍してそれを難なく躱し、プラシエの背後に着地する。

 接敵直後とは位置関係が逆転し、背爪型(スケピュラ)が支部局を背にして立つ形になった。

《!》

 この位置からならアムジィは、このままプラシエを振り切って支部局に向かって走ることもできただろう。

 しかし、背爪型(スケピュラ)に振り返った胸晶型(スターナム)が胸の結晶を輝かせて構えたのに気付き、足を止めて振り返る。

《・・・撃つか? 走る俺を背中から撃てば、確かに当てられはするだろう。 だが、俺を仕留める程の火力を放てば、この先にある、お前の守りたい場所は焼け野原となる》

「・・・・・・撃つよ。局長との約束だから、絶対に勝たなきゃいけないの。たとえあなたが『"速さ"に秀でる強敵』だとしても」

 プラシエの胸晶型(スターナム)が、胸の前で掌を合わせる。そして、少し開いたその両手の間に、高密度の熱エネルギーが集まっていく。

《ほう・・・》

「初めての出撃で暴れすぎて局長に怒られて以来、ずっと考えてた。集団戦向きのスターライト・ビームとは違う、もう一つの・・・対"強敵"用の必殺技。今朝のスタガを観て、ようやくイメージが固まった!!」

 胸晶型(スターナム)が、新星の如き輝きを放つ。

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