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2.魔王との邂逅

 まさかこんな場所に魔王が居るなど、誰が考えようか。


 ほんの少しの間で良いから一人の時間が欲しいと宿を抜け出したその先で、二人は出会った。

いつもと違う気配、耳が痛くなるほどの静寂に誘われるようにXXXは町外れに向かっていた。

 こんな静かな夜は初めてだ、と不思議に思いつつ向かった先に、ただ一人。そう、ここに来るまでに誰一人として出会わなかった不自然さに今頃気が付いて、XXXは――…

まあいいか。と思い直す。

 鬼が出ようが蛇が出ようが、これ以上悪い事などあるものか、と。


「…こんばんは。お嬢さん。」

初めて普通に接してもらえた、とXXXは感じた。程よい素っ気なさ。媚びるでもなく、横柄さも無く、ただ出会ったから挨拶をした、それだけの感じが。今の彼女にはとても心地よかった。この世界に来て、初めてのことだった。

「こんばんは。」

その心地よさが嬉しくて、彼女は笑顔で挨拶を返した。

「…君は、」

そう言いかけて彼は口を噤んだ。懐かしさを感じる黒髪に、黒い瞳。そうして彼の額には二本の角らしきものが見て取れた。亜人とかそう言うものだろうか、とXXXはぼんやりと考える。

「…君は、私が怖くないのか。」

彼は改めてそう言った。さっき言い淀んだ言葉の続きだろうか、とXXXは考える。

「怖い? どうして?」

質問に質問で返してしまった、とXXXはハッとするが、彼は特に気にした様子も無い。

「どうして? 気付いたんだろう?」

そう言って彼は角らしきものを指す。

「ああ…」

XXXはなるほど、と思う。やはりあれは角で間違いなく、人外の証なのだ。この辺では恐怖の対象なのだろうか。

「その反応は初めてだ。」

「別に何かされた訳じゃないし… それに…」

今度はXXXが言葉を濁した。

「…それに?」

「…王太子、って言うか勇者様御一行の方が、私には厄介だもの。」

思い切ってぶちまけてみる。彼はきょとんとした表情でXXXを見た。

「君は? 勇者と知り合いなのか?」

「聖女ってやつ、みたいよ。」

肩をすくめた彼女がそう自嘲気味に笑うと、初対面の誰とも知らぬ相手だというのに堰を切ったようにこれまでのことを話した。


「そうか。私は、君たちの言う魔王というやつだ。」

XXXの話しを一通り聞いた後、彼は静かに言った。

「私の首を取るか?」

XXXは首を横に振った。彼女にとっては無意味なことだ。

「そうか。ならば私と共に来るか?」

「…行って、みたい。けど…」

XXXは躊躇う。魔王が思いの外まともならついて行くのも良いかもしれないが、自分が消えた後また誰かが召喚されて犠牲になるかもしれないのだ。

「今宵は勇者の様子を確認に来ただけだ。…次の満月の夜に再び(まみ)えよう。その時まで、気持ちをはっきりさせておくとよい。」

魔王はそう言い残して姿を消した。


 まるで夢でも見ていたかのような、ひと時。何かを失ったような、僅かの切なさを胸にXXXは宿へ戻る。

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