番外編〜レナードの奮闘記〜
以下の文章にはレナードの尊厳を激しく損なう文章が含まれています。
閲覧の際はご注意ください。
私の名はレナード。
人間たちは私のことを魔王と呼んでいる。
これは私が一人の人間に倒されるまでの物語である。
私はダンジョンの奥深くにある玉座に腰掛け、この世界を監視していた。
「やはり人間はこの世界に必要ない。我らモンスターの繁栄のため死んでもらおう」
私が人間を滅ぼそうと行動し始めてしばらくして、憎き人間と長い間一緒に過ごしているモンスターがいることを感じた。
「人間と共に過ごすなど、モンスターの恥さらしめ」
私はそのモンスターに死の呪いをかけた。
これでしばらくすれば人間と一緒に過ごしているモンスターはいなくなるだろう。
数日後
「なぜだ・・・なぜ死んでいない」
私は未だに人間と一緒にいるモンスターの存在を感じていた。
呪いは完璧だった、あれを解くことなど不可能なはずだ。
「仕方がない、もう一度かけてやろう」
私はまた呪いをかけた、これで今度こそ死ぬだろう。
人間とモンスターが仲良くすることなど認めてはいけないのだ。
数日後
「ありえない・・・」
モンスターにかけた呪いは解けていた。
頭に感じる不快な存在に眉をしかめる、どうすれば死ぬというのだ。
「3度も幸運は続かない、今度こそ確実に殺してやろう」
私は再び呪いを放った。
前回前々回と違い今回は少し強めにかけたので、効果もすぐに現れるはずだ。
翌日
「どうなっているのだ!」
私は珍しく声を荒げていた、なぜあの不快な存在が死んでいないのだ。
呪いは完璧だった、あれを解ける方法など絶対に無いというほどに完璧にしたのだ。
だが失敗してしまった、こうなれば呪いなどではなく実力行使しかないだろう。
「やつを向かわせるとしよう」
私は信頼の置ける忠実な部下を呼び寄せた。
ミノタウロスキングー私の部下の中で最も力が強く勇猛な戦士だ。
過去に人間の騎士が攻めてきた時は500人以上を惨殺した実績を持つ。
この時代の人間たちにミノタウロスキングを殺すほどの戦士はいないはずだ。
「人間と暮らしている不快な存在がいる。お前の力でそいつを殺してこい。一緒にいる人間も同罪だ」
ミノタウロスキングは咆哮をあげると早速行動を開始した。
ミノタウロスキングを信じていないわけではないが、念の為また呪いをかけておくことにした。
数日後
「何ということだ・・・」
私は不快なモンスターの存在をまだ感じていた。
それとは反対になぜかミノタウロスキングの反応を感じなくなっていた、まさかやつがやられたというのか。
「仕方がない、やつを向かわせるか」
どんな攻撃にも一切の傷を負わない無敵の体を持つゴーレムキング。
生まれてから一度もかすり傷すら受けたことがないやつなら問題なく遂行できるだろう。
翌日
不快な存在はまだ生きているようだが、ゴーレムキングの気配が消えている。
「ありえん!」
私は確認に行った使いの報告を聞き、またも声を荒げていた。
最強の肉体を持つゴーレムキングが地面に埋められボロボロにされていただと?
「しかも殺すだけでは飽き足らず死体を持ち去るとは・・・やはり人間は生かしておくべきではない」
あまり使いたくはなかったがやつを動かすしか無いだろう。
モンスターにしては珍しく人間のように礼節を重んじるナイトキング。
やつの剣の腕は世界最強だ。
やつならばこの世から欠片も残さずに消してくれるはずだ。
翌日
「何が起きているというのだ・・・」
私は玉座で頭を抱えていた。
人間と暮らすモンスターの恥さらしを殺そうとあらゆる手を尽くした。
幾度も呪いをかけ信頼の置ける部下を3体も向かわせたのだ。
その部下たちが死に、不快な存在が生きているなど許されるはずがない。
「これは私の目で確かめねばなるまい」
これ以上部下を犠牲にするわけにはいかない、数百年ぶりに外へ出ることに決めた。
「近いな・・・この辺りか」
不快な存在を追いかけていると、あたりはすっかり夜になっていた。
何度か人間とすれ違ったが、怪しまれることはなかった。
私の変装は完璧のようだ。
街道を外れ、暗い森の中へと進んでいく。
不快な存在を目指し森の中を進んでいると、誰かが焚き火をしているのが見えた。
近づいていくと、奇妙な形の剣を向けられた。
その瞬間、私はうまれて初めて死を覚悟した。
相手は一人、まだ若い人間の男だ。
だがその体からは私以上のとてつもないほどの力を感じた、部下を殺したのは間違いなくこいつだろう。
腕にはスライムを抱きかかえている、このスライムが人間と暮らしているモンスターの恥さらしだ。
私はひとまず人間のふりをすることにした。
この人間・・・ショウには間違いなく勝てないだろう、なぜこんな化物が人間にいるのか。
私は彼と一晩をともにし、翌朝すぐに別れた。
ダンジョンに戻った私は考えた、どうすればやつを殺せるのだろう。
「人間共を滅ぼすには間違いなくやつが障害になる、だが私では勝てない・・・」
考えた末、私はあのお方に助力を求めることにした。
あのお方であれば恐らくショウを殺してくれるはずだ。
「あのお方を呼ぶとすれば生贄が必要だな。確か特別な魔力を持つ人間の女が好みと仰っていたな」
私は聖女と呼ばれている人間の女がいることを思いだした。
そいつを生贄として捕まえることにしよう。
「たしか人間共の王国に住んでいるということだったな、私一人でもいいが人間共の相手をするのは面倒だ。やつを使うか」
私はドラゴンキングを呼び寄せた。
背中に飛び乗り王国を目指す、人間共を滅ぼすにはショウが邪魔だ。
急いであのお方を呼ばなければ。
目的の王国へ近づくにつれ、私は嫌な予感がしていた。
不快な存在が王国にいる、まさか王国にショウがいるというのだろうか。
そうなればドラゴンキングには犠牲になってもらうしか無い。
私の予感は的中した、間違いなくショウはここにいる。
私は近くの森へ身を隠すとドラゴンキングに城を襲わせた。
外へショウが飛び出してきたのを確認したあと城の中へ忍び込む。
ほぼ無人の城の中で目的の女を捕まえると急いで城を抜け出した。
一度振り返ると、ドラゴンキングが体を貫かれ地面に落ちていくのが見えた。
「やつの犠牲を無駄にするわけにはいかない」
私はダンジョンへ戻るとあのお方をお呼びする準備に取り掛かった。
魔法陣を描き、中心に生贄の女を配置する。
あとは時が満ちればあのお方へと通じる門が開くはずだ。
ショウが攻めてきた場合なんの足止めにもならないだろうが、残された部下のうちできる限り強力なモンスターたちをダンジョンに配置した。
「あと2日・・・何事もないとよいのだが」
翌日
私はダンジョンに配置したモンスターたちが、次々と殺されていくのを感じていた。
不快な存在が近づいて来る、間違いないショウが現れたのだ。
あっという間に聖女の囚われている部屋の目の前まで攻められてしまった。
私は剣を手に立ち上がった、あの方が来るまで魔法陣を死守するつもりだった。
少年と対峙した時、私はそこはかとなく違和感を覚えた。
『これは・・・本当にショウなのか?』
私に向かって奇妙な形の剣を向けている少年からは、この前会ったときのような力は一切感じない。
試しに斬りかかってみると、なんの問題もなく倒せてしまった。
剣についた血を払う、血溜まりに倒れた彼はピクリとも動かない。
放っておけば確実に死ぬだろう。
玉座へ帰ろうとした時、彼の体の下からスライムが飛び出してきた。
倒れた少年に寄り添うような動作をしている。
『モンスターの恥さらしめ』
私はスライムを殺そうと剣を振り下ろした。
だが信じられないことに私の剣がスライムの体に当たった瞬間、火花を散らして弾き返された。
何度振り下ろしても同じように弾かれてしまう。
「なぜだ・・・最弱の種族であるスライムのお前如きがなぜ私の剣を受けて生きている!?」
スライムは私のことなど見ていなかった、死にゆく主人に寄り添い続けている。
まぁ良い、これで人類を滅ぼす準備は整った。
ショウがいなければ残りの人間など取るに足らない存在だ。
お呼びしたあのお方には、このまま私の活躍をご覧になっていただこう。
私は玉座へ戻るとあのお方への門が開くのを待ち続けた。
しばらくして、玉座の間の扉が開かれた。
そこに全身血だらけのショウが入ってきた、あのスライムも一緒だ。
『ありえない・・・あの傷でなぜ生きている』
死にかけだったショウの体からは以前会ったときの恐ろしいほどの力が溢れていた。
戦いはじめてすぐに私は手を切り落とされた、だが私には奥の手がある。
全身の魔力を活性化させ肉体を強化させる秘術、使った後しばらく動けなくなるが仕方あるまい。
目の前の人間を捻り潰そうと飛び込んだ瞬間、両腕を切り落とされた。
あまりの激痛に私は膝をついて少女のように叫んでいた。
『馬鹿な・・・この人間には勝てないというのか・・・』
斬られた両腕で体を支えて何とか顔をあげると、少年が私を見下していた。
「それはこっちの台詞だ。スライムちゃんを傷つけたお前は一欠片も残さずこの世から消してやる!」
私は自分の耳を疑った。
死にかけて人間の言葉を正しく理解できなくなったのだろうか。
「スライムちゃん?お前は世界のためではなくスライムごときのために私と戦っていたというのか?」
世界のためならば私と戦うのも納得できる。
たかがスライムのためだけに私に戦いを挑むなど信じられなかった。
私の言葉が少年を更に激怒させてしまったようで、少年の持つ剣に目に見えるほどの魔力が集められていた。
「世界なんてどうでも良い・・・俺はスライムちゃんを傷つけたお前が許せないだけだ!」
目前に迫る死を前に私はこう思った。
『化物め・・・』
次の瞬間、私の体は一欠片も残さずに消えてしまった。