百人斬りの修羅
シュラが百人くらい殺戮した辺りで、鶯色の大鎧を着けた出羽守への道が拓けた。さすがのシュラも肩で息をしていたが、さりげなく敵の血をすすって体力を回復させ、
「チャンス!」と、一気に距離を詰める。その間、シュラは一切斬り結ばず、敵兵を縫うように駆け抜けた。
帝国兵は人海戦術で ちびドラを弱らせ、そろそろ仕留めようかと思ってた矢先だったので対処できないでいる。
今まで息も絶え絶えだった小娘が、まるで上級の回復魔法をうけたかのように元気になったのだ、棒立ちになるのも無理もない。
出羽守は、指示を出すだけ出してあるので、乱入者の始末は時間の問題だと割り切り、床几に座り直して、次々にくる敗報に耳を傾けていた。
事態は最悪であった。勝手に追撃した軍は伏兵に驚き敗走、後方の兵糧部隊はドラゴンに強襲され壊滅状態。
想定外の事態はやむを得ぬ・・。竜を操り奇襲を仕掛けてくるなど前例がないのだから。
だが、小娘が本陣で暴れなければ、素早くしかるべき対処をとり、被害は最小で済んだはず・・などと思った。
こうなっては何としても小娘を討ち取らねばなるまい、と正面を見据えたとき、体をしならせ魔剣を大きく振りかぶった修羅が眼前にいた。
「ぅおおおぉぉ~!もらったぁぁ!!」
敵将の頭上めがけて渾身の一撃をくり出すシュラ。
生け捕りにして大金をせしめるという方針を完全に忘れている。面白ければ それでよかった。顔のタトゥーを消す目的がなくなり、前ほど金に執着はないのかもしれない。
公国としては、軍資金のために捕虜にしてもらわないと、採算が取れないので迷惑この上ない。
「殺った!!」得難い高揚感がシュラを包むかと思いきや、「ガキン!」という激しい金属音が鳴り響き、斬撃は止められ態勢を崩したシュラは膝をつく。
意外にも、座ったままの出羽守が黄金造りの鞘から瞬時に抜刀して防いだ。バランスを崩したシュラであったが、そのまま回し蹴りに切り替えて敵の頭を狙う。
だが、必殺の金剛聖拳ですら受けられてしまう。
「な、なんで・・」シュラは後ろに飛び去りながらも、ショックは隠せない。ここまでの快進撃が、座っているジイさんに止められたのだから。
やれやれ・・、と出羽守は腰を上げ刀を構えた。
「儂はのぅ、かつて連邦の白い袴と渡り合ってたんだぞ。その娘なんぞに後れを取るわけがなかろう」
「えっ?袴?娘?何言ってるかわかんねーよ。まあいいや、奥の手を使って始末したげる・・」また包囲される前に決着をつけるべく、剣を鞘に収め、盾を背中にくくりつけ、体を横に構えた。そして、闇の大神殿で見た華麗な体術を再現すべく右手を腰に添えた。
出羽守は、見たことがない構えに警戒し、魔法の可能性もあるので、精神を集中して備えた。
二人が激突する刹那、上からロープが降ってきて、母が子供を呼ぶ時のような場違いな声がした。
「シュラちゃ~ん!帰るわよ~!」
見上げれば、深緑の巨竜ゴモラに乗った魔術師レウルーラがロープを垂らしながら手を振っていた。
再度、竜が現れたため帝国兵達は浮き足だった。判断の早いシュラは アッサリと大将首をあきらめ、ロープを手にして先端の輪になっている所に足をかける。
ロープを掴んだことを確認した竜は、大きく羽ばたき砂塵をあげて上昇し始めた。
「ごめん、またね~」と手を振り、
「あ、冥土の土産に・・本陣とかの見つけ方はね・・」と、公国の秘密を喋りだしたが、無防備なこの瞬間に弓兵に狙われているのに気がつき「やば!」っと言って体を丸めた。
「バカ!喋るなって言っただろ!」、そう言って公国の騎士が独りで本陣に突撃し、弓兵達を斬り捨て、「俺にかまわず、早く行けぇ!」と叫んだ。
「バカって言う方がバカよ!てか、そのセリフ言いたくてきたんでしょ!」
「はいはい、わかったわかった。無事、戻ったらブン殴ってやるかな!」と男は返した。
(やべぇ、バレてた。一回言ってみたかったんだよなぁ)
「わけわかんねーよ!なんでアタシが殴られなきゃならないの!?」
と、上昇しながらシュラがアレコレ抗議しているが、喧騒でもはや聞こえなくなっていた。
どうせ文句しか言われてなかろうと、男は苦笑いでしながら、群がる敵兵の命を摘み取っていく。
彼の武器は、なんの変哲もない剣であるが、小細工が施されていた。剣先10cmほどを焼いて黒々と色付け、暗闇で相手が距離を見誤るようにしている。相手は、想像よりも速く剣先が迫っているので、回避や防御が間に合わないのだ。
ともかく、騎士の援護のおかげでシュラは射程外まで無事に逃れ、一息つくことができた。
単騎で飛び込んできた騎士は、よくよく見れば異形な騎士であった。黒いニワトリのような不気味な魔獣に乗り、黒い革鎧にロングソードという軽装で、背には赤いマントをつけている。
大和帝国の人間でも、連邦の赤マントは王侯貴族と知っており、公王ソドムとすぐにわかった。
味方を逃がすための美談には鮮やかな衝撃を受けたが、国王自ら二万の敵軍の真っただ中に飛び込んで、生きて帰れると思っているのだろうか、「バカなのか」と帝国兵の誰しもが思った。




