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お師匠様のおかげで、とても野営とは思えないほど、毎回豪華な食事が並びます。


「聖女様といると食べ物に困らなくていいっすよね。」


フィオーリさんはわたくしたちのなかでは一番小柄なのですが、いつも一番たくさん召し上がりました。


「まったく、転ぶたんびに、なんか食材、獲ってくるもんなあ。」


「けど、そのおかげであんまり先へ進まないってのもあるんっすけどね。」


そうなのです。

この森に入ってからというもの、わたくしはとてもよく転びます。

以前から、何もないところで転ぶのが特技だ、とお父様に笑われることもありましたが、それでも、ここまで四六時中転んだりはしておりませんでした。

それが、この森に来てから、転ぶこと転ぶこと。

確かに、そのたびに食材が手に入るので、助かると言えば助かるのですが・・・

同行していたみなさんに次々と愛想をつかされ、とうとう、お師匠様とフィオーリさんとシルワさんの三人だけになってしまったのも、わたくしのこの転び癖が原因なのは間違いありませんでした。


「わたくしのせいで、ご迷惑をおかけしておりますわ。」


「とんでもない。

 転ぶたびに貴女も痛い思いをしておいでなのですから。

 わたしも、なんとか転ばせないように、と気をつけているのですが、いつも、ちょっと目を離したすきに、転ばせてしまって・・・」


シルワさんは辛そうに言葉を切りました。


「まあ、大した怪我、してないってのは救いっすけどね。」


軽く言ったフィオーリさんに、お師匠様は少しばかり難しい顔をなさいました。


「それは、どうやろな。

 シルワさん、あんたさっき、かなり無理したやろ?」


「え?」


シルワさんはちょっと驚いたように笑って、それから、いえいえそんなことはありませんよ?と急いで否定なさいました。


「ごまかしても無駄や。

 なんぼ詠唱なし呪具もなしやったとしても、あんたが倒れるまで魔力使うて。

 それ、よっぽどの大怪我やろ?

 骨、いってたんと違うか?」


「え?・・・ええ・・・まあ・・・」


シルワさんは気まずそうに視線をそらせながら、曖昧に頷きました。


「まあ、それは、気づかぬこととはいえ、大層なご迷惑を・・・」


慌てて謝ると、シルワさんは、いいえ、と小さく首を振られました。


「どうか、ご迷惑、などとおっしゃるのはおやめください。

 わたしは、貴女にお仕えできるのを、至上の歓びに感じているのですから。

 なのに、怪我を未然に防ぐこともかなわず、その上、治療もできないとなれば、わたしにお仕えする意味などなくなってしまいます。」


その様子を見ていたお師匠様は、ふん、と鼻を鳴らされました。


「エルフさんのええ格好しいなんは大昔からやから、とりあえず置いとくとして。

 そんなことより、問題なんは、お嬢ちゃんがそんな大怪我した、ちゅうこっちゃ。」


「確かに、この調子でエスカレートしていくとなると、それはまずいですね。」


シルワさんもうなずかれました。


「ということやねんけど。

 ちょっと、妖精さん、あんたなんか知ってはるんちゃうの?」


お師匠様はいきなり宙に向かっておっしゃいました。


「そうですね。何かご存知なら、ぜひ教えてください。」


シルワさんも大きな声でおっしゃいました。


フェアリーさんはさっきからわたくしの頭の上を飛んでいらっしゃいましたが、いきなり話しかけられて驚いたようでした。


―まさか、ぼくが見えている・・・ってわけじゃないのか。

 しっかし、自分たちには見えないのに、あんたがそう言っただけで信じるなんて、あんた、よっぽど人望あるんだね?―


「わたくしの人望というより、お師匠様とシルワさんがご立派だということだと思いますわ。」


―まあ、なんにせよ、あんたにならちょっとくらい協力してやってもいいか・・・―


フェアリーさんはそう言うとわたくしの目の前にいらっしゃいました。


―あんたはね、この森の呪いを受けてしまってるんだ。

 それを解かない限り、この森から外に出ることはできないんだよ。―


「まあ。森の呪い、ですか?」


―そう。

 そもそもの発端はね、あんたがこの森に来て最初に転んだときだ。

 そのときに、大猪を一頭、倒してしまっただろう?―


「・・・ええ。先日、みなさんと美味しくいただきましたわ。」


―あれはね、この森の主だったんだよ。―


「ええっ?森の主?」


―そう。この森の掟では、森の主になるには、前の主を倒さなくてはならない。

  逆に言えば、森の主を倒してしまった者は、次の森の主にならなければならない。―


「ええっ?

 では、わたくしは、この森の主に就任してしまったということなのですか?」


「なるほど。

 だから森が貴女を離してくれないのですね?」


わたくしの声しか聞こていなかったはずなのですが、シルワさんは事情をちゃんと理解してくださったようでした。


「お嬢ちゃんが出ていかんように、必死になって足止めしとる、ちゅうわけか。」


お師匠様もうなずかれました。


「えっ、でも、じゃあ、どうしたらいいんっすか?」


―一番簡単なのは、あんたがこのまま森の主になることだけど。―


「・・・そういうわけにはいきませんわ。

 わたくしは次のオークのもとへ行かなければ。」


―だったら仕方ない。次の候補に主を譲るしかない。―


「まあ、譲ることができるんですか?」


―それも簡単だよ。

  あんたが次の主候補に倒されればいいんだ。―


フェアリーさんはちょっと意地悪な顔をして笑いました。


「え?・・・わたくし、倒されなければならないんですか?」


「それはいけません。

 聖女様を傷つける者がいるなら、わたしは全力でお守りします!」


「右に同じくや。」


「おいらも同じっす。」


気色ばむみなさんを、フェアリーさんは、やれやれ、と見回しました。


―これだから血の気の多い冒険者ってやつは・・・

 いいかい?倒されるったって、なにも死ぬわけじゃない。

 まいりました、ってあんたが降参すればいいってこと。―


「まいりました。」


―いや、今ここで言ってもだめだから。

  誰か挑戦者が森の認める正当な方法であんたに挑戦して、その勝負であんたがまいりました、って言う。

  そうすれば、森の主はそいつに移る。―


「なるほど。」


それならなんとかなりそうです。


「では、その挑戦者の募集は、どうやってやればよいのですか?」


―そうだな・・・

  そのくらいならぼくが手を貸してやってもいいよ。―


フェアリーさんはそう言うと、人差し指を立てて、さらさらと宙になにか描き始めました。

フェアリーさんの描くのに合わせて、きらきらとした妖精の粉がそこへ乗っていきます。


「おや?魔法文字ですか?」


そこに現れた文字のようなものにシルワさんが気づかれました。


「え?文字?そんなの、どこにあるんっすか?」


きょろきょろなさるフィオーリさんにお師匠様は苦笑しておっしゃいました。


「魔法文字は魔法の心得のあるもんにしか見えへんねん。」


「なるほど。だから辛うじてわたくしにも見えるのですね?」


「へえ、なんて書いてあるんっすか?」


「・・・申し訳ありません。

 不勉強なもので、文字だとは分かるのですけれど、何と書いてあるのかまでは・・・」


「それは、残念っす。

 シルワさんには読めないんっすか?」


シルワさんは、えーっと、と宙の文字に目を走らせます。


「・・・森の主急募。

 あなたも森のみんなに愛される主になってみない?

 もちろん名誉職で時給はただ。

 応募される方は・・・」


「なんっすか、それ?!」


フィオーリさんは目を丸くしました。


「ワタシやったら、ぜったい応募せえへんわ、それ。」


お師匠様は呆れたようにおっしゃいました。


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