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ボーン・フロム・スワンプ(連載)  作者: プサン・エトアル
第2話 たとえ今は脆くとも
12/28

#11 黒曜の盾

 自身の熱い心を反映するかのような朱い炎を胸晶型(スターナム)の胸に灯し、プラシエはマディオンに立ち向かう。

 だが、リームダルはそれを見て血相を変えて叫んだ。

『!! プラシエ、来るな!!』

 プラシエは、目の前で孝曜が倒れたこと、さらにそれをマディオンに蔑まれたことで、完全に冷静さを失っていた。

 リームダルの制止も耳に入らないプラシエには、即座に標的をこちらに変えたマディオンの動きを追うことはできなかった。

 リームダルと鍔迫り合いしていた槍を弾いたと思った次の瞬間には、マディオンの噴槍型(サクラム)胸晶型(スターナム)の背後を取っていた。

 直後、プラシエの視点がガクンと落ちる。

 《そういう戯言は、我が身だけでも守れる力量を持ってから吐くんだな》

 頭に上っていた血の気が急激に引いていく。両脚の感覚がない。

 胸晶型(スターナム)からプラシエにフィードバックされる胴の激痛が、彼女に自らの失敗を悟らせた。

「・・・がはッ・・・!!」

 《幼子の英雄願望に付き合うつもりはない。去ね》

 瞬く間に胸晶型(スターナム)を両断した噴槍型(サクラム)の槍が、今度は胸晶型(スターナム)の首を目掛けて突き下ろされる。

「っ!!!」

『プラシエ!!』

 体勢の崩れたリームダルのフォローは間に合わない。

 下肢を失い避けることも逃げることも叶わないプラシエは、思わず目を瞑った。

 鋭い金属音が響くーーー

 しかし、直後にもたらされる筈の痛みを、プラシエが感じることはなかった。

「・・・!?」

 恐る恐る目を開けると、顔の崩れかけた鎧骨格(オステオン)が、胸晶型(スターナム)に覆い被さるように噴槍型(サクラム)との間に割り込んでいた。

 目の前にいきなり骸骨の顔があるという状況は普通なら肝を冷やすものだが、損傷状態から再生しつつある黒い頭と、肩越しに見える2枚の盾は、プラシエの驚きを喜びに変えうる物だった。

『・・・隊長、すみません。駆蹄型(カルカニアス)、結局プラシエに任せちゃいました。代わりにプラシエは意地でも守るんで、勘弁してください』

 先ほど痛打を受けたばかりの孝曜の腰甲型(イリアム)が、文字通りその身を盾にして胸晶型(スターナム)を守っていた。

『孝曜・・・!』

「孝曜!! 大丈夫なの・・・!?」

『大丈夫じゃねえよ、死んだかと思ったわ。まだ頭痛ぇし・・・けど、初陣で負けるようなヒヨッ子でも、仲間の盾くらいにはなれる』

 マディオンの噴槍型(サクラム)の槍は腰甲型(イリアム)の盾に突き刺さってはいるが、その裏の腰甲型(イリアム)本体にまでは貫通していない。

(・・・俺の槍を止めた・・・手負いの、しかも初めて戦場に立った新兵が・・・?)

『マディオン、だっけか。確かに俺は弱い、アンタにゃ到底勝てないだろうさ。でも、守ることも戦いのうちなんだよ。さっきプラシエが俺を死なせないって言ってくれたけど、俺もプラシエや皆を絶対に死なせない。それが俺の戦いだ』

 自らの矜持を語る孝曜に対し、マディオンは追撃するでもなく静かに槍を引いた。

 《・・・頭を吹き飛ばされておいて、こんなにも早く立ち上がるとはな・・・黒兜、名を何という?》

 《・・・石部孝曜》

 《コウヨウ、だな。覚えておこう》

 《何だよ、帰んのか?》

 《今のリームダルと戦っても、興が醒める一方だ。次に会う時には、少しは変化があることを期待しよう。リームダルだけでなく、お前たち全員にな》

 マディオンは大槍を噴槍型(サクラム)の背に戻して大きく跳躍し、岩山の向こうに姿を消した。

「・・・マディオン・・・」


「こちらリームダル。任務を完了した。回収頼む」

 リームダルが支部局に報告を入れる。10分もすれば、離れた場所で待機している輸送機が迎えに来るだろう。周囲の被害確認などの後処理は対外班がしてくれる。

 孝曜の初陣は、任務としては成功。事前に検知された4体のB級鎧骨格(オステオン)を全て撃破した。

 しかしその撃墜スコアは全てプラシエの物であり、孝曜個人は1体も撃破できずに不意を突かれダウン(復活はしたが)、プラシエも乱入したマディオンにより胸晶型(スターナム)を真っ二つにされるという大敗を喫した。戦闘不能になるほどの損傷を受けたにも関わらずプラシエが意識を失わなかったのは、単に彼女の強靭な精神力、有り体に言えば気合によるものでしかない。

 帰りの輸送機が到着するのを待つ弐機隊の面々は、各々が自分の失態を悔やみ意気消沈としていた。

「・・・すまん、二人とも。部下を守るのが隊長だなどと言っておきながら」

「隊長は謝ることないですよ、マディオンが急に来たのが悪いんです。ウチで正面切ってマディオンと戦えるのなんて、リームダル隊長と小野寺隊長しかいないんですから。あたしなんてあんな啖呵切っといて瞬殺されて・・・も~!悔しいぃぃぃぃ!!」

 2人の部下が倒れたことに責任を感じるリームダル、マディオンに全く歯が立たなかったことを嘆くプラシエ。

 そして孝曜もそれに続くように、心の内に芽生えた疑念を口にする。

「・・・そういえば、B級鎧骨格(オステオン)とか言ってたけど、腰甲型(イリアム)はどうなんだ?」

「え? ああ、腰甲型(イリアム)はA級だよ? あと胸晶型(スターナム)噴槍型(サクラム)もA級」

「お前が知っているものでいうと、スケピュラもだな。最近になってA級の出現率が上がっているような気もする」

「はぁ、やっぱそうか。バイルゥの反応的にはそんな気がしてたんだけど・・・B級に負けちまったんだなぁ、俺・・・」

 孝曜の予想は当たっていた。不意打ちを受けたとはいえ、孝曜は格下の鎧骨格(オステオン)に倒されてしまったということになる。

鎧骨格(オステオン)の階級による差は、性能的な相性や乗り手の実力でいくらでも覆る。B級の足刃型(ティービア)で戦い続けてるバイルゥが好例だろう」

「俺はアムジィに勝たなきゃいけないんですよ。バイルゥみたいな強いスワンプマンが乗り手ならともかく、銀色頭のB級って要は野良でしょう? それに負けてる場合じゃないんですよ」

「・・・上昇志向は悪くないが、焦るなよ。その焦りが命に関わることもある」

「ええ、分かってますよ。アムジィに勝つ前に俺が死んじまったら元も子もない。俺は、自分も仲間も生かすために強くなります」

 明確な宿敵の名を挙げ闘志を燃やす孝曜に、リームダルはわずかに危うさを感じる。

 隊長の忠告を受け入れながらも、孝曜は固い決意を示した。


(・・・マディオンは、小野寺隊長の腕を認めてる節があった。その小野寺隊長と互角に渡り合ってたアムジィは、もしかしたらマディオンと同じか、それ以上の強敵になるのかもしれない。もっと強くならないと・・・アムジィを殺すためじゃなく、誰も死なせずに済むように)


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