???の地下~老婆が自滅した件~
ショウが階段を下りて数十分後・・・
「どこが秘密なんだよ!」
薄暗い通路で叫ぶショウの周りには、通路を埋め尽くすほど大量にダークエルフが転がっていた。
全員気を失っているので辺りは物音一つしない、ショウの叫びが地下にむなしくこだましていた。
地下に降りてすぐ、ショウはダークエルフの大群におそわれた。
危うくカタナで反撃してしまうところだったが、斬りかかる寸前でなんとか止めることができた。
それからは大変だった。
迫り来る剣や斧を叩き壊し、殺さないように手加減しながらダークエルフに拳を打ち込んでいく。
倒しても倒しても次から襲いかかってくるため、階段を下りてすぐの通路でかなり足止めを食らってしまった。
「まだこれだけいたなんて・・・無駄な時間を使っちゃったな」
かなりの人数を倒したせいで、ショウのレベルはだいぶ上がってしまっていた。
これも奴の作戦だろうか、だとしたらかなり面倒なことになりそうだ。
その後も通路を進んでいると、何度もダークエルフにおそわれた。
その度にショウのレベルは上がっていく、このままでは奴とまともに戦うことなどできないだろう。
「多分ここかな」
ショウは、不思議な模様が刻まれた豪華なドアの前でカタナを抜いていた。
階段を下りてかなり奥まで進んできた、レベルもすでにマイナス600近くまで上がっていた。
ショウは覚悟を決めて部屋の中へ入っていく、そこは小さな広場のようになっていた。
出入り口は一つだけで、奥の壁は石ではなく木で出来ているようだった。
「やはり来たか、おとなしくしていればよかったものを。若いというのは愚かだねぇ」
部屋の中、老婆がショウを待ち受けていた。
隣には巫女が寝かされている、手足を縛られてはいたが見る限り怪我はしていないようだ。
よく見えないが、巫女は魔法陣の上に寝かされている、以前聖女が連れ去られたときに見た魔法陣と同じような気がした。
「最後の警告だ。エルフ達を解放しておとなしく出て行くって言うなら見逃しても良いぞ」
ショウはカタナを抜いて老婆へと突きつける、レベルが上がって能力が下がったせいか、持ち上げた腕がプルプルとふるえていた。
「あの大群を倒してここまで来たことは褒めてやろう。だが予想通り、体力がほとんどないみたいだね。どれ、お前さんにはもっと絶望を味わってもらおうか」
老婆の手にはいつの間にか杖が握られていた、その杖で地面を叩くと、ショウが立っている場所に魔法陣が現れた。
「しまっ」
あわてて回避しようとしたが、レベルが上がっているせいで体がうまく動かなかった。
魔法が発動し、ショウを黒い霧が包み込む、老婆は勝利を確信したのか気味の悪い笑みを浮かべていた。
「今お前さんにかけたのは、私のオリジナルの魔法だ。ワタシがこの国でスライムを全部倒したのは知っているね。その時に妙な赤いスライムを見つけたのさ。そいつが使う技をもとに編み出した魔法だ。完全にコピーは出来なかったが、力を奪われる気分はさぞつらいだろう?」
ショウは霧に包まれたまま地面に倒れていた、苦しいのか息が荒くなっている。
「まさか・・・これは!?」
ショウは地面に倒れたまま叫ぶ、まさかこんなことをしてくるなんて予想外だ。
老婆の魔法が発動した瞬間、すでに勝敗は決してしまった。
「すばらしい技だったよ!まさか相手の経験値を吸い取って自分の物にしてしまうとは!ワタシは研究の末に、相手の経験値を減らすことは真似できたのだ!」
老婆は説明し終えると杖に込める魔力を強める、ショウのレベルを一気に下げようとしているのだろう。
ショウは地面に倒れたまま動かない、老婆の魔法をおとなしく食らっていた。
「苦しすぎてもはや声すら出せんか。勇者と呼ばれても所詮は人間だな」
老婆は満足したのか魔法を解いた。
武器を持つ手がふるえるほど疲れていたところに、経験値を奪われたのだ。
もはや奴のレベルは一桁だ、動くことすらままならないだろう。
「邪魔者は片づいた、ワタシはあのお方を呼ぶ準備を進めるか」
老婆が完全に警戒を緩めた次の瞬間、広場に大きな声が響きわたった。
「ああー気持ちよかった!」
地面に倒れていたショウが起きあがる、まるで熟睡したようにすがすがしい顔をしていた。
「バカな!ワタシの魔法は間違いなく発動していたはず!」
老婆が再び魔法を唱える、ショウの足下の魔法陣が光り、再び黒い霧がショウを包みこむ。
「今度は手加減しない、最後の一滴まで絞り尽くしてやろう」
ショウは黒い霧に包まれたまま立ち上がる、カタナをふるって霧を払うと、今度はしっかりとカタナを突きつける。
「だから無駄だよ。むしろありがとう。これでお前の勝ちは100%無くなった。死にたくなければさっさと消えるんだな」
老婆はまだ信じられないのか、ショウに向けて魔法を唱えようとしていた。
ショウは一瞬で距離を詰めると、老婆の杖を切り落とす。
「なぜだ・・・ワタシの魔法は完璧だったはずだ!なぜ動ける!」
ショウは恐怖でふるえている老婆へ近づいていく、カタナをしまうと殺してしまわないように細心の注意を払って老婆の頭を叩いた。
本当に軽く叩いたつもりだったが、老婆は壁に顔を叩きつけられて気を失ってしまった。
「俺のレベルを下げるなんて・・・バカだなぁ」
ショウのレベルはマイナス999に戻っていた、今なら魔王だろうが敵ではない。
倒れていた巫女の手足をほどくと、体をさわって怪我をしていないか確かめていたところ。
「・・・勇者・・様?」
いつの間に気が付いたのか、巫女とばっちり目があってしまった。
「やぁ、助けに来たよ。大丈夫か?」
ショウの手は巫女の危ないところに手が触れている、言い訳などしようが無いので笑顔でごまかすしかなかった。
巫女はだんだん意識がはっきりしてきたのか、自分がどんな状況に置かれているのか理解してきたようだ。
驚いたように目を見開いたかと思うと、数秒後には顔を真っ赤にして目に涙を浮かべていた。
ショウがやばいと思った瞬間、巫女がとんでもないことを言い出した。
「たたたたすけていただいたんです!覚悟は出来ました!でも、その、は!はじめて!なので!優しくしてください!」
巫女は目を堅く閉じ、唇をつきだしている。
ショウは巫女から目をそらすように天井を向き、目を閉じた。
「どうして俺の周りには、変な女しかいないんだ・・・」
巫女に事情を説明して落ち着かせた後、二人で魔法陣を調べていた。
「以前俺がいた国では、魔王が聖女を生け贄に何かを呼び出そうとしてたんだ。その時の魔法陣そっくりなんだけど、一体これで何が呼べるんだろうな」
巫女もショウの隣で魔法陣を観察している、この状況でも好奇心が勝つのだろう
「これ何で書かれてるんでしょうね、こすっても消えませんし、掃除が大変そうです・・・」
足でこすって消えないことを確認してため息を吐く、掃除のことを気にしている場合ではないと思うが・・・。
「とりあえず外へ出ようか、長居する必要もないし、外のダークエルフ達の呪いも解いてもらわないといけないしな」
ショウが老婆も連れていこうと思い、老婆が倒れていた方を見ると、なんと老婆が消えていた。
「勇者様、あれ」
巫女が指さす方を見ると、唯一の出口の前に老婆が立っていた。
その手には禍々しい色のナイフが握られている、最後の抵抗を使用というのだろうか。
「勇者、そして巫女よ。最早ワタシの望みは叶わぬ。だが、貴様等だけはここで死んでもらう」
ショウは巫女を庇うように彼女の前に立ち、カタナを抜いて老婆へ意識を集中させる。
疲れてはいるが、レベルはマイナス999、そして相手はナイフを持った魔法使いの老婆だ。
何があっても負ける気がしないが、警戒するにこしたことはないだろう。
「我が命と引き替えに、全てを破壊する力を与えたまえ!」
老婆は叫び終わると、何とナイフを自分の胸に突き立てた。
ナイフは老婆の体内取りへ込まれていく、まるで獣のような咆哮をあげながら苦しむ老婆。
地面に倒れ込み、荒い息を吐いていた老婆の体が、みるみるうちに膨らんでいく。
数秒後、そこには魔物に変わり果てた老婆の姿があった。
かろうじて人間の姿をとどめているが、筋肉が不自然なほど盛り上がり、手には鋭そうな爪を、口は大きく裂け、その中には猛獣のような牙が並んでいた。
「最後の抵抗ってやつか。まぁ無駄だと思うけどな」