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偵察者はどうやら役立たずらしい



「お主が神から与えられたジョブは【偵察者】だ」



 そんなことを言われた。

 異世界に来て、性根が凄く悪そうなお金いっぱい持ってますよと言いたげな、おっさんに俺はそんなことを言われたのだ。

 これが教会の最高の神官らしい。俗にいう教皇とか枢機卿というやつだろう。

 教祖ではない。

 あれは始めた人で、さすがにそれを継承された人いうことだ。

 なんでも神からの啓示を受けることができる人間らしい・・・まあ、見たところ、鑑定のスキルが使える程度の能力がせきのやまといったところだろう。

 ちなみに【偵察者】というのは戦闘能力のない素早さだけで攻撃能力がほとんどないジョブらしい。

 ジョブというのはようは自分に合った職業のことである。その職業をすれば、一定の成功を収めることができる。確実にというわけではなく、努力次第でどうとでもなるものであるらしい。

 使い方によっては、アウトローなこともできるし、商人なんてものに大成したりする。

 大きく分けて二つにタイプに分けられるとされ、それが生産職と戦士職と呼ばれている。

 生産職というのは作物を作ったり、生活に必要な道具を作ったりするための職業である。武器などの戦闘に補助になるものも作ったり、ポーションと呼ばれる回復薬を作る専門の職業もこう呼ばれてたりする。多くの人々がこれらに選ばれる。

 そして、戦闘職と言われるジョブもある。それらはスキルと呼ばれる特殊な能力を使うことができる。

 スキルにはパッシブ系、アクティブ系などがある。パッシブというのは恒常的に効果を発揮するものだ。<身体強化>や<気配感知>、<毒耐性(小)>などと言われるものがメジャーなパッシブスキルだ。対して、アクティブというのは<パワースラッシュ><フェンリルダッシュ>などの使用すると、人が持つMPと呼ばれる精神的なエネルギーを代償に特殊な効果を発揮することができる。

 これらがあることによって、戦闘や生活の助けになるものが多い。

 アクティブは割と大きな効果があり、<フェンリルダッシュ>などは一定の時間、空を足場に駆け回ることができたりするスキルだ。

 戦闘職の特徴はこれらアクティブスキルが多数あり、一瞬の力で相手を圧倒するというのが特徴だ。また、生産職はパッシブスキルが多数あり、これらの効果によってさまざまな道具を作り出すことができる可能性があるらしい。

 

 で俺の【偵察者】の立ち位置はというと、これは一般的には当たりの職業ではないらしい。

 なんの戦闘能力のない、戦闘職業。<アサシンエッジ>(クリティカルが出ると大ダメージを与える)などの攻撃系アクティブ系のスキルを得ることがほとんど期待できない。

 いるだけで【軍師】や【付与師】のように他者を強化できるようなパッシブスキルも期待できない。ただ、相手やダンジョンを見てくるだけの職業だ。

 素早さは高くなるが、攻撃力がなきに等しい。そんな素敵な職業を俺は与えられたらしい。


 この地点で俺は英雄候補から落ちた・・・そうだ。


 俺は、否、正しくは俺たちはこのゲームのような異世界に来ていた。最近、ハヤリの異世界ものというやつだ。

 修学旅行のバスに乗っていたら、異世界に転移した。

 高速道路のバス休憩中で、偶然にも運転手とバスガイドがいない間に転移していた。しかもその場には先生もたまたまいなかった。

 あっちじゃあいろいろな意味で大騒ぎだろう。

 某掲示板では、異世界者かということでお祭りが始まってしまうだろう。

 バスに乗っていたメンツが丸ごと移動させられたらしい。運よく転移されなかったものも何名かいるが、クラスのほとんどが転移に巻き込まれていた。

 集団転移ものだ。

 その中で俺はどうやらモブということが決まったらしい。考え方によっては偵察は重要な仕事だが、どうやら、あちらさんはも異世界からわざわざよんだのに、誰でもできる斥候よりは純粋な戦力が欲しかったように思えた。

 世知辛い。

 まあ、望まれない召喚者の可能性もなくはないだろうが、いくらなんでもそんな世の中都合よくできてない。

 ・・・はずだよな。

 いくら、一般ピーポーがなれる職業が最強なんてことが仮にあったとしても、俺が選ばれたのは【偵察者】と呼ばれる非生産性の、戦闘力皆無の戦闘職だった。

 無双なんてできそうもない。

 ・・・はずだよな。

 そういえば、<気使い>というパッシブスキルを持っているらしい。現在得ているのはこれだけだった。これが一体何なのかよくわからなかった。

 誰に聞いてもよくわからないスキルということらしい。

 レアのようだが、用途がわからなければただの飾りだ。

 本来なら<気配感知>や<忍び足>などのスキルを覚えているのが一般的だが、<気使い>はそれらと違ったものらしい。誰に聞いてもよくわからないし、役に立たないものだろうと言われた。


「なんだろう」


 俺はそういいながら一緒に来ているクラスメイト達を見た。

 儀式の場には選定人と呼ばれるものが5人ほど来ていて、俺たち各々にジョブについての説明をしてくれている。

 俺の担当はもっといろいろあってもおかしくないのに、変なのだけですね。と、あっさりした反応だった。

 他の奴には割としっかりと説明をしてくれているのにも関わらず、俺のだけは随分とあっさりしたものだった。明らかに扱いが外れ枠だった。

 まあ、30人以上いるためだろう。

 雑魚もしくはモブに時間などかけていられないということだろう。

 俺はそいつからゆっくりと離れながら、周りの様子を見た。


 俺以外には約32名ほど、この世界に来ている。来てしまっているといった方がこの場合はいいのだろうか?

 内のクラスの大体の構成はこんな感じだ。

 まずはイケメンの倉田、池田。同じグループに所属する新田と平田。この男子グループは何故か、全員田がついている。偶然にしても変な話だ。

 多くの男子は皮肉を込めて田園ズと呼んでいた入りする。

 そして、その倉田グループと仲がよい、清原グループ、秋原グループ。二つ合わせて、15人と割と女子の大半を占めるグループだ。

 他の女子は桑山、先崎の二人だけ。この二人はクラス内の女子でも孤立している存在だ。理由はよくわからない。

 ちなみに清原グループと秋原グループの違いはかわいさといったところだろう。

 清原グループはかなりの粒ぞろいで、秋原はあまりよくない顔立ちの子が多い。ただ、清原、秋原のグループはテンションが高いので、桑山、先崎はそれについていけないので加わらないというのがよく聞く話だ。

 ぶっちゃけいえば、二人のいずれかが女子にいじめられているのだろう。気の弱そうな桑山などよく一人でぽつんとしている。

 俺以外の男子は白石が作る体育会系グループ、文系で集まって作っている柿山グループの2つがある。

 ほとんどの男子は白石、柿山のグループを行ったり来たりしている。俺もそうしたものの一人だ。要は田園ズに入れなかったものが作っているともいえる。


「倉田は聖騎士か」


「イケは勇者か」


 とイケメン同士はお互いを称えあっていた。やはりイケメンにはそういうのが回ってくるらしい。

 世知辛い。

 新田は侍、平田は盾使い。

 妥当なラインだ。キャラもそれっぽい。

 桑山、先崎の女子二人は黒魔術師というデバフ系の魔法を主体にした魔法使いであった。攻撃系の魔法は得意ではないらしい。

 こちらもキャラに会っていると言えるだろう。

 俺ほどではないにしても不遇職とも言えた。ただ、ヒロイン枠ぽい。

 きっと、とんでもないバフ、デバフがかけることは間違いなさそうだ。


「僕は生産職だけど、君は偵察者だってね」


 クラスの人間を観察するザ・ローンウルフを決め込んでいる俺に話しかけてくる奇特な奴がいた。


「ああ、生産職でもなければ、地味な職だな」


 俺はそいつにのんびりと返した。

 柿山グループの中にいて、俺と仲が割といい中村だ。眼鏡をかけて肌がボロボロの男だ。アトピーでそうなってしまっているらしい。

 そのためにあまり女子にいい顔をされないかわいそうな男だ。

 中村はそんな状況でも、心が折れることもなくいい奴を続けているそんなやつだ。

 そのためか、こんな状況でもいつも通りにふるまってくれる。

 この国の騎士団長のように露骨に『この無能が・・・』という目で見てくるようなこともなく、悪意が全くない目で見てくれるナイスガイともいえる。

 肌などが残念ではあるが・・・


「けど、まだ戦えそうだよ」


 生産職である彼は自分も戦いたいな的な感じを出しながらもそんなことを口にした。


「戦闘スキルないらしいぞ」


 そんな風に返すと中村は困ったような顔になった。


「そりゃあ、厳しいね」


 ゲームをそれなりにしているらしく、俺の状況がどうに不遇なのか察しているらしいようだ。


「まあ、一人でものんびりやるつもりさ」


 俺がそんな風にいうと、中村は顎に手を当てて少し考え込んだ素振りをして言った。


「ふんじゃあ、素材集めに協力してよ」


 意外な言葉に俺は目から鱗の状態になった。別に戦う必要なんて本来はないということだ。

 英雄ではなく、それをサポートする職業。素材集めや地図を作成する。

 英雄譚というよりは、この世界を堪能するような旅をする冒険譚だ。

 それはそれでおもしろそうだ。世界を救済するなんてことは【勇者】に任せればいい。

 一般職よりの戦闘職はそういうのが似合っていると言えるだろう。


「・・・そっちで協力できるか」


「頼んだ」


 中村が嬉しそうに言う。彼もこちら側の人間だ。なんらかの形で【勇者】たちを支援していく。

 そう決めたように見えた。


「ああ」


 中村と俺は手を結んだ。


「無能が何をしても無能なのさ」


 と中村との熱い握手を交わしている時にそんな声がかかってきた。

 野暮なことだ。

 後ろを向くと、男子からも嫌われている龍田が嬉しそうにほほ笑んでいた。自信満々といったところだろうか。

 その自信も今日もらったジョブによって生まれたように見受けられた。

 どうやら、思った以上に器が小さいように思えた。この場合は歪んでいるので、言葉としては矮小というのが適切だろう。


「薬草師と偵察者なんて、雑魚職だろ。やっぱ、時代は狂戦士、つまりベルセルクってわけだ」


 そんなことを口走った。

 ベルセルクというのは北欧の伝説の戦士のことだろう。

 某漫画を知っているのかすごく嬉しそうだ。さすがにあそこまでブラックな世界観でないことを切に願う。

 というか、実際のヨーロッパはあれに負けないくらい、ダークで不衛生な世界だから、こちらもそうと考えるべきだろう。

 うんが悪いとな。

 この場合のうんはいろいろな意味があるぞ・・・

 龍田はあまり頭がよくなく、不良ぽい雰囲気をもった野球部員だ。ただ、あまり練習には参加していないとの噂があり、教師からも運動部系からも嫌われている男だ。

 クラスの男子だけではなくどれだけ人から嫌われてるんだこいつは・・・

 白石が比較的いい奴のため、なんとかグループに所属しているが、グループ内でも孤立をしている。もっとも、他のクラスの連中と仲がいい。

 一種の不良グループを形成している。大体は元同じ中学のメンツだ。

 ただ、その中のいい奴らとは今はいない。バスが別だったので巻き込まれず済んだのだ。

 そいつらが一緒にいたらかなり質の悪い状況になってそうだ。

 内のクラスでそういう感じの奴はこの龍田くらいであとは大人しめな奴ばかりだ。


「まあ、俺が最凶になってやるんでよろしく」


 そんなことをいいながら、龍田が倉田のところに向かって歩いて行った。

 雰囲気的には倉田のところに行ってもやっぱり歓迎された様子はなかった。

 田園ズの面々が苦笑いを浮かべていた。ついでになんでこっちに来やがったという気持ちも一緒に混じらせている。

 迷惑そうだ。


「なんか濃いな」


「酷くなってないか?」


「うん、一人になったせいで不安になっているのかも」


「俺たちに向かないといいな」


「どうかな。この世界のことはわからないから」


 中村が困ったように言った。俺も同時にため息をついた。

 不満を雑魚職と呼んだ俺たちみたいなのに向けられたら、嫌なかぎりだ。特に女子に向けるなんてことになったら、いろいろな意味でもんだいになるだろう。

 この世界に弱者を守るような法律があると思えない。

 多少の保護する法があっても、俺たちを保護してくれるとは限らないのだ。それに俺たちは異世界者同士龍田の蛮行を見逃す可能性や、異世界者同士のことは異世界同士で解決しろということになるだろう。

 ここの人たちが今は親切でも後々どうなるかわからない。

 

「だな」


 中村の言葉に俺はそれしか返せなかった。



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