5. 人狼
「それは人狼の仕業かもしれないな。」
ここ数日の事件の概要を話すと、田中次郎は渋い顔をして言った。
「ジンロー?何だそれ?」
「人に狼と書いて人狼。霊媒術の授業で習ったことがある。」
「ふーん…。で、そいつは何なんだ?」
「簡単に言うと、人喰い狼だ。ただ奴らは普段は人間の姿をしてる。」
「え!?」
「夜中0時から3時の間の数10分間だけ狼に姿を変えて、人を襲うらしい。」
「―ほ、他に…他にその人狼の情報はないのか?出現する場所とか、その狼の特徴とか、対策とか…。」
気づけば、草野克則は躊躇なく質問を投げかけていた。
3人とも死亡推定時刻は0時〜3時の間だ…。
”人狼”が実在し、事件解決に近づいていることを願っている自分がいることに、驚きを感じていた。
「特徴はわからない。霊媒術の教科書には、そこまで書いてなかった。
ただ、現れる場所だが、人狼が住む村への扉があるらしく、その扉は突然何処にでも現れて、そして消える。人狼に喰われた人間の遺体も突然その扉から現れるらしい。」
「それは、突然扉が埼玉や千葉、大阪に現れる可能性があるってことか?」
「ああ。そういう可能性もあると思う。遺体は人気のない山の中で見つからなかったか?」
田中次郎の質問に草野克則はゆっくり頷いた。
「村への入口となる扉はどこに現れるかわからないが、出口は山の中に現れる可能性が高いらしい。」
「可能性あり、か…。対策は?何かあるのか?」
霊媒術でも何でもいい。ここで対策を打って被害者が出ないようになれば…。
「人狼の対策だが、プロの霊媒師でも対応できない。人狼なんてもはや架空の存在だと思ってたが、まさかな…。」
草野克則の期待は見事に裏切られた。
「今朝、高校で霊媒術の授業を受ける夢を見てな…。」
田中次郎はマイルドセブンを取り出し、火をつけた。
「霊媒術の教科書を引っ張り出したんだよ。兎に角扉に近づいてはいけない、と書いてあった。
扉を空けてしまう条件は3つある。
身近に死が存在した場合。
頻繁に狼の話題が出る場合。
そして、暴風雨の日。
この条件3つが揃うと扉が現れるらしい…。」
そのとき、草野克則の携帯電話が鳴った。
「草野だ。ああ。ああ。え?本当か?ああ。ああ…。」
草野克則は何度か相槌を打った後、電話を切った。
「中林が…中林重蔵が、秋田の山中で遺体で発見されたらしい…。どうやらまた、狼と絡んでそうだ。」
「なっ!?」
2人は暫くの間黙り込んだ。
窓ガラスがカタカタと音を立てている。
雨に加えて、風も少し強くなっていた。




