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第68話 エルフの城~古代の勇者も大変だった件~

「なぁ、俺たちの手なんか借りなくてもお前一人で勝てるんじゃないか?」

部屋へともどってきたところで、ショウはアルスへ当然の疑問をぶつけた。

ショウが全力でやっても手も足も出ないほど実力に差があったのだ。

イレーヌがいくら強いといえどもアルスの相手になるとは到底思えなかった。

「その疑問は当然だが、俺はイレーヌには勝てないのだ。やつは俺だけに効果を発揮する魔法を編み出していてな。やつが本気を出せば、視界にとらえられただけで体が動かなくなってしまうのだ。まったくやっかいな女だよ」

「どこかで聞いたような話だな。もしかして、魔法を込められた指輪を送られたりしなかったか?」

「よく分かったな。やつの作った指輪は特別製で、なんでも俺の位置が分かるような魔法をかけられているらしく、生前はあいつにずっとつきまとわれていたのだ」

「どこかで聞いたような話だな」

ショウは聖女の方を見る。

「イレーヌ様の気持ち、よく分かります。アルス様のことを本当に愛しているのですね。それでも本人が嫌がっているのに続けるのは賛同できませんけど」

どうやらこの聖女は、自分とイレーヌが似ているなど全く思っていないようだ。

アルスが何かを察したのか、ショウの肩に手を置いて。

「ショウ、お前もなかなか苦労しているようだな」

「分かってくれるか、お互い苦労してたんだな」

ショウはアルスと少しだけ仲良くなれた気がした。

「それにしても、アルス様でも勝てない相手なのに私たちはお役に立てるんでしょうか?むしろ足手まといにしかならないような気がしますけど」

「私は元々予言ぐらいしかお役に立てないので、そういう荒っぽいことはお任せしますね」

ショウが勝てないアルスが勝てないとなると、巫女はもちろん聖女も役には立てないと思ったが。

「それについてだが、単純な強さで言えばイレーヌの強さはショウほどではない。魔術の腕はやつの方が上だが、実際に手合わせした今断言しよう、ショウでも勝てる。なぜならあいつが編み出した魔法のほとんどが対俺専用だからな。俺以外が相手ではそこそこ強いぐらいだろう」

「そういえばこの前はスライムちゃんに負けたみたいなものだし、直接やられたことはないな」

そのスライムちゃんも今ではすっかり弱々しくショウの腕に収まっている、もしかすると余裕なのでは?

「スライム?お前はあれだけの力をもちながらそのスライムに負けたと言うのか?」

アルスが怪訝な表情でスライムを見つめている。

別に嘘は言っていないのだが。

「今はこんなでも、前はめちゃくちゃ強かったんだぞ。それこそ今のお前でも勝てるかどうか分かんないくらいにはな」

「このスライム、レベル9999だが全てのステータスが1か。この症状は見たことがあるな。もしや俺の復活に使われたのはこのスライムか?だとすればこいつには礼を言わねばな」

アルスはスライムに手を伸ばし優しく撫でた、珍しくスライムちゃんもいやがらなかったが、これは元気がないだけだろうか。

「アルス様、なにか治す方法を知っているのであれば教えていただけませんか?」

聖女が身を乗り出してアルスに迫る、ショウも期待の眼差しでアルスを見ていた。

「俺が知っていることであれば、教えてやろう。だがあまり期待するな」

「些細なことでも構いません、少しでも情報がほしいんです」

アルスは少しだけ悩んだあと、諦めたように口を開いた。

「無い」

聖女とショウは耳を疑った。

「無い?ってどういうことですか?」

難しい話だったので今まで黙って聞いていた巫女が、我慢できず口を開いた。

「はっきりと言おう。治す方法など無い。以前同じ状態を見たことがあるが、これはイレーヌが編み出した奴だけの魔法だ。このスライムのステータスはこれで正常なのだ。呪いでもなく、病でもない。ゆえに治す方法など存在しない」


ショウたちが話し合いをしていたその頃、エルフの城近くの森の中で。

「うーん、久しぶりなせいでしょうか。気配がうまく掴めませんね。この辺りにいるのは間違いないんですが」

まるで散歩でもするように、楽しそうに歩く一人の美女。

「まぁこれも会うまでの楽しみですね。会えない時間が長いからこそ、会えたときの喜びも大きいと言うものです。懐かしい、以前もよくあなたを追いかけましたね。まるであの時に戻ったようで、なんだか幸せです。あなたも同じ気持ちでしょうか?恥ずかしいからって逃げたことを後悔しているでしょうか?どちらにせよ、早く会いたいですね。あなた」

機嫌良く、鼻唄を歌いながらまた歩き始める美女。

まるで絵画のような美しい光景だった。



「正常・・・だって?この状態が問題ないように見えるのかよ!」

ショウが思わず立ち上がる、スライムちゃんは弱々しく震えていた。

「俺もよく知らないがな、あいつが編み出したこの魔法は、他者のステータスを奪う魔法だ。犯罪者や脱走兵らのステータスを奪い、逃げられないようにしていたな」

「そんなすごい魔法、聞いたことがありませんね。それが本当であれば、治す方法が無いというのもわかります。いったいどんな理論なんでしょう?」

「一度説明されたがまるで違う言語を聞いているようだったな。俺の時代でもあいつしか使うことはできなかったから、廃れていても無理はない。この魔法をかけられたものは、ステータスがすべて1になる。そしてどんな方法でも治すことはできない。何よりすごいのは、その奪ったステータスを移せると言うことだな。まぁほとんど俺だけに移していたがな」

アルスの化け物じみた強さの秘密を何となく垣間見た気がした。

「奪った・・・ということはスライムちゃんのステータスは今お前の中にあるのか?」

「そうだな。生前の半分、いや、4割程度ではあるが、なかなか見事なステータスだ」

アルスが上から目線でスライムを誉める。礼を言わねばならないと言ったのはこのことか。

「あの、ステータスって返すことはできないんですか?」

「それができればいいのだがな、生前で一度も試したことはない」

巫女の質問にアルスは即答する。

「お前が死ねばもとに戻ったりしないか?」

「そうかもしれんが、止めておけ。戻らない場合スライムのステータスは失われるぞ」

確かにステータスは本来持ち主だけのもので、死ねば無になるのは当然の原理だ。

「理論さえわかればどうにかなりそうなのですが、今の段階では全く見当もつきませんね。ところで、その魔法は死者を蘇らせることもできたのですか?」

「死者を蘇らせるという話は聞いたことがないな。そしてモンスターからステータスを奪ったこともない。俺が死んでから何か改良を加えたのだろう」

アルスの返答を聞いて、聖女は黙りこんでしまった。

「どちらにせよ、あいつを捕らえないことには先には進まないな。あいつが現れたら俺は役に立たん。お前たちだけで捕まえて、あとはどうにかするのだな」

「そうは言うけどよ、まずは見つけなきゃいけないだろ?どこにいるか検討はつくのか?」

「あの容姿であれば、嫌でも噂になるでしょうね。私のファンクラブの人に聞いてみましょうか?」

「私も城のみんなへ商人や旅人に、見たことある人がいないか聞いておくように伝えておきますね」

三人がどうやってイレーヌを探すか相談していたが、アルスの一言で一気に部屋が凍りついた。

「探す必要など無いだろう。説明したと思うが、俺がこの指輪をつけていればあいつは位置がわかる。早ければ明日にでも来るだろう」

そう言って笑うアルスの左手に、指輪がひかり輝いていた。

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