レベル30?のダンジョン〜エルフ基準でも化物だった件〜
王国から遠く離れた北の地には、エルフたちの国がある。
人間に似たような見た目をしているが、尖った耳と端正な顔立ちに平均で300歳は生きる長寿が特徴の種族だ。
エルフの国もまた人間の国と同じように、ダンジョンを中心にして町が栄えていた。
エルフの国のダンジョンは手強いという噂があるので、人間の国のダンジョンに飽きた強者の冒険者が向かう国でもあった。
そんなエルフの国へ続く街道の脇にテントが建っていた。
「おはようスライムちゃん」
テントの中ではショウとスライムちゃんが抱き合って(?)いた。
レナードを倒したあと、自らの死を偽装したショウはスライムちゃんと二人で人間の国を出た。
かなり丁寧に偽装したのでばれるとは思えないが、念の為別の国を目指すことにしたのだ。
レナードを倒してからすでに1週間以上たっていた。
「やっと目的の町へつけそうだよ。新しい国でまた一からはじめよう」
ショウはテントをしまうとスライムちゃんも箱へ戻し、目的の町へ向けて走り出した。
「ここがエルフの町か!」
エルフの町と言っても、人間の町と大した違いは見当たらなかった。
町の住人達はエルフだけだが、噂通り人間の冒険者もかなりいた。
エルフ達は見た目で強さが分からなかったが人間の冒険者たちはかなり強そうだった。
さすがは人間の国のダンジョンに飽きた強者たちだ。
エルフ達は人間に対し友好的なようで、エルフと人間でパーティーを組んでいる冒険者達もいた。
ショウが町を歩いていても、エルフたちからじろじろ見られたり絡まれたりすることもなかった。
エルフの国が運営しているようだが冒険者ギルドもあるようだ。
心配していたが前と同じように冒険ができそうだ。
「余計な心配だったかな、とりあえずダンジョンへ向かうか」
悩みの種も消えたことだ、早速ダンジョンへ向かうとしよう。
ダンジョンの入り口の立て札には030と書かれていた。
「レベル30か・・・素手でいいかな」
今更レベル30のダンジョンに挑む意味があるのかは分からなかったが、せっかく来たのだから攻略することにして奥へと進んだ。
奥へ進んでいると、記念すべき一体目のモンスターに出会った。
ショウの2倍以上ある筋肉隆々の青い肌の肉体に、1つ目の頭を持つ人型モンスターサイクロプスだ。
サイクロプスはショウを見かけると、その巨体からは想像もできないスピードで突っ込んできた。
肩を前に出しその巨体でショウを押しつぶそうとしているようだ。
ショウは突っ込んでくるサイクロプスを片手でなんなく止めると、体めがけて拳を軽く叩き込んだ。
久々だったため力加減を間違えてしまったようだ、ショウの拳はサイクロプスの体を貫いていた。
体から拳を抜くとサイクロプスは灰になり消えてしまった。
「レベル30のダンジョンだったしこんなもんなのかな、見かけは強そうなんだけどな・・・」
気にしていても仕方がない、さっさと進むとしよう。
ショウは現れるサイクロプスを次々に倒しながら奥へと進んでいく。
拳を叩き込むか蹴るかすれば死んでしまうので全く障害にはならなかった。
一度だけタックルを食らってみたが、突っ込んできたサイクロプスのほうが弾かれてしまった。
そんなこんなで全く無傷のまま最深部へとたどり着いてしまった。
「やっぱ弱いな・・・こんなんじゃ全く面白くないよ」
これはボスにも期待できそうにないな。
落胆しながらもとりあえずボスを探してうろつき始めるのだった。
しばらくすると戦闘の音が聞こえてきた。
音のする方へ近づくとどうやら冒険者がボスと戦っているようだ。
緑色の服に鉄の鎧を着た一人のエルフが剣を持ち、棍棒を手にしたボスらしきモンスターと向き合っていた。
ボスは肌が赤いサイクロプスで、通常の個体より筋肉がさらにムキムキだった。
周りを見渡すと地面に3人のエルフが倒れていた。
傷だらけだったがかすかに動いている、まだ息はあるようだ。
「助けるべきかどうするか・・・」
最後の一人が頑張っている間は静観しておくのが正解だろう。
最後の一人はよく耐えていた。
当たれば致命傷になりそうな攻撃を紙一重で躱し、すきを見つけては体を切りつけていた。
「やるなーあのエルフ。この調子なら倒せるんじゃないか?」
ショウがしばらく眺めていると、優勢に見えたエルフに悲劇が起きた。
なんと剣が折れてしまったのだ。
武器を失ったエルフはボスの攻撃をなんとか躱していたがいつまでもつか分からなかった。
ショウが助けようか悩んでいると、ボスの攻撃を受けたエルフがショウの方へ吹っ飛んできた。
「大丈夫か?」
仕方なく受け止めてやったが、もうエルフに戦う力は残っていないようだ。
立ち上がる力すら残っていないようだった。
「あなたは一人か・・・逃げろ・・・やつは一人では絶対叶わない・・・化物だ・・・」
エルフは自分たちを見捨てて逃げろと言っているようだ。
冒険者としては大した覚悟だが今は無駄な覚悟だ。
「化物か。まぁ任せてくれ」
ショウはエルフを壁によりかからせるとボスへと向かっていく。
ボスもショウに気づいたのかこちらへ向かってきていた。
ボスの振り下ろす棍棒がすさまじい速度でショウに迫る。
エルフは思わず目を背けた、地面が揺れ土煙が舞い上がる。
自分のせいで無関係の冒険者まで犠牲にしてしまった。
次は自分の番かと目を開けたその時、信じられない光景が広がっていた。
「やっぱり期待はずれだな。さっさと終わらせるか」
ショウは高速で振り下ろされる棍棒を、片手で軽く受け止めていた。
ボスは目の前の人間が何故死んでいないのか不思議だったようだ。
棍棒を振り上げて目の前の人間めがけて何度も振り下ろす。
ショウは高速で振り下ろされる棍棒を全て殴り返していた。
棍棒は殴られるたびに削れていき、とうとう折れてしまった。
武器を失ったボスは体を震わせるほど拳を固めて、腕に血管を浮かばせながら殴りかかってきた。
ショウは迫り来る拳めがけて全力で殴り返した。
拳が合わさった瞬間、ボスの腕は内部から弾けるように吹き飛んでしまった。
衝撃を受け止めきれずよろけているボスの顔めがけて、ショウは飛び上がり蹴りを叩き込んだ。
ボスの顔は蹴られた瞬間消し飛び、その体は地面に倒れる前に灰になって消えてしまった。
ボスを倒したショウはまだ地面に座っているエルフに声をかけた。
「動けそうか?無理なら外まで運んでもいいけど」
この傷では動けないと分かっていたが、念の為確認することにした。
エルフはショウの申し出に首を振る、本当に大丈夫なのだろうか。
「助けてくれて感謝する。だがこれ以上は無用だ。冒険者としてあなたにこれ以上迷惑を掛けるわけにはいかないのでね」
エルフはポーチから青い液体の入ったビンを取り出すと一気に飲み干した。
しばらくするとエルフの体から傷が消えていった。
エルフは立ち上がると倒れた仲間たちにも薬を飲ませている、この様子なら大丈夫そうだ。
「じゃあ俺は帰るよ。余計なお世話かもしれないけどあんまり無茶するなよ」
ショウはエルフたちを置いて外へと出ていく、ボスを倒したしもうこのダンジョンに用はない。
去っていく人間の背を見ながらエルフは呟いた。
「まだ信じられないな・・・」
彼が来るのがもう少し遅ければ、私達は全滅していただろう。
私達四人は平均レベル200のエルフの国の中でも上位に入るパーティーだ。
そのパーティー4人がかりでも勝てなかったボスを一人で、しかも素手で倒してしまった。
エルフの国で30番目の難易度のレベル200のダンジョンを一人で攻略する人間がいるとは。
まるで化物がもう一体現れたようだった。
「人間の中には稀にとんでもない強さを持つ勇者が現れると言うが・・・まさかな」
回復した仲間と共に、エルフも外へと向かった。
ショウは宿屋へ戻るとスライムちゃんを抱きしめる、宿屋に止まるのは久々だ。
「旅を再開して一回目のダンジョンで人助けできたし、いい出だしだね」
スライムちゃんも嬉しそうに体を震わせている、待ち望んだ二人だけの時間だ。
スライムちゃんがレベル999になってからショウの経験値を吸いおわるまで5分程度しかかからないが、いつものように抱きしめて眠りについた。
翌朝
ショウは町の入り口に立っていた、いよいよエルフの国の冒険の始まりだ。
この国の地図はもっていないため街道沿いにどんどん進むことに決めた。
どうせ目的のない旅だ、片っ端から攻略していくとしよう。
「どんなダンジョンだろうと二人なら問題ないだろうね」
ショウは次の町へ向けて走り出すのだった。