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巨竜

 召喚されし巨竜ゴモラ。深緑の鱗、鋭利な牙と爪、人間の数十倍はあろう巨体に大きな翼。圧倒的な存在感と裏腹に、その羽ばたきは ゆっくりとしていて、優雅と言ってもいい。 


※魔獣などの巨大生物は、空を飛ぶ際に、魔力の補助で浮力を向上させている。

 鳥のように空洞が多い骨や軽い構造では、魔獣の重量・内圧に耐えられず自滅してしまうからだろう。



 召喚対象は呼び出される時、一分前くらいに召喚の予兆を感じる。

 だが、感情のある生物ならば、狩りや睡眠を中断されて面白くはない。


 そう、ゴモラは不機嫌だった。


 まず、召喚され使役されるなど、考えられない。人間や亜人というものは、竜を恐れあがめて貢ぎ物を持ってきたり、守護神としてまつるのではないのか。


 それどころか召喚だと?しかも、呼び出したのは威厳も何もない小娘ではないか。




 最強種族である竜の生態は、強さゆえに縄張り争いもなく、土着どちゃくのリザードマンや亜人から食料・生贄を献上されるので、狩りに勤しむ事も少ない。


 また、天敵もいないため寝ている時間が多くを占めて、長いときは数年寝たりしている。野心があるわけでもないので、実は退屈だったりする。



 巨竜ゴモラも、普段は根城としている竜王山脈にある洞窟で、大人しく過ごしているが、平穏すぎる生活に飽き飽きしてはいる。



 かといって、暇つぶしに人間の街を襲うと、大部隊で逆襲されて厄介な事になるため、こちらからは仕掛ける気はない。



 ごく稀に、巨万の富と名声を求めて竜討伐に来る冒険者を相手にするのが、単調な生き様に彩りを添えてくれるようで嬉しかったりする。


 つい、嬉しさのあまり 大サービスで火炎吐息ブレスを派手にぶっ放すと、一瞬で消し炭にしてしまい、楽しみがなくなるので、本気を出さず 冒険者の見せ場も作ってやりながら、気をつかって戦うのを ささやかな趣味としてるゴモラ。

 リピーターになってもらうため、途中でわざと手打ちにして、戦いを止めて財宝を譲り渡したりしたこともあるほどだ。




 が、無礼な召喚には ひとこと言わずにはいられない。

『人間の娘よ、われを呼び出したのは貴様か!?』ゴモラは心話で語りかけた。その声は勇ましく力強い。



 レウルーラは巨大な竜に圧倒されてはいるが、怯まず命令を繰り返した。


「そう、召喚者は私よ。竜王ゴモラ、この山賊達を焼き払って!」自信満々に笑みを浮かべながら、命じるレウルーラ。


 だが、内心は従順ではない竜の態度に恐怖していた。



 召喚された以上、竜が支配下から抜け出すのは難しい。

仮に支配を拒絶できても、あらがう時の体力消耗は激しく、戦える状態ではなくなってるはずだ。

 問題なのは、戦闘力有る無しにかかわらず、その巨体(おそらく数十トン)で倒れかかられただけでも十二分に脅威ということ。


 それゆえに、何としても従わせる必要があった。




 決死の覚悟で対峙するレウルーラに、ゴモラは意外な言葉をかける。




『ガハハ、我が竜王だと?』巨竜は、強く羽ばたく。地上に勢いよく砂ぼこりが巻き起こる。


 

 レウルーラは、威嚇してくるゴモラに臆することなく、声をかけた。


「どういう事なの?」



『竜王様は、我とは比べものにならないほど大きく、強く尊い御方だ。小娘おまえごときに召喚できるはずがない!』


 いちいち説明するあたり、無愛想な竜ではないようだ。




「ああ、違うな。竜王の鱗は漆黒で、腹あたりが赤銅色だったからな。サイズは城並み、大天使アークエンジェルより少し大きいくらいだ」と、ソドムが淡々と補足した。


 大戦前に、竜王に会いに行っただけに、間違いはない。




 レウルーラは、ソドムの方に振り向き「それを早く言って!」と抗議したかったが、竜に弱味をみせるわけにはいかず、グッと堪えた。

(まあ、見たことないから しょうがないわよね。名前も消去法で絞り込んで召喚したわけだし、ドラゴンを呼び出せただけでも上々の成果だわ)




 ソドムの傍らに、ひときわ落胆している者がいた。



 竜王と結婚したい女子、シュラである。



 本当に結婚できるとは思っていないが、子供のころに滅ぼされた村の復讐をしてくれ(結果的に)、生贄として差し出された自分を見逃してくれた(亜人などは不味いので返品して、代わりに牛の干し肉を要求した)恩竜に、どうしても会ってみたかった。



「なんだ、違うんだ・・」


 期待していただけに、口から魂が脱けたように呆けるシュラ。



「こ、今回は・・ゴモラに頑張ってもらうとして、次は絶対だから元気出して!」と、竜に聞こえないくらいの声でシュラを励ますレウルーラ。

(残る名前は一つ。最初から可能性があると思ってた名前だけれど、半信半疑なのよね)



 

 ごちゃごちゃ話している人間達に、ゴモラはイライラしている。

 

『こんな面白味もない所に呼び出しおって。その用事とやらが、人間を焼き払うだけとは笑わせる。しかも、戦う気概もないゴミクズばかりではないか』炎混じりの溜息をつくゴモラ。


『我を呼ぶのは百歩譲って良いとして、歯応えのある獲物を準備してもらわんと・・』



 

 ソドム、ついにキレた。召喚されてから、ずっとごねっぱなしのゴモラに。


『いいから、早く殺れ!!』と、腹底に響くような心話の低い声で命令した。




『はい!すいません!』、そう言ってゴモラは大きく息を吸って、ブレスを吐く目標を定め睨みつけた。



 竜に頭ごなしに命じたソドムに、シュラとレウルーラは衝撃を受けた。特に召喚者であるレウルーラは立場がない。

(え、えー!召喚者じゃないのに命令してる!そんな前例聞いたことないわ・・。底知れない男ね、私の夫は・・・まあ、そういうところが好きなんだけど)



 一方、山賊達は大パニックである。竜王かどうかなど関係ない。絶対敵わないドラゴンが炎を吐き出そうと狙っているのだから。


 もはや勝ち目はないと、武器を投げ出し一目散に逃げ出す山賊達。百人以上が、宿場町目掛けて街道を駆けていく。



「待て待て、おまえら!」、慌てて叫ぶ首領ドロス。


「脇の林に逃げ込んで、縫うように駆け抜けないとまとにされるぞ!」と、必死に声をかけるも間に合わず、竜は逃げる山賊達の背後に降下して追い抜きざまに火炎吐息ブレスを浴びせて焼き払った。辺りに人が焼けた不快な臭いが拡がる。



 これで半数以上が焼け死んだが、反転して来た竜に追撃のブレスを浴びて、見渡しのいい街道を集団で逃げていた山賊達は壊滅した。



 残る数十人は、ドロスの命に従い林に逃げ込んだ。



 味方を逃がすためにドロスだけは残って、召喚者であるレウルーラにナイフを投げたりして攻撃している。召喚者を倒せば竜は送還されるだろうし、そうならなくても身を守るために、竜を近場に呼び戻すかもしれない。

(なんてこった・・最大規模の山賊団が3人に敗れるとはな。いや、俺も生還はできねぇな。因果応報、やりたい放題してきたから、仕方ねぇか)


 剣を振るって、あっさりとソドムに受けられながら、人生を回想するドロス。万策はとっくに尽きて、運にも期待できず、絶望していた。



 

 剣を受けたソドムは、返す刀でドロスの息の根を止めることができたが、一旦間合いを離した。


 危惧がある。


 このまま蜘蛛の子を散らしたように林の中を逃げられては、皆殺しするのが難しい。

 捕り逃がしては、自分とシュラの人間離れした戦いが外部に漏れて、光の教団から討伐令がでてしまい、公国は連邦と帝国を敵に回して絶望的な戦争をしなくてはならなくなる。


「ばらけて逃げられると厄介だな」と、レウルーラに意見を求めた。



「そうね・・・、いっそのこと助命したらどうかしら?条件付きで」



「助命か・・そうするか。追いかけ回すのは骨が折れるからな」そう言って無造作に剣を放り投げるソドム。


 ドロスに右手で待ったをかけた。

「よし、戦いは終わりだ。条件を飲めば見逃してやろう」


「正直、しらみつぶしに殺すのは面倒だ」頭を掻きながら、降伏勧告した。



 これには、ドロスも驚いた。

「え、許していただけるんですかい?」、にわかに信じられない。



「ああ、お前の手下は助命してやる」


 ソドムは一拍おいて条件を伝える。


「ただし、今回の戦いは他言無用。そして、首領であるお前は・・」



 項垂うなだれて、その先を言うドロス。

「落とし前で、斬首ですな・・」




 ソドムは、難しい顔をして

「あ?、お前は俺の部下になれ」、ドロスに近いて、肩に手をかけた。


「そ、それはどういう?」、狐につままれたような表情のドロス。こちらから襲撃して、手傷を負わせたにもかかわらず、命をとらないとは理解できない。



 ソドムとしては、ドロスの指揮能力と戦闘力、何より粘り強さを高く評価していた。

 ここまでの戦力差で、士気の低い山賊を率いてよく持ち堪えたと感心している。


「まあ、人質でもある。お前の手下が約束を破れば、お前を殺す。お前が俺を裏切ったら、報復に この近隣の村々を皆殺しにする、って話だ」


「約束さえ守れば、世はこともなし。神はいないかもしれんがな」、腕組みをして深くうなずくソドム。


「一ついいことを教えてやるよ。この世は力がすべて・・・約束・ルールを従わせる力がある者には逆らえないものだぞ」、先ほどのドロスの言葉をそっくり返した。



「力こそ、パワー っやつね」、シュラが両手を腰にあて、ドヤ顔で同調した。


 なんか違う・・、ソドム達は微妙な空気に包まれた。



「・・・すまんが、ちょっと黙っていてくれ」、シュラを一瞥いちべつして、話を続けるソドム。


「部下になる以上 悪いようにはせん。不毛な日々を送ってきた お前に、人生のあがりを与えてやる」



「あ、あがり・、ですかい?」



「ああ、我がギオン公国は人材不足でな。働き次第ではあるが、特権階級を準備するつもりだ」



「は、はぁ」

(ギオン公国・・新興の変わった国とは聞いている。それより、二大国の最前線のはずだが、この方は こんな辺境で物見遊山とは・・)


「詳しい収入・待遇は国に行ってから、会計担当から説明させよう」



「は、はぁ。あ、ありがたき幸せ」、ドロスは片膝をついて礼を言った。

(何だかよくわからんが、殺されないのは ありがてぇ)


 ドロスは気持ちを切り替え、今後の方針を示した。

「では、手始めに部下に指示を出し、負傷した護衛の方々を治療致します」、うやうやしく言ってから、部下に向けて大声をあげる。


「野郎ども!戦いは終わりだ~!許して下さるから、こっちに集まれー!」


 その呼びかけに、恐る恐る林から顔を出し様子をうかがう山賊達。

 頭上では、仲間を焼き殺した巨大な竜が遊弋ゆうよくしているので、無理もない。


 ワラワラと出て来るまで、10分くらいかかった。


 ソドム、ドロスに言われるまで忘れていた。怪我している傭兵達と、馬車に置いてきた吟遊詩人トリスの存在を!

(やべぇ、忘れてたわ。死んじゃいないよな)


 罪悪感にかられ、ソドムは救出のために走り出した。


「あっ!」、シュラは脚に矢が刺さった妹を思い出し、ソドムに続いた。




 

 


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