独白
何かがおかしい。
聖騎士ファングリットは心の中でそう呟いた。巫女であり、婚約者候補であった女性、リーメルナ姫と勇者の結婚の要素を消すために第一段階として仲間の不幸な死を演出するはずだった。
異世界から来た腑抜けた者たちにこの世界の厳しさを教えるため、彼らの仲間に犠牲になってもらうつもりだった。
だが、その最初の犠牲者になるはずだった少年が死ぬことがなかった。
偵察者の修行のためには実地訓練が一番だと本人に伝え、スラム街に向かってもらった。
普通なら王城からスラム街に行くことすら敵わないだろう。王都はそれだけ広い。
スラム街はそんな王城の端、それの外周に当たる。そこに行くまでに道は複雑に入り組み、迷ってしまったら王城には帰ることはできるがスラム街につくことすらできないだろう。
また、付けば浮浪者や質の悪いやくざがいる。彼らに絡まれて死ぬことになるだろう。
そうファングリットは思っていた。
だが、彼は無事に帰ってきた。かなり汚れていたが大きなけがなどは見受けられなかった。
2日目は危険な目にあったのか、城でネズミを狩っていた。その後、街に向かっていった。大量のねずみを袋に詰めて・・・
3日目は城の周辺で何かをしていた。それからメイドや料理人たちから彼に差し入れがされるようになった。
彼はそれ以前は外で物を食べていた。食事の件は初日に死ぬだろうと踏んでいたので、彼には作らないように伝えていた。
それが継続され、他のメンバーとは違い彼は外に出ていることが多かったので特に命令を変更するつもりなかった。
異世界人たちは彼がいないことと、彼に食事が出ていないことに気が付いた様子はなかった。
物珍しい食事に気が行き、そちらには意識が行っていなかったようだった。
そんな命令があるにも関わらず、料理人たちが勝手に彼の分は作るようになっていた。
その経緯はいまいちわからないが、彼が城内で誰よりも評価されているように思えた。
何をしたのかわからなかった。
リーメルナ姫も彼を評価しているようだった。
「黒い悪魔を倒してくださる方です」
となどと言われていた。
黒い悪魔とはそんなものがこの城内にいたのだろうか?
四日目、彼は再び街中に出て何かしていたらしい。なんでもカラス退治をしていたと報告上がっている。ネズミの次はカラスが妙なことがうまい男だ。
その日の夕方、彼が冒険者登録されることがわかった。推薦人は街の肉屋の亭主らしい。
冒険者になり、五日目以降は外に出て活動をしているらしい。
よくわからないが、彼は一人で小物狩りをしているらしい。彼が異世界より来た勇者の仲間なのでないがしろにできないが、彼の人気は民の間で「ねずみ狩り」の名前が広がっていた。
これは非常によろしくない状況だ。
勇者の仲間である彼が評判がよいとなると、勇者の評価もあがってしまうかもしれない。
そうすれば、ファングリットが思う相手であるリーメルナ姫が・・・
「くそ」
ファングリットは呻くように言った。
最初の犠牲者になってもらうはずの彼がこんなことになるなんて思いもよらかなった。
【偵察者】が有能という話はあまり聞いたことがなかった。もしくは有能な【偵察者】を知らないだけなのかもしれないが、少なくとも城内ではあったことはなかった。
それだけ重宝されるなら、あの場でもう少し取り上げられてもおかしくないが、それも誰も気にした様子はなかった。
このままでは計画が台無しになってしまう。
何か手を打たなければ・・・
ファングリットは少し考えていた。そこで本来ならば、もう少し後で仕掛けるはずの計画を思いだす。
運がいいことにちょうどその依頼も軍に来ていた。
大型のゴブリンの巣穴の排除以来だ。
小さなゴブリンの巣穴なら街のやくざな冒険者にでも解決することができるが、大型のゴブリンの巣穴になれば話は別だ。
大型になればなるほど、ゴブリンの質もよくなる。ゴブリン中には4、5生き残って大型化するものがいる。本来ゴブリンは小さな子供程度の生き物だが、歳を重ねるごとに大型化する。
食人鬼と言われている身長2メートルあるオーガなどと比べても遜色ないの大きさになる。
オーガとゴブリンの違いは肌色だ。ゴブリンの大型のものは肌の色が黒ずんだ緑色である。そのため、ゴブリンはグリーンスキンなどの別名を持っていたりする。
大型化するまえにゴブリンは排除する。
それがこの世界の住民の一般的な考えだ。冒険者、多くはこのゴブリンと戦うことが多い。
よくからないが、ゴブリンはいつの間にか出現し、巣を作り人間やその他の種族を攻撃してくるのだ。すべての種族の敵ともいえる。
ゴブリンは知能は低いがバカではない。
入り口付近には大型の獣に対抗するための罠、その奥は中型の獣用の罠、そして、さらに小型の動物用の罠、最後は人間用の罠を仕掛けているのだ。
その罠に引っ掛かり命を落とした冒険者は少なくない。大型の巣が嫌われるのはそのためだった。
小型ならそんな罠もそれほどしかけていなく、冒険者として経験があれば、割と簡単にこなせる仕事なのだが、大型になればそれが変わってくる。
多数の罠に最後は圧倒的ともいえる物量でしかけてくるのだ。しかも、<暗視>というパッシブスキルをもつ彼らが有利な暗闇の中で・・・
決して一人で活動するの冒険者が受けるような仕事ではない。
そんなゴブリン退治をファングリットは冒険者となった彼を指名するつもりだ。
ただの無茶ぶりだが、きっと彼は受ける。というか、国からの指名依頼だから断ることができない。
指名依頼とは冒険者ギルドが個人を特定して依頼を受けさせるものだ。大抵は断ること出来るが国からの依頼となるとそれは変わってくる。
ほとんど勅命に近い。
それだけの強権を軍というのは冒険者に対して持っているのである。
「さすがに死ぬだろう」
ファングリットはギルドに指名依頼を作りながら、笑みをこぼして言った。
「土の魔法をかい」
「ああ、穴を掘ることができるんだろう?」
スライム退治を始めて、二日目の夜。この世界に来て五日目の夜に俺はなんとなく穴を掘る魔法の必要性を感じて、同室の中村にその話を振った。
その話をすると少し考えながらも、「いいよ」と返して教えてくれた。
中村は薬草師の割に魔法の教え方が上手だった。
要点を掴んで教えてくれるので、俺はすぐに土の魔法を魔法を覚え、穴を掘ることができるようになった。
そのついでに石の魔法を教えてもらい石器の作り方や治し方を教わった。随分と便利な魔法だ。この世界の食器が石器が多いの理由がなんとなくわかった。
他には鉄や木の魔法もいろいろと便利らしい。
今日はその二つを覚えた。
教わっている際中、中村は水の魔法は中級まで使えると言っていた。解毒、回復の水を作ることができるらしい。
でも、神官や聖女とかの子と比べると回復量などが段違いらしい。
中村は魔力の練り方の練習をして、魔力を強化して効果を上げて多少回復するレベルで、専門職とは大きな差があるらしい。
「たしか、初級魔法も12種類以上あるらしいよ」
「へえ」
「火、水、風、土、木、石、鉄、影、体、心、光、闇だっけな」
「心とかあるのか」
「うん、安定させるだけで少し気持ちがやわらぐらしい。酔いにもきくらしいよ。使ったことないけど」
当然だ。酒など飲んだことがないのだ。俺たちの年齢的には飲んでもいいらしいが、まじめな中村が飲むとは思えなかった。
「へえ、体ってのは」
物はついでに体についても聞く。心だの体だの、属性とは思えないものが混じっている。石もある意味それか、某モンスター集めるゲームだとそのタイプもいるが・・・
「身体強化だね。誰でも覚えられるらしいけど、うまく魔力を練らないと強くならないらしい」
「ということは、初級魔法でも魔力の練り方でそれなりの効果を期待できるのか?」
「まあ、風の初級魔法が風速10メートルが50メートルなることはあっても、風の刃になることはないよ」
そういわれると納得した。発火の魔法も一瞬は大きく燃え上がるが、その後に燃やすものがなければ意味がないということだ。
火が付きにくいものに火が付くかも入れないが、所詮はそれだけのこと。
ファンタジーもので出てくるファイアボールのようなことにはならないということだ。
一定の指向性を持たせたりすることでその効果があがるということだ。
魔法は魔術の結果であり、魔法をどのように使い効率よくするのがうのかが魔術というわけだ。それを中村は教わっている。
これが武器でもあり、道具でもある。これを使えるか使えないかは圧倒的な差になってしまう。
貴族か、貴族ではないかの差ほどの・・・
戦士系はこれらが不得意とされ、魔術系は得意とされている。また、生産系も初級魔法を覚えておくと得だし、魔術系も最初から突飛な魔法が使えるわけではない。
初級魔法を魔術として発展させて、やがては大きな戦力級魔術にさせるのである。
魔術は過程で、魔法は結果だ。出したい結果を求める際にどのような過程を通していくのか、それを求める学問ということになる。
初級魔法はそのための基礎になる部分だ。ここから初級魔術や使用する魔力を上げて、中級魔法に移行するらしい。
初級魔法だけのしようした魔術体系を民間魔術などとも言われたり、上級魔法を利用した魔術体系を大魔術などとも言われ、その研究を日々積んでいるらしい。
科学が発展してないのは、魔術が発展しているためだろう。
人間が出す排せつ物などは一か所に集めて、魔力に変換して、水の魔晶石を作ったり、残りかすを肥やしに使うらしい。
この町が文化レベル割に清潔なのもそのためだ。ちなみに王都では効率よく集めるためにトイレなどは水洗式がほとんどだ。
定期的に水も排泄部などから作った水の魔晶石で供給され、各家庭に届けられている。それらはすべて税金で賄っているらしい。かなり、進んでいると言える。
だが、そのためか、水に関わる部門の貴族がかなり強い力を持っている。ライフラインを確保しているのだ当然と言えば、当然だろう。
ちなみに街の中のあかりは冒険者がもたらすモンスターがもつ魔の魔晶石によって、保たれていたりする。
モンスターとは瘴気によって変異した生き物で、ゴブリンやスライムなどの下級の者もいれば、ドラゴンやこの世界のヴァンパイアにあたるノーライフキングなども、これらモンスターに分類される。
瘴気がなんなのかわからないが、これらのモンスターたちを倒すことで魔の魔晶石を得ることができ、それを明かり代わりに使用できるのだ。
魔の魔晶石が湧くのはダンジョンや巣穴と呼ばれているところで、そうしたところにモンスターが多くいて、それらを討伐すること得ることができる。
それらを効率よく狩って、生業にするものがいる。それが冒険者だ。
彼らはダンジョンやモンスターの巣穴に潜り込んでは、魔晶石を確保する。これを元手に暮らしているのだ。王都でも夜も明るいのは彼らのおかげなのだ。
モンスターたちにとっては迷惑な話なのだろうが、ほぼ、無限に湧いたり、人々に危害を与えるのがほとんどなので、狩ることになっているのだ。
一説には彼らは無限に生き、繁殖力も旺盛で爆発的に増えるのだ。それを抑えているのが人間たちの活躍ともいえる。
そして、その中に呼ばれた異世界人の活躍が目立つらしい。
俺たちも異世界人として、こういうことが望まれているのだろう。
「なるほどな」
何となく現実逃避をしたくなるような気分に浸りながら、俺は頷くとカーテンを見た。カーテンが一瞬で凍る。
便利すぎる力である魔法を使いながらそんな風に思った。
この魔法がより効率よくなる手段が魔術で、これよりも強力なものを中級魔法というらしい。
「何してんの?というか、無詠唱できるようになったの?」
そういえば、氷の魔法、使っていくうちに多数に対応したり、詠唱なんてしなくても魔法が使えるようになった。
詠唱するのは魔法をイメージするためだ。なれてしまえば、詠唱なんていらないらしい。これも才能らしいが、俺はこれができるようになっていた。
戦闘系は無詠唱はできないらしい。
そういうことになっている。その分、ステータスの伸びがかなりいいので、一概には言えないが・・・
この世界で生きていくうえで、戦闘系はちょっとかわいそうになっているが、ステータスがモノを言ったりするので仕方ない部分もあるだろう。
ちなみに【勇者】は戦闘系と魔術系のいいとこどりらしい。
無詠唱はもちろんのこと、ステータスの伸びもかなりいいらしい。うらやましいかぎりだ。
上級魔法まで使えるらしい。
まあ、生産職系の戦闘職ぽい俺がいうのもなんだが・・・。
「コーチで使いまくったらできるようになった」
数が多いのでそのうち面倒になり、詠唱をしなてもできそうな気がしたので、やってみたらできたので、次から唱えないようにした。
そしたら自然にできるようになった。そういうことである。
「初級でも十分に難しいものだと思うけど・・・というか、威力とか下がるはずなんだけどね」
首を傾げて中村は言った。こいつは賢者かと思うくらいこの世界の法則に詳しい。
おそらく、感覚的に何となくわかってしまうのだろう。こうすればいいとか、そういう導きがおそらくあるのだろう。
【薬草師】としてはチートの能力を持っている。おそらく、こいつはどんなところでも薬を作ることができ、症状も看破できる系の能力を持っているのだろう。
現地点で、中村は中村で充分な実力を持っていると思われる。
そのことに気が付いている奴がどれほどいるのかわからないが・・・
おそらく、本人もそれに気が付いていない。まあ、現地点で教えるべきではないとは思う。
中村の有能性に気が付かれて、俺と離されるのはいろいろと面倒なことになる。クラスのメンバーの動向などは俺にとっては重要な情報になる。
特に、俺を殺そうとしている騎士団長の動きは注視していく必要がある。
「ゴキ相手にあんだけ使えば、無詠唱なんてできるようになるよ」
俺は誤魔化すように言った。
「つうか、そんなにゴキブリ倒したの?君は」
中村は呆れたように言った。俺の行動に異常性を感じているようだ。ちょっと、引いているようにも見える。
まあ、誤魔化されてくれたようだ。
「仕事だしな」
俺はわざとニヒルに言って笑いを誘ってみるが、中村は笑うことはなかった。
「よく見つけられたね。物探しの才能でもあるの?」
「そういうスキルみたいだしな」
<気使い>についても誤魔化しておく。俺のスキルはおそらく、チートに当たる力だろう。
<看破>でみてもよくわからない力で、おそらく説明で書いてあること以上の力を秘めているに違いない。
それを公表する気にはならなかった。公表してもスキルの力で誤魔化しがききそうなものだが、それを<看破>できる力が存在するかもしれない。
<気使い>が存在するのだ。かなり特殊なスキルがあってもおかしくないだろう。
ただ、<気使い>のように認識まで歪めてしまうような力が、やたらめったらに存在するとは思えない。
だが、異世界人は俺以外に30人以上いる。その中に俺の巣いるを見破れるスキルが存在する可能性があるのだ。これは厄介な事態を起こすかもしれない。
せっかくうまくいっている異世界での探索だ。これを潰したくはないというのが俺の本音である。
自分の情報を隠しつつ、クラス内の情報も集める必要性がある。俺は思った。
「そりゃあ、便利そうだ」
中村が何か言いたそうな顔をしていた。少し間が実は開いていたのはおそらく俺の反応を見るためだろう。
こいつはバカではない。
俺の能力についても疑問を持っているようだ。そりゃあ、俺の話が嘘に思えるレベルの話だからだ。
強がっているようにも見えないし、嘘とは思えないが、だが、戦果が異常なので誇張していると思っているぐらいだろう。
ホラを吹いている。
そう思わせておけばいい。そう思っていても付き合ってくれる彼をありがたいと逆に思うべきだろう。
「まあ、べんりだな」
俺は苦笑いしていった。
今更だが、中村が今俺に対して<看破>を使ってステータスを驚くだろう。
俺のステータスはレベル15、この世界にいる王城を守る衛兵レベルになっている。生産職とはいえ、それなりのステータスを持っている。
元の世界にいたころと比べると身体能力が段違いとなっている。戦闘職はこれをはるかに超えるステータスなのだから驚きを覚える。
加えて先読みに近い力を持つ<気使い>。
おそらく、周りのいる者たちの気が向いている方に気が付き、それに対処する動きができるという感知系でも強力な戦闘スキルのようだ。
仕返ししてきたカラスもこれで大抵は撃ち落としたし、逃げるねずみの動きも、これで察知して動いて殺すことができた。
さらにレベルが上がれば、より強力になっていくことだろう。ただでさえ、強力なのだ。同じステータスならまず負けないし、倍以上の差があっても何とかできる気がした。
パーティというよりは明らかに単独行動向きの能力だ。パーティでも回避盾としても役に立つだろうが、やはり単独行動の方が輝く。
ジョブが<偵察者>というのも納得できるスキルだ。
レベル30を超えている戦闘職ジョブのファングリットほどではないだろうが、確実に俺は強くなっていた。
勇者たちがどれくらい強くなっているのかわからないが、かなりいいスタートダッシュをしているような気がした。
それが最終的に強くなるかどうかは別の話だろうが・・・
「そうそう、知ってるかい?」
会話が途切れたところで急に中村が話を切り出した。軽い世間話でもする気だろう。
これ以上の腹の探り合いは疲れるだろうからということだろう。まあいい、俺も疲れてきていたところだ。
「なんだ?」
「女子の話だと、龍田が女子に迫っているらしいよ。あっちこっちに声をかけているって」
女子の話・だ・と・・・
中村は基本いい奴だし、最近、女子から嫌われているアトピーなどもだいぶ良くなってきていた。
顔は崩れているほどでもないし、基本いい人だから、女子が声をかけやすいのだろう。逆に倉田くらいのイケメンだとけん制して話しかけずらいらしい。
「随分な話だな」
龍田が調子に乗っているのというのはあまり気分のいい話ではない。いきなり人を役立たずだの何なのとか言ってきたりしてきていた。
非常に面倒な男である。
彼が旺盛を発揮しているのは迷惑この上ないことなど、一緒にいなくても俺にはわかった。
逆にその輪から離れている俺に話しやすい内容でもある。
「実際彼は優秀らしいよ。【勇者】も彼に負けているらしい」
「意外だな」
【勇者】の方がステータス的にも優秀な気がしたが、そういえば、【勇者】がどんなスキルを持っているのかよくしらなかった。
「まあ、倉田はそれほど争いが得意というわけではないみたいだしね」
中村が苦笑いしていった。龍田の態度にほとほと困っているようにも見えた。わずか、5日でこんな印象を持たれるなど、龍田は何をしてきたというのだろうか・・・
「レベルも高いわけではないし・・・ジョブによる能力差は差はないらしい。まあ、龍田はわりとスキルゴリ押しの戦い方をするからよく騎士団長に怒られているらしい」
アクティブスキルを乱発し、勝負を有利に進める。
俺ならそんなの余裕で回避できるだろうが、他のメンツにそれは難しいだろう。ちなみに俺なら氷の初級魔法で一瞬だけ動きを止め、致命傷に近いダメージを与えることができる。
それくらいはできるだが、龍田の強さはそれだけでどうにかなるようには思えなかった。
俺と同類なら・・・
「スキルがまとも使えるだけすごいじゃないか」
「まあね」
中村が何かをつぶやいていた。何を言っているのかは聞こえない。だが、あまり聞かなくてもいいことだろう。
本人から出た本音というやつだ。いろいろと龍田に対してはたまっている者があるのだろう。
気分を変えるために中村は話をつづける。
「野生の狼を捕まえてきて、倒せたのは龍田だけだったらしい」
「へえ」
それが自慢になるらしい。すでに狼なんて相手にならない俺には大したことのないように思えた。
スライムを狩るついでに狼やオオグモなどはついでに狩っていた身としては・・・
「それが二日目だ。それから褒められて、助長されたらしい」
二日目で狼を狩ったのは確かに実力はありそうだ。狼一匹とねずみ百匹以上ではどっちが上なのかは不明だが・・・
「迷惑な話だ」
「確かに・・・おかげで必要以上に彼が偉そうにするんだけど、他の人からはいい顔されないね」
「まあ、俺にも喧嘩を売る暇があるらしいからな」
見かけるたびにこの役立たずがとか言われるが、それを目撃したメイド達が割と憤慨の表情を浮かべていたのを覚えている。
まあ、ネズミ退治やゴキブリ退治していたしな。
そういう意味ですでに役に立っている俺と、騎士を訓練を受けているだけで偉そうにしている小僧ではその差は明らかだろう。
「彼は噛みつけるものがあるなら噛みついていくよ。君とは違って・・・」
迷惑な話だ。実に・・・
「そんなことを言われてもな・・・」
「答えに困るって感じだね」
無関係ならいいが、あいにく俺は噛みつかれる要素があるらしく、完全に当事者となっている。
「まあ、そんなところだ」
俺の表情を見ながら、生裏はこの話は切った方が俺のためになると思いそこで話を止めた。
「実戦訓練で戦士系は遠征が決まったようだよ」
「みんないろいろとやってんな」
俺は感心しているように言った。実際は俺の方が随分なことをしているような気がしたが、あえて言わなかった。
“経験値”を得るためにいらぬ心配は排除しておくべきだろう。
中村には心配をかけたくないし。
遠征になれば、うざったい龍田も城からいなくなる。声を掛けられる女子にとってはいい話に思えてくるだろう。
「そうそう、遠征先にはゴブリンの巣穴があるらしい」
「ゴブリンの巣穴か」
ファンタジーありありだなと思った。よくある展開だ。最初の冒険者が挑むのはゴブリンの巣穴、定番すぎて称賛の言葉がすら出ない。
「うん、大型の巣穴が見つかって、それを討伐に軍が行くことになったらしいんだけど、軍としては僕らにその経験を積んでほしいらしい」
経験というのは俺たちがこの世界に呼ばれた理由、魔王に対抗するための者たちとして異世界より呼ばれた、30名以上という数はうち当たるというものだ。
魔王に対抗するためにはそれだけの英雄の数が必要のようだ。
【勇者】を含め、俺たちはかなりここで強さを持つ。俺もそれは実感していた。俺でさえ、ねずみなどを一日で百匹を狩るなど非常識なことをしているのである。
それを考慮すれば、当然の処置ともいえる。まあ、俺には関係ない話だ。話だといいのだけどな・・・
「魔王退治のためか」
「そういうこと」
魔王討伐の予定路線から外れている俺からすれば、一切関係のない話だが、龍田がしばらく城の出入りがないことはきっといいことだろう。
気楽にスライム退治でもしてればいい。スライムは今の俺でも十分においしいモンスターだ。
「まあ、俺には声がかからないな」
「だろうねえ。騎士団長から無視されているもんね」
中村も俺と他の物の待遇が違うことぐらいは知っている。その件について、何故か、王女含めて文句が出てますよとメイド達から言われたが改善された様子はなかった。
というか、何故に王女。あんた、それだけコーチ嫌いだったんだな。
そういえば、料理人たちには会うたびにうちに来い、今度いいもの食わせてやるとか、言われたりなんなりあったりするなどのエピソードがあるのだ。
ゴキブリやねずみ退治が彼らに非常に喜ばれているようなのは、明らかだった。
俺が人気が出るの同時に【勇者】の人気が出てき始めているらしい。
なんでも【勇者】が町のねずみたちを追っ払っているとか、カラスを殺しているということになっているらしい。
俺の手柄は【勇者】の手柄ということが仕組まれている。
おそらく、これは騎士団長ではなく、王か、宰相などが仕組んだことなのだろう。
「よくこんな状況で君は腐らないことに僕は感心するよ」
「この状況に順応している奴に言われたくはないな」
中村と俺は同時に皮肉を言うとお互いに笑みをこぼした。
それはお互いの検討を意味していた。俺と中村は無言で拳を突き合せた。
「で、次はどうでるつもりなんだい?」
「それはこっちが聞きたいぜ、中村君」
「僕は君とは違って、こっちやることが多いからねえ」
「勉強か・・・」
「そういうことだよ。こんなに勉強が楽しいと思わなかった。知識が力になるなんてね」
中村が苦笑いをした。
「まあ、俺は実地訓練のみだ。まあ、お前が勉強してくれるおかげで俺も恩恵を受けれるんだからなありがたい話だ」
「僕のためにいいもの持ってきてくれよ」
「もちろんだ」
二人はにやにや笑っていた。俺たちはこの異世界を楽しんでいた。