6.魔王の城にて
魔王の城はそれはそれは遠いところに在った。早馬で駆けようと、そう簡単には辿り着けぬほど遠い場所。
「勇者御一行が来るまで、半年以上はかかるだろう。あのペースならもっとかかるやもしれんが。」
一瞬で城について、XXXに部屋を宛がう時に魔王はそう言った。
「暫くはゆっくり出来るだろう。」
暫くは。勇者御一行がここに到着したら、その時は。
「勇者が来るまで、ってこと?」
「その際は、一時的に騒がしくなるだろうな。」
「それもそうね。」
XXXは彼らの顔を思い浮かべて溜息を吐いた。
「茶を用意しよう。着替えたら中庭においで。今は蓮の花が綺麗に咲いている。」
魔王はXXXの頭を撫で、そう言い残して一度別れた。
一見、シンプルではあるがその実洗練されたデザインの家具類にXXXは魔王のセンスの良さに気付く。素材も良いものを使っているのが分かったので、王城で宛がわれた部屋との差に微妙な気持ちになるのだった。
「魔王の方がセンスいいのかあ。」
呟いて、XXXはベッドに身を投げた。行儀が悪いのは分かってはいるが、今だけ、と自分に言い訳をする。やっと解放された安堵感に、体の力は抜けきっている。魔王の城に居るというのに、この世界に来て、初めて心が休まるのを感じていた。…仮に魔王に利用されているのだとしても、別に良いとさえ思っている。尤も、あの魔王はそんなタイプではなさそうだと、XXXは感じていた。
ベッドに横たわったまま、深呼吸をする。良し、と一声呟いてXXXは起き上がった。お茶に誘われているのだ。魔王の用意してくれた、これまたセンスの良いワンピースに着替えてXXXは中庭を目指した。
城の作りは、要塞に近い武骨な印象だとXXXは思う。黒い石が何かは分からないけれど、石造りのこの城はそれでもやはり武骨なのにどこかセンスの良さを感じる。変に飾っていないからかもしれない。必要最小限の、それでも質の良いもので装飾している。異世界版の侘び寂びとか言うのかな、と中庭に向かう間XXXは周囲を伺いながら考えていた。
中庭は花園と蓮が咲き乱れる池があった。花園には黒い百合、黒い薔薇も咲いている。うっすらと桃色に染まる蓮の花を見て、XXXは魔王が黒くない花を推したのだろうなと察する。百合も薔薇も黒い花の花言葉は物騒だったと記憶している。魔王がそこまで考えていたかは分からないけれど。
別に黒い百合も黒い薔薇も綺麗なのに。復讐だとか呪いだとかの花言葉も、今の心境にはだいぶ合っているのだし。
「お待たせ、魔王。」
ぼんやりと蓮の花を眺めている魔王にXXXは声をかけた。椅子から立ち上がって、魔王はXXXを席にエスコートする。こういうところがあの王太子たちと違うのだ。比べても仕方がないし、もう縁はぶった切ったはずなのだから考える必要モ無いはずなのにそんなことが頭を過ってだいぶ毒されているのだなあ、とXXXはガッカリした。
「少し、話しをしておこうと思ったのだ。」
魔王はそう言った。その様子から、XXXは大事な話だろうと姿勢を正した。