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ボーン・フロム・スワンプ(連載)  作者: プサン・エトアル
第3話 探す者、隠す者
16/28

#15 町外れ強襲

「ん、地震・・・?」

 ビラ配りをする学生を引率していた、新聞部顧問の島田が、足元から微かに伝わる揺れを感じた。ほぼ同時に、学生たちや商店街を歩く人々も揺れに気付いたようで、足を止めてぽつぽつと不安を口にする。

「ね、ねぇ・・・! 駅の向こうに見える、あれ何・・・!?」

 一人の女子学生が、通りの突き当たりにある電車の駅の方角を指差す。

 皆がその方向を見ると、駅舎越しに、銀色の巨大な骸骨のような何かが立っているのが見えた。

「何かの像・・・いや、動いてるぞ・・・!?」

 目を疑うような異常な存在に、俄にざわめく町民たち。

(鎧骨格(オステオン)!!)

 唯一孝曜だけは、その存在が何であるかを理解していた。

 しかし、それを口に出すことはできない。今は不必要に情報を共有することより、クラスメイトや町民を逃がすことの方が先決だ。

「おい、こっちも何か飛んでくるぞ!」

 別の学生が、今度は空を指して声を上げる。箱形の本体の左右から2対の回転翼が突き出したような風体の、巨大な軍用ヘリのような航空機が、商店街に向かってまっすぐ飛んでくる。

(フォートレスの輸送機だ! 助かる・・・!)

『町民の皆さん、避難してください!! 虚蔵山(うろくらやま)付近で、大規模な災害が予想されます!! 職員の指示に従い、山から離れて商店街の反対側に避難してください!! 事態に気付いてない方への声掛け・ご協力お願いします!!』

 ヘリから大音量の声が投げ掛けられる。

 山と反対の方向に目を向けると、軍服のような統一された服装の人々が、蔵山商店街にいる町民たちに対しこっちに来いと呼び込んだり、既に避難を開始した町民を誘導している様子が確認できる。

「な、何だ? 自衛隊か?」

「先生、どうしよう・・・!」

「ひ、ひとまずあれに従おう! 皆、あの人たちに付いて避難しなさい!」

 島田は迷わずビラ配りを中断し、学生たちに避難の指示を出す。

 孝曜もそれに紛れ、町民たちと共に避難を開始した。

 しかし、鎧骨格(オステオン)とフォートレスを知っている以上、孝曜はそのまま商店街を離れるつもりはない。


(・・・よし、この辺なら・・・!)

 孝曜が、集団からはぐれた振りをして目立たない路地に入り、腰甲型(イリアム)を呼び出せるだけの開けた場所を探そうとした時、懐に忍ばせていたフォートレスのスマホに着信が入る。黒澤からだ。

「はい、石部です! 分かってますよ、俺もすぐに・・・!」

「逆だ、君は出るな。近くの民間人と一緒に避難しろ」

「はぁ!? 何でですか!?」

「『ヴィブムスとスワンプマンに関する情報は秘匿する』のがフォートレスの方針だからだ。鎧骨格(オステオン)自体が目撃されるのは仕方ないとして、それに人間の姿をしたものが乗っている、ひいてはヴィブムスが人間に擬態するという事実が世間に知られれば、社会は瞬く間に疑心暗鬼に包まれる。ヒトに化ける怪物が身近にいるかもしれないという恐怖・・・市井の混乱は防がなければならん」

「乗る瞬間が見られなきゃいいでしょ!! 俺だけ戦わずに逃げるなんて・・・」

「駄目だ、万が一ということもある。戦闘は小野寺隊に任せて逃げろ」

「そんな・・・!」

 チラリと駅の方角を見る。小野寺の指揮官機(キューヴィエ)を中心に、6機のSTが郊外に降り立ち、鎧骨格(オステオン)の群れと戦闘を開始している。

 その反対側の方角には、逃げ行く町の人々の姿がまだ見える。少しでも戦線が町の方に寄ってしまえば、危険度は何倍にも跳ね上がるだろう。

「・・・局長。田舎の学校なんてのはね、コミュニティが狭い分みんな仲良いんですよ。今だって、晶が行方不明って聞いて、クラスが十何人も自主的にビラ配りしてるんです。一人のクラスメイトのためにここまでするって、想像できますか?」

「・・・」

「皆、自分のこと後回しにして、晶を心配して行動してんですよ。なのに一番矢面に立てるはずの俺が、体裁気にして何もしないなんて、そんな命令『はいそうですか』って聞ける訳ないでしょうが・・・!!」

 上司、それも施設の最高責任者を相手にしているという事実を気にも留めず、孝曜は怒りを露にする。

 静かに、しかしスマホを握り潰してしまいそうなほど、強く。

 しばらくの沈黙の後、やや語気を落として黒澤が話を再開する。

「・・・はぁ・・・いいか石部君、よく聞きなさい。フォートレスでは平時、スワンプマン隊員の鎧骨格(オステオン)は銀漿に戻した状態でタンクに入れ、支部局の研究棟で保管している。そして、出撃命令が出た際には隊員とタンクを一緒に現場近くまで輸送し、現地でタンクを開放して鎧骨格(オステオン)を呼び出す。ここまでは、前回のリームダルたちの出撃に同伴して知っているだろう」

「そりゃあ・・・あっ、そうか・・・! 俺の腰甲型(イリアム)は今、支部に・・・!」

 水曜の帰宅時、孝曜は腰甲型(イリアム)を支部に置いて、対外班員の車で家に帰った。

 弐機隊の出撃手順を踏まえて考えれば、今しがた孝曜が気付いた通り、単身町に居る孝曜は腰甲型(イリアム)を呼び出すことができない。

 強引に呼ぶことができたとしても、それは銀漿がフォートレスの地下を移動することを意味し、他の敵性ヴィブムスに日本支部の居場所を知られてしまう可能性を多分に含む、危険な行為なのだ。

「・・・だが、君の場合は他の弐機隊員と異なり支部外での行動が多いことを鑑み、緊急出撃に備えてあらかじめ近隣の山にタンクを輸送して隠してある。タンクのロックをこちらから遠隔で解除すれば、君は腰甲型(イリアム)を呼び出せる」

「!! それって・・・」

「重ねて言うが、市街戦発生時に現場に居合わせたスワンプマン隊員は、出撃せずに避難に徹するのが原則だ。くれぐれも迂闊な真似は慎むように。以上だ、あとは自己判断で行動したまえ」

「・・・了解!」

 局長の意を汲み、一言だけ返して通話を切る。

(局長・・・ありがとう・・・!)

 この場における出撃が、フォートレスの原則に反しているのは重々承知。

 それでも、孝曜は目に写るもの、手が届くものだけでも守るために、腰甲型(イリアム)を呼び出した。


「・・・はぁ。言うと思ったよ、あの子なら・・・」

 通話が切れた後、黒澤はメインモニタールームで溜め息をつく。

 フォートレスに加入したと言えど、相手は15歳の少年。感情任せの言動は、大人の目には幼稚に映る。

 しかし、ここぞと言う時の熱意は、大人を負かすこともある。

 その姿を、観測班のスタッフたちが意外そうな顔で、あるいは面白いものを見たような顔で眺めていた。

「・・・何だ」

「若さに負けましたね、局長?」

「そんなことはない。警告はした・・・」

「銀漿タンクのロック解除()()()()()、出撃させないで済むのに?」

「・・・いいから、モニタリングに集中しろ。従来の市街戦と違って、味方にオステオンが混ざっているんだぞ」

「ふふっ・・・了解!」

 普段なら絶対に見られないような苦い表情で、論点をずらそうとする黒澤。

 観測班員は思わず笑いをこぼしながら、孝曜の腰甲型(イリアム)を加えて戦況データを更新した。

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