荒ぶる赤き竜
突如現れた赤ずくめのミニスカ娘に面食らった出羽守であるが、我に返って兵を集結させた。
ヒシヒシと乱入者を包囲してから問いただす。
「慮外者め、何やつだ!?」
「あたしは公国最強の戦士シュラ。アンタら帝国に殺された両親の仇討ち、させてもらう!」シュラは豪奢な大鎧を着けた初老の武将を睨み付け、小脇に抱えていた 宝石と羽飾り付きの兜をかぶり、破邪の剣を抜き放ち、盾を構えた。
魔人としての物理耐性があるので、ぶっちゃけ防具は必要ないのだが、露骨に人間離れしていると世間的に色々面倒なのと、敵に武器強化魔法を使うサムライも混じっているため、一応盾などで防ぐつもりで持ってきた。
鎧は全身板鎧ではなく、動きやすさを重視して胸鎧を着こんでいるが、過保護なレウルーラが魔法で強化しているので、サムライといえど 急所である首と心臓は容易に貫けない。
左手に持つ盾は、乱戦でも邪魔にならない小さめの物を選んできた。レウルーラからは、弓対策に大盾を勧められたたのだが、「敵兵を盾にするからいいや」と一蹴したのだとか。ちなみに無防備なミニスカートは、税金対策と※花の摘みやすさを重視した彼女らしいチョイスである。
※花を摘む=お小水の隠語
カネ、金、カネと言って今回の奇襲にも志願したシュラだが、実は大和帝国の大将を倒し、親の無念を晴らすつもりで本陣に降り立ったのだ。いや、竜から飛び降りる前までは、大名を捕まえて大金をせしめるつもりでいたのだが、過去の困窮を思い出して・・・段々と敵親玉をブチ殺したくなっただけなのだが。
そんな思い出し怒りのために、家族もあろう帝国の兵たちは地獄を見る羽目になる。
こちらの動静を知っているなどと、デマカセに違いないと思っている出羽守、こんな小娘になどかまってはいられない。
軍の命というべき兵糧を守るため、邪魔者はサッサと斬捨てて 駆けつけなくてはならないのだ。
「返り討ちにしてやるわぁ!者どもかかれ!!」と檄を飛ばした。
さすがにそこらへんは山賊などと違い、生け捕りにして凌辱するという発想はなく、かつ 敵であれば女相手だろうが容赦はない。
先に動いたのは長槍兵。一介の足軽と言えども大名直属なので、足軽頭の指揮のもと統率がとれており、竜による奇襲などなかったかのごとく一斉に槍を構えて突進した。
シュラは盾で受け流し、剣で薙ぎ払った。懐に入るために姿勢を低くしたが、今度は槍を振り下ろされ行く手を阻まれた。
たまらず盾で防ぐも、ガードが上がると また槍で突いてくる。
この厄介な槍さばきが大和帝国の槍足軽の特徴なのだ。まず、盾を用いない。連邦の歩兵ならば、大盾と槍もしくは 重装に槍と盾なのだが、帝国は軽装な鎧 そして槍を両手で扱う。
彼等は、素早く突進し槍で突いて、次に槍で敵の頭を叩く。両手で振り下ろされる長槍での一撃は意外にも強力で、ヘタをすると兜を割られて致命傷を負いかねない。
それを防ぐために手をあげると、今度は腹を目掛けて突いてくるのだ。わかっていても、防ぐのは難しい。
シュラは恥も外聞もなく足軽の槍を伏せてかわす。
「しゃーない!なりふり構ってらんないわっね!」と言って、スカートがめくれて勝負下着丸出しになってるのも気にせず、トカゲのように這い進み、敵の足元まで近づくや 全身バネになったように跳ね起きて、一太刀で三人を斬った。足軽は斬られた傷と、魔剣による発火によって絶命した。
ちなみにシュラの勝負下着は黒である。彼女にとっての勝負は、血で血を洗う乱戦を指し、黒だと返り血を浴びても、アレな感じに見えないという理由であった。
これには出羽守も目を瞠る。(戦いぶりとラッキースケベに)
敵中に入ってからがシュラの独壇場!なのだが、潮が引くように槍足軽は後ろに下がり、続いて弓兵が矢を射かけてきた。
殺到する矢を敵兵の死体で受け止め、即座に反撃にでようとしたシュラであるが、今度は騎馬突撃が来ると知って閉口した。
(はぁ・・・、乱戦に持ち込んで大暴れするはずが、全然接近戦できないじゃないのよ・・)
鬨の声をあげて突進してくる騎馬隊。連邦の突撃長槍ほどではないが、馬による突進力を上乗せされた槍の一撃は鎧も突き破る威力なので、またも無様に避けるしか選択肢はない。
三列、約十人による騎馬突撃が迫り来る中、シュラは一般的にはない選択肢「避けずに粉砕する」ことを選んだ。
回避するため横に転がったとしても、またもや槍兵が殺到してくるだろうから、いっそ騎馬武者を正面から撃破することにしたのだ。
「ど~りゃ~!!」 と叫びながら、シュラは騎馬武者に向かって駆け出し、槍を突きつけられる直前にジャンプして金剛聖拳の力を付与した蹴りを放つ。
想定外の反応に戸惑った先頭の男であるが、受けずに 不憫ながら 串刺しにすべく狙いを定めた。
シュラの蹴りと騎馬武者の槍がぶつかり合うと、簡単に槍が弾かれ、次に兜首が驚きの表情そのまま胴から吹っ飛び、後続の者に当たり落馬させた。
先頭が崩れても止まれない騎馬は、次々とつまずいて転倒もしくは落馬した。
戦場で落馬することは、死に等しい。落ちて骨折したり、そのまま絶命もよくある。無事でも、馬に踏みつけられたり、蹴られたりして命を落としかねない。身分あるものならば、手柄目当てに敵が殺到する危険な状況になるのだ。
当然、シュラはその隙を見逃さず、斬って斬って斬りまくる。
手斧のように重い魔剣は、シュラのしなやかな体と、男勝りの力で威力を増し、尻餅をつきながらも応戦する武者の刀ごと ぶった切る。
なんとか業物の刀と鎧で致命傷を免れた者は、「破邪の剣」の炎によって戦闘不能になった。
馬が程よく暴れ回り、軍勢にほころびが生ずると、傷口を開くようにシュラは軍中に飛び込み荒れ狂った。
組織だった戦いができない帝国兵は、簡単に払いのけられる蜘蛛の巣のように引き裂かれていく。
魔剣で両断されたり、焼かれたり、本当に引き裂かれたりと、出羽守が討伐を命じてから数十人が殺されていた。
吹き飛ぶ手足、侍が発するとは思えない悲痛な叫び、時折放たれる炎を見て、出羽守は恐れをなして後退した。そして、側近に言った。
「とんでもない化物よ、・・まるで、炎を吐いて暴れる小さき赤竜ではないか・・」と。
この日からシュラの異名は「ちびドラ」になったとか ならなかったとか。




