棺にむかってマグマが竜巻のようになって吹き上げる
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暗闇の中で無言の決意をした。決意は魂の中でするものだ。眉一つ動かす必要はない。今日の僕は植物だ。植物が成長するのは自然の摂理であり、人間の観測能力がたどり着けない領域にある。口の中で造った15個の結合した鍵を植物が成長していくかのように、ゆっくりと伸ばしていく。そして鍵穴に接触すると、音も立てず滑らかに、あたかも既に空いていたかのように、自然な軌道で回転し、鍵の侵入を許した。僕は汗のひと粒も垂らさずに鍵を一つ一つ通していく。いよいよ15個目の鍵穴に差し掛かった。だが僕の集中力はもはや大地にその根を降ろした老木の次元に達している。しかし、今日は何かが違う。僕の集中力は完璧なはずなのに、15個目の鍵穴の層で、何かが起きている。その微々たる計算外の出来事によって、15個目の鍵は鍵穴の数ミリはずれた所に掠ってしまった。咥えたチューブの鍵から、鍵穴からの空気の振動が伝わってきた。まずい、パルザトスだ。奴が辿り着いてしまったら、僕はここから出られる機会を失ってしまう。しかし、桁外れであろう感じ取った出来事は、僕の老木までもなぎ倒していった。15個目の鍵は開かない。いよいよパルザトスは目の前まで迫っている。奴の荒々しい鼻息までもが伝わってくる。気分悪いぜ。まぁ、またちょいとばかし眠るとするか。
しかしパルザトスは通り過ぎていった。僕のミスに気づいていないのか?それとも、僕も想定していないことが起こっているのか?なんでもいい、神様がくれた、いや、僕の必然力が導いた好機だ!この世界が僕を待っているんだ、そしてこの手で破壊されたがっているんだ。
ついに15個目の鍵穴が開く。幾つもの階層に分かれた地獄の棺は、音を立ててその内側に施された醜い装飾をあらわにした。ようやく娑婆にでられるぜ。久々の空気はものすごい熱気を伴った、マグマの上にわずかに流れるものだった。しかし、今の僕にとっては極上の森林マイナスイオン含有オキシゲンだ。忌々しい棺の階層を段差にして吊るされた鎖に手をのばす。すると、この最深部の牢獄全体が見渡せる。
怒るパルザトスの目線の先で、棺の下半分がマグマに覆われている。パルザトスはその棺からの脱走を防ごうとするが、さすがにマグマに手を煩わせている。その間に登りきってパルザトスの部屋へと上がり込むと、この前代未聞の瞬間に奴はパニック状態に陥っている。
「これはまったく見ものだな」
落ち着かないパルザトスは僕の方に歩みを進めようとしたが、少し考え、再びその棺の封じ込めを試みる。するとその真下のマグマが大きな泡をいくつも膨らまし、爆ぜる。周辺の空気を焼き尽くす轟音が徐々に大きくなると、棺に向かってマグマの竜巻のようになり、昇り龍のように上昇する。これでは、いくら脱獄のチャンスであっても、中の人間はひとたまりもない。そう思ったそのとき!
「沈みゆく古の王国!!」
なんとマグマの竜巻の中心から、突如渦潮が現れ、次第に拡張し、水の巨城が現れた。