レベル60のダンジョン〜自称聖女に勇者と呼ばれた件〜
レベル60のダンジョンが有る町へつくと早速ギルドへ向かう、
まずは出現するモンスターの情報収集だ。
「ホムンクルスか」
ショウでも名前ぐらいは聞いたことが有った。
人のような姿をしているが、その肌は白く頭には口以外の器官は無い。
どれだけダメージを与えても、死ぬ直前まで動きを止めないらしい。
ゴーレム等の無機物のモンスターのように痛覚が存在しないという噂もあった。
ボスに関しては、魔法が使えないと厳しいということだけ教えてもらえた。
情報は集まった、ダンジョンへ向かうとしよう。
ダンジョンに入ると、すぐにホムンクルスと遭遇した。
話に聞いたとおりの姿だった、目も耳も鼻もないのにショウの存在に気づいているようだ。
「話は聞いてたけど実物は気持ち悪いな・・・」
ホムンクルスはショウの肩を掴むと、口を大きく開けてよだれを垂らしている。
どうやら噛み付こうとしているようだ。
たまらず顎を下から殴り飛ばす、力加減を間違えてしまい一撃で倒してしまった。
殴った感触は気持ち悪かった、なるべく触りたくない・・・
次からはカタナを使うことにしよう。
2体目のホムンクルスは掴んでくる前に腕を切り落とす。
だがホムンクルスは止まらない、痛みを感じないというのはどうやら本当のようだ。
ショウはホムンクルスの頭に向けてカタナを振り下ろす。
両断されたホムンクルスは灰となり消える。
「死ぬまで止まらないってのも本当みたいだな、弱点はどこか探してみるか」
ショウは3体目のホムンクルスを見つけると、まずは足を切り落とす。
これでゆっくりと調べることができるだろう。
まずは人間の体で心臓がある部分をさしてみた、どうやら効果はないようだ。
足を掴まれたので両腕を切り落とす、両手足を斬られても死なないようだ。
血を出ていないところを見ると、出血死することも無さそうだ。
「さすがに首を切り落とせば死ぬだろ」
地面でうごめいているホムンクルスの首を斬り落とす。
だが消えない、頭だけになっても大きく口を開けカチカチと歯をならしていた。
頭にカタナを突き立てると、ようやく殺せたようだ。
ドロップアイテム[白い皮膚]を残し消えてしまった。
「これはいらないな、弱点は頭か」
ぶよぶよしていて気持ち悪い皮膚を投げ捨てると、奥へと向かう。
弱点がわかったので、対処がだいぶ楽になった。
ホムンクルスは動きも鈍く、力も弱い。
生命力以外は大したことはなかった。
「ダンジョンのレベル間違えてないか?」
実はホムンクルスの力は強く、鎧を着ていてもそのまま握り潰すほどの握力を持っている。
ブヨブヨの皮膚は簡単に斬ることができず、衝撃も吸収されてしまう強敵なのだ。
ショウはそんなことは知らず、次々とホムンクルスを灰に変えていく。
奥へ進むショウの前に、妙なホムンクルスが現れた。
他のホムンクルスと違い頭が無い。
頭が体に取り込まれた分大きくなっているようだった。
ショウはカタナを抜き、警戒しながら距離を詰める。
ホムンクルスも気配に気づいたのか、腕を持ち上げてショウに向けていた。
すると突如、ホムンクルスの両腕がショウの顔めがけて槍のように伸びてきた。
ショウは迫り来る腕をかがんでかわし、地面を蹴って飛ぶように一気に距離を詰める。
ガラ空きの体を下から両断すると、ホムンクルスは灰となって消えてしまった。
「距離が遠くても安心できないな」
その後も何度か遭遇したが、腕が伸びると分かればなんてことはなかった。
伸びた隙を付けば無防備な体を両断し、時には腕を伸ばす時間すら与えず倒していった。
しばらく進むと最深部へついた、早速ボスを探すとしよう。
ボスは魔法が使えないと厳しいと聞いていたので、少しだけ期待していた。
ショウはステータスオールSSだが、攻撃魔法は使えない。
簡単な魔法ならともかく、高度な魔法を使えるような修行はしていなかった。
ステータスオールSSになってからは肉体の力だけで勝てていたので、とくに習得する必要性も感じなかった。
「どんなやつなんだろうな。物理攻撃が全く効かないとかか?」
そうだとすれば、ショウに勝ち目はない。
期待半分恐怖半分でボスを探す。
するとショウの目の前に、奇妙な色のホムンクルスが現れた。
腕を槍のように伸ばしてくるホムンクルスと同じ姿だが、全身が紫色だった。
おそらくこいつがボスだろう。
ボスはショウに気づいたのか、その両腕を槍のように伸ばしてきた。
普通のやつよりは腕の速度が速かったが、大した問題ではない。
迫りくる腕に向かってカタナを振り下ろすと、ボスの腕は簡単に斬れてしまった。
両腕を無くしたボスの懐へ潜り込み、その体を両断する。
腕は灰になって消えていた、倒してしまったのだろうか。
「なんか期待はずれだったな」
ショウがカタナをしまい、出口へ向かおうと振り向いたその時。
ショウの背中に強い衝撃が走り、吹き飛ばされて壁に押さえつけられる。
押さえつけられたまま後ろを向くと、視界の端で倒れたボスが斬られたはずの両腕を伸ばしているのが見えた。
カタナを抜き、体を押さえている両腕を斬り落とす。
ボスの方へ向くと信じられない光景が見えた。
「嘘だろ、死んだんじゃないのか?」
ショウは確かにボスの体を両断したはずだ、斬り落とした腕が灰になったのも確認している。
だが、ボスは無傷だった。
2度斬り落としたはずの腕もついている、どういうことだろう。
迫ってくる両腕を、再び斬り落とす。
地面に落ちた腕が灰に変わるのと同時に、ボスの腕が新しく生えてきた。
「なるほど、再生能力があるのか」
ショウは今度は腕を斬らず、かわして懐へ飛び込むとボスの体を両断した。
体を斬られたというのに全くダメージはないようだ、すぐに再生すると腕をムチのように叩きつけてきた。
ショウはボスを何度も斬り倒す、再生能力があるとはいえ無限ではないはずだ。
もう何度目だろうか数えるのも飽きるほど斬り倒したが、一向に衰える気配がない。
腕を切ろうが体を両断しようが、瞬時に復活してしまう。
「このままじゃ埒が明かないな、なんとかしないと」
戦っているうちに、ショウはあることに気づいた。
腕や足は斬り落としたら灰になるのだが、体は灰にならずくっつくようにして治している。
もしかすると体は再生できないのかもしれない。
ショウはボスの体を縦に両断すると、片方の体を蹴り飛ばす。
だが次の瞬間、信じられないことが起こった。
「分裂するとかありかよ!」
蹴り飛ばされた体と地面に倒れた体の両方が、完全に再生したのだ。
ショウは迫りくる4本の腕を斬り落とす、ダメージは負わないが倒すことができない。
魔法でないと倒せないというのはこういうことだったのか。
このままでは体力を削られて、いずれ逃げるしかなくなるだろう。
ショウはそうなる前に思いついたことを試すことにした。
「これで駄目なら、もう逃げるしか無いな」
2体のボスの片方を思い切り蹴り飛ばす、遠くへ転がっていったので戻ってくるまで時間がかかるだろう。
ショウは残ったボスの体を切り刻む。
力は必要ない、カタナの切れ味に任せ速く振るうことだけを考えて体を動かす。
ショウが奮ったカタナは、残像を残しながらボスの体を粉々に斬っていく。
一瞬で何百もの斬撃を受けたボスの体は再生することはなかった。
地面に落ちたまま灰となり消えてしまった。
「よし、この方法なら倒せる!」
本来であれば魔法で焼き殺すのが一般的な倒し方なのだが、魔法が使えないショウではこの方法しか倒すことができなかった。
戻ってきたもう1体のボスにも同じように斬撃を浴びせ、なんとか倒すことができた。
「魔法がなくてもなんとかなるもんだな。アイテムが落ちないのは仕方ないか」
モンスターをあまり傷つけずに倒すとアイテムを落としやすいと、ショウは経験から学んでいた。
ここまで粉々にしてしまっては、アイテムなど落とすはずがないだろう。
両腕の疲労がすごい、あの斬撃は一日にあまり何度もできそうにはなかった。
今度こそ本当に倒せたはずだ、カタナをしまい出口へ向かった。
帰り道でも何度か襲われたが、もはやショウの相手ではなかった。
相手の攻撃の方法も弱点も分かっているのだ。
斬るときに少しだけ力を入れなければいけなかったが、問題なく倒すことができた。
宿へつくと、早速スライムちゃんを抱きしめる。
抱きしめていると腕の疲労も消えていった、能力が上がり回復力も上がっているのだろう。
「魔法の練習をしたほうがいいのかな、どう思う?」
ショウは抱きしめているスライムちゃんに語りかける。
いつものように返事はない、だがショウにはスライムちゃんが顔を横に振っているように見えた。
「そうだよね、今日みたいに工夫すればなんとかなるよね」
一人で納得し眠りについた。
翌朝
二人のステータスが問題ないことを確認すると宿の外へ出る。
なにやら町が騒がしい、何かあったのだろうか。
道行く人々がじろじろとこちらを見ている気がする、何かしてしまっただろうか?
「勇者様!」
女性の声が聞こえた、なるほど聖女の次は勇者が出てきたのか。
自分には関係のないことだと思っていると、誰かが後ろから抱きついてきた。
背中に何か柔らかいものが当たっている。
「探しましたわ勇者様!どうして待ってくださらないないの?」
ショウは抱きついている人を振り払う、そこには前の町で助けた神官の女が立っていた。
「あんたか、悪いけど俺は勇者なんかじゃないよ。人違いはよしてくれ」
無視して歩き始めると、女は前に回り込んできた。
「いいえあなたは勇者様です。聖女の私を救ってくれたのですから間違いありませんわ」
自称聖女はうるうるとした瞳でショウの顔を見つめている。
頭のおかしい人に捕まってしまったと思った。
町の住人だけでなく、冒険者たちからも奇異の目で見られている。
変な噂になるのは避けたかった、急いで立ち去るのが懸命だろう。
「俺はボスと戦いたかっただけであんたを助けたつもりは無いよ、じゃあな聖女様」
彼女がなにか言う前に全力で走り出すと、逃げ出すように町を飛び出した。
この一件でショウは、聖女を助けた勇者として冒険者の間で噂になってしまうのだった。
ショウは次の目的地を目指して走る。
「仲間を失ったショックでおかしくなったのかな」
先程のことを思い出す、ショウは彼女が聖女だということを信じていなかった。
自称勇者だの英雄だの言い出すああいう輩が冒険者界隈では多かったからだ。
次の目的地はレベル65のダンジョンがある町にした。
レベル63のダンジョンもあるのだが、自称聖女を引き離すために飛ばすことにした。
もう2度と会いたくないな、そう思いながら走り続けるのだった。