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王国〜聖女の魔法はやっぱりすごかった件〜

ショウは間一髪のところで窓からの脱出に成功した。

受け身をとりながら着地するとすぐさま立ち上がり全速力で走り出す。


「後少し遅かったらやばかったーー」


我ながら完璧な状況判断だったと思う。

とりあえず魔王を倒しに行くことにして近くの町へ情報を集めに行くか。

そんなことを考えていたショウの動きが急に止まった。

足が動かない、それどころか瞬き一つすることすらできなかった。

ショウはどうにか逃げだそうと頑張ったが全く効果がなかった。

しばらくすると、誰かが近づいてくる足音が聞こえた。

首を動かすこともできないため音が近づいてくる恐怖に耐えるしかなかった。


足音が止まる、次の瞬間ショウの背中にある意味衝撃が走った。

後ろから誰かに抱きつかれている。

首に周された手は細く一目で女性のものだとわかった。

背中にはスライムちゃんのような柔らかいものが二つ当たっている。

まだ動かせない視界の片隅で、桃色の髪がふわふわと揺れていた。


「ーー必ず生きていると信じていましたよ」


震える声で優しくささやかれる、それと同時に抱きつく力がさらに強くなった気がした。

首に周された腕も震えている、泣いているのだろうか。

いつの間にか体は動くようになっていたが、この状況で逃げ出す気にはなれなかった。


「色々と事情があってさ、とりあえず話を聞いてくれないか?」


後ろを振り向かずに声をかける、ようやく腕を離してもらえた。

振り返るとそこにはショウの予想通り、聖女が立っていた。

聖女はすぐさまショウの手を握ってきた、そんなことをしなくてももう逃げはしないけどな。


「私もその件で呼ばれたので大体の事情は把握しています、でもなんで逃げ出しだんですか?」


ショウは悩んだ結果嘘をつくことにした。

正直に言えばこの聖女は何をしでかすかわからない。


「それはーあれだ。魔王にとどめを刺すときにこの国に魔王がいるって聞いてさ。聖女に相応しい勇者になるためにはやっぱ魔王がいるなら倒さなきゃいけないかなって。俺のそばにいると前みたいにさらわれて危ない目にあってしまうかもしれないし、仕方なかったんだよ」


我ながら苦しい言い訳だと思ったが彼女には有効だったようだ。

恋は盲目とはよくいったものだ。


「そうだったのですね、やはりあなたは勇者として相応しいーー。それだけでなく私のことも気遣ってくれるなんて、夫としても最高です」


聖女は頬を赤らめている、なんとかうまくいったようだ。

そう言えば体が動かなくなった原因は何なのだろう。

体を見渡してみたが特に異常はない。

不思議そうにしていると、聖女がくすくすと笑いだした。


「さきほど体を動かせなくなったのが気になりますか?あれは私が生み出した拘束魔法です。今度ショウ様と出会ったときに逃げられないように編み出していたんですが、役に立ってよかったーー」


恐ろしいことをサラリと言う聖女は笑みを崩さない、だがその目は笑っていなかった。

ショウにとって彼女は、やっぱり魔王より恐ろしいものだった。


「戻ってきたか、巫女様の御前でなんて無礼な振る舞い。これだから人間は嫌いなのだ」


聖女とともに玉座の間にもどってきたショウは、早速騎士に怒られてしまった。


「その人間に助けを求めたんですよ。あまり変なことを言わないでください」


すかさず巫女がフォローに入るが騎士はあまり気にしていないようだった。


「悪かったよ。とりあえずもうあんなことはしないから安心してくれ。とりあえず本題に入ってもらって大丈夫だ」


ショウは相変わらず聖女に手を握られていた。いつになったら離してもらえるのだろう。

巫女様のまえでこの格好は無礼だと思うのだが、聖女はそんなことなど全く気にしていないようだった。


「そうですね。私の魔法が使えるかどうか試してみましょう。そのダークエルフ?とやらはどこにいるのでしょうか?」


騎士がドアを開けて何か呼びかけると、部屋の中に檻に入れられたダークエルフが運ばれてきた。

檻の中でぐったりとうなだれている、先程ショウが倒した一味の一人のようだ。


「これはーー確かにとてつもない呪いの力を感じます。いいでしょう、通用するか分かりませんがやってみましょう」


聖女は目を瞑ると魔力を練りだす、以前スライムちゃんにかけてもらったものと同じ魔法のようだ。

杖の先から光が放たれ、檻の中のダークエルフを包む。

光に包まれたダークエルフの肌はみるみるうちに白くなっていく。

光が消えたそこには、他のエルフと何ら変わらない姿のエルフがいた。


「これで大丈夫でしょう、呪いの気配は一切なくなりました。次に目を覚ました時、彼は魔王の手先ではなくなっているはずですよ」


聖女は額の汗を拭っている、以前ほど疲れはしていないがやはりこの魔法は疲れるようだ。


「素晴らしい!あなたの魔法があればこれ以上我らの同胞を殺さずにすむ!」


椅子から立ち上がり手をパチパチと叩いて喜ぶ巫女。

そんな巫女を見て騎士は呆れたようにため息を吐く、どうやらこの巫女様はだいぶ幼いようだ。


「お役に立てるようで良かった。さぁ他の人たちもすぐに呪いを解きましょう」


聖女は魔法が有効だとわかったので、がぜんやる気になったようだ。

騎士の合図で入ってきた隊長とともに外へ出ていく、ショウも連れて行かれそうになったので慌てて手を払った。


「もう逃げないから大丈夫だ。聖女は役目を果たしてくれよ。俺もその間に魔王を倒しておくからさ」


何度かこちらを振り向いていたが、最終的には納得したようだ。

名残惜しそうに玉座の間を離れていった。


「さて勇者よ。貴様には別の役目がある」


騎士はショウに向けて丸められた紙を投げてきた。

受け取って中を広げてみると、どうやらこの国の地図のようだ。

ところどころに☓印がつけられている。


「その地図には魔王がいると思しき場所が記されている、そこを調べてもらおう。その間にダークエルフに遭遇した場合は、できるだけ生きて捕らえてほしい。聖女の魔法が効くとわかった以上これ以上仲間を殺されたくはないのでな」


ショウは地図をしまうと早速捜索に出かけようとしたが、巫女に止められてしまった。


「勇者様も今日は疲れたでしょうし、お城に泊まってもらいましょう。すぐに部屋へ案内しますね」



「今日はつかれたなーー」


ショウは案内された部屋のベッドに寝転んでいた。

スライムちゃんを箱から出して胸に抱いている、お決まりの格好だ。


「とりあえずこの国でも俺は魔王を倒さなきゃいけないみたいだし、また二人で頑張ろうね」


スライムちゃんに優しく語りかける、プルプルと体を震わせてスライムちゃんが返事をしてくれているようだった。

しかし聖女にまた出会うことになるなんて予想外だったな、あんな魔法まで用意するなんてまるでショウが生きていることを知っていたみたいだ。


「どちらにせよまた頑張るしかないかな、魔王なんて相手じゃないだろうし」


冒険をするついでに魔王を倒すと思えばいいか。

気楽に考えて、眠りにつくのだった。



ーーショウが眠りにつくその頃


「ここはどこだ?」


サンソンは見慣れぬベッドの上で目を覚ました。

自分は確かギルドで酒を飲んでいたはずだが、なんでこんなとこにいるんだ?


「頭がいてぇなーーー飲みすぎたか」


よくあることだし気にするほどでもないか。

痛む頭をさすりながら、部屋の外へ出るのだった。

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