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ボーン・フロム・スワンプ(連載)  作者: プサン・エトアル
第4話 猛き星の新たな光
20/28

#19 じゃじゃ馬

 プラシエが輸送機の発着場へ向かい走る途中、スマホの呼び出し音が鳴る。

 発信者はリームダル。プラシエが通話にログインした直後、バイルゥも通話に参加する。

「編成は?」

『敵はA級1、B級1、C級2。出現位置が支部局に近すぎて輸送機を飛ばせないため、銀漿タンクを敷地外縁に配置しつつ弐機隊員が対外班の装甲車で先行、現地から鎧骨格(オステオン)を呼ぶ』

「分かりました! 今向かってます!」

『そういえば、孝曜はまだ起きないのか?』

「うっ・・・は、はい、まだ・・・」

『飯を喉に詰まらせて気絶とは、ヤワなやつだ。まぁ、人間で15歳ならまだ発育途上か。これから身体を鍛えていけばこんなこともなくなるだろう』

(・・・隊長、あたしのせいだっていうのは知らないのかな。良かったような、良くないような・・・)

 孝曜が倒れたことは連絡が回っているようだが、詳細までは知らされていない様子。孝曜が出撃できないことにプラシエは若干の後ろめたさを感じながらも、その原因について今は口をつぐむことにした。

 間もなく発着場に着くと、出入り口の脇に待機する装甲車と、その側で準備を整えたリームダルとバイルゥの姿があった。

 外には銀漿タンクを牽引するトレーラーが列をなして走っていくのが見える。プラシエの胸晶型(スターナム)は最後尾、3台目だ。

「来たか。行くぞ」

「はい!!」

 孝曜を除く3人の隊員が揃ったのを確認し、隊長のリームダルを先頭に装甲車に乗り込む弐機隊の面々。

 その時、先程通信を切ったばかりのスマホに再び着信が入る。発信者は黒澤だ。

『こちら黒澤。弐機隊、リームダルとバイルゥだけで先行しろ。プラシエはそこで待機だ』

「えっ!?」

「何故です?」

『・・・嫌な予感がする。換装途中の小野寺機に代われるだけの突出した戦力を支部に置いておきたい』

「予感とは、局長にしては珍しく根拠のない命令ですね」

『A級反応の既知データ照合にやたら時間が掛かっているんだ。何かがおかしい』

「ふむ・・・? 了解しました。ではプラシエ、ここは任せる」

「は、はい・・・」

『よし。では弐機隊リームダル以下2名、出撃』

 局長の判断に従い、リームダルとバイルゥの2人だけを乗せ、装甲車は発進する。

 訳も分からず取り残されたプラシエ。ふとスマホに視線を落とすと、先行した2人は通話からログアウトしているが、黒澤との通話は切れていないことに気付いた。

「・・・局長、なんであたし・・・?」

『・・・石部君の件だが』

「っ!!」

 恐る恐る待機の理由を問うも、対する黒澤の返答に言葉が詰まる。

『わざわざ教える必要もないと思ってリームダルには伝えていないが、私のところには角田から詳細に報告が来ている。お前のその落ち着きのなさはどうにかならんのか』

「・・・すみません・・・」

『・・・4体程度ならリームダルとバイルゥの2人で十分だし、A級の反応が妙なのも事実だ。事が動くまで頭を冷やしておけ』

「はい・・・」

 事実上の出撃停止処分にやや落ち込みながらも、プラシエは不測の事態に備え気持ちを静めることに集中することにした。


「よし、そろそろだな。行くぞ」

「はい」

 装甲車で先行するリームダルとバイルゥ。出撃地点が近づき、装着したヘッドギアに緩みがないのを確認する。

 運転手に減速するよう指示を出し、車両両側のスライドドアを開く。

「弐機隊長リームダル、噴槍型(サクラム)。出陣する」

「弐機隊バイルゥ、足刃型(ティービア)。出撃します!」

 走る装甲車に乗ったまま、半身を乗り出して銀漿を呼ぶ。航空輸送機で出撃する時と同じ人間離れした出撃方法だが、自分の銀漿の位置を感覚で把握できるスワンプマン隊員が、飛び込むタイミングを逸することはない。

『地上輸送班、後退します。ご武運を』

 リームダルの噴槍型(サクラム)とバイルゥの足刃型(ティービア)が出現したのを確認し、装甲車がUターンして前線を離れる。

 2人が待ち構えるのは、日本支部の演習場に似たスギ林。

 その薄暗さに目が慣れると、木々の間に3体の鎧骨格(オステオン)の姿が視認できた。事前検知と数が合わない。

「・・・A級がいませんね」

「出てくる前にこいつらを仕留めるぞ。奇襲に警戒しておけ」

 詳細が未だ明らかになっていないA級との戦闘に集中できるよう、早期決着を狙い構える2人。

 敵の重い足音が少しずつ近づき―――先頭のB級鎧骨格(オステオン)が木漏れ日に照らされた瞬間、リームダルとバイルゥは駆け出した。

 リームダルの噴槍型(サクラム)の大槍がB級を正確に捉える。B級はすんでのところで盾を構え槍を受け止めるが、噴槍型(サクラム)の膂力は殺し切れず大きく吹き飛ばされ、衝撃に耐えかね盾が割れる。

(脚盾型(パテラ)か。俺が力で押した方が早いな)

 脚盾型(パテラ)は全身の厚い装甲と両腕に構えた丸盾が特徴的な、防御偏重のB級鎧骨格(オステオン)。孝曜が操るイリアムほどではないが頑丈であり、一撃の重さに難があるバイルゥの足刃型(ティービア)では楽には倒せない。

「バイルゥ、指兵型(ファランクス)は任せる」

 リームダルは簡潔に指示を飛ばし、林の奥に消えた脚盾型(パテラ)を追いその場を離れる。

 バイルゥは指示を受けるまでもなくC級と接敵しており、2体からの集中攻撃を難なく躱し続けている。

 2体の指兵型(ファランクス)足刃型(ティービア)を挟むように位置取り、好機とばかりに前後から同時に貫手を放った時、足刃型(ティービア)はその場に深く屈みこんだ。標的を失ったふたつの貫手が交差し、その勢いのまま対面の同族の装甲を抉る。

「はッッ!!」

 バイルゥの足刃型(ティービア)は地に着いた両手を軸に身体を捻り、大きく一回転して回し蹴りを放った。足刃型(ティービア)の脚に形成された刃により2体の指兵型(ファランクス)はまとめて薙ぎ払われ、胴体を両断され地に崩れ落ちる。

「・・・ふう」

 体勢と息を整えながら、耳を澄ます。

 リームダルの噴槍型(サクラム)脚盾型(パテラ)の戦闘音は既に聞こえておらず、代わりに1体分のオステオンの足音が近づいてくる。

(さすが隊長、早いわね)

 このまま合流し、あとはA級の出現を待つのみ。

 そう思っていたバイルゥの耳に、リームダルの居る方向とは違う角度から足音が届いた。

「!」

 かなりの速度で近づいてくる、高機動型鎧骨格(オステオン)の走行音。

 林を抜けて現れたのは、脚盾型(パテラ)腰甲型(イリアム)とは対照的な鋭いシルエットのA級鎧骨格(オステオン)。バイルゥの視界に入ると同時に、背中に折りたたまれていた一対の副腕を展開し彼女に襲い掛かる。

背爪型(スケピュラ)か!」

 バイルゥは副腕の斬撃を掻い潜りボディストレートを繰り出すも、足刃型(ティービア)の拳は容易く背爪型(スケピュラ)に受け止められた。

 掴まれかけた腕を素早く振り払い、追撃を避ける。

「出会い頭に襲い掛かってくるなんて、狂暴この上ないわね。名は?」

 《・・・ハズレか。お前に用は無い》

 敵はバイルゥの問い掛けに対し、若い男の声で応答した。しかし名乗りはせず、副腕を広げてゆっくりと距離を詰めてくる。

 切り込む間合いを互いに見極める中、バイルゥは緊張と同時に既視感のようなものを感じていた。

(背爪型(スケピュラ)、装甲色は紫・・・)

 出撃直前、黒澤は「既知データ照合に時間が掛かっている」と言っていた。つまり既知か未知かの識別が完了していないということだが、バイルゥはどうにもこの紫色の背爪型(スケピュラ)を知っているような気がしてならなかった。

 その時、背爪型(スケピュラ)の背中越しに別のA級鎧骨格(オステオン)の姿が見えた。リームダルの噴槍型(サクラム)だ。

(隊長! よし!)

 バイルゥはリームダルへの反撃を封じるべく、あえて正面から背爪型(スケピュラ)に立ち向かい注意を引く。

 しかし―――

「足止めのつもりか?」

 刃の腕が振り抜かれる。

「ッ!!?」

 明らかに初撃より振りが速く、バイルゥは反応すらできず下肢と右腕を斬り落とされた。

(初撃は手を抜いていたとでも・・・!? 馬鹿にして・・・!!)

「バイルゥ!!」

 バラバラに切り裂かれた足刃型(ティービア)が地に崩れ落ちた直後、大槍を構えたリームダルの噴槍型(サクラム)背爪型(スケピュラ)に迫る。

 背爪型(スケピュラ)は素早く振り向いて副腕を回し、飛び込んできた噴槍型(サクラム)の大槍を、火花と金属音を上げながら受け止める。

 《一足遅かったな》

「そいつにトドメを刺すのは、私を倒してからにしてもらおうか・・・!」

 部下を殺させまいと憤るリームダル。

 大槍の穂先は背爪型(スケピュラ)の顔の前で副腕の力と拮抗し動きを止め、穂先を掴む刃の指から足刃型(ティービア)の銀漿が滴る。

 《・・・だが、お前も違う・・・》

 背爪型(スケピュラ)は地面に転がった足刃型(ティービア)の半身を掴み上げ、噴槍型(サクラム)に向かって投げ付けた。

「うおっ!!」

 突き出していた槍の穂先を下げ、とっさに空けた片腕で足刃型(ティービア)を受け止める。

 背爪型(スケピュラ)はさらに林の奥に走り去っていくが、倒れた部下を抱えるリームダルはすぐには追えなかった。

「くっ・・・バイルゥ、大丈夫か!」

 バイルゥは足刃型(ティービア)の機体から伝わる四肢の激痛に顔を歪めながらも、背爪型(スケピュラ)に感じていた違和感の正体を口走る。

「紫の、背爪型(スケピュラ)・・・つい最近見た覚えがあると・・・はぁッ・・・思い出した・・・あれはッ・・・アムジィ・・・!」

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