レベル55のダンジョン〜寒さには弱かった件〜
レベル55のダンジョンがある町へつくと、いつものようにギルドへ向かう。
「ペンギンか・・・聞いたこと無い名前だな」
飛べない鳥のようなモンスターが出るらしい。
クチバシのついた顔、卵のようなフォルムに小さな足が生え、大きな葉っぱのような翼をしているらしい。
話を聞いただけではどんなモンスターか想像できなかった。
見た目は可愛らしいが翼の切れ味は抜群で、クチバシでの一撃は剣を砕くらしい。
床を滑るようにして向かってくるため、対処が難しいようだ。
「滑るってなんだろうな・・・」
ダンジョンへ向かう前に道具屋へ向かう。
ギルドの人の話によると、そこで毛皮を加工してもらえるらしい。
道具屋へつくと早速加工をお願いする。
「少し時間ができたな。ダンジョンでも行ってみるか」
30分ほどかかるということなので、その間にダンジョンへ行ってみることにした。
入り口から中を覗くと床や天井、壁に至るまで氷でできていた。
吐く息が白い、ダンジョンの内部はそうとう寒いようだ。
出てきた冒険者はほとんどが毛皮でできた服を身に着けていた。
前の町で手に入れた毛皮はこうやって使うのだ。
中には毛皮を着ていない冒険者もいた。
「なぁあんた達は寒くないのか?」
気になって声をかけてみた。
素肌で耐えれるような寒さではないはずだ。
「俺達のパーティには優秀な神官がいるからな」
どうやら神官の魔法によって守られているらしい。
魔法が使えないショウには羨ましい話だった。
そろそろ加工も終わった頃だろう、道具屋へ戻るか。
加工は終わっていたようで、毛皮でできた薄いコートのような服を2着もらった。
1枚はモンスターとの戦闘などで破けた際の予備ということらしい。
かなり薄いが、これで寒さをしのげるのだろうか?
それと合わせて靴にも滑り止めの加工をしてもらった。
この町のモンスターから取れるドロップアイテムを加工した油を塗ってもらう。
これであのダンジョンの床でも滑ることはないようだ、効果は3時間ほど続くらしい。
疑問は残るが準備は整った、ダンジョンへ向かうとしよう。
ダンジョンに入ると、肌を指すような寒さが襲ってきた。
ショウは試しにそのまま入ってみたのだがやはり寒さには勝てなかった。
薄いコートを着ると寒さが一瞬で消える。
モンスターの毛皮でできているので何か特殊な効果でもあるのだろう。
氷でできた床でも普通の地面と変わらずに歩くことができた。
これなら問題なさそうだ。
奥へ進むと ペンギン と呼ばれているモンスターに遭遇した。
「なるほど、あんな見た目なのか」
確かに話に聞いた通りの見た目だった。
ペタペタと音を立てて体を揺らしながらゆっくりと歩いている、とても強そうには見えない。
ショウが物陰から観察していると、急に床に倒れてしまった。
ころんだのだろうか、思わず顔をだしてしまう。
すると次の瞬間、ペンギンが凄まじい速度でショウの方へと突っ込んできた。
隠れていた岩陰から急いで飛び出す。
背後で轟音と共に土煙が上がった。
カタナを抜いて振り返ると、ショウが隠れていた岩には綺麗に穴が空いていた。
「なんて攻撃だ」
まるで大砲のような攻撃だった。
普通の冒険者など当たればひとたまりもないだろう。
突っ込んできたペンギンはというと、ダンジョンの壁に刺さっていた。
クチバシが抜けないのか、翼を広げバタバタともがいている。
ショウはそんなペンギンの姿を見てすっかり戦意をなくしてしまった。
カタナをしまうと、ペンギンは放置して奥へと進むことにした。
奥へ進んでいると、動きが俊敏なペンギンがいた。
まるで人間の武闘家のように岩に向かってペシペシと翼を叩きつけている。
ショウがいることに気づくと、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
目の前まで来るとショウにむけて拳を構える、どうやらショウがカタナを抜くのを待っているようだ。
「変なモンスターだな」
ショウがカタナを構えると、ペンギンが鋭い突きを繰り出してきた。
突きを躱し、ガラ空きの体めがけてカタナを横薙ぎに振るう。
ペンギンは氷の床を滑るように移動しカタナをかわすと、今度は飛び蹴りを放ってきた。
ショウは飛んでくるペンギンを両断しようとカタナを振るう。
だがペンギンのクチバシによって弾かれてしまう、なんて硬さだ。
距離を取り、ペンギンとにらみ合う。
さっきのやつとは違いかなり手強い。
どうしようか考えていると、急にペンギンが倒れた。
まさかと思っていると、先程のペンギンと同じように突っ込んできた。
「お前らそれしか無いのかよ!」
少し笑ってしまったが、攻撃自体はすごい威力なのだ。
突っ込んでくるペンギンをかわすと、すれ違いざまに体めがけてカタナを振り下ろす。
ペンギンは体を両断され、ドロップアイテム[白い油]を残し灰となって消えてしまった。
アイテムを拾い、気を取り直して奥へ進む。
どうやら最深部についてしまったようだ。
誰か倒れているので駆け寄ってみると、どうやら魔法使いの女の子のようだ。
なぜか毛皮を着ていなかったので、ショウの予備を着せてあげる。
女の子がゆっくりと目を開けた。
「何があったんだ?」
女の子はショウの問いかけにゆっくりと答えた。
ボスと戦っている最中に神官がやられてしまい、防寒の魔法が解けてしまったらしい。
寒さで動けなくなったパーティはみんなやられてしまった。
なんとか逃げることができた彼女もここで気を失ってしまったようだ。
「なるほどな、様子を見てくるからここで待っててくれ」
ショウは彼女を置いて、一人で様子を見に行くことにした。
彼女達がボスと戦っていた場所につくと、そこには死体が転がっていた。
おそらく彼女の仲間だろう。
「彼女以外は全滅か」
ボスも見当たらないので、ショウが戻ろうとしたその時遠くから何かが滑ってくるのが見えた。
現れたその姿を見て驚く。
今までのペンギンはショウの半分ほどしかなかったが、このペンギンは縦も横も2倍以上あった。
カタナを抜いて構える、こいつがおそらくボスだろう。
ボスはその大きな翼をショウに向かって振り下ろす。
横へ飛んでかわすと、氷の床はおおきく切り裂かれていた。
食らっても大したダメージではないだろうが、服を破かれてはたまらない。
ショウは翼に気をつけながら懐に潜り込むと、右の翼めがけてカタナを振り上げる。
大きな翼を切り落としそのまま追撃しようとしたが、滑るように距離を取られてしまった。
ショウは嫌な予感がして距離を詰めようとしたが、ボスのほうが早かった。
ボスは倒れてすぐに、その巨体がとてつもない速さで迫ってきた。
まるで壁が迫ってくるような感覚に、たまらず横へ飛んでかわす。
ボスがそのまま壁に突っ込むと思った瞬間、翼を器用に使い回転すると壁を蹴ってショウの方へ向かってきた。
再びそれをかわすが、ボスも同じように壁を蹴ってショウの方へ向かってくる。
どうやら壁を蹴る度に速度が増しているようだ。
このままではまずい。
ショウは向かってくるボスを上に飛んでかわし、その巨体めがけてカタナを突き立てた。
ボスは巨体を揺らしながら滑っていく、うまく回転できず壁へと突っ込んでしまった。
ショウは壁へ突っ込む直前にボスから飛び降りていた。
「ごめんな」
壁にめり込んでいるボスに向けてカタナを何度も振り下ろす。
しばらくすると、灰となって消えてしまった。
切り落とした翼は残っていた、これがどうやらドロップアイテムだろう。
レアドロップ[キングペンギンの翼]を手に入れた。
少女のところへ戻ると、どうやら体調は回復したようだ。
ショウの姿を見ると抱きついてきた。
彼女の靴の滑り止めの効果は切れていたので、仕方なく抱きかかえて外へ向かう。
途中何度かペンギンに襲われたが、避けると壁に突っ込んで動かなくなったのでほとんど無視することができた。
出口近くでショウの靴の滑り止めの効果も切れたようだ。
危なく転げそうになりながらも出口へとついた。
ショウは抱えていた少女を下ろすと、別れて道具屋へ向かおうとした。
だが、彼女に服の裾を掴まれてしまう。
「あの、何かお礼をさせてください!わたし何でもします!」
少女は顔を赤らめてもじもじとしている。またこのパターンか・・・
「別に気にしなくていいよ。仲間は残念だったね」
彼女の手を離し、道具屋へと向かった。
うしろからすすり泣く声が聞こえたが気にしないでおこう。
毛皮のコートとドロップアイテムを売ると宿屋へ向かう。
部屋へ入るとすぐにスライムちゃんを箱からだし抱きしめる。
そういえばスライムちゃんが大きくなっている気がするが、気のせいだろうか?
彼女(?)の冷たい感触を感じながら眠りについた。
翌朝
レベルはマイナス999、スライムちゃんの状態に問題はない。
今度の町はレベル58のダンジョンがある町に決めた。
これから先は技術を磨くためにも少しづつ上げていくことにしたのだ。
少しづつではあるが上達している実感を胸に走り出すのだった。