表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/28

〈25〉


 前回の第4の手紙との繋がりはわからない。だが、今回の手紙が指し示しているのは明らかにネアンデルタールだ……!


 ネアンデルタール(人)とは――

 1856年、現ドイツのデュッセルドルフ郊外のネアンデル谷で発見された化石に命名された旧人類のことだ。

 発見当時は凶暴で残忍な原始人とみなされていた。現在、その認識は劇的に改められた。何しろ現人類の20%に彼らの遺伝子が現存しているともいわれる。

 この〝ネアンデルタールは野蛮な獣人ではない〟という認識の先駆けとなったのがヤグルマ草なのだ。

 1951年~1965年にかけてアメリカ・コロンビア大学教授R・ソレツキ―率いる研究チームが実施したイラク北部シャンダール洞窟の調査で、ネアンデルタール人の屈葬の化石とともにヤグルマ草やノコギリ草など8種類の大量の花粉と花弁が発見された。その量の多さと、現地ではこれらの草花が薬草として扱われていることから、教授は〝ネアンデルタール人は死者を悼む心があり、副葬品として花々を捧げた〟と結論付けた。

 ここまでは僕も知っていた。そして――


「あった、これだな?」

 波豆心平君の言っていた洞窟壁画(ソレ)はサイト検索で容易に見つかった。


 2018‘3’31 :AFP配信記事

〈 国際チームが今年2月米科学雑誌「サイエンス」に発表した研究報告より。スペイン北東部ラ・パシエガ、西部マルトラビエソ、南部アルダレスの三カ所の洞窟遺跡で見つかった壁画の年代を新技術によって測定した結果、6万4000年前まで(さかのぼ)ることが判明した。現人類がアフリカから欧州にやって来たとされる時代より、少なくとも2万年前となる。

 ※新技術とはウラン・トリウム法と呼ばれる年代測定法で壁画表面に含まれるウランの放射性物質を計る方法である。 〉


 2018‘2’22 :サイエンス(抜粋)

〈 スペイン、ラ・パシエガ洞窟、マルトラビエソ洞窟、アンダレス洞窟にて約6万5000年前にネアンデルタール人が描いたと思われる壁画が発見された…… 〉


 2018‘2’28 :サイエンス(補足記事)

〈 2月22日サイエンスとサイエンスアドバンシズ2誌に発表された論文によると、スペインの三カ所の洞窟で見つかった10点以上の壁画は約6万5000年以上前のものであるとのこと…… 〉



 さあ(・・)本当に(・・・)あと一歩だ(・・・・・)

 せいいっぱい伸ばした、夕日に染まった赤い手が切り立った頂きの先端に触れた。その瞬間

「うわーーーーー……」



「うわーーーーー!」

 僕は悲鳴を上げて身を起こした。

 資料を検索しまくっていつの間にかカウンターに突っ伏して寝入っていたらしい。

 Max・Bill1956(店内時計)を見ると、夕方の5時過ぎ。

「それにしても、なんて夢だ……」

 無茶苦茶なイメージだな。ネアンデルタール人の壁画の赤い手と、前回の手紙の帰結、アイスマンがごっちゃになって、カオス過ぎる。

 アルプスの山頂を超えようと切り立った断崖を登って行く僕。遂に掴んだその先端が砕け、僕は真っ逆さまに落下した。深暗のクレバスへ……

 夢から覚めたのに、夢だとわかっているのに、思わず僕は自分の手をじっと見つめてしまった。

 固く握ったままの(こぶし)を恐る恐る開く。

 勿論、夢の中のあの欠片(かけら)……砕けた山頂の断片……煌めく氷塊などあるはずもなく――


 ダダダダダッ


「!」

 走り去る郵便配達のバイクの音に気づいて僕は店から飛び出した。ドア横の郵便受けを覗く。

 あった! 凍蝶の手紙だ。またしても連続投函……!

 そして、これが最後の手紙となった。


 

 〈 第6の手紙 〉


 私に残された時間はわずかとなりました。

 この世を去る前に、今日はこれからあなたにどうしても伝えておきたいことを記そうと思います――





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ