レベル??のダンジョン〜英雄の残した物を手に入れた件〜
聖女が用意してくれた地図の✗の場所にはすぐについた。
町を出て20分程度しかかかっていない。
「このあたりのはずだけど・・・何もないな」
あたりを見渡してみるが何も見当たらない、場所を間違えているのだろうか?
しばらくあたりを散策していると変な形の大きな岩を見つけた。
きれいな六角柱の岩で大きさはショウと同じくらい、表面は苔や蔦が覆っていた。
ショウはこの岩が怪しいと感じた、とても自然にできた物とは思えない。
岩の表面に生えた苔や蔦を剥いでいくと、これは岩ではなく何かの金属で作られていることがわかった。
「地図の✗はこいつのことだったんだな!」
ショウは表面に生えた苔や蔦をきれいに落としていく、どこかに次の手がかりがあるはずだ。
「あった、鍵穴だ!」
ショウの予想は正しかった。
表面を注意深く観察すると、小さな鍵穴が開いていた。
ショウは英雄の残した箱に入っていた鍵を取り出すと、穴へ差し込む。
一度深呼吸をして心を落ち着かせた後、鍵をまわした。
だが何も起こらなかった。
「古すぎて壊れちゃったのかな?」
ショウが諦めて鍵を抜こうとしたその時、地面が激しく揺れ始めた。
鍵が柱に飲み込まれ、柱が地面に潜っていく。
柱が半分ほど埋まってしまうと、ようやく揺れが収まった。
揺れが収まると共に柱の頭頂部が開いた、どうやらハシゴで地下に降りれるようだ。
「降りるしか無いか」
中は暗くてよく見えなかった、何が待っているかわからないが覚悟を決めてハシゴを降りていく。
5分ほど降りただろうか、ようやくハシゴが終わった。
「なんかダンジョンみたいだな」
あたりを見渡したショウはそんなことを思った。
ショウがいるところは、まるでどこかの町のダンジョンのようだった。
ここに英雄の残したお宝があるのだろうか、とりあえず奥へ進むとしよう。
「やっぱりいるよなぁ」
ダンジョンみたいと思った時に予想はしていたが、モンスターもいるようだ。
ショウの目の前には兜から足先まで黒色の鎧が立っていた。
兜や鎧の隙間から中が見えたが、どうやら誰も入っていないようだ。
その手には鎧と同じように真っ黒の剣が握られていた。
前に倒したゴーストナイトのような敵だった。
モンスターは剣を振り上げると、ショウに向けて振り下ろしてきた。
遅いわけではないが、特別速いというわけでもない。
迫りくる剣をカタナで受けようとしたその時、ショウの背筋に悪寒が走った。
ーこの剣は止められない。
そう判断したショウは急いで剣を避ける。
ショウの横スレスレを通過した剣から真空刃が飛び、床どころか壁や天井にまで傷をつけていた。
当たってしまったのかカタナの先がほんの少しだけ斬られていた、すさまじい斬れ味だ。
モンスターは今度は剣を横薙ぎに振るう、ショウは慌てて地面にしゃがんでかわした。
岩が崩れる音を背中に聞きながら、モンスターに斬りかかる。
だがモンスターに傷をつけることができない、カタナは鎧に弾かれてしまった。
剣が振り上げられていたのを見て、慌てて横へ飛ぶ。
横へ飛んだ直後、ショウのいたところには深い斬撃の後ができていた。
でたらめな攻撃力に頑丈な鎧、動きは遅いのでなんとか戦えているがいつまで持つだろうか。
その後も何度か斬りかかるが、全く傷をつけることができない。
モンスターが剣を振るう度に床や天井に傷が増えていく、このままではダンジョンが崩壊してしまいそうだ。
モンスターが振り下ろす剣を避けようとした時に、ショウは右手に衝撃を受けて体勢を崩してしまった。
モンスターに気を取られるあまり、天井から落ちてくる岩に気づかなかったようだ。
「カタナが!」
ショウは何とか剣を避けることには成功した、だがカタナを根本から斬られてしまった。
武器を失ったショウに向けてモンスターが剣を振り上げる。
絶体絶命かと思ったその時、ショウにある考えが浮かんだ。
「お前の武器をもらうぞ!」
ショウはモンスターの腕を掴むと、その体を思い切り蹴りつける。
一撃ではミシミシと音を立てただけだったが、二撃目でモンスターの腕を外すことができた。
鎧は頑丈ではあるが、接合部は脆かったようだ。
本体から外れた腕が剣を離した、ショウは剣を拾い上げると近づいてくるモンスターめがけて横薙ぎに振るう。
ショウのカタナでは傷一つつかなかった鎧が、まるで布を斬るように軽く両断できた。
モンスターだけでなく後ろのダンジョンの壁にも横一線に大きく穴が空いていた。
モンスターが灰となって消えていく、ショウが持っている剣からも灰が落ちていた。
「残念だな、この剣が残ってくれたら良かったんだけど」
モンスターの武器なのだから消えても仕方がない、ショウが諦めかけたその時驚くことが起きた。
なんと、灰になった剣の中から同じように真っ黒なカタナが出てきたのだ。
ショウはカタナを拾い上げる、どうやらこれはドロップアイテムのようだ。
ショウが試しにカタナを軽く振ると、天井から壁、床に至るまで一直線に傷跡がついた。
「これは・・・簡単に振れそうにないな」
ショウは失ったカタナの代わりにこのカタナをもらうことにした、もしかしたらこれが英雄の残したものかもしれないな。
ダンジョンを散策すると、奥に石碑が立っていた。
そこには布に書かれていたような古代文字が書かれていた。
「多分重要なことが書いてあるんだろうけど、読めないな・・・」
ショウは仕方なく持ってきた地図の裏に石碑の文字をそのまま写した。
ダンジョンの中にはもう何もないようだ、外へ出るとしよう。
ショウがダンジョンの外へ出るとあたりはすっかり暗くなっていた。
外へ出て体を伸ばしていると、急に入り口だった柱が動き出した。
地面に完全に潜り込んでしまい姿を消してしまった。
中へは二度と入れないだろう。
「入ったときも思ったけどすごい技術だな」
今の時代にこんな技術はない、古代の魔法だろうか?
疑問は残るがもうこの場所に用は無い、さっさと城へ戻るとしよう。
ショウが城へつくと、城門で聖女が出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ。無事で何よりです」
彼女の案内で、ショウは今までとは別の部屋に連れて行かれた。
部屋の真ん中には大きな天蓋付きのベッドがあり、立派な装飾が施された化粧台もあった。
国王の部屋ほどではないが、絨毯も家具も高級品だと一目でわかった。
「ようこそ私の部屋へ、さぁどうぞこちらへ」
聖女はベッドに座ると自分の横をぽふぽふと叩いている。
ショウは彼女の誘いには乗らず、ベッドの隣に椅子を持ってきて彼女の正面に座った。
彼女は泣きそうな顔をしていたが、今はそんなことを気にしている暇ではない。
ショウは聖女に体験したことを全て話した。
✗マークの場所にあった不思議な柱のこと、中にあった謎のダンジョン。
そこで戦った謎のモンスターが落としたカタナ、石碑の文字。
聖女はショウの話を興味深そうに聞いていた。
「とりあえずこれ読めるかな?」
ショウは石碑に書いていた文字を写した紙を彼女に手渡す。
彼女は少しだけ悩んでいたが無事に解読できたようだ。
「未来の英雄よ。守護者を倒し力を示せ。さすれば我が愛刀を授けよう」
ショウはカタナを抜き刀身を眺める、炎を反射して美しい模様が浮かび上がっていた。
これが英雄の愛刀、たしかにすさまじい切れ味だったな。
「それが伝説の英雄の武器ですね。少しだけ貸してもらえますか?」
ショウはカタナを鞘に戻すと聖女に手渡す。
聖女はカタナを抜こうとしているが、どうやら抜けないようだ。
「あの、ショウ様。意地悪しないでください・・・」
聖女が泣きそうな顔でショウを見ている、特に何もしていないがどうしたのだろう。
もしかすると装備する条件があるのだろうか、聖女に魔法で鑑定をお願いした。
「このカタナ・・・レベルマイナスの者のみ装備できるみたいです。私が持てないのはこれが原因ですね、疑ってごめんなさい」
そういうことか。レベルマイナスの者しか装備できないカタナ。
これで伝説の英雄もショウと同じ呪いにかかっていたことは間違いないだろう。
謎が解けたところでショウは聖女に許可をもらってスライムちゃんを箱から出す。
抱きついてきたスライムちゃんに嫉妬している聖女に、ショウは新たな謎について話すことにした。
「なぁ聖女様。伝説の英雄は多分俺と同じ呪いにかかってたんだよな?どうやってレベルを下げたんだと思う?」
同じ呪いにかかっていたのならどうにかしてレベルを下げていたはずだ。
もしかするとショウもその方法を使えるかもしれない。
スライムちゃんに頼らずに済むなら、スライムちゃんが呪いにかかるのを防げるかもしれない。
「そんな伝承は残ってなかったと思いますが・・・念の為調べておきますね」
聖女も知らないということは望みは薄そうだな。
スライムちゃんが呪いにかからないようにするには、本当に魔王を倒してみるのが一番はやいのかもな。
とりあえず今日はもう遅いしさっさと寝てしまおう。
「じゃあ俺はそろそろ寝るよ、また明日」
スライムちゃんを箱に戻し外に出ていこうとすると、聖女に声をかけられた。
「ショウ様、今日はここで一緒に寝ましょう。命を救ってくれたお礼をさ」
彼女の言葉を最後まで聞かずに外へ出ていく。
明日は力試しも兼ねてダンジョンでも行ってみるか。
城の中は落ち着かなかったので、見張りをしている騎士にお願いして中庭にテントをはらせてもらった。
「声をかけただけであんなに怯えなくてもいいのにな」
昼間の騎士団長との試合で、騎士たちは相当恐怖を刷り込まれたようだ。
ショウは疲れていたのか、その日はベッドに入るとすぐに眠ってしまった。