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三日後。

見上げるほどに大きなクロウベアが挑戦者として現れました。

あちこちに古い傷跡がたくさんあって、見るからに連戦の勇者様です。

油断なくこちらを見据える瞳も、自信に満ちた力強さを湛えておられました。


お師匠様はじめ、お三方はわたくしを護るように周囲を取り囲みました。

油断なく身構えるお三方を、わたくしは慌てて引き留めました。


「みなさん、この熊さんは、森の主を巡って、わたくしに挑戦しにいらした方ですわ。」


お三方はわたくしのほうを振り返らずに、じっと熊さんのほうを見据えたままでおっしゃいました。


「いけません。

 こんな大熊と戦っては、聖女様のお命にかかわります。」


「森の掟かなんか知らんけど。

 お嬢ちゃん怪我させるような試合は黙って見過ごされへん。」


「聖女様、ここはおいらたちに任せておいてくださいっす。」


―ってことだけど、どうする?―


フェアリーさんはわたくしにお尋ねになります。


―あんたがちゃんと戦って負けを認めないと、森の主は移らないよ?―


「理解しております。」


わたくしはお三方の後ろからゆっくりと進み出ました。

フェアリーさんは楽しそうに笑いました。


―ふふふ。いい度胸だ。

 それで?何で勝負するの?

 まあ、ここはおまけして、木登り競争かなんかで・・・―


「お相撲にします。」


「はあっ?!」


同じセリフが綺麗に四つ重なって返ってきました。


「っそ、それは、あまりに無謀な・・・」


「お嬢ちゃん、本気かいな?」


「聖女様~、それはおやめくださいっすぅ・・・」


―なにも、命懸けの勝負しろってわけじゃないんだよ?―


四方向から一斉に引き留められました。


「あら?熊さんとなると、古来から勝負はお相撲と相場は決まってますわ?」


わたくしはどうしてみなさんがお止めになるのか分かりませんでした。


「正々堂々と勝負しなければ、森の主は移りませんもの。」


「いけません。どうしてもそんな無謀なことをなさるとおっしゃるなら、このわたしの命に替えてでも!」


「お嬢ちゃん、そんな無茶はさせへん!」


「聖女様~~~~~!」


―ちょ、ま―


「ええい、ごちゃごちゃとうるさいですわ。

 先手必勝!

 どぉりゃあああああ!!!」


気合一閃!

わたくしは全力で熊さんに組み付くと、渾身の力で持ち上げて放り投げました。


「え?」


今度もまったく同時に四つの声が重なりました。

熊さんは存外軽く、ぽーいと簡単に投げられました。

あんまり呆気なかったので、拍子抜けしてしまったくらいです。


「あら。もっと重いかと思いましたわ。」


「・・・そういや、日頃からあの大鍋担いで、鍛えてはるもんなあ・・・」


お師匠様のつぶやきが、静けさのなかにぼそりと響きました。


それからも、次々と挑戦者は現れました。

そのたびに、わたくしは正々堂々とお相撲をしました。

そして、そのたびに、正々堂々と勝ちを修めました。


―ってさあ、あんた、森の主を誰かに譲りたかったんじゃないの?―


フェアリーさんは呆れたようにおっしゃいます。


「もちろんですわ。

 けれど、正々堂々と戦って負けないといけませんのでしょう?」


そう言ってから、わたくしははたと気づきました。


「もしかして、フェアリーさん、挑戦者のみなさんに手加減なさるように言い含めてくださったのですか?」


あのときの魔法文字、あまりに長いので、シルワさんも途中で読むのをやめてしまわれたのです。


フェアリーさんは気まずいことのばれた子どものようにそっぽをむかれました。


―あ。あー・・・まあ、一応、書いておいたけどね・・・

 けどさ、そんなのいらないくらい、あんた強いよね?


わたくしはフェアリーさんにきっぱりと申しました。


「ずるはいけません、ずるは。

 正々堂々わたくしを倒せる方でなければ、森の主を任せられませんわ。」


「けど、そんな猛者、この森におんのんかいな・・・」


お師匠様はため息を吐かれます。


「もういっそのこと、このまま森の主になってしまわれます?」


シルワさんはにこっとしておっしゃいました。

それにフィオーリさんも右手を挙げて続きます。


「あ。それいいかも。

 聖女様といると食いっぱぐれもないしさ。

 おいら、それ、さんせー。」


賛成が二票も入ってしまいました。


「申し訳ありませんが、それは承諾いたしかねますわ。

 わたくしは、オークの許に参らねばならないのです。

 そうして少しでも襲われる村を減らすこと。

 それがわたくしが旅をしている理由なのですから。」


わたくしははっきりとお断りしました。


―ならさ、もう、さくっと負けようよ?―


そうおっしゃるフェアリーさんはどこか投げやりな様子です。


「とりあえず、お相撲、はあかんよな?

 あんたにお相撲で勝てるもんは、もうこの森におらんやろ?」


お師匠様は説得なさるようにおっしゃいました。


「そんなことは分かりませんわ!

 それにわたくしには、お相撲のほかに正々堂々、勝負できるものはございません。

 最初から負けると分かっていて勝負を挑むのは、正々堂々にはなりませんわ。」


―ならもう、この森にあんたに勝てるやつなんかいないね・・・―


「やっぱ、もう諦めて、森の主になりはる?」


賛成三票になってしまいました・・・


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