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〈4〉


「俺、話すのが上手くないんだ。あんまり他人(ヒト)としゃべったことがなくて。まともに小学校も行ってないから言葉の使い方もよく知らないし。唯一自信があるのが絵を描くことくらいでさ。なんせ、暇な時間はいつも絵を描いてたから……」

 こう断って少年は語り出した。

「とにかく、俺が教えてほしいのは、こういった(・・・・・)状況だったら(・・・・・・)刑事や探偵――推理をする人間――がどう思うかってことなんだ」

「どうぞ続けてみて」

「人が死んでる。頭から血を流してブッ倒れてる。その上に着物が被せてあるんだ。でね、その死体の前の壁にさ、死体の死様(しにざま)ととても似た絵が飾られている――こういう場合、その絵を描いた人が、眼の前の人を()った人物……〈殺人犯〉だと考える?」

 しばらく僕は、そして隣の相棒、来海サンも口を閉ざしたままだった。あまりにも突拍子のない話だったので。

 ようやく僕は言った。

「えーと、それは、君が読んだ小説の話かい?」

「ちがう、言ったろ、俺はミステリなんて読まないって」

「じゃ、マンガやアニメ、ゲームとか?」

「ちがう」

 少年はゆっくり左右に首を振りながら、

「俺が実際にこの目で見たことだよ」

 更に長い沈黙。

 とうとう僕は言った。

「OK。これが物語やドラマなら、その絵を描いた人物が犯人と言うのはストーリー的には大いにあり得る。推理小説では常道(セオリー)だろうな」

  ガタン、

 立ち上がりかけた少年の腕を掴む。

「だけど、現実では、我が国の警察は徹底的に捜査を行う。そうして、本当に殺した人=真犯人を捜し出す。殺していないなら逮捕される心配はない」

「ゼッタイに?」

「絶対に」

「死体を発見したのが俺でも? その上、壁に掛かった絵を描いたのが俺でも?」

「――」

 この日、僕の店に満ちた三度目の静寂。


 どのくらい経っただろう、僕は片手を上げた。

「ひょっとして、君が見たのは和路功己氏かい? 場所は鎌倉市山之内……」

「凄い!」

 少年は目を(みは)った。

「俺のたったこれだけの話から、そんなことまでわかるのか! 探偵の推理力って物凄いんだな!」

「いや、これは偶々(たまたま)だ。君が僕のHPを見ていたように、ある人物が僕に――」

 ここまで言って僕は言葉を切った。

 差出人不明の謎の手紙のことは、今はまだこの子に話さない方がいいと判断したためだ。あの手紙の取り扱いに関しては慎重であるべきだ。

 僕の咄嗟の決断を勘の良い来海サンも即座に理解したようだ。優しく微笑んでフォローしてくれた。

「あのね、この桑木さんはね、画材屋探偵を名乗るだけあって、毎日、全国の事件を広範囲にチェックしているのよ。だから、今あなたが言ったことと類似性のある事件を思い出した、というわけ」

「ああ、なるほど、そういうことか」

 少年は納得したようだ。すかさず僕は続けた。

「ねぇ、君、僕で良かったら力になるよ。だから、さっきの話をもっと詳しく教えてくれないかな」

 少年はしばらく(うつむ)いていた。やがて顔を上げた。

「俺の名は波豆心平(はずしんぺい)。四日前、とんでもないことに遭遇しちまったんだ――」

 唾を飲み込むと、息もつかず、一気に波豆君は語った。

「あの日、1月31日の夜8時過ぎ、(あらかじ)め指定された通り、俺は描き上げた絵を持って和路さんの家へ行った。こういうやり方は4回目だから慣れたものさ。玄関から入って、まっすぐ書斎へ向かう。ドアが半分開いていた。電灯がついていたので和路さんが倒れているのがハッキリ見えた。俺は反射的に室内へ足を踏み入れた。和路さんは完全に死んでた。ピクリとも動かない。死体の頭方向、一直線上の壁に、前回俺が描いて渡した絵が掛軸に仕立てて飾られていた。

 俺、二度見したよ。だって、そっくりだったんだ。和路さんの死様と俺の絵が。ちょうど、3Dマシンに俺の絵を入れるだろ、和路さんが出て来た、ってカンジ」

「君が描いた絵とは、どんなものなんだ?」

 来海サンが紙と鉛筆を差し出す。レジカウンターの上でサラサラッと少年は描いて見せた。 

 薙刀(なぎなた)を持った屈強な僧兵、背後を行く白い小袖を被った(はかな)げなひとり……

 僕はすぐわかった。

「これは――」


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