レベル62のダンジョン〜スライムちゃんにまた助けられた件〜
レベル62のダンジョンがある町へ着いた。
早速ギルドで情報を集めようとしたのだが・・・
「どうなってんだこの町は!」
ショウは町の住人や冒険者たちから逃げながら叫ぶ。
それはショウが町に着いたときのことだ。
ギルドへ向かおうとしているショウへ住人の女の子が声をかけてきた。
「あの、もしかして勇者様じゃないですか?」
突然のことにあっけにとられていると、反対側からも同じように男の人が近づいてきた。
一枚の紙を手にショウと紙に書かれている人相を見比べているようだった。
「やっぱり間違いない!人相書きにそっくりだし何より剣が一緒だ!」
ワラワラと住人たちが集まってきだしたので、たまらずショウは逃げ出した。
捕まえるような仕草をするものもいるうえ、興味のない相手にかまう時間はなかった。
住人たちを振り切りギルドへと入る、ここまでは追ってこないだろう。
椅子に腰掛けて息を整える、休憩したら情報を集めよう。
そう考えているショウに冒険者の男が声をかけてきた。
「おい、お前勇者だろ?」
ここでも勇者か・・・嫌な予感がする、どこまでも逃げられないようなそんな気がした。
「人違いだよ!」
ショウは思わず強い口調で言い返してしまったが、男は気にせずに手にした紙とショウを見比べている。
いったいそこに何が書かれているのだろうか。
「ごまかそうとしても無駄だぜ。おとなしく捕まってもらうぞ」
男がショウを捕まえようと手を伸ばしてくる。
ショウは反射的に思い切り手を払い除けてしまった。
ダンジョンに潜る前のレベルマイナス999の状態で。
ステータスオールSSのショウに手を払いのけられた男は、回転しながら吹っ飛びギルドの壁に大穴を開ける。
ピクピクと動いているところを見ると死んではいないだろう。
「やべぇ、やっちまった」
力を制御せずに払ってしまったせいでとんでもないことになってしまった。
飛ばされた冒険者の仲間だろうか、怒りに満ちた目で武器を手にショウに近づいてくるのが見えた。
ショウは慌てて立ち上がり、ギルドの外へ飛び出す。
「出てきました!みなさん今です!」
外へ出ると撒いたはずの町の人たちが集まっていた。
どうやらギルドの中に逃げ込んだところを見られたようだ。
ショウを待ち伏せして捕まえようとしたのか逃げる隙間がない。
「なんでそんな必死なんだよ!」
ショウは包囲網の外、つまり上へと思い切り飛び上がる。
地面へつくと即座に走り出す、後ろからは冒険者と町の人たちが追ってきた。
そして現在に至る。
いつの間にかギルドにいた冒険者が全員追いかけてきているようだ。
喧嘩は数少ない冒険者の娯楽の一つだ、しかも大義はあちらにあるということで便乗したのだろう。
「俺が何したっていうんだ!捕まえられるようなことは・・・・多分してないぞ!」
もしや道具屋の一件がバレたのだろうか?走りながらいろいろと考えてみたが良い答えは見つからない。
ショウは町の人や冒険者が手にしていた紙のことを思い出す、あれに秘密があるはずだ。
ショウは逃げている途中に建物の壁に張り紙がしてあることに気づいた。
その内の一枚を剥がし、逃げながら内容を確認する。
そこにはショウの人相書き、武器の特徴とともに目を疑うようなことが書かれていた。
私の命を救ってくださった勇者様を探しています。
私の命は、救ってくれた彼のためにあります。
彼は今、呪いに苦しんでいるため私の助けが必要です。
恩返しのためどうか皆様のお力を貸してください。
聖女と呼ばれる冒険者より
「やっぱりあいつか!」
どうやら聖女とやらの人気はかなり高いようだ。
その証拠に冒険者も町の人たちも必死だった。
だいぶ距離は空いているが、このまま次の町へ逃げるのも嫌だ。
せっかく来たのだしダンジョンの攻略を諦めたくはなかった。
ショウは仕方なく情報無しでダンジョンへ潜るのだった。
「ここまでは追ってこないみたいだな」
ダンジョンに入り息を整える。
住人はもちろんなぜか冒険者たちも追ってこなかった。
冒険者が入ってこないということはそれなりに準備が必要なのだろうか・・・
ショウは嫌な予感がしつつも奥へ進むのだった。
しばらくするとモンスターと遭遇した。
シルエットは白い、大型の四足歩行の獣だった。
上半身や手足はライオンで、胴体はヤギ、そして本来しっぽのある位置には代わりに蛇が生えていた。
他の冒険者から聞いたことがある、キメラというモンスターだ。
キメラはショウに気づくと咆哮を上げて襲いかかってきた。
爪は相当鋭いようだ、避けた先の地面に3本の傷跡がついている。
ショウは飛びかかってくるキメラの鼻先を思い切り殴りつける。
キメラは頭から弾け飛び、灰となって消えてしまった。
「硬さは大したことが無さそうだな」
この程度なら問題にはならないだろう。
特別な準備など必要無さそうだった。
何かボスが特別なのだろうか、念の為警戒しながら奥へ進むのだった。
2体目のキメラはすぐに飛びかかってこなかった。
ショウが警戒しながら距離を詰めていると、大きな口を向けて炎を吐いてきた。
熱さ自体は大したことがなかったので、すぐに距離を詰め首を斬り落とす。
ドロップアイテム[キメラの爪]を落とし消えてしまった。
その後も何度か襲われたが、同じように斬り倒していく。
爪と牙、そして口から吐く炎に気をつけていればそんなに手強い相手ではなかった。
最深部へつくと、早速ボスを探す。
「注意してたけど誰も来なかったな。そんなにやばいやつなのか?」
一人ぐらいショウの後を追って入ってくるかと思ったが全く来なかった。
カタナを抜き、警戒しながらボスを探す。
奥へ進むとボスらしきキメラを見つけた。
毛が銀色の輝きを放っておりどこか神々しさすら感じられるキメラだった。
ボスはショウに気づくといきなり飛びかかってきた。
押し倒されないように耐える、なんて力だ。
するとボスの後ろから蛇の頭が伸びてきて、ショウに何かを吹きかけた。
一瞬毒かと警戒したがしばらくたっても何も起きない、クサイだけだった。
実はこの毒息は体をしびれさせる効果がある。
冒険者たちはこの対策をしていないので追ってこなかったのだが、ステータスが高すぎるショウには効かなかったのだ。
ボスが息を大きく吸い込み、ショウに向けて炎を吐き出そうとしてきた。
ショウは押し合いになった状態のまま蹴りを繰り出し、ボスの顎を下から蹴り飛ばす。
息を吐こうとしていたボスの顔がボンという音を上げて煙を吹いた、ショウはボスの力が緩んだ隙に体をけりとばす。
まだヨロヨロしているボスめがけてカタナを振りおろす。
しっぽの代わりに生えていた蛇を斬り落とし、そのままボスの体めがけてカタナを振り下ろす。
体を両断されたボスは断末魔を残し灰と消えてしまった。
蛇の頭は消えないで落ちている、あれがドロップアイテムだろう。
レアドロップ[キメラの尻尾]を手に入れた。
外に戻るわけにもいかず、洞窟の中でスライムちゃんを抱きしめる。
「さてと、ボスは倒したけどどうしようか?外に出たら絶対待ち構えてるよね・・・」
地上に出ると同時に全力で逃げようか?
でもそれだと返ってやる気を引き出してしまいそうだしどうしようかな。
悩んでいるとスライムちゃんがビシビシと体当りしてきた。
「まさか、君が行くっていうのか?」
スラムちゃんは肯定するように抱きついてくる。
確かにスライムちゃんは強い、でもショウにはそんなことできるわけがなかった。
万が一にでもスライムちゃんに怪我を負わせるわけにはいかない。
「残念だけど駄目だよ、仕方ないけど強行突破しか無いかなぁ」
最悪ショウが本気で飛びだせば誰も止めることなどできないだろう。
そう決めて、経験値を吸われ続けた。
レベルがマイナス999に戻ったのを確認して、スライムちゃんを箱に戻そうとしたその時。
スライムちゃんが超高速移動で逃げ出したのだ。
スライムちゃんの素早さはSランクだ、だが人間とモンスターでは基準が異なるのだろう。
素早さSSのショウでも追いつくことができない、まるで地面を滑るようにして出口へと向かっていく。
「まって!スライムちゃん!一人じゃ危ないよ!」
出口には恐らくレベル60前後の冒険者が待ち構えているだろう、スライムちゃんが危ない。
「スライムだ!」
出口の方から騒がしい音が聞こえてきた、遅かったか。
言い訳なんて後で考えればいいか、とりあえずスライムちゃんを救うため外へ向かう。
外へ出たショウの目に驚くべき光景が飛び込んできた。
スライムちゃんが冒険者の剣を体で弾き、そのまま体当たりを食らわせ吹き飛ばしていた。
気絶したのか地面を転がって動かなくなる冒険者、周りにも何人もの冒険者が倒れていた。
スライムちゃんはショウを見ると抱きついてきた。
「スライムちゃん、これは君がやったの?」
肯定するように抱きついてくるスライムちゃん、なんて可愛らしいんだ。
パートナーである自分を守るために冒険者に立ち向かってくれるなんて。
感動のあまりスライムちゃんを抱きしめるショウ、だがこんなことをしている場合ではない。
急いでスライムちゃんを箱へ治すと、見つからないように町を出た。
町の外へ出るとしばらく行ったところで休憩を入れる。
箱の中のスライムちゃんに語りかける。
「スライムちゃん、今日みたいなことはあまりしないでね。嬉しいけど心配だったよ」
箱がガタガタと揺れている、どうやら反省しているようだ。
気持ちは嬉しかったが、何かあってからでは遅いのだ。
ショウはスライムちゃんの箱を出したまま次の目的地を考える。
「次から行く町はあんまり長居出来そうにないな」
聖女が通った町では今回のような被害に合うだろう。
この状態では宿に止まることすら難しい。
少しだけ悩んだ後ショウは次の目的地を決めた。
「仕方ないけどあれを手に入れるために戻るか」
あの町は聖女と出会う前だから問題ないはずだ。
レベル56のダンジョンがある町を目指し、走り出すのだった。