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そういえば、転んだ時に、なんか変な音、聞きましたっけ?

ぎゃふん、とか。

あれは、もしかして、このフェアリーさんの声?

わたくしは気を失っているフェアリーさんをそっと掌に乗せました。


フェアリーさんは掌にちょうど乗るくらいの大きさで、重さはほとんど感じません。

見目麗しく整った姿は、まさしく、小さなお人形さんのようでした。

からだと同じくらいの大きさのある長い透明な羽が、ぴくぴくとかすかに震えています。

目を閉じて眠っているように見えますが、ちゃんと息をしているのか確かめようにも、耳を近づけても何も聞こえませんでした。


「え?

 ・・・やだなあ、聖女様、おいらのこと、からかったんっすか?」


掌を覗いたフィオーリさんはそう言って笑いました。


「なーんも、いないじゃないっすか。」


「え?」


わたくしは目を丸くしました。

フィオーリさんには、この可愛らしいフェアリーさんが見えていらっしゃらないのでしょうか。


お師匠様とシルワさんも同じようにわたくしの掌を覗いておられましたが、どちらもわずかに首を振られました。


「・・・確かに、ここに、いらっしゃるのですが・・・」


わたくし、もしかしてどこかおかしいのでしょうか?

不安になったわたくしに、お師匠様はおっしゃいました。


「多分、それは、お嬢ちゃんにしか見えてへんねん。」


「貴女を疑ったりなどするものですか。

 わたしも実物に出会ったことはありませんが、実体化前のフェアリーは特別な相手にしか見えないものだそうです。」


お二人は慰めるようにおっしゃいました。


「特別な相手?」


「そう。そのフェアリーさんの運命を変えるような相手、だそうですよ?」


「フェアリーさんの運命・・・」


わたくしはもう一度まじまじと自分の掌を眺めました。

やっぱり、そこには、可愛らしいフェアリーさんがいらしゃいます。

さらさらした金色の髪は絹糸より細く、かすかに震える睫毛も、よく見ると金色でした。


「あの・・・このフェアリーさん、目を覚まさないのですけれど、大丈夫でしょうか?

 多分、さっきわたくしのリュックが当たったのだと・・・」


わたくしは不安になってシルワさんに尋ねました。

シルワさんは安心させるように微笑んでおっしゃいました。


「大丈夫だと思いますよ。

 そもそも、実体化していないのに、怪我のしようもありませんから。

 びっくりして気を失っているだけでしょう。」


「怪我がないのなら、よいのですけれど・・・」


それでも、目を覚まさないのは心配です。

けれど、揺り起こそうにも、ちょっと力を入れただけで、壊してしまいそうです。

綺麗で繊細で壊れやすいガラス細工。

フェアリーさんはそういったものと同じに見えました。


「・・・わたくし、壊れやすいものは、苦手なのです・・・」


しかし、誰かの手を借りようにも、わたくしにしか見えていないのではどうしようもありません。

どうやって起こそう・・・

しばし悩んだわたくしは、一計を案じて、聖水を取り出しました。


ばしゃり。

あ。


加減したつもりなのですが、結構大量にお顔にふりかかってしまいました。


―・・・ぐ。

  ぶへっ!

  ちょっ!!

  溺れる溺れる!!!―


流石、神殿仕込みの聖水です。

聖水ならフェアリーさんにも届くんじゃないかと思いましたが、見事予想は的中し、フェアリーさんは一発で目を覚ましました。


「大丈夫ですわ。

 いまだかつて、聖水で溺れた人はおりません。」


―はあ?

  なにそれ。

  それが、人を溺れさせかけたヤツの言うこと?―


フェアリーさんはご立腹です。


「あああ、申し訳ありません。

 でも、溺れる心配はないと申し上げたかっただけですわ。

 それより、お怪我は?

 どこか痛かったり苦しかったりはしませんか?」


―べつに。

 てか、あんた、ぼくが見えてんの?!―


フェアリーさんは驚いたように言って、ぷーん、と飛び立ちました。


きらきらした羽はちらちらと金色の粉を飛ばしています。

あれが、話しに聞く妖精の粉というやつなのでしょうか。

粉は空中できらきら輝いて、そのまま淡雪のように消えていきます。

なんとも不思議な光景でした。


「まあ、綺麗。」


―そりゃ、どうも。

  って、本当にぼくが見えてんだ・・・―


フェアリーさんは、呆然、といった顔をして、こっちを見ています。

そんな表情をしていても、可愛らしさは少しも損なわれていません。


「わたくし、フェアリーさんを見たのは初めてです。」


胸がどきどきして、頬が熱くなります。

この感動はどう伝えたらいいのか分かりません。


―まあ、ぼくらは滅多に人の目には止まらないからねぇ・・・―


フェアリーさんはしかめっ面のまま、腕組みをして宙に胡坐をかきました。


「まあ、お上手。」


―はあ?

  小さい子どもじゃないんだから、いちいちその反応、やめてくれない?―


思わずぱちぱちと拍手をしたら、思い切り冷たい目をむけられてしまいました。


―言っとくけど、ぼくはあんたが生まれるずーっとずーっと前から、この森にいるんだからね?―


「まあ。では、フェアリーさんが不老不死だっていうのは、本当のことでしたの?」


―不老不死とまでは言えないけどね。

  まあ、あんたたちの時間軸からしたら、それに近いくらいぼくらの時間はゆっくりだってこと。―


フェアリーさんはそう言ってから頭をぶんぶんとふりました。


―って、なに丁寧に説明してんだ、ぼく。

  人間に見つかるなんて、一大事だってのに。―


「・・・あのう、さっきから聖女様は、妖精さんとお話し中ですか?」


横から恐る恐ると言った感じでそうおっしゃったのはシルワさんでした。


「ああ、申し訳ありません。

 ほら、ここにいらっしゃいますのよ?」


わたくしはフェアリーさんを指さしましたが、お三方は首を傾げただけです。


「おいらたちには、聖女様がひとりでぶつぶつ言ってるようにしか見えないっす。」


あはは、と笑ってフィオーリさんはおっしゃいました。

そのフィオーリさんに向かって、フェアリーさんはいきなり、あかんべ、をなさいました。


「まあ。ふふふ。面白い顔。」


フェアリーさんのお顔が面白くて思わず笑ってしまったら、お師匠様は、あんぐりと口をお開けなさいました。


「・・・まぁた、妙なもん、拾てきよったなあ・・・」


それからため息を吐かれました。



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