王国〜二人の騎士と戦わされた件〜
ショウはお城へ着くと早速聖女の部屋を目指す。
ドアをノックすると中から返事が返ってきた、彼女は部屋にいるようだ。
ショウが中に入ると聖女が抱きつこうと手を広げてこちらへ向かってきた。
ショウは迫ってくる彼女をひらりと躱し椅子に腰掛ける。
「久しぶりの再会なのに、恥ずかしがらなくてもいいんですよ?」
聖女は優しい笑みを浮かべてそんなことを言っていた。
目が笑っていないのが怖いが。
別に恥ずかしいわけではない、それに久しぶりと言うほどでもないだろう。
ショウはそんな彼女を気にせずにスライムちゃんを箱から出した。
「聖女様、スライムちゃんが呪いにかかっちゃったんだ。また呪いを解くのをお願いしてもいいかな?」
聖女が頷いて杖を取り出したのを見て、ショウはスライムちゃんをベッドに置いて離れる。
聖女は魔法を唱えると杖の先から光が飛びスライムちゃんを包み込んだ。
しばらくすると光は消えた、聖女が額の汗を拭いながら杖を下ろした。
ショウはスライムちゃんを抱き上げるとステータスを確認する、呪いは解けていた。
「ありがとう、これでまたダンジョンに挑めるよ」
ショウはスライムちゃんを抱きしめたまま聖女にお礼を言う。
聖女はベッドに腰掛けていた、だいぶ消耗したのだろう。
「それにしても呪いの再発が速いですね。もしかするとスライムちゃんは魔王に狙われてるんでしょうか?」
ショウは聖女の疑問と同じことを考えていた。
以前と比べて再発するまでが短すぎる、このままでは聖女と旅をしなければならなくなるだろう。
「お礼というわけじゃないけどこれを渡しておくよ」
ショウは[銀の絹糸]を持っていたことを思い出した。
彼女に手渡すとショウの想像以上に嬉しそうな顔をしていた。
「ありがとうございます。そういえば、ショウ様にお願いされていたことについて少しだけわかったことがあります」
魔王の居場所か、それとも古代の英雄がレベルを下げていた方法でもわかったのだろうか。
どちらにせよ情報が手に入るのならありがたい。
「英雄様もショウ様と同じようにスライムちゃんに頼っていたと思われます。書物を読み直したのですが、魔族に協力してもらっていたことが書かれていました」
ショウはスライムちゃんを見つめる、古代の英雄も今の自分と同じように抱きしめていたのだろうか。だとしたら呪いはどうしていたのだろう。
ショウが疑問に思っていると聖女がその答えを教えてくれた。
「英雄には仲間がいたことも分かっています。その内の一人が私の先祖だっだようです。彼女は魔族の呪いを解くための魔法を考えたことも書かれていました」
なるほどそういうことか。
詳しい書物があるのも、特別な魔法が伝わっているのにはこういう理由があったのか。
ショウが一人納得していると聖女が顔を赤くして近づいてきた。
「それで、お話には続きがあります。その仲間と英雄は魔王を倒した後結婚して末永く幸せに暮らしたそうですよ?」
聖女がショウの手を握ろうと手を伸ばしてきたがその手は届かない、スライムちゃんの体が伸びて彼女の手を叩いたのだ。
聖女がもう一度手を伸ばしてきた、だがスライムちゃんに同じように叩かれてしまった。
何度かおなじやり取りを繰り返した後、聖女は諦めたようだ。
「まぁまだ魔王を倒していないしその時ではないということですかね。ショウ様、早く魔王を倒せるように頑張りましょう」
聖女は赤くなった手をさすってスライムちゃんを見ている、スライムちゃんと聖女の間に火花が飛び散っているように見えた。
「そうだな。じゃあ俺はそろそろ次のダンジョンへ向かうよ」
ショウは立ち上がるとスライムちゃんを箱へ戻す、次はどのダンジョンへ向かおうか。
そんなことを考えていると、聖女が遠慮がちに話しかけてきた。
「実は・・・ショウ様にはダンジョンへ行く前に二人の騎士と戦ってもらわねばなりません」
ショウはいきなりの申し出に混乱する、戦わなければいけないとはどういうことだろう。
「また王様が力を示せって言ってるのか?」
あの国王のことだ、おとなしくしているとは思えなかった。
だが、ショウの予想は聖女によって否定された。
「お父様ではないのです。実は騎士たちの中にショウ様が魔王討伐に参加することに不満を持つ者がいるのです。ショウ様が騎士団長と戦った日にお城にいなかった者たちが自分で確かめないと納得しないというのです」
そういうことか。
まぁ確かにふらりと現れた冒険者が魔王討伐に加わるのは納得できないよなぁ。
「そういうことなら仕方ないか。わかった、試合の準備を頼む。殺さないように頑張るよ」
戦うのは面倒だったが魔王討伐に参加できなくなるのは困る。
普通の人間相手ならどうせすぐ終わるし良いだろう。
「ありがとうございます!早速準備をしてきますね!」
部屋を出ていく聖女はなぜか自分のことのように嬉しそうだった。
少しすると聖女が部屋へと戻ってきた、どうやら準備ができたようだ。
『やけに手際が良いな・・・』
まるでショウが来る前に準備を終えていたような速さだったが、すぐに終わるなら好都合なので気にしないことにした。
試合の場所は以前ショウが騎士団長と戦った練兵場だった。
中へ入ると観客席には騎士たちがすでに座っていた、国王も来ているようだ。
ショウの前には2人の男が立っていた、聖女の言っていた騎士達だろう。
「待っていたぞ!お前が例の冒険者か!」
豪華な飾りのついた金色の鎧を身にまとった男が短い金髪をかきあげながら叫ぶ。
年は20前後だろうか、騎士と言うよりは貴族のような出で立ちだった。
「あのような男がこの場に居るなど、姫様は何を考えているのか」
ドクロの仮面をかぶり、全身を黒いローブで覆った男が身の丈ほどある木の杖をショウに向ける。
見た目はわからないが、声からするとかなり年のようだ。
「お前らのほうがよっぽど変だけどな・・・」
ショウはそんな感想をポツリと漏らした。
「これより、ショウと選ばれし2名との試合を開始する」
大臣の合図と共に貴族風の男が前に出てきた、どうやら最初の相手はこいつのようだ。
「こんなやつに騎士団長がやられたとは信じられないな!僕が化けの皮を剥がしてあげよう!」
男は戦闘では全く役立たなそうな豪華な飾りのついた剣を抜きショウに構える。
ショウはカタナを抜かずに拳を構える。殺さないためには素手でやるしか無い。
「どうした?来ないのかい?ならこちらから行くよ!この王国で500年以上続く由緒正しい貴族の当主に代々受け継がれし我が秘剣の輝きの前にはどんな敵も」
面倒ださっさと終わらせよう。
ショウはまだ何か話している男めがけて一足で踏み込むと、ガラ空きのお腹めがけて拳を叩き込む。
鎧を砕かれた男が宙を舞い、体を強かに壁に打ち付けられる。
地面に倒れた男は、ようやく喋るのを止めた。
「次の者、前へ!」
気絶した男が外へ運び出されると、今度はローブをまとった男が前へ出てきた。
男が持っている杖の先から地面に落ちている豪華な剣に向けて火の玉が飛ぶ。
火は一瞬で剣を包み込むと、まるで飴のようにどろどろに溶かしてしまった。
「我が家に代々受け継がれし魔法の力を見るが良い・・・」
今度は杖をショウに向けると、その先端から勢いよく火の玉を飛ばした。
それも1つではない、5つの火の玉がショウに向けて飛んでいく。
ショウは拳を硬く握ると、迫りくる火の玉に向けて高速で叩き込んだ。
火の玉は拳圧によりかき消されていく、ショウの拳に火傷一つ負わせることはなかった。
「よく耐えたと言いたいが、今のはほんの小手調べだ・・・」
男が杖を構えてぶつぶつ呪文を唱え始めた。
すぐに発動するかと警戒したがどうやら時間がかかるようだ。
ショウは距離を詰めると、仮面めがけて拳を叩き込んだ。
仮面を砕かれ地面に仰向けに倒れ込んだ老人は気を失っていた。
こいつと良いさっきのやつと良い、騎士団にはバカしかいないのだろうか・・・
「そこまで!勝者ショウ!」
大臣の合図と共に騎士たちから歓声が上がる。以前とは大違いだ。
上を見ると国王は残念そうに頭を抱ていた、ショウが負けると思って期待していたのだろう。
ショウが外へ出ると、聖女が出迎えてくれた。
顔の前で手を組み、頬を染めながらショウを見つめている。
「ショウ様おめでとうございます。これでもう誰も文句は言わないはずです」
そうだと良いのだが、彼女のこの喜びようは何なのだろう。
ショウが魔王討伐に参加できるのがそんなに嬉しいのだろうか。
「それなら良かった。じゃあ俺はダンジョンに行ってくるよ。魔王の居場所の調査引き続き頼むね」
彼女の気持ちなどわからないのだから疑問に思っても仕方がない、魔王と戦うときに備えてダンジョンで鍛えるとしよう。
ショウは聖女の肩を軽く叩くと、ダンジョンへ向けて走り出した。
ショウがいなくなった後、聖女はショウに触られた肩を愛しそうになでていた。
「これで私とショウ様の邪魔をするものはいなくなりました。お父様も納得するしか無いでしょう。ああ、次に帰ってくるのが待ち遠しい。二人の未来のために色々しておかなければ・・・」
そう言うと彼女は自分の部屋へと入っていく。
ショウの知らないところで聖女の暗躍が始まっていた。