過保護な未来
「ねえ、トルーパー。海を見に行きたいな」
「行く?VRではなくて?」
「実際に行ってみたいんだ」
トルーパーは首をしきりに動かして問題解決しようと一生懸命だった。
僕はイタズラっぽく笑ってそれを見てた。
どうせダメなんだろう?環境破壊が進んで、保護された室内でしか生きられない僕ら。
「何とかなんない?」
「そうですね、近くまでお連れする方法があるにはあるのですが」
「本当に?!」
「生命維持装置のついた透明な箱に入っていただき、それごと海の近くへお運びします」
そんな移動手段しかないのか!
本で読んだ海の知識。潮の香り、しょっぱい水。海の生き物。そんな素敵なものに触れることさえ許されない。
大気は濁り、呼吸することもままならない。ただでさえひ弱になってゆく僕らにさらに過保護な扱いが弱体化に追い討ちをかける。
「ねえ、知ってる?僕らは海から生まれてきたんだ」
「進化ですか?」
「そうそれ。だから、いつか、そこに還らなくちゃならない」
「本当に?」
「……いや、言ってみただけ」
咳が出た。いつもの薬を服薬すると、眠くなる。
退化だ。今の僕らはその一途を辿っている。
「トルーパー」
「はい。なんでしょうか?」
「海には行かなくて良いよ。夢の中の海に行ってくるから」
力なく腕をだらんと下げて、ベッドから離れられない状態のまま、僕は笑ってみせた。
僕が眠っている間、トルーパーは、仲間の異星人たちと僕たちの処遇について議論していた。
絶滅危惧種・ヒト