エルフの城〜魔王より恐ろしいものにあった件〜
勇者様ーーまたか。
ショウは否定しようと思ったがさすがに泣いている巫女に声をかける勇気はなかった。
しばらくすると巫女はようやく泣き止んだ。
隊長は巫女に向けて頭を下げるとさっさと部屋を出ていってしまった。
部屋の中は良い香りだが空気は重いーーそんなことを全く気にせず巫女が口を開いた。
「サンソンが無礼を働いたようで申し訳ありません。その後もまるで犯罪者のように扱ってしまったとお聞きしております。それなのに襲われた我らを助けた上、こちらへ来ていただけたこと心より感謝いたします」
巫女は一瞬で雰囲気が変わった、先程まで泣いていた人物と同一とは全く思えなかった。
「あの程度別にどうってことないですよ。それよりサンソンは大丈夫ですか?」
ショウの言葉に巫女は隣に立つ騎士を見る、彼女が代わりに答えてくれるようだ。
「やつは今治療を受けている、命に別状はないということだ。やつは中身は問題だが腕は確かだ。あれほどの傷を負わせるとは貴様相当な実力者だな」
騎士は今にも剣を抜きそうな気迫でショウを睨む。
あれだけの傷と言われてもそこまで酷いことした覚えはないんだがーー
ショウが不満に思っていると騎士に感づかれたようだ。
額に浮かんだシワが一層強くなった。
「変な気は起こすなよ?私はサンソンのように甘くはない。我らの城を血で汚したくはないのでな」
別に変なことする気はないし負ける気はしないけどな。
ショウがお城に来たことを後悔し始めた頃、また巫女が口を開いた。
「勇者様に失礼ですよ。目撃者の証言によれば先に手を出したのは彼ではなくサンソンの方です。それに彼はとてつもない強さでサンソンだけでなく、襲撃してきたダークエルフを一人の死者も出さずに倒したとも聞いています。本気で向かってくる彼らを殺さずに無力化させるのがどんなに難しいか、あなたなら分かるでしょう?」
どうやらこの巫女は話が分かるようだ、権力者は王国の王や聖女のイメージが強すぎたためどうも不安に思ってしまう。
「ですが彼は人間です。エルフと違い腹の中では何を考えているのやら。巫女様を守る我らとしては簡単に信用するわけにはいかないのです」
騎士が巫女へ反論する、怒るのではなく諭すような言い方だ。
巫女の方は目に涙を溜めていた、また泣きそうだった。
巫女は涙を拭うとショウの方へ向き直る、まだ少しだけ泣いていた。
「ともかく、始りの大樹のお告げ通りに現れた彼は間違いなく勇者様です。ここへ来るまでの活躍と言い間違いなく彼は私達の味方です」
巫女は立ち上がり騎士を睨みながらショウを指差す。その仕草はまるで子供が親に反論しているようだった。
「落ち着いてください巫女様。彼が本当に勇者だとしても我らの味方をしてくれるとは限りませんよ。そろそろ本題に入ってはいかがですか?」
巫女は慌てて玉座に座ると表情を正し精一杯の威厳を出した。
いまさらそんなことをしても意味など無いと思うのだがー
「勇者様、どうか我らを救うために力を貸してください。我らエルフの民はいま未曾有の危機に直面しています」
巫女の言葉を聞いてショウは悩んだ。
自分は勇者ではないし面倒なことに巻き込まれるのはゴメンだ。
誤解も解けたし逃げても問題はないがどうしたものか。
結論を出すのは頭に浮かんだ疑問を解いてからでも遅くはないだろう。
「とりあえず俺が勇者って呼ばれる理由は何なんだ?」
お告げがあったと何度も言われたが意味がわからない。
この国にも変な伝承があるのだろうか。
「勇者様もご覧になったと思いますが、この城の後ろに始りの大樹と呼ばれる木があります。エルフの巫女である私は大樹からお告げをいただくことができます。勇者様が噂になる数日前に、この国をお救いになる勇者様が現れるとお告げがあったのです」
大樹のお告げー巫女だけが聞けるということは、聖女のように特殊な魔法を使えるのだろうか。
「なるほど。俺が勇者って呼ばれる理由はわかったけど、未曾有の危機って何なんだ?魔王でもいるのか?」
魔王は俺が倒したしいるわけがないのだが、それに匹敵する危機が訪れているのだろうか。
軽い気持ちで口にしたのだがどうやら正解してしまったようだ。
「さすがは勇者様です。現在この国には魔王が現れて我らエルフの民を蝕んでいます。同胞であるエルフの中にも魔王の呪いにより造反するものまで現れる始末です。このままではいずれこの国は滅びてしまうでしょう」
どうやらこの国にも魔王と呼ばれる存在がいるようだ。
ショウは話を聞いて考え込む。
ーーさてどうしたものか。
正直に言ってこの国が滅びようがショウには関係ない。
スライムちゃんと冒険さえ続けられれば良いのだから別の国に行くなりすればいいだろう。
だいたい王国ですでに魔王を倒したのだからこの国の魔王とやらは偽物だろう。
エルフのレベルも高いようだし俺が出るまでも無いと思うのだがーーー
「ちなみに魔王はエルフだけではなく自分に敵対するモンスターたちにも手を出しています。中でもこの国にいるスライムは真っ先に魔王に殲滅されました。スライム達は弱いのですが持っている経験値が高いため魔王の経験値稼ぎに使われたのでしょう。その他にも人間に有効的なモンスターやあまり好戦的でないモンスターはすべて殺されました」
巫女の言葉を聞いてショウはすぐに決意をした。
「よし殺そう、魔王はどこにいる?」
エルフを殺そうが他のモンスターを殺そうがどうでも良い。だがスライムに手を出すことだけは絶対に許せなかった。
「さすがは勇者様!ですが魔王の詳しい位置はわかっていないのですーー。現在総力を挙げて居場所を捜索中ですが、魔王側の抵抗も激しくうまくいっていないのです」
仕方がない、少しでもいそうな場所を攻めるとしよう。
どうせレベルの高いダンジョンにでも潜んでいるのだろう。
ショウが魔王を探しに行こうとしたその時、嫌な予感がした。
特殊なスキル、呪い、魔王、まさかとは思うが一応聞いてみるか。
「そういえばダークエルフ達は呪いにかかってるんだよな?ってことは彼らも呪いを解けば元に戻るのか?」
元に戻るのであれば殺さずに捕らえる様にしておくべきだろう。
魔物ではないのだから殺さずに済むのであればそのほうが良い。
「勇者様の言う通り、彼らは呪いをかけられた元は善良なエルフです。ですがレベルが高い彼らを生きたまま捕らえるのはたいへん難しく、止むを得ず殺してしまうことが多いのです。捕らえたとしてもこの国の魔法や道具では彼らの呪いを解くことは叶いませんでした。
そこで人間の王国へ助力をお願いしてみたのです。何でも聖女と呼ばれる奇跡のような魔法を使える冒険者がいるというので、彼女に呪いの解いていただく予定です。到着次第ここへ連れてくるように指示しているので、勇者様もぜひお会いしてください」
そうか、聖女と呼ばれている奇跡のような魔法が使える冒険者か。
ショウは腕を組んでうんうんと頷く、そんなすごい冒険者なら彼らの呪いも解いてくれるだろう。
そこまで考えて、ショウの全身から汗が吹き出す。
ショウの様子を見て巫女だけではなく騎士の方も困惑しているようだ。
変な空気が流れる玉座の間のドアがノックされる、騎士が返事を返すと先程の隊長が中へ入ってきた。
「報告します。聖女様が到着されましたので、お連れしました」
隊長が開けたドアから誰かが入ってくる。
聖女が部屋に入ってくるのと、ショウが窓を突き破ってお城の外へ逃げ出すのは、殆ど同時だった。




