街外れの西門
慌ただしく特使受け入れ準備をする公国幹部達。ソドムも淡い青色の貴族服に、王の定番「赤いガウンに王冠」を装着し執務室のイスに座った。背は低め、黒髪に普通体型のソドムが王の格好をしても板についていないというか、すごく成り上がりっぽく見える。
彼のイスは質素な事務用で、残念ながら玉座のような装飾は一切ない。
同じく、謁見の間代わりに使われる部屋は、あくまでも執務室なので内装はシンプル・・・を通り越して何もないに等しい。
使者を迎えるには正直恥ずかしいが、予算の関係上 仕方がない所であった。
そんな貧乏くさい「謁見の間(仮)」、吟遊詩人による穏やかなリュート音色が、少しの華やかを添えている。
演奏者である宮廷吟遊詩人 兼 執事のトリスは、黒い絹の衣装に着替えただけだが、銀の長髪に白い肌調和して とても美しい。喋らなければ、とても絵になる美男である。
その横に立っている司法騎士アレックスは、連邦騎士の正装である白い鎧姿。
こちらも、長い金髪と色の相性が良く、二人の美男が並ぶだけで豪華な調度品にも引けを取らないくらいであった。
昼下がり、特使を待つ間にソドムは息子に一つ質問をした。たわいもない教育癖というもので、深い意味はない。
「アレックス、今回の特使は誰が来ると思う?」とくに目を合わせるでもなく、アレックスの足元を見て言った。
もちろん、アレックスもそれを考えてはいた。
「そうですねぇ、光の最高司祭ミディア様と全権代表として宮廷魔術師長 冴子様あたりかと思います」
「ほう、理由は?」と、ソドムは会話を楽しんでいる。
「まず、最高司祭様がこちらの ほころびを見つけ断罪し、口論が激しくなった頃合いに冴子殿が宣戦布告をする目論見ではないでしょうか?」
ソドムは頬杖をついて頷き、目を閉じて考えているふりをした。なんのことはない、最初からソドムの答えは決まっている。
「なるほどな、そうかもしれん。だが、それでは連邦が難癖をつけて戦を仕掛ける形になるであろう・・・・自領ならそれでもいいが、仮にも他国に侵略するには名分が立たないぞ」と、ニヤリと笑う。
「俺が連邦ならば、お前の兄であるゼイター公爵を送り込むだろうな。こちらを熟知しておるし、闇に関わる証拠をすでに持っているかもしれん。そして何より、こちらが屈辱に耐えられず暴発した場合、ヤツなら幹部殲滅もできるからだ」と、得意げに言った。
「確かに・・十年も騎士として この地にいた兄ならば、一番手ごわいです」アレックスは少し視線を落とした。兄とは知らぬまでも、連邦の騎士タジムを兄のように慕い、剣の訓練や遠乗りなど教えてもらったのだ。敵になるのは忍びない。
ドアをノックしてから、伝令兵が特使到着を伝えた。ソドムは落ち着いて伝令兵に聞いた。
「大儀である。で、特使は誰であった?」
「ははっ、特使は宮廷魔術師アジール殿とハンドレッド伯爵であります。急な来訪は無礼とお気を使われ、宿に泊まり明朝 お目通り致したい、とのことです」
アレックスは思った、「全然ちがうぅぅー!」と。もちろん、表情には出さない。
「・・・・であるか。では、高級な・・・・宿はないが、せめて一番高い宿へご案内致せ」
「御意」そう言って、伝令兵は部屋を出た。ソドムは先ほどのアレックスとの会話はなかったかのように、腕を組んで「やはりな」っと言わんばかりの顔で開き直った。
「連邦王の腰ぎんちゃくアジールと、コウモリ伯か・・・・。まあ、話のわかる連中が来たな。特に伯爵は馬が合ってな。将来を語り飲み明かした仲だ、どうにでもなるだろう」
「は、はい・・・・」思いっきり予想を外したことを突っ込むわけにかず、相槌を打つアレックス。
妙な空気になった場に、隣の寝室からシュラとレウルーラが意を決して乱入してくる。
「特使は今来るの?あたし達も同席させてもらうわ!」と吹っ切れたようにシュラが言い、ソドムの後ろに立った。
レウルーラも心の整理がついたようだ。
「さっきは御免なさい。ソドムの気持ちはわかってはいたけど、他の選択肢はないか考えてしまって諦められなかったの。でも、今は大丈夫。しっかり国を守るために、私が特使に付け入る隙を与えないわよ」と自信満々の笑みを見せ、シュラに続いた。
ソドム・アレックス・トリスは、頭が真っ白になった。
(この人たち・・・・水着のまま特使と会うつもりなのか)
「そ、そうか・・・・。わかってくれて嬉しい」ソドムは、後ろを振り返って二人を見た。
「実は、報告が来て・・特使は明朝に来ることに決まった。まあ、今でなくてよかった・・・・水着の美女が乱入して来たら交渉どころではないからな」
「あ・・・・」と、レウルーラとシュラは赤面した。
「それとは関係ないのだが、パプア高司祭が今夜 連邦王都に発つそうだ。まあ、最高司祭になるためだから喜ばしいことだ」
「それは・・よかったじゃない!」聡いレウルーラは、それが闇信仰疑惑のある公王ソドムにとって有利な方向に進むことだと理解した。
「栄転ですか!しかも、最高司祭とは。共に過ごしてきた我々にとっても誇らしいことです」
「あの鳥の巣が、偉くなんの?意味わかんないけど、おめでたいわね」と、飲んだくれてる姿しか見たことがないシュラは冷めている。
「うむ。そこで、最後に告解の場を設けて皆の魂を救ってくださるそうだ。そういうことだから、夕食後 街の西門に集まるように」少し面倒くさそうに言うソドム。明日、国の命運が決まるのに、そんなくだらないイベントに付き合いたくないのだ。
「告解?なにそれ?」
「懺悔だな。今まで人に言えなかった罪なんかをぶっちゃけてスッキリする・・って感じか。言えば赦すし、パプア殿ほど徳が高い司祭だと、俺と幹部達の話をまとめて聞いて、一気に赦して皆の魂を救ってくださるそうだ」気怠そうなソドム、さりげなくシュラのくびれから尻のラインを眺めている。
「ま、各自・・やらかした事なんかを思い出しておいてくれ」
(俺は軽めの事しか言えないがな。今思えば・・・・レウルーラをナンパする時に小細工したり、ザーム老師に大戦勃発を持ちかけたり、君主の規定に達していないので次期最高司祭に目されていたパプワに賄賂を渡したりもした。竜王を取り込んでからは、罪なき村人を焼き払ったり、人の肉も食ったこともある。極めつけは、邪神の末席たる闇の最高司祭を引き継いだこと。魔王と疑われても仕方がない。罪がありすぎる・・・・仮に闇信仰を差し引いても俺は極悪人だ)
良心が痛むが、「全ては幸せな引退生活のため・・」そう言い聞かせて、ソドムは数多の悪事を胸にしまい込んで、膝の上に座ってきたレウルーラの絹肌を右手で弄り撫でた。
夕食後、タクヤとドロスを除く公国幹部は、パプアを見送るべく街外れの門に集まった。日が長い季節なので、夜でも夕方のように明るい。
幌馬車と護衛の騎馬傭兵二人を待機させたパプアは各々に別れの言葉を告げてから、一斉に罪を告白させた。
「さあ、神の子よ・・膝を地に着き 手を合わせ、目を閉じなさい」と言って、皆が目を閉じるのを待った。
「今、この場には・・・・遠慮も恐れもいりません。皆さまの罪を打ち明けるのです・・・・」
その穏やかな口調に、言うか言うまいか躊躇っていた者たちも、素直に話す気になった。
まず、口火を切ったのはソドム。それに続くように全員が罪を告白した。
「俺は己の欲のために数多の人間を巻き込み、死に至らしめた。悪いと思いながらも迷惑行為は数知れず・・・・。あと、この場を借りて詫びたい・・結婚前で時効だと思うが、寝ているシュラに睡眠魔法を重ね掛けして絶対目覚めないようにしてから発育チェックしたり、抱き枕にしたことがある。妻への背信行為というほどではないが、最近モテ期到来して若い姉ちゃんから声をかけられ、一線は越えないまでもデートっぽいことをした事もある」
「私は、夜の営みに邪魔なシュラちゃんを寝室から追い出すために、週初めと週末に暗黒魔法で腹痛を引き起こさせ強制排除してきたことに心を痛めています。あと、いつも食べている夫の料理ですが、腕が落ちたというか・・昔はもっと深みと調和がある素晴らしい料理だったので、何とかしてもらいたいなどと思い、少し残してます」レウルーラはひた隠しにしてきた悪事と不満を告白する。
「あたしは、時々いびきがうるさいエロバカ公爵の腹にパンチして 気絶させてきたことを打ち明けます。日によっては、気絶しているのをいいことに寝技や投げ技の練習人形として使ってきました。あとは、どさくさに紛れて公爵と一緒にルーラの胸とかをもんでたりしています」と、シュラの悪事も負けてはいなかった。
「私は義理父を尊敬しすぎて、いつまでも後継ぎ息子のままでいたいと願う自分に恥じております」と、アレックスは野心の欠片もないことをうち明けた。これは、将来を期待している部下の手前よろしくない。
生真面目なポールも、後ろめたさがあったのか過去の背信行為を口にした。
「この街の防衛施設は、自分が将来 攻略する可能性を考え、わざと死角や隙を作っておいたのですが、帝国による侵攻では それが災いして街が陥落しかけました。また、敵の間者が紛れ込んでも放置しておりました」
トリスの場合は新参ゆえに懺悔するというほどのことはない。というより、ほぼ無理やり連れてこられた被害者なのだから。
「自分はギオンの街のしょぼさに びっくりして逃げようと思ってたんすよ。でも、タクヤ殿に色々案内してもらってからは、ソドム王の街づくりに感激してモチベ上がった感じっす」と軽くディスるトリス。
このように、皆が一心不乱に罪や裏切り行為を告白し、神の赦しを請うた。まだ言い足りないので、さらなる告白をしようと思っていると、馬のいななきの後に馬車の車輪が動き出す音が聞こえた。
不審に思ったシュラが、バチ当たりを承知で片眼を開けて前を見た。すると、パプアを後部に乗せた馬車が走り出しているのに驚いた。
「ちょ、司祭!?ねぇ、アンタ!!パプア司祭が・・・・」と、ソドムの肩を揺すった。
「な、何っ!?どういうことだ?」と呆然とするソドム。とりあえず、大きな声で呼び止める。
「高司祭殿ぉ~!いかがされましたかー!?」その声に幹部は事態を理解して目を開けて呆けたように馬車を見た。
幌を掴み馬車で立ち上がったパプアは、手を振りながら笑顔で言葉を返してきた。
「皆の衆、達者でなぁ~!それに小娘、司祭ではなく高司祭様と呼ばんかぁ~!!」
ソドム達、ようやくハメられたと理解した。
「おい、どーすんだよ!この状況ぉぉ!!目の前で悪口大会やっちまって、人間関係崩壊しただろがー!」と、ソドムが叫んだ。
「そ、そうよ。え~~~!!」比較的おとなしいレウルーラでさえ困り果てた。
シュラも、雇い主であるソドムにやりたい放題していたことを話してしまったのでバツが悪く怒り心頭である。ソドムやルーラがしてきたこともムカつくが、あくまでも彼らは雇い主。そして、今の生活が気に入ってるため追い出されたくはない。なので、無理は承知で走って追いかけていた。
「てめー!このハゲぇぇぇ」
どうせ追いつくことができないのは分かっているのでパプアは余裕がある。
「ソドム卿、雨降って地固まるという言葉もある。そなたらならば、乗り越えられよう。これにて、過去の遺恨は水に流そうではないか。私が光の最高司祭になったあかつきには悪いようにはせぬ、気を楽にして待つが良い」散々ソドムに世話になったが、それはそれ・・・・パプアは十年前に賄賂疑惑で左遷されたことを恨んでいたのだ。
「待て、コラァ!幼年学校で、雨降って土砂崩れって言葉も聞いたことあるぞぉぉ」と、想定外にもグングン距離を詰めてくるシュラ。
捕まったらヤバいとパプアに不安がよぎる。とりあえず、妨害して逃げ切ろうと手元にあった水をシュラの顔にかけた。
「くぅぅあぁあ!!」顔面を両手で押さえ、シュラは転ぶように倒れる。
「熱っつ~!何なのよ、もう!!」と、悔しそうに馬車を見つめるシュラ。パプアもシュラ達もわかっていなかったが、かけられた水は徳の高い最高司祭候補のパプアが祈りを捧げている時に傍らにあったものなので、勝手に聖水化して魔人であるシュラにはダメージがはいったようであった。
パプワに逃げられ、暴露大会をしたために人間関係が崩壊した公国幹部達。怒りや不信感などが渦巻くが、どうしていいかわからず互いの出方を伺っていた。
ソドムとしては、皆の不満や悪事は想定外のものが多いものの、許せないというほどではないので安堵している。いや、傷ついていないわけではない・・・・。シュラの件はお互い様としても、レウルーラが料理に不満を抱いていたのはショックだった。この辺境では自分こそが料理の最高峰と自負していただけに、その落ち込みは大きい。
とはいえ、本職は王なのだ。料理は追々考えるとして、皆をまとめなくてはならない。
「よし!皆、思うところがあろうが・・全ては過ぎたことだ。正直に言ったことを評価して、許して次に活かそうではないか!さあ、戻って飲もう!明日は国の存亡をかけた連邦との交渉だ。仲間割れしている場合ではないからな!!」そう言って、皆の肩を叩いた。
アレックスが倒れたシュラに手を差し伸べると、
「そうよね!よっし、城に戻ろ!!」とシュラが力ずよく引っ張って起き上がり、肩を組んで歩き始める。
「今日は、魔法かけないでよね」とレウルーラに釘を刺して・・。
顔をひきつらせたレウルーラ、
「当たり前じゃない!もう、シュラちゃんったらぁ~」といって、シュラの背中を押して歩みを急かして誤魔化す。
若手が先に行き、ソドムと初老の騎士ポールが夜道に残される。ポールの背信行為は軍法により死罪でもおかしくはない。
ポールは、高司祭ほどの者ならば魔法の力で皆の罪の記憶を消すなり、何らかの救済措置があると妄信して、うっかり喋ったことを後悔している。今さら後悔しても詮無き事だが、もしも命がつながれば・・アレックス王子がソドム王に従い続ける以上・・・・かなりの変り者なれど、ソドム王に忠誠を誓ってもいいと思い始めていた。
「残念だったな。アレックスには野心がないそうだ」ソドムは、横目で騎士を見た。
「ですな・・」死を覚悟しているポールは、無表情で応えた。
「困った後継ぎだ。こんなことでは、世間の荒波の中でやっていけるかどうか。俺もまだまだ過保護なのかもしれん。独立心を促すために突き放して、もっと経験を積ませ自信をつけさせなくてはならんな」
「ふっ、国を譲る気などないでしょう・・」だからこそ、簒奪の道をポールは選んだのだ。
「・・・・そうか、そうだな。トロールを使役し、闇魔法を使う男を信用できるわけがないか。だが、俺は数年で隠居して国を譲るつもりでいるのだぞ。信じられないかもしれんが」
「その若さで隠居ですと?揉め事は絶えぬまでも、成長している国を捨てて?御冗談を・・そのような酔狂な人間いるはずがない」
「それが、目の前にいる。見ていて分かるであろう・・俺の欲がその程度だということが。魔法に長け若く美しい妻、見ていて飽きないじゃじゃ馬娘、何かと便利な吟遊詩人、そして俺が作る美味い料理・・ああ、酒も造れるぞ俺は。これだけあれば十分なのだよ。あとは、隠居の館と・・・・連邦との永久不戦条約があればな。つまり、安全の保障があれば死の岬でも開拓して放蕩生活を満喫したい、今すぐにでも」と、ソドムはささやかな野望を打ち明けた。
「はっ?」あまりの小者感に驚くポール。てっきり闇の力などを駆使して連邦領土を切り取ったり、ともかく悪い方向に動くとばかり思っていたので拍子抜けしている。
(いやいや・・・・そんなはずはない。・・だが、十年見てきた限り領土欲はなく、領地経営と飲み会にばかり熱心であった気がしないでもない。軍を動かすのは、連邦への手伝い戦と自衛のため・・あとは、領内(死の岬)の平定のためしかなかった。今思えば、死の岬にしつこく軍を向けたのは、ただ単に自分の隠居の地を欲しただけとも考えられる。ならば、本当に王座を譲るつもりなのか?)
「互いの利害は一致しているのだ、そなた次第で連邦との関係も修復できるかもしれんし、そうなれば俺の隠居も早めることができる。これからも、よろしく頼む」そう言い残してソドムは去った。
右手の握りこぶしを胸に当てた後、斜め前方に手を伸ばす連邦式の敬礼をついしてしまいながら、ソドムを見送るポール。知らぬ間に たらしこまれてしまったようであった。




