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ウルフ  作者: やなぎの裕流莉
54/54

54. 昨日見た夢のように

草野克則が目を覚ました時には、病院にいた。

同僚である嶋将大警部の話によると、草野克則は、山梨県の山奥で発見されたらしい。瀕死の状態で運び込まれ、3日間、目を覚まさなかったようだ。

また、沖田鉄平巡査の遺体と狼の死体が草野克則発見場所の近くで見つかった。一緒に捜査をしていた山崎信一巡査部長は行方不明で、捜索を続けている。


「山崎は見つからないかもな…。」

草野克則はボソッと呟いた。


「そう言えば。天童真理夫という男は近くにいなかったか?」

狼村から抜け出せたということは、田原葉月が人狼だったということだ。

天童真理夫はどこかで生きているはず。

調べてみるよ、という同僚に追加で13人の情報も欲しいと依頼した。

人数が多過ぎて渋っていたが、わかった、と言い残し、同僚は去っていった。


天童真理夫だけでも、見つかっていればいいのだが…。



数日後、嶋将大がやってきて、依頼されていた人物の情報を持ってきた。

天童真理夫は神奈川県横浜市の病院に運び込まれたが、案外軽症でもう職場復帰していた。

田中次郎や石原兼続、龍造寺猛虎ら狼村で出会った人たちは殆ど遺体となって発見されたらしい。

「各県警から情報を集めるのに苦労したよ。」

「嫌味にしか聞こえねーな。」

そう言って、草野克則は笑った。


未だに発見されていないのは、犬飼陽子、山崎信一、田原葉月、そして大神満だ。

狐の死体が1体、新たに発見されたらしい。


見つかっていないのは、大神満と狼1匹か…。

昨日見た夢のように、田原葉月は人間として生まれ変わり、どこかで大神満と暮らしていればいいな。

大神満の遺体が見つからないことは、草野克則に少しだけ期待を持たせる出来事だった。


「狼に喰われた遺体が見つかる事件はヒントすら掴めてねーんだ。お前、あの事件についてなんか分かったのか?」

嶋将大の問いに草野克則はただじっと前を見つめて答えた。

「少しはな。ただ、全然わからないとも言えるな…。俺が生きてるのも不思議なくらいだ。」

「分かるのか、分からないのか、はっきりしねーやつだな。頭までおかしくなったんじゃねーか?」

「…かもな。」


「大神さーん。お孫さんがお見舞いに来たよー。」

看護師の声が聞こえた。

オオカミ?

ガラガラっと開いたドアの先には、大神満にそっくりな少年が立っていた。


少年は30分ほど隣のベッドのご老人と話した後、そろそろ行くよと言い、腰を上げた。

「じゃあね、じいちゃん。長生きしてね。」

と言って、部屋を出ようとしたが、足を止めた。

少年は徐ろに草野克則の方に顔を向け、頭を下げた。

「祖父がご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします。」


大神満似の少年に声をかけようか躊躇っていた草野克則は思い切って聞いてみた。

「お、大神くん?だよな?俺のこと覚えてないか?」

背格好だけでなく、声やその態度まで、余りにも大神満に似過ぎていた。


少年は首を傾けた後、かぶりを振った。

「何だ。満。知り合いか?こいつはどうも。」

隣のベッドのご老人が会釈した。


ーミツル…か。

「…何処かで見たような気がするんですけど…。ごめんなさい。お名前は?」

「草野だ。草野克則。山奥にあるとある村で君と会ったことがあるんだが。」

「草野さん…ですか。」

少年は、一生懸命思い出そうとしていたが、思い出せない様子だった。

「すまない。思い出せないならいいんだ。」

少年は深々と頭を下げて、部屋を後にした。


病院は暇なものだ。

窓の外を見ていた草野克則は、病院から1匹の犬が出てくるところを見た。その犬は、青みがかった黒の毛をしていた。

…まさか、狼?と思った瞬間、その動物は倒れ、数秒後にいなくなった。

何だったんだ?今のは。


ふと息をつく間もなく、草野克則の携帯電話がなった。

山奥で、狼の死体が1体と、大神満と思われる少年の遺体がたった今見つかったらしい。

田原葉月が大神満に化けて、彼の祖父に最後の一言を言いに来たのかもしれないな。草野克則は、そう思った。


先ほど、大神満似の少年が立っていた付近には、青みがかった黒い毛が、数本落ちていた。

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