#14 捜しています
「ご協力お願いしまーす!」
金曜日の放課後。
中学校から数km西に位置する商店街にて、健気に呼び掛ける学生たちの姿があった。
行方不明となっている少年・水原晶の情報を求め、新聞部所属の藤田を中心に、自発的なビラ配りが行われているのだ。
彼の一番の親友であり事故の当事者でもある孝曜も、もちろんその中にいた。
「情報提供お願いしまーす」
「・・・あら、これもしかして、水原さんちの息子さんの?」
「あ・・・そうです。こないだの虚蔵山の土砂崩れがあった日から、学校にも来てなくて・・・」
「あらぁ、それは・・・心配だけど、残念ながらわたしもしばらく見てないわ。お力になれなくてごめんなさいね」
「いえ、ありがとうございます。もし何か噂とか聞いたら、いつでも蔵山中の学生か先生に教えてください」
通りすがりの主婦からは情報を得られなかったものの、田舎特有のコミュニティの狭さからか顔見知りではあったようで、晶の身を心から案じていることは互いに伝わる。
孝曜は謝意を述べて主婦を見送るが、しかしその心中には複雑な感情が入り雑じっていた。
警察が捜索しようと、有志のビラ配りが行われようと、人間だった頃の晶は見つからない。たとえ見つかったとしても、今の彼は人間の敵であり、もはや一般人の手に負える存在ではない。
孝曜は今、晶を捜すためというよりは、友のために本気になってくれているクラスメイト達への義理を通すためにこの場にいる。成果が得られないと分かっていても、藤田たちへの感謝は心の底から感じているのだ。
(アムジィを捜す上では、皆に協力してもらえることも、俺が教えられることもほぼ無い。ならせめて、晶を捜すフリをしてでも、スワンプマンの存在を隠して皆の日常を守ることが、俺のやるべきことだ)
その頃、フォートレス・ハック日本支部では、普段通り観測班が反応に備え、メインモニタールームで待機していた。
「最近しばらく出ませんね。いつからですっけ」
「マディオンが出た時以来だから、月、火、水・・・今日で5日めだね」
「そういえば、猿飛班長がまた新しいの造ったらしいですよ。今なら正規手順でテストできるんじゃないですか?」
「ね。ちゃっちゃとシミュレーター組んでテストしちゃえば、小野寺隊長も気が楽でしょうに」
「門外漢のわたしらが言っても聞きゃしませんよ、猿飛班長は。開発班の皆さんに任せましょ」
猿飛の自由奔放っぷりは、機動部隊や局長黒澤だけでなく支部の全員に、とうの昔に知れ渡っている。
「誰に、何を任せるってぇ?」
突然、オペレーターの背後から間延びした声がかかる。
「うわっ!」
「さ、猿飛班長・・・! びっくりした・・・!」
「『うわっ』とは随分だなぁ。観測班なら人の出入りぐらい気付けよぉ」
整備班長の猿飛が、誰も気付かないほど静かにモニタールームに入室していた。
「すいません・・・ところで、どうしてこちらに?」
「あぁ、また新しい武器を辰つぁんに持たせたからよぉ。どうせならここの大画面で、実戦の様子を拝もうと思ってなぁ」
「テストなら、格納庫から見てた方がいいんじゃないですか? 演習場使うんでしょう?」
「い~やぁ、実戦だぜぇ。オレの勘じゃあ、そろそろ・・・」
部屋の隅からのそのそとパイプ椅子を持ち出し、司令席の隣に置いて腰を下ろす猿飛。
他部署の話をする程度の余裕があったモニタールームの静閑さは、突如として鳴り響く甲高い警報音に引き裂かれた。
「っ!!! 反応あり!! 解析ならびに誤差修正開始!!」
「「「はい!!」」」
「ほぉら来たぁ。辰つぁんのセコンドとして、しっかり見学させてもらうぜぇ」
猿飛がニヤリと笑うのをよそに、観測班員たちが一斉にコンソールを操作し、検知された反応の詳細を解析する。
「局長と機動部隊に通信繋ぎます!」
「反応強度出ました! B級3、C級6! 多い・・・!」
「誤差修正! 推定出現地点は、蔵山町西部・・・まずい、市街地に近すぎる!!」
蔵山町は、周囲を山に囲まれた盆地に位置する町。
検知された反応はその山中でのオステオン出現を知らせており、蔵山町市街地が戦闘に巻き込まれる高い可能性を示していた。
その時、モニタールームの入り口のドアが開いた。入ってきたのは黒澤だ。
「局長!」
「内容は聞いていた。機動部隊、応答しろ!」
すぐさま司令席につき、機動部隊との通信回線を開く。
『壱機隊、全員出撃可能。指揮官機はまたトビの新武装ですが、今回はこのまま出られます』
「猿飛・・・」
小野寺からの応答を聞き、黒澤が眉をひそめて猿飛を見るが、当の猿飛は態度も変わらず薄ら笑いを浮かべたまま飄々と返す。
「大丈夫、今回のは自信作ですよぉ。ってか、前回のもふざけて造った訳じゃないんですがねぇ」
「・・・信じるぞ。リームダルは?」
『弐機隊も問題ありません。しかし、市街戦になるのなら・・・』
「ああ、弐機隊は待機だ。壱機隊および対外班、総員出撃準備!」
『了解!』
「・・・水曜日、対外班が石部くんを家まで送ったはずだな。誰が担当した?」
「えっ、と・・・神田さんです」
「よし、神田は現場へ先行させろ。それと、石部くんの端末に通信を繋ぐ用意を」
「石部くんに?」
「ああ。おそらく彼は・・・」
数分後、第一機動部隊の準備が整い、隊員たちと6機のSTを載せた輸送機が空へ発った。
弐機隊と違い、壱機隊員はSTに搭乗した状態で輸送され、戦闘を開始できる体勢を整えた状態で降下する。
小野寺は指揮官機キューヴィエ、安芸山と花岡は近接戦仕様機オーウェン、紋瀬は狙撃特化機チェゼルデン、斑井と緑門は防衛戦仕様機アルビナスに乗り、現場への到着を待つ中、小野寺が通信を開く。
「壱機隊各機、作戦を確認するぞ。俺、安芸山、花岡、紋瀬、斑井、緑門の順で降下する。敵の編成が確認できたら、安芸山と花岡は前衛に出ろ。敵に肩壁型か肋砲型辺りがいたら俺が、いなければ安芸山がメインだ」
「了解!」
「前衛っすね! 任せてくださいよ!」
「はしゃぐな、お前はどっちにしろサブだ。紋瀬は俺たちの後方から狙撃、斑井は紋瀬を守りながら町に向かう敵を足止めしろ」
「了解」
「了解!」
「緑門が町の最終防衛線だ。絶対に破られるな」
「了解」
『まもなく作戦地点上空です。機動部隊各員、発進準備お願いします』
輸送機操縦士からの通信が入る。
やや間を置いて、貨物室のハッチが重々しく開いた。何も知らない市民が平和に日常を過ごしている、蔵山商店街が眼下に見える。
「JC1-Q、小野寺辰生」
「JC1-O1、安芸山翔!」
「JC1-O2、花岡宏和ッ!!」
「JC1-C1、紋瀬朋哉!」
「JC1-A2、斑井千春!」
「JC1-A1、緑門拓海!」
「「「「「発進!!!」」」」」
日本支部壱機隊全機が、一斉に降下を開始した。