レベル82のダンジョン〜魔力を調整できるようになった件~
レベル82のダンジョンがある町へついた、早速ダンジョンへ向かうとしよう。
ショウはダンジョンにはいるとカタナを抜いた、今日はこの武器を使いこなせるようになるのが目標だ。
ショウは簡単な魔法しか使うことができないので、魔力を扱う感覚を知ることから始めなければならなかった。
「大変だけど頑張るしか無いよな」
使い分けすることができるようになれば、ここぞという時に使えないような状況にはならないだろう。
奥へ進んでいると巨大な芋虫のようなモンスターに出会った。
緑色の体をうねうねとさせながら近づいてくる、あまり強そうではないな。
まずは魔力を使う感覚から知ることにしようと、ショウはモンスターめがけてカタナを振った。
意識したおかげか、体からなにかがカタナに伝わっていく感覚があった。
放たれた真空刃はモンスターの体を両断する、後ろの壁も傷つけてしまった。
「これが魔力を使う感覚なのかな?これを止めるイメージか・・・」
使う感覚は分かった、だがこれを止める方法は見当もつかない。
実践で学んでいくしか無いのだろうか、こんな時味方に魔法使いがいれば良いのだが・・・
無いものをねだっても仕方がない、さっさと次へ向かうとしよう。
2体目のモンスターが現れると、今度は体からカタナに伝わる何かを止めるようにイメージしてカタナを振ってみた。
だが失敗してしまったようだ、1体目と同じように真空刃で倒してしまった。
「やっぱそう簡単に上手く行くわけがないか・・・」
気長にやるしか無いのかなぁ。
先のことを考えため息を吐く、顔を上げた時にあることに気づいた。
モンスターの後ろの壁の傷が浅い気がする、少しだが抑えることができたようだ。
この調子でどんどんやっていくとしよう。
だがそこからが大変だった。
それから10体以上倒したが、全く進歩しない。
相変わらず真空刃は飛び続け、ダンジョンの壁を傷つけていた。
どうすればいいのか、ショウには思いつかなかった。
悩みながら奥へ進んでいると、モンスターが白い物に抱きついていた。
近づいてみると糸でぐるぐる巻きにされた繭のようなものだった、ちょうど人間が入りそうな大きさだ。
同じような繭が周りにも3つ転がっていた。
1つは中身がまだありそうだが、もう2つはぺしゃんこだった。
モンスターが抱きついていた繭はどんどん薄くなっていた。
モンスターの抱えていた繭が完全にぺしゃんこになったところで、やっとショウに気づいたようだ。
モンスターが体をこちらに向け、口から糸を吐いてきた。
ショウは糸を避けると、カタナを振るう。
今回も失敗したようだ、真空刃が出てしまった。
真空刃はモンスターを両断するとともに、モンスターが抱えていた繭のような物も斬ってしまった。
繭の中身が地面に転がる、どうやらそれは冒険者のようだった。
その体は皮と骨だけだった、お腹に10cmほどの穴があいている。
モンスターに捕まって、中身を吸われてしまったようだ。
残り3つの繭の中にも同じように冒険者が捕まっているのだろう、そういえば1つだけまだ中身がありそうだな。
ショウは中身がありそうな繭に近づくと、手で開いてみた。
少しだけ固かったが、問題なく開けることが出来た。
中には黒いローブを身につけ、口を糸で塞がれた女の子が入っていた。
女の子はショウを見ると起き上がり抱きついてきた。
死の恐怖か、助かった安堵感からかは分からないが女の子は涙を流していた。
ショウは女の子を離すと、口を塞いでいた糸も同じように手で引きちぎってあげた。
女の子はかなり驚いた表情をしていた、開かれた大きな目が可愛らしい。
女の子は立ち上がるとショウに向かって頭を下げる、長い青髪が顔を隠してしまった。
「どなたかは存じませんがありがとうございます。捕まってしまってもう助からないかと思いました」
話を聞くと彼女は4人でこのダンジョンに潜ったのだが、モンスターの奇襲を受けて次々に捕まってしまったらしい。
口を塞がれて手足を縛られ、繭の中に閉じ込められてしまったようだ。
ショウは彼女に助ける前のことを説明した。
他の繭はモンスターに吸われてしまっていたことを伝えると、また泣き出してしまった。
しばらく泣いた後、落ち着いた彼女が改めてお礼を言ってきた。
「本当にありがとうございます。ショウさんはすごくお強いんですね。あのモンスターの糸は、剣でもなかなか切れないのに素手で引きちぎるなんて聞いたことがありません」
確かに少しだけ固かったけどそんなに頑丈だったのか、それじゃ逃げられないのも納得だな。
「そういえば、この後君はどうする?一人で戻れそうなら俺は奥へ進むけど」
彼女はショウの言葉に少しだけ悩んだ後、手を小さな胸の前で握りしめると口を開いた。
「ショウさんさえよければ一緒に着いていっても良いですか?魔法使いの私じゃ一人は厳しくて・・・もちろん何かお礼はさせて頂きます!」
まぁそうなるよな。
一人連れて行くぐらい特に問題にはならないだろう、それに助けておいて見捨てるのも可哀想だ。
そこまで考えたところでショウは良いことを思いつく。
「ボスを倒した後になるけど君がそれで良いのなら。じゃあ助けたお礼を先にもらっても良いかな?」
ショウの言葉を聞いた彼女は自分のポーチを開けると、ショウに袋を差し出してきた。
「少ないですけど私の全財産です。これで良いですか?」
どうやら金銭を要求していると思われたようだ。まぁ普通はそうだろう。
「お金とかじゃなくて体で払ってもらおうかな。君にちょうどお願いしたいことがあるんだ」
ショウは魔法使いの彼女に魔力の使い方を教えてもらうつもりだった。
だが彼女は何か勘違いしたようで、耳まで真っ赤にして俯いていた。
しばらくそうしていたが、決心したのか目の端に涙を溜めながら服を脱ごうとしたので慌てて止めた。
ショウは誤解の無いように彼女に丁寧に伝えた。
魔法使いの女の子はショウの話を聞いたあと、早とちりしたことが恥ずかしくなったのだろうか。
先ほどと同じように耳まで真っ赤にしていた。
「魔力の使い方ですか。わかりました全力でお手伝いさせて頂きます!とりあえず、ショウさんの今の状態を見せてもらえませんか?」
彼女に理解してもらえたところで、ショウは実演して見せた。
遠くの岩めがけてカタナを振るう、真空刃によって岩は両断された。
彼女はショウがカタナを振るうのをしっかりと見ていた。
魔法使いの彼女ならば何か良い助言が期待出来るだろう。
「ショウさんは、魔力を使う時に数字でイメージしていますか?」
ショウは彼女の質問に首をかしげる、魔力の調整は感覚でやっているので数字などイメージしたことがなかった。
「数字をイメージすることで、より魔力を操りやすくなります。まずは魔力を数字でイメージできるようにしましょうか。私が指の先に魔力を集めるので、ショウさんはその魔力の数字を覚えてください」
魔法使いの女の子は人差し指を立ててショウに向ける、意識を集中させると魔力が集まっているのがわかった。
彼女は1から100まで魔力の量をランダムに調整して見せてくれた。
ショウは最初のほうこそわからなかったが、最後の時にはピタリと当てるか近い数字を言うことができるようになっていた。
魔力を感覚ではなく数字のイメージで、これがどうやら重要らしい。
「ここまでできるようになったら、あとは簡単ですよ。先ほどの魔力を数字でイメージする感覚でカタナを振ればいいんです!」
ショウは彼女の言う通りに魔力10をイメージしてカタナを振ってみた。
真空刃は飛んだが、岩を切断できず表面に薄く傷をつけただけで終わった。
「魔力10をイメージしてこの程度か・・・」
ショウは彼女との練習前の真空刃を思い出す。
意識して弱く飛ばしていた真空刃ですら魔力200は使っていただろう。
「すごい上達ですね、私なんかよりずっと上手だと思いますよ」
魔法使いの女の子はショウの上達ぶりに驚く、彼女はショウがこんなに早く魔力の調整をできるようになるとは思っていなかった。
そのまま少し練習するとショウは彼女の教えのおかげで魔力の調整をかなりうまくできるようになっていた。
試しに魔力0をイメージしてカタナを振ってみたところ、真空刃は出なかった。
「ありがとう、おかげで大分上達したよ。それじゃボスを倒しに行こうか」
ショウはカタナをしまうと魔法使いの女の子と二人で最深部へ向かった。
最深部へ着くとすぐにボスを探した、魔法使いの女の子には少し離れて後ろを歩いてもらう。
戦力として数えるつもりはないし、また捕まられても面倒だったからだ。
ボスを探していると、何やら大きな羽音が聞こえてきた。
ショウはカタナを抜いて音のする方へ向かう、するとそこには大きな蝶のようなモンスターがいた。
大きさはショウの2倍ぐらいだろうか、黄色の大きな翼をはばたかせて宙を飛んでいた。
「あれがこのダンジョンのボスです。翼から出る鱗粉を吸うと痺れてしまうので、気を付けてください」
魔法使いの女の子がアドバイスをくれた、確かによく見ると翼からは粉が舞っていた。
丁度いい、練習の成果を試してみるか。
ショウはボスから距離を取り、魔力1000をイメージして真空刃を飛ばした。
ショウに気づいたボスがこちらを向いた瞬間、その体が縦に両断される。
レアドロップ、[銀の絹糸]を落とし灰となり消えてしまった。
ボスが飛んでいた後ろの天井や壁に大きな切り傷が残っていた、どうやらやりすぎてしまったようだ。
「魔力1000だとこの威力か、ボス相手でも500ぐらいで大丈夫そうだな」
硬い体を持つ相手にはそうもいかないだろうが、大体の威力を把握することはできたし良しとしよう。
魔法使いの女の子は物陰からショウがボスを一撃で倒すのを見ていた。
「ショウさんは本当に人間なんでしょうか・・・」
レベル85の魔法使いの自分ですら魔力の量は800程度しかないのだ。
ボスを倒した一撃は恐らく魔力1000程度は使っているだろう。
カタナをしまってこちらに手を振っている少年が、彼女には化け物に見えた。
ショウは約束通り魔法使いの女の子をダンジョンの外へと連れて行った。
外へ出ると彼女はショウに改めてお礼を言った。
「ショウさん本当にありがとうございました。あなたのご活躍をお祈りしております。それでは」
お礼を言うと彼女はどこかへ行ってしまった。顔が青ざめていたので気分でも悪いのだろう。
仲間を失ってしまったのだ、無理もないか。
実は魔法使いの女の子はショウが化け物に見えて仕方がなかったので、早く逃げたかっただけなのだがショウはそんなことを知る由もなかった。
宿へ戻るとスライムちゃんを抱きしめる、早速今日の戦果をスライムちゃんに報告した。
「スライムちゃんが励ましてくれたおかげで頑張れたよ、たまたま出会った魔法使いの子が教えてくれたのもあるけどね」
スライムちゃんが体をぷるぷると震わせていた、ショウには彼女(?)が喜んでいるように見えた。
魔力を扱えるようになったし、自分の魔力の量ぐらい正確に把握しておこうかな。
明日の朝確認することにして眠りについた。
翌朝
ショウのステータスはマイナス999、その時点での魔力は16892だった。
レベルが上がることでどれだけ下がるかわからないが、調整すればどうにかなるだろう。
スライムちゃんのステータスを確認すると、また呪いにかかっていた。
残り時間は30時間ちょっとだ。
「またか・・・これは本格的に魔王を倒さなきゃいけないかな」
すぐにでも魔王を倒したかったが場所がわからないことにはどうしようもなかった。
とりあえず、スライムちゃんの呪いを解きに戻るとしよう。
ショウはスライムちゃんを箱へしまうと聖女に会うために王国へ向けて走り出すのだった。
いつも読んでくださりありがとうございます。
申し訳ありませんが作者の事情により次回の更新は来週の月曜日10月7日を予定しております。
楽しみに待っていただけると嬉しいです。




