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オヒメサマとの接触


「困ったことはありませんか?」


 お姫様が目の前に座ってそんなことをいきなり切り出した。


 俺は俺姫様にサロンに呼び出された。二人きりというわけではない。サロンの入り口には二人の騎士がいるし、姫の背後にはメイドも控えている。

 中村がいうにはお姫様は優秀な魔法使いであるらしい。そして、何よりもかなりの美人である。王国屈指とも言われている。

 そんなのに呼び出されて期待しない男は少なくはないだろうが、そういう話ではないことはすでにわかっている。

 俺の待遇についてだろう。おそらく、その件について何か思うところあるらしく、俺に話が聞きたいことがあるのだろう。

 まあ、ただのネズミ採りが姫様に注目されているはずがなかった。おそらく、ゴブリンの件も知らないだろうしな。


「特にない」


 俺はしっかりと答えた。

 それを見て、お姫様は困ったような顔になった。随分とかわいらしい顔だ。俺でなえれば、勘違いして惚れてしまうところだ。


「私の幼馴染が迷惑をかけているようで」


「元婚約者では?」


 幼馴染とは言っているがあの騎士団長と目の前のお姫様は元婚約者だ。その様子を見るに今回の件がなければ、うまくいっていたように思える。

 それにレベル30はある騎士だ。もてはやされて当然ともいえる。

 そりゃあ、姫様からも一目を置かれ、婚約者として十分に誇れるものだろう。


 そのままゴールというわけには行かなかったらしい。異世界より勇者が来たのだ。

 どういう経緯で来たのか俺はよく知らないが、それが二人の運命を分つ結果になったようだ。


「それはそれでは?」


 笑顔でお姫さが言った。随分と冷めた反応である。

 あちらはわからないが、こちらには一切の未練も感じさせないものであった。


「彼も所詮は【勇者】候補の一人でしたが、【勇者】ではなかったので・・・」


 あまり残念でなさそうに残念そうなことを言う。婚約者であり、幼馴染。それ以上もそれ以下もないという感じである。


「倉田様も倉田様で立派ですから」


 その笑顔ままでいった。彼女は婚約のことに興味はあまりないようだ。というか、その件について諦めているような印象だった。

 おそらく、本当は騎士以外に意中のものがいたような気がした。

 だが、そのもののために、恋心を隠し、恋愛には諦めている、そんな風に俺は感じ取った。


「なるほどね」


「私もこんななりをしていますが、【勇者】の妻としての資格があるかどうか疑問ですしね」


 こんななりというのは自分の美しさとやらを十分に自負しているように思えた。ただ、同時にその事が自分にとっては不利益しか生んでいない。

 そんな雰囲気をか持ち出していた。


「ほう」


 俺にとっては意外な意見だ。これだけの美人だ。自分こそ【勇者】にふさわしい女性と思い、手入れを欠かさず、努力を積み重ねてきたと思っていた。

 だが、彼女自身はそういう風には過ごしてこなかったようだ。


「ただの王の娘というだけで、何の能力もない子娘が【勇者】の嫁にふさわしくないと思いますが?殿方が欲しいのは私ではなく、私の体と名誉ですから・・・」


 彼女はため息をついた。

 世の中の男性のほとんどの思いを一気に否定した。まあ、彼女のことをよく理解しようとしても最初は名誉と体の方が気になるものだからしょうがない。

 むしろ、そういうことにならないタイプの方が珍しいともいえる。


「それが姫様だしな」


「わかっていますが、愚痴の一つや二つ言ってみたいと思いませんか?」


 人間悩みの一つや二つあるものだと、彼女は暗に言っていた。そんなもんだと俺も思う。


「息抜きは確かに必要だな。あんたには・・・」


「ねずみ狩りさんが本気出したら、私を此処から攫ってくれますか?」


 突然の告白にドキッとした。こんなことを美人に言われてドキッとしない男性がいるのだろうか?

 俺は戸惑いを覚えながら、聞く。


「なんでそんなことをいう?」


「あなたならできそうな気がしたので」


「さあな。できるかもしれないし、できないかもしれない。俺の力がどれほどものか、自分でも把握できないしな」


 それが本音だ。俺にどんな力が備わっているのか、いまいち自分自身でもよくわからない。かなり、チートな能力のような気がするが、その能力の概要がいまいちわからないのだ。

 ねずみを簡単に見つけたり、戦いになれば相手の動きがなんとなくわかったりと、<気使い>というスキルがあまりにも謎の能力なのだ。

 ただ、認識障害と探索能力の強化スキルではないように思えた。しかも、他の人からすれば、大したことのないスキルと認識されるのだ。

 何故、そんなことになるのかもわからない。理解不能に近いスキルなのだ。

 ネームも<気使い>だ。スキルというよりはジョブに近いような気がするが、ジョブは【偵察者】なのだ。

 確かに単身で乗り込んで、ゴブリンの穴の制圧はできなくても、情報を集めるには有能なスキルであることは間違いない。

 スラム街や商店の屋根裏に潜り込んだりもできたり、認識障害や気配感知をうまく利用して、探索を行ってきた。それが強さに繋がると不思議な確信もあり、それをうまく利用して、ネズミ狩りなんてことがナイフだけでできたのだ。

 まるで、そのすべてがセットように組み合わさって1つのようにも感じた。

 かなりのスキルであることはわかるのだが、どれほどの力が秘めているのかはわからない。ただ、あまりにも気まぐれであまり信用してもよいような能力でないことは確かだ。 


「それはすばらしい。それほどまでに強力と?」


 お姫様は俺が把握しきれてないほどの強力な能力だと確信したらしい。しかし、そんな根拠で大丈夫なのだろうか?

 一国のお姫様が俺のような異世界人をここまで信用するというのが、おかしいな話のような気がした。普通ではないだろう。


「他にもそれくらいできるやつがいるだろ?例えば、龍田とか?」


「あの方はセンスがないですから」


「センスね・・・俺があると思えないけど?」


 正直な意見だ。まあ、確かにアレにセンスがあるというセンスがおかしいということも、俺でもわかる。


「なるほど。あなたが私があなたに惚れていると可能性を考慮しないのですか?」


 とんでもない爆弾を持ってきやがった。というか、その可能性は全くないと俺は感じている。

 恋愛に疎い俺でも、オヒメサマが俺に気がないことなんて、火を見るよりも明らかだ。この会話中、そんな素振り一切感じなかった。

 呼び出されただけで俺のことが好きに違いないなんて中坊の発想だろう。俺はそんな発想に陥ってなかった。陥ってないからな!ちょっとは考えたけど・・・


「ほれるねえ。騎士団長ですら骨抜きにしているあんたが言うセリフではないな」


 俺に伝達してきた騎士の背後でやたらと鋭い目で見つめてきたので、そういうことなのはよくわかった。

 元婚約者だし、自分のものにしたくなるのは、男としてはよくわかる。よくわかるのだが、俺にぶつけてくるのは話が違う。俺にとってはタダの迷惑な話でしかない。

 よく考えてみると、今回のゴブリンの件含め、この異世界に来てからの出来事ひっくるめて、俺は完全な被害者だ。

 それがとある男の恋愛成就のためとは・・・腹が立つのも仕方ないことだろう。


「確かにあなたは誤魔化されないようですね。勘のいい方は嫌いではないですわ。敵にしたくないけど


「それは同意だ」


 この姫様はタダのかわいいお姫様というわけではないようだ。かなり腹に何かを仕込んでいるようだ。


「彼についてはそろそろ降格が決まりますわよ。だって、あなたにあんな依頼をしたんですから・・・」


 うれしそうに、それはもう楽しそうに言う。まるで、長年ついていた付き物が落ちたような、すっきりと晴れやかな笑顔で王女は言った。

 どうやら、俺に指名依頼を出したことを王女にスッパ抜かれたようだ。

 王女自身も子飼いにそういう情報を集めるものがいると思った方がいいようだ。


「そんで本来の意中だった男を抱き上げると?」


「・・・そんなつもりないですよ」


 一瞬止まったのを俺は見逃さなかった。だが、王女は気が付くのだろうか、『そんなつもりはないですよ』ということは、意中の相手がいることが前提の話であることを・・・

 少し間が開き、王女は困った表情を浮かべた。


「やられました。まさか、私に意中の相手がいることを察せられるとは・・・」


 焦った様子はおくびにも出さず、すぐに自分の失態を笑顔の仮面に隠した。なかなかのお人のようだ。


「なんとなくです。諦めた恋があるのだと思いましたから・・・」


 ということを前提にいう。なんとなく、言葉尻にそんなニュアンスが込められているような気がしたというのが、本当のところだ。

 諦めた悲恋があるというのは、まあ、貴族としてはよくありそうな話だが、この王女にもそんな人間的なところがあるとは思えなかった。

 美人だが機械人形的な人。そんな印象があった時から強かったが、それはここに来るまで変わることはなかった。

 だが、実際会ってみると、それは無理をしているというのがよくわかった。それほどの闇的なものがあるのだろう。


「とある騎士見習いで、庶民の身でしたが、庭師の子供でよく私の相手をしてくださいました」


 王女が話を始めた。彼とのなれそめ話だろう。ただ、恋の話というよりは悲しい過去を話すそんな感じだ。


「そっちが本来の幼馴染と」


「はい。現在は貴族の養子となり、騎士の身分になっています。そちらではあまり開花されていないようなのです」


 それを聞いて何か面倒なことを頼まれるような気がした。

 騎士として開花していない。騎士としてだ。別の才能が彼にはあるようなそんな素振りだ。


「あなたは優秀な冒険者であられますわよね。だから、お願いしたいのですが・・・」


「彼を成長させろと?」


 そう、つまりだ。騎士の家で開花しなかったから、お前が奴を導いて真の勇者にしてほしいということだった。


「そういうことです」


 それを聞いて俺はしばらく考え込む。

 俺に仲間は必要かと言えば、その答えはノーだ。だが、この話を断ると明らかに姫との心証があまりよくない。

 その騎士を守るためにパーティーを組む必要性がるような気がした。


「ちなみに彼は実は【勇者】を持っています。いえ、ただしくは私が彼に【勇者】になるように祝福を与えました」


 それを聞いて俺は目を開いた。


「は?」


「だから、本来は彼が私の【勇者】なんですよ。私は【王女】としてのジョブをもらい、何人かに【騎士】 のジョブを与えました。彼には【騎士】のジョブを与えたつもりでしたが、【勇者】のジョブを与えることになりました」


 とんでもないことを聞いた気がした。【王女】は【騎士】のジョブを他人に与えるもののようだ。その中で【勇者】が発動するものがいるらしい。

 つまり、彼女は戦闘職である【騎士】を産み、その中で【勇者】を産むことができるということだ。

 【勇者】とは【王女】がいることが前提のジョブということだ。つまり、王族が子供を産み、【王女】を作り出すのもそういうことを意味する。

 【王女】を生み出すジョブも存在するのではないかと思った。それが【王】や【女王】ということなのだろう。


「【聖騎士】なども発現することがありますが、私が与えたジョブで【聖騎士】はないですね。貴族のほとんどが【騎士】なのもこの世界の【王女】をもつ女性がそのスキルを貴族に与えるからですよ」


 つまり、【王女】は【勇者】を任命できるのだ。


「ちなみに【王女】にはもう一つ特殊な力があります。【勇者】を発現できなかった【王女】が命をささげることにより、異世界より【勇者】や力を持った者たちを召喚できるのです。姉はかなり優秀だったのでしょうね。あなた方を呼べたのですから・・・」


 その言葉を聞いて、ぞくっと寒い思いがした。つまり、この国は【勇者】を呼び出すことに生死を問わず、【王女】の思いも無視するということだ。

 【勇者】に趣をおき、そのためだけに【王女】が存在する。

 【王女】の人間性など一切無視したものになるのだ。


「愚かな女です。【勇者】を一人でも任命すればよいものの、任命しないがために・・・」


 きつい言葉とは裏腹にその目には悲しみが溢れていた。きっと、俺たちを命を懸けて呼び出した姉とは仲が良かったのがうかがえた。

 そして、この国に恨みも持っているとさえ感じられた。


「わかりましたか、この国がいかに狂い、私が狂っているのかを・・・」


 それを聞いて俺はため息をついた。厳しい現実を突きつけられて嫌な気分になる。

 世の中なんてそんなものなのだろうが、これは重い現実だと思った。


「まあ、その【勇者】さまに関して諦めていないのはよくわかった。役に立つかどうかわからんが、俺が連れて言っていやる」


「お願いしました。ねずみ狩り」


「次はゴブリン殺しが付くかもな」


 苦笑いをした。すでにゴブリンの魔晶石を大きいのを含めて、30個はギルドに献上していた。


「頼もしい限りです。他に何か必要ですか?」


「そうだな・・・あとは・・・」


 俺はちょっと試したいことがあった。

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